DAYS JAPAN広河隆一氏による「性暴力事件」について (4)-3

―デイズジャパン検証委員会による報告書(2019/12/26公開)についてのコメント(3/3)―

4) ハラスメント発生の原因

a) セクシャルハラスメント(2/3)

b) パワーハラスメント

  • 独自の経営理念・組織観 DAYS JAPAN社の「崇高な」理念は、広河氏の次のような言葉に現れている『初期の中心メンバーはボランティアであった。DAYSは労使関係や、搾取などという資本主義の常識が合わない企業を目指して誕生した。それはむしろ運動体という言葉があっていた』。このような理念は本人にとっては「崇高な」ものであったかも知れないが、報告書が指摘しているように、こうした理念に基づく企業活動は、目標の実現に向けて自己犠牲や滅私奉公を厭わないものとなる。その結果人事管理は困難を伴うものになっていたようである。

 いわゆる無借金経営も広河氏が自慢した来たことの一つで あるが、これもパワハラを生み出す原因の一つであった。すなわち、DAYS JAPAN創刊こそ事前に多くの定期購読者を集めることにより達成できたが、その後の持続的運営において、最初の規模の「死守」が至上命題となり、様々なコストの徹底的削減がなされた。その中には勿論人件費に関するものも多く含まれていた。

 これ以上詳細には立ち入らないが、今回の広河氏の事例は、まさには、自ら起こした企業は自分個人のものであり、自分の自由意志でどのようにでも運営できると思い込む、ワンマン社長の典型例である、と報告書も指摘している。ただ本人も無理な組織運営には困難さを自覚していたらしく、度々自分の後任(代表取締役)を探していたらしいが、結局ワンマン性故に設定した高いハードルを超える人材を見つけられなかったようである。

  • 労働者の権利主張を認めない経営 報告書では、広河氏の労務管理の特徴の一つに極端な労働組合嫌いが挙げられる、と述べている。これは極端に強く、偏見とさえいえるほどで、彼の発言の随所に現れている。すなわち、労働組合の存在自体が会社経営に好ましくなく、(労働争議等を経て)会社倒産につながりかねない、という認識をもっていたようである。これはまさに中小零細企業の(ワンマン)経営者によく見られる傾向で、普通の例よりさらに過敏であるとも指摘されている。いうまでもなく、労働者=従業員の権利を守る意識から遠く離れた位置にあると言える。

 また、先ほどの経営規模の問題との関連で、特に人件費の増大が経営を圧迫するという強迫観念から、労働者の犠牲で成り立つあらゆる経費削減を従業員全員に強いていたことも指摘さ れている。これを理由に、多くの無給、或は低賃金のボランティア、インターン、協力者を抱え、それらの人々の奉仕に依拠して会社を運営してきた。休日手当や残業代はいうに及ばずであった。労組嫌いとあいまって、このような凄まじいパワハラが会社=組織存続のため継続されてきたと言えよう。

 広河氏は、このような経緯に関し「反省の弁(この時代に急速に労働環境が変化していることに無自覚であった、DAYS JAPANは広河事務所のような徒弟制度ではなく、会社組織であった、等等)」を述べているらしいが、報告書は端的にも「デイズジャパン社創業時に既にあった労働関係法令を遵守して来なかったと言うにすぎない。近代的労使関係を受け入れようとせず、前近代的で労働者の権利を尊重しない徒弟制のような感覚でデイズジャパン社の経営に当たっていた」と本質を喝破している。

5) デイズジャパン社のコンプライアンス

 役員らおよびデイズジャパン社は、以下のような責務を負っていたはずである。

  • 役員の監視義務等

 法令及び最高裁判例で定められている役員らの義務は以下のようなものである。

取締役:会社法355条 法令遵守義務。(相互の)監視義務(最高裁判決)

監査役:会社法382条 (取締役の)適法性監査

取締役・監査役:会社法423条1項 株式会社に対する損害賠償責任。同429条1項 第三者に対する損害賠償責任(悪意または重過失が要件) 

  • 事業者のハラスメント防止義務等

 まず、ハラスメントにより、身体、名誉感情、人格権などが侵害された場合は、当該行為者とともに使用者も、不法行為(民法709、715条)や安全配慮義務違反(雇用契約上の債務不履行、民法415条)として損害賠償責任を負う。また労災保険の支給対象になる場合、さらにはハラスメント行為者が刑事責任を問われることもありうる。

