大学職員処分について (1)

 

最近、日本国内の大学から出されたハラスメント処分例を幾つか紹介する。東洋大学については、これまでは、ハラスメント防止規定やハラスメント防止ガイドラインの制定のみで、定期的な研修も無くハラスメント相談室も設置されてなかったようであり、取り組みは不十分であったと言わざるを得ない気がする。「根絶宣言」以降の取り組みを注視していきたい。以下の2大学のケースは両者とも処分が極めて軽い気がするが、両事案ともその詳細が不明であり(加害者の教員は依然として匿名)判断の仕様が無い。被害にあった学生(大学院生)諸君は無事卒業(修了)出来たのであろうか?

1 東洋大学

平成30 年2 月16 日/学校法人東洋大学

懲戒処分の公表について

 学校法人東洋大学では教職員の懲戒処分を行いましたので「学校法人東洋大学ハラスメント防止ガイドライン」に基づき下記の通り公表します。

記(事案の概要)

 平成28年ころ、生命科学部教授(男性・40歳代)が、同教授の研究室に所属する複数の学生に対し、卒業論文にかかわる研究指導の過程で人格を非難したり、屈辱を与えるような高圧的な発言やメールを繰り返したりすること等により、研究室内の研究環境や学生の就学環境を悪化させ、一部の学生は心身不調になるなどの悪影響を及ぼすアカデミック・ハラスメント行為を行った。

 これらの行為は、東洋大学就業規則第48 条第1項第6号(本学の信用を傷つけ又は名誉を汚す行為)及び就業規則第48 条第1項第8号(ハラスメント行為)に該当するものであり、以下の懲戒処分を行った。

(処分量定及び処分年月日)

・処分量定   降給(1号俸)及び譴責

・処分年月日  平成29 年8月16 日

(所属、職位等の被処分者の属性に関する情報)

・被処分者   東洋大学生命科学部教授(男性・40 歳代)

 なお、本処分の決定に伴いハラスメント防止対策委員会委員長である東洋大学学長及び東洋大学生命科学部長に対し厳重注意を行うとともに、本件に関する被害者らに対する不適切な対応及び事務的な連絡の不備があったため人事部長及び人事部次長に対し厳重注意を行った。

ハラスメント根絶宣言

 学校法人東洋大学(以下「本学」という。)では、従来から「学校法人東洋大学ハラスメントの防止等に関する規程」及び「学校法人東洋大学ハラスメント防止ガイドライン」を制定し、あらゆるハラスメントの防止と排除に取り組んでまいりました。しかしながら、依然として深刻な事態が生じており誠に残念であります。

 ハラスメントは、人権を侵害し、個人の尊厳を損ね、学生や生徒等の学ぶ権利及び教職員の働く権利に重大な障害をもたらす行為であり、絶対に許されるものではありません。構成員一人ひとりがハラスメントに関する知識を深め、相手の人格を尊重するとともに、ハラスメントの加害者にならないことを強く意識し、全構成員が一丸となって本学における快適な就学、就労及び教育研究のための環境を整える必要があります。

 そこで、以下に掲げる取組みを徹底し、ハラスメントを根絶することをここに宣言いたします。

  1. 研修等の啓発活動を定期的に実施するとともに、ハラスメントとなり得る行為の情報の共有及び適切な巡視等を徹底し、ハラスメントの発生を防止する。
  2. ハラスメント相談室を設置し、ハラスメントの相談対応機能の充実を図るとともに、ハラスメントを防止する諸施策を着実に展開し、その未然防止に努める。
  3. 本宣言をはじめハラスメント根絶に対する確固たる姿勢を学内外に広く発信することにより、ハラスメントに対する意識を向上させる。

平成30年7月23日
学校法人東洋大学ハラスメント防止対策委員会委員長
東洋大学学長 竹村 牧男

2 鳥取大学

このたび、平成29年3月29日付けで、下記のとおり本学職員に対し懲戒処分を行いましたので、公表します。

1.被処分者    工学研究科 教授 男性(40代)

2.処分内容    停職1か月

3.処分の概要     

 当該教員は、自己の指導する男子学生が就職を希望する企業への推薦書を合理的な理由もなく書かず、学生の自由な進路選択の権利を侵害しました。また、同教員は、感情的になり恐怖を感じさせるような激しい口調で同学生を指導したことがある上に、就職に関する情報の取り扱いについて、本人の同意を得ずに他にもらすなど、認識不足や不注意なところがあり、これらの行為により同学生の就学環境を悪化させました。これらの行為は、アカデミック・ハラスメントであり、本学職員就業規則に違反すると判断し、懲戒処分を行いました。
 本学の教員がこのような行為を行ったことは、誠に遺憾であり、被害学生をはじめ関係の皆様に心より深くお詫び申し上げます。

 本学では、ハラスメント防止の取組みを推進してきましたが、今回の事態を重く受け止め、今後このようなことが起こらないよう、職員に対して一層の意識啓発を図るとともに、再発防止、信頼の回復に努めて参ります。

                                平成29年3月31日

国立大学法人鳥取大学長 豐 島  良 太

セクハラ・パワハラに保険で備え!?

