最初は、やはり今年1月に取り上げられた次の記事である。
毎日新聞の記事(2026年1月18日付)
公益通報後に仕事⼲され… ⼥性社員「専⾨職のキャリ ア失った」https://mainichi.jp/articles/20260114/k00/00m/040/284000c?utm_source=article&utm_medium=email&utm_campaign=mailasa&utm_content=202…
この記事は、製薬会社での不正を実名(仮名)で告発した女性が、通報後に仕事を奪われ、キャリアを破壊されていく過酷な現状と、それを守りきれない法律の限界を報じたものです。
1.通報の経緯:患者の命を守るための告発
- 不正の発見: 2013年、アレクシオンファーマに入社した小林さん(仮名)は、自社薬「ソリリス」について、有効性が確認されていない疾患にも効くかのような不適切な宣伝が行われていることを知りました。
- 行動: 社内通報を経て、2017年に厚生労働省へ公益通報。その結果、厚労省が会社を指導し、薬の「添付文書」に注意喚起の文言が追加されるという大きな成果を上げました。

2.通報後の「報復」と仕事の剥奪
- 配置転換: 成果を上げた直後、専門職(MR)から外される異動を命じられました。その後、部署の廃止や1人部署への異動が繰り返されました。
- 「干される」実態: 2020年〜23年の1日平均の実働時間はわずか37分。ネット上の感染者数をエクセルに打ち込むだけの無意味な作業を命じられたり、自宅待機を強いられたりする日々が続いています。

3.司法の壁と「悪魔の証明」
- 裁判の結果: 小林さんは「配置転換は報復だ」として提訴しましたが、裁判所は「報復と認めるに足りる証拠がない」として敗訴が確定しました。
- 立証の困難さ: 会社側が「報復である」と認めない限り、労働者がその動機を証明するのは極めて難しく、小林さんはこれを「悪魔の証明」と呼んで憤っています。
4.制度の欠陥と法改正への訴え
- 法律の限界: 2026年12月施行の改正法では「解雇」については立証責任が会社側に移りますが、経済界の反対により「配置転換」は対象外とされました。つまり、巧妙な左遷や嫌がらせからは依然として守られません。
- 活動: 小林さんは自身のキャリアを失いながらも、同じ境遇の人を生まないために署名活動(約2万5000筆)を行い、さらなる法改正を求めています。
【記事のまとめ】 「命を救うための正義」を貫いた通報者が、組織内で巧妙に仕事を奪われ、社会的に抹殺されそうになっている実例です。現行の公益通報者保護法が、解雇以外の「目に見えにくい報復(配置転換や業務剥奪)」に対して極めて無力であることを浮き彫りにしています。
次の記事は別の例である:
毎日新聞の記事(2026年1月20日付)
「機密漏れた」とPC没収 NHKの情報源と疑われ私は解雇されたhttps://mainichi.jp/articles/20260115/k00/00m/040/378000c?utm_source=article&utm_medium=email&utm_campaign=mailasa&utm_content=202
この記事は、医療機器メーカーの贈収賄事件を警察に通報した元社員が、会社から「犯人捜し」の標的となり、解雇や巨額の賠償請求訴訟(スラップ訴訟)に直面しながら闘い続けている実態を報じたものです。
1.事件の背景:医師への「謝礼」工作
- 不正の内容: 眼内レンズメーカー「スター・ジャパン」にて、医師に手術動画作成の名目で謝礼を支払う販売促進キャンペーンが計画されました。
- 懸念: 当時経理課長だった加藤さん(仮名)は、公立病院の医師への支払いが「贈収賄」にあたると危惧しましたが、会社側は強行。加藤さんは会議から外されました。

2.通報と執拗な「犯人捜し」
- 外部通報: 内部通報窓口の秘匿性に不安を感じた加藤さんは、警察に告発するため、社内データベースから384点の資料を収集・保存しました。
- PC没収と解雇: NHKがこの問題を報じると、会社側はデジタル解析で加藤さんを特定し、「機密情報の持ち出し」を理由に即刻解雇しました。
- 捜査の進展: 加藤さんの粘り強い告発により警察が動き、結果として医師が収賄罪で有罪、社員らが贈賄罪で罰金刑を受ける刑事事件へと発展しました。

3.会社側の「反撃」と司法の判断
- 賠償請求: 刑事事件の決着後、会社側は「資料を外部に漏らし顧客を失わせた」として、加藤さんに約4800万円の損害賠償を求めて提訴しました。
- 歴史的判決: 2025年12月、東京地裁は「資料持ち出しは公益通報目的であり妥当」と認定。違法性は阻却(否定)されるとして、加藤さんの全面勝訴を言い渡しました(会社側は控訴中)。
4.残された課題と署名活動
- 免責規定の欠如: 現行法には、通報目的の資料持ち出しを免責する明確な条文がありません。そのため、通報者は常に「窃盗」や「営業秘密侵害」で訴えられるリスクを抱えています。
- 提言: 加藤さんは、どこまでの情報持ち出しなら許されるのか、事前に判断できる明確な基準の整備を求め、署名活動を行っています。
【ポイント】 正義感から警察を動かした通報者が、会社から「容疑者」のように扱われ、解雇と高額訴訟で報復されるという過酷な構図です。「資料持ち出し」の正当性が認められた1審判決は大きな一歩ですが、通報者が安心して行動できる法的ルールの不備が改めて浮き彫りになりました。
スラップ訴訟については次の記事がある:
毎日新聞の記事(2026年1月21日付)
告発者へのスラップ訴訟なぜ防げぬ︖ 企業の⼿⼝と専 ⾨家の⾒解https://mainichi.jp/articles/20260115/k00/00m/040/380000c
この記事は、企業が告発者を萎縮させるために起こす「スラップ訴訟(どう喝訴訟)」がなぜ現行法で防げないのか、その法的な抜け穴と専門家による改善案を解説したものです。
1.スラップ訴訟の狙いと現状
- 目的: 資金力のある企業が、勝訴の見込みが薄くてもあえて提訴することで、告発者を経済的・精神的に疲弊させ、口封じ(萎縮)すること。
- 日本の現状: 日本にはスラップ訴訟を直接規制する法律がなく、野放しに近い状態にある。
2.公益通報者保護法「第7条」の抜け穴
公益通報者保護法には、通報者への賠償請求を制限する規定がありますが、以下の理由で機能不全に陥っています。
- 限定的な解釈: 同法第7条は「公益通報そのものによる損害」の賠償請求は禁じているが、「別の理由」(例:通報のための資料持ち出し=情報流出)を名目にすれば提訴が可能。
- 「通報前」の行為は対象外: 専門家(日野勝吾教授)は、資料収集といった「通報前の行為」に対する賠償請求が制限されていないことが、企業側の「反撃」を許していると指摘。
3.解決に向けた専門家の提案
通報者が在職中・退職後を問わず守られるよう、以下の法改正が提案されています。
- 「提訴」を不利益取扱いに加える: 現在は解雇、降格、減給などが「禁止される不利益取扱い」として明記されていますが、ここに「裁判の提起(提訴)」自体を追加すべきという考えです。
- 期待される効果: これにより、報復目的の提訴そのものが違法な「不利益取扱い」とみなされれば、スラップ訴訟に対する強力な抑止力となります。
【ポイント】 企業は「情報漏洩」という名目を使って法律の網をかいくぐり、告発者を追い詰めています。「裁判を起こすこと自体が報復になり得る」という認識を法律に組み込めるかどうかが、今後の焦点となります。