 これに加え、ハラスメントについては、事業者の措置(防止)義務がある。セクハラについては、雇用機会均等法(2006年改正)11条1項は、「・・・適切に対応するために必要な体制の整備そのほかの雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と規定し、厚労省指針(2006年)は事業者の措置義務として次のような項目を示している:

① (セクハラについての)事業者の方針の明確化およびその周知・啓発

② 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

③ 事後の迅速かつ適切な対応(事後措置・調査義務・被害拡大回避義務・再発防止義務・被害回復義務)

④相談者・行為者のプライバシー保護、不利益取扱いの禁止

 さらにパワハラに関する事業者の責務として、厚労省により「雇用管理上講ずべき措置等に関する指針素案」(2019年10月)において、パワハラについての労働者の関心と理解を深めること、研修の実施その他の必要な配慮をすること、役員は自らもパワハラ問題に関する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならないこと、などが指摘されている。

6) ハラスメントへの抗議とデイズジャパン社の対応

  • 抗議と対応の例

 報告書では、このようなデイズジャパン社の負うべき上記諸責務の履行状況を、ほぼ創刊後間もない時期からあった様々なハラスメントへの抗議とデイズジャパン社の対応を記録・追跡する中で検証している。先に述べた守谷監査役がネガティブに絡むケースもあり、少し辟易するので、ここでは、典型的な1例とそれに対するデイズジャパン社(広河氏)の対応のみを取り上げておく。

 ある女性社員は、ボランティアの女性から広河氏から(セクシャル)ハラスメントを受けたことを聞き、広河氏に「彼女たちにしたことはセクハラです」と抗議したが、認めようとしなかった。また、新しく入ってくる女性社員やボランティアがセクハラ被害に遭わないように、注意喚起の趣旨で「広河さんはそういう問題行動をすることがあるから気をつけて」と伝えるようにしていた。ところが、その後外国出張に同行した女性社員に「注意喚起した」ことが広河氏の知るところとなり、激怒していたと聞いた。

 これに対するデイズジャパン社の対応としては、本来退職時に買い取ることになっていた未消化の有給休暇が、結局退職時には大幅に減らされていた。この措置は、上記の「注意喚起」に対する報復としか考えられない。問題にしても疲弊することが予測されたため、結局諦めた。広河氏は、セクハラの告発にも至らないような社員間の情報共有にさえ過敏に反応し不機嫌となり、報復的措置を取ることもあった訳である。十分な確信犯的振る舞いである。

  • 役員らの監視義務の履行状況

 報告書では、川島、土屋、小川取締役、守谷監査役それぞれについて精密な聞き取り報告があるが、それ以前に、役員全体の状況として、

  • 会社としてハラスメント防止方針を策定して周知したり、相談体制を整えるというようなことも、発想自体なかった、
  • 立場上、広河氏の違法行為や不正行為について監視する義務に対する自覚が乏しく、その履行を怠っていた、ことに加え、
  • 広河氏(の実績)に対する信頼と敬意にもとづく一種のバイアスがあり、「多少の私的不品行」には目を瞑るというような感覚があった。
  •  告発の声が上がりづらかった事情

 報告書では以下の3つの要因を挙げている:

  • 社員らは広河氏の様々なハラスメントを疑うことはあっても、その圧倒的なワンマン経営故に自浄作用が機能しない組織内で、正面から強い告発の声を挙げることは困難であった。
  • 被害告発の抑圧や広河氏を消極的に擁護する言動も一部社員にあった。これはいわゆる「社会正義」の実現をハラスメント被害告発より上位に置く、という発想によるものだと思われる。
  • 「特別扱い」の社員が存在し、唯一の中間管理職的立場であったのに、広河氏のパワハラを批判する態度は見られず、残業代不払いについても積極的に問題視はしなかった。また、労働組合活動には否定的な態度が顕著で、労使交渉前には役員に組合員の勤務時間中の態度の問題を指摘するなど労働組合員に反発する態度を取っていた。これらは、広河氏に対し、少人数の組織の中で労働者が一体となって抗議して声を上げるという動きを阻害した恐れがある。