アカデミックハラスメント救済には役立つか?

ある統計(厚生労働省「平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると嫌がらせなどハラスメントに関する相談件数は増加傾向にあり、各地の労働相談コーナーに寄せられた件数は、2017年度で30万件に迫り、その約1/4がいじめ・嫌がらせであるという。ハラスメント事案が訴訟に発展したとき、被害を訴えられた側(加害者側)に自覚が乏しい一方で、力関係等の故に被害者は泣き寝入りさせられている例は大変多い。この【泣き寝入り】を減らすべく被害者を助ける保険が近年登場している。具体商品名は参考記事を参照してもらうとして、それらの概要(特徴と費用)を要約して眺めてみて、アカデミックハラスメント被害者の救済に役立ちそうか少し考えてみる。

 まず大手保険会社A社から2015年より販売されているものは、団体の傷害保険や医療保険の特約として新設された弁護士費用の補償を目的とするもので、補償対象は、「被害事故」、「借地借家」「遺産分割調停」、「離婚調停」、「人格権侵害」、「労働」(これのみオプション)となっている。この「労働」の中にハラスメント事案が含まれるらしい。弁護士費用の内訳は2つに分かれ、弁護士相談費用と委任費用がそれぞれ5万円、100万円まで支払われる。保険料は前者が月額1000円、後者は委任費用の10%である。弁護士紹介サービスもある。

 少額短期保険会社B社は、いわゆる弁護士(にかかる費用を補償する)保険を売り出している。保険料はレギュラーで約2000円/月、簡易版で約1000円/月で、1件当り数万円の法律相談料と1件200万円までの法務費用が保証される(レギュラー)。簡易版では法務費用のみ1件30万円までである。ただ、ネットストーカーや冤罪に対するヘルプナビサービスや弁護士直通ダイヤル(20分までの無料相談可)、弁護士検索サービスも受けられる。また対象もストーカー、冤罪に留まらず、雇用・労働問題、セクハラ・パワハラ、いじめ、離婚問題、相続争い、近隣問題、欠陥住宅、医療過誤、金融商品詐欺等、多岐に渡る。別のC社は、女性向けの少額医療保険の付帯サービスで、弁護士とチャットで相談できるものを発売している。

 しかしながら今の段階ではアカハラの救済にはまだ不十分であると言わざるを得ない。例えばA社の商品は、団体保険の特約であることから、会社(雇用主、大学、しばしば加害者当局?)の協力(承認)が必要である。また加入者がこの特約自体を知らないケースも有りうる。現在学生への傷害保険加入は殆どの大学で入学時にほぼ自動的に行っている筈である。近い将来果たして、(入学金の一部を使い?)この種の新しい保険に学生全員を加入させるような大学は出てくるであろうか?「ハラスメントゼロ宣言」に対応したサポート体制もあって然るべきである。B社の保険は一見きめ細かいが、安価で受けられるサービスが余りはっきりしない割に、若年層・学生にはばかにならない費用(年12000円)が掛かる。会社や大学などが勧めない限り自主的に保険に入ることは殆ど無いのではと考えられる。最も重要な点は、アカハラを受ける教職員はともかく、学生はその組織への所属期間は短く、早いと2年程(大学院修士課程等)の場合もあり、何らかの決着や処分まで見越すととても弁護士に相談したり訴訟を起こしている時間は無い、ということである。素早い示談や和解手続きのサポートをしてもらった方が良い気もするがどうであろうか。これらの保険自体がいわゆる会社の従業員や教職員のみを顧客として想定しているということになる。

 研究教育機関の教職員の方はご存じのように、加害者になる側は既に多くの場合何らかの保険に入っており、セクハラ・パワハラを理由にした訴訟や労働災害などを理由にした訴訟にかかる費用はある程度担保されている場合が多い。このことを考えると、何らかのハラスメント事案が発生すると、被害者側は「訴訟も辞さず」の加害者側から強い圧力を受けることになり、物理的・経済的に不利な戦いに追い込まれることになる。多くの学生自殺者の家族が無念にも裁判を断念させられているような現状を変えられるような、訴訟以前のサポート体制の充実が必要であろう。

参考記事: Yahoo!ニュースNIKKEI STYLE記事2018/7/22配信)