(1)甲南医療センターにおける研修医自死事件(2022年)の概要
Geminiに「甲南グループ」について聞くと、三つの回答がある。一つ目が、いわゆる「甲南チケット」を創始した企業グループ、二つ目、三つ目が、医療法人「甲南会グループ(公益財団法人 甲南会)」、学校法人「甲南学園 / 甲南女子学園」である。
二つめには、甲南医療センター(旧 甲南病院)、六甲アイランド甲南病院、各種訪問看護ステーションや介護関連施設が含まれるが、本記事はこのグループに属する甲南医療センター(旧甲南病院)でおきた事件である。ちなみに、三つ目のグループには甲南大学、甲南女子大学、甲南学園甲南小学校などが設置されている。
本記事で「甲南グループ」といっているのは、上記二つ目と三つ目を合わせた総称である。医療機関と教育機関という、一見直接関係が無いような2つのグループが、実は歴史的にも結びつきが深く、その共通した組織運営思想が、人権意識とコンプライアンスに欠けた時代錯誤的なものになっていることを声を上げて指摘し、関係者(組織運営責任者、所属教職員、学生、在校生など)に警鐘を鳴らしたい。
これまでの「三つの闇」はいずれも甲南大学で起こった事件である。一つ目は30年来闘われたが現在は落ち着いている、語学教育系の多数の非常勤講師へのパワーハラスメント、二つ目は、2018年に起きた大学執行部による誤った指導がもたらした学生自死事件、三つめは少し前に記事を掲載した、中島先生への理不尽なパワハラ事件である。いずれも本ブログで追跡しているので、該当カテゴリーの一連の記事を参照されたい。
上記二つのグループの結びつきについては、このシリーズ第三稿で論ずるが、この第一稿では、まずは2022年に甲南医療センターで起きた青年医師自死事件について、その概要を見てみたい。
まずこの事件の発生から現在までの事実経過は以下のようなものである:
高島晨伍さん 過労自殺を巡る経緯


これらの写真資料は読売新聞の以下の記事(当時)から引用。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230817-OYT1T50021/
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230817-OYT1T50021/2/
- 2020年3月〜4月:勤務開始
神戸大学医学部卒業後、4月より甲南医療センター(2022年2月28日グランドオープン)で初期研修医として勤務を開始。
- 2022年2月〜5月:専攻医就任と自死
北海道での地域医療研修を経て2月に同センターへ復帰。4月より消化器内科の専攻医として勤務を始めるが、5月17日に自宅で過労自死。
- 2022年9月〜12月:遺族による申請と刑事告訴
9月に遺族が西宮労基署へ労災申請を実施。12月には労働基準法違反の疑いで運営法人および院長らを刑事告訴。
- 2023年6月〜12月:労災認定と書類送検
6月5日に西宮労基署が労災認定。8月に病院側・遺族がそれぞれ会見を開き、12月19日に西宮労基署が運営法人などを書類送検。翌日にはご遺族(母)が共同代表を務める「医師の過労死 家族会」の初会合を開催。
- 2024年2月〜4月:民事訴訟の発起
2月に遺族が損害賠償を求めて運営法人(甲南会)を提訴し、4月に第1回口頭弁論が行われる。
- 2025年2月〜12月:刑事不起訴と裁判の継続
2月に神戸地検が不起訴処分とするも、12月に民事訴訟の第2回口頭弁論が行われるなど法廷闘争が継続。
以下に他の2つの新聞記事を見てみよう。一つ目は、
230817病院側記者会見 日本経済新聞記事
26歳医師⾃殺で労災認定 ⻑時間労働で精神障害か
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF176YK0X10C23A8000000/
で、病院側の第三者委員会による調査で、4月は約197時間、5月は約133時間に達する時間外労働が判明していて、長時間労働によるうつ状態と精神的ケア欠如が自殺に繋がった可能性が指摘された。ただし、この報告書は遺族側には未開示のまま、病院長(具英成氏)は「病院に居た時間には自主学習や睡眠も含まれ、過重労働の負荷があったとは認識していないとした。一方で病院は、労基署認定の労働時間(死亡直前1か月の残業時間207時間、3か月無休日を理由に労災認定)に基づく未払い残業代と同額の解決金、約130万円を遺族に支払った。
なお、2024年4月施行の改正労働基準法により、研修医らの残業時間には、年1,860時間(月平均155時間、過労死ラインの約2倍)の上限(罰則付き)が設けられた。
二つ目は、
230819 Business Journal 記事
研修医・専攻医の過労⾃殺、相次ぐ…医師の無償の⻑時 間残業で成り⽴つ病院経営
https://biz-journal.jp/medical-care/post_358459.html
で、日経新聞の記事にもあったように、死亡直前の働き方に関して労災認定されたにも関わらず、病院側は、出勤時間には「自己研鑽や休憩」が含まれると主張し、過重労働の認識を否定した。この主張の根拠となった「出勤時間」には残業が数十時間しか含まれていないことが記録に残っているが、遺族によると「生前、病院側から『収益減少』を理由に『常識的な残業申請』をするよう」指示されていたということである。病院側は公然とサービス残業を強要していたのである。
この病院側の冷徹な対応の背景には、若手医師を取り巻く労働環境がある。その第一は、後期研修医は、臨床で実質的な主治医として重い責任を負う一方、指導医との徒弟関係や専門スキル習得・学会準備などのため、長時間労働や上司の指示を断りにくい状況がある。第二は多くの病院が医師や看護師のサービス残業を前提として経営を成り立たせている(「収益」を確保する)実態がある。また、医師は本来は「個人事業主」としての性質が強いにもかかわらず、単なる「勤務労働者」として扱われているため、自己研鑽が「裁量労働」として扱われていない矛盾がある。すなわち、本来医師に払われるべき正当な対価が経営の都合により、削ぎ取られている実態がある。
(2)甲南医療センターにおける研修医自死事件(2022年)の背景と民事裁判に続く。