 広河氏の個人的資質に加え、以上述べてきた役員らの状況と上記の諸事情により、広河氏の様々なハラスメントが温存・助長され、関連した被害を拡大長期化させていった原因になった、ということであるようだ。

7) 広河氏の現状と広川氏、デイズジャパン社が果たすべき責任

a) 広河氏の現状と責任

  • 「謝罪のための事実確認」を求める態度

 報告書によると「検証作業期間中、広河氏は様々な迷いを見せたが、最後まで謝罪については逡巡を続け、最終的には『謝罪をしない』という選択をしたようである』となっている。その根拠となっている広河氏自身の説明は、一言で言うと「謝罪することは週刊誌報道のすべてを認めたことになり、さらなるバッシングを受けるだけだ」ということらしい。その理由として、「記憶が定かでないまま謝罪することはできない」という「正論」めいたことを言い、週刊誌に報道された件の女性と会って話して記憶を喚起しながら事実を被害者に確かめたい、と言っているらしい。これは結局、自らの犯した罪と責任に向き合うどころか、むしろ逆に被害者に二次被害を与えるような主張にこだわり、「そこにあったはずの合意の証」を得たいという思惑である

 更に見逃せないのは、自分のやってきた数々の性暴力については、「記憶があいまい」「断片的な事実しか思い出せない」と誤魔化す一方で、自分に有利な事情は「記憶が戻ってきた」として後に追加して弁明する態度など、検証作業期間全体を通じた状況として、供述態度が全体に極めて不誠実、という印象であったらしい。

  • 「性的関係には女性と合意があった」という思い込み

 検証の過程では、広河氏に対し何度も「あなたがしたことは女性の意に反する性暴力であり、女性たちは合意していなかったと言っていて検証委員会もそれが真実だと認定した」、「あからさまな暴力を振るったわけではなくても、優位な立場を使って相手がNoと言えない状況に乗じて性暴力を振るうという類型があり、あなたがしたことはまさにそれである」と伝えて来たにもかかわらず、氏はあくまで「合意があったはず」、、という主張にこだわり続け、「20代の女性たちが次々に6 0代後半の男性の自分に恋愛感情を持ったのだという恋愛観を堂々と披瀝したらしい。どうしても「優越的な地位によって強制した関係ではなく、個人的に惹かれあった男女の自由な関係であるということにしたい」というところから中々離れようとしないばかりか、「自分は文春の商業主義、もしくはMeToo運動に乗った時代の犠牲者である」とさえ認識していた節があったという!

 この広河氏の現状を踏まえ、報告書は広河氏に以下の、ハラスメントについての責任履行勧告を述べている。最低限の項目であると思われるが以下に再掲する(詳細略)。

1. 判明した被害者への謝罪と慰謝

2. デイズジャパン社の責任履行への協力

3. 二次加害をしないこと

 そしてこれらが、広河氏にできる、社会的意義ある最後の仕事である、としている。

b) デイズジャパン社、役員らの責任

  • 株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負うことが定められている(会社法350条)。代表取締役であった広河氏が行った女性たちへのハラスメントはまさにこれにあたり、損害を賠償すべきことになる。従って、会社清算においては、被害者らへの損害賠償を検討し、プライバシーに配慮した上で具体的な慰謝の策を講じるように努力すべき、と報告者は指摘している。
  • 役員らは、先に述べた雇用機会均等法11条1項に基づく事業者の措置義務を怠り、特に代表取締役への監視義務を履行しなかったことは重大であり、被害者に謝罪すべきであること、また、個々の件に関し、被害者から申し出があった場合には、誠実に調査して必要な医者の措置を講ずるべきである、としている。

8) 事件の教訓

a) 本事件の特徴

 本事件は、「広川氏特有のキャラクターが原因となって起こされたという性格はあるものの、反権力を掲げる組織内で、ある場面では「人権派」と称され、実際に社会正義のために活動する人が、他の場面では周囲に対してセクシャルハラスメント、パワーハラスメントを繰り返すという現象はしばしば見受けられる」が故に、この問題を広川氏個人の問題として片付けるのでなく、そうしたケースに共通する教訓を指摘する必要がある、検証委員会は述べている。この点に留意してまず本事件の特徴を以下のようにまとめている。

  • 「小権力」に鈍感な組織になっていた。この点について報告書は、「大きな権力に向けた戦い」のなかでは「小さな権力」の乱用が過小評価されやすいこと、「小権力」を掌握する者は大きな権力に対峙する局面では、他者への強者性の自覚が乏しくなることなどを指摘している。
  • 閉鎖的な組織になっていた。報道写真という専門分野を扱う組織であったという専門性は、一般社会との距離が生じ組織の閉鎖性を高めやすい。また閉鎖的な組織におけるリーダーとしての資質はカリスマ性にまで高まりやすく、周囲の人たちを容易にコントロールしてしまい、リーダーのやり方の誤りを周囲が認知できなくなるという恐れも指摘されている。
  • トップに権限が集中しやすくなっていた。独自の専門分野に特化した組織では、経験や知識のあるトップに権限が集中しやすい。その結果、徒弟制に近い上下関係のもと、縦割りに組織された部下たちは容易にトップに掌握され、横の連帯を深めにくくコントロールされやすい状況が生まれた。その結果トップへの批判や非難が組織の規律違反と捉えられやすい状況が生まれていた、と報告書では指摘されている。
  • 内部での監督・抑止機能が働かない組織になっていた。通常の組織であれば組織内の苦情相談を受けて解決にあたるべき人や部署も、今回のケースでは、組織防衛意識が強く働き内向きとなっていた。むしろ受けた苦情を押さえ込んで不適切に処理する機能を果たしてしまい、組織全体に悪影響を与えるとともに自浄力の低下を招いていた。そこで告発しようとしても組織の大義を守ろうとする人々が幾重にも立ちはだかり、結局被害者が声を上げることができなかった、と報告書では述べられている。

b) 教訓

 これらを踏まえ、報告書では以下の3点の教訓が提示されている。

  • 外部への相談の重要性を知る。自浄性がない組織内部でハラスメント告発の難しさが存在するときは、外部への相談が極めて有効である。例えば、労働組合、行政、弁護士、性被害相談窓口などが大切であり、それを可能にするための相談先情報についての広報啓発は必要不可欠である。
  • 内部で解決できる体制も重要であることを再確認する。性被害の外部への告発に関しては心理的ハードルが高く、今回のケースでは広河氏の「業績」の毀損に関する躊躇からくる葛藤などが無視できなかった。一般的にも外部への相談のハードルは必ずしもまだ低いとは言えないので、組織内部に相談窓口があるか、役員がコンプライアンス遵守の意識を持って職責にあたるなどの体制も重要である。
  • 「セクハラはするが仕事はできる人だ」とういうような加害者への甘い対応を許さず、被害者、告発者を二次被害などから徹底的に防衛できる、社会的土壌形成を意識的に進めるべき。これらについて真剣に改善策を講じることがハラスメント根絶には不可欠である。

以上、報告書の要約とコメントはかなり長くなったが、もともと報告書は大部の力作であったため、省略した箇所も多い。例えば、会社解散決定に至る経緯と問題点、労働組合結成とデイズジャパン社の対応等には殆ど触れていない。是非報告書を直接お読みになることをお勧めする (https://daysjapan.net/)

 容易に推測できることであるが、報告書は独善的に運営されている組織(中小企業や大組織における一部門(大学の学部や研究室等)におけるハラスメント問題についての格好の教科書になっていることも指摘しておきたい。今加害者になっていそうな人、被害に苦しんでいる人々にも大変「役に立つ」気がする。

 なお、ハラスメント加害者の「業績」についての私の個人的見解は、「個人、あるいは組織のいかなる局面における「業績」もそのもたらす負の面についての検証無しに無条件に認められることはない」と考える。即ち、負の面も「業績」に含まれるのであり、「業績」を理由にその個人、組織がもたらした不利益、不正・不当な行為が正当化されたり、免罪されたり、ましてや帳消しになることはない、と考えるものである。 

 報告書の公表を受けてデイズジャパン社は以下のメッセージも掲載している。デイズジャパン社は今後どうするのか、について殆ど記述が無いのが大変残念である。今後についてのコメント等が近い将来出されることを期待する。

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デイズジャパン検証委員会の報告書を受けて

デイズジャパン検証委員会から、2019年12月26日付報告書(以下、「検証報告書」といいます。)の提出を受けました。検証報告書の中では、広河隆一氏(以下、「広河氏」といいます。)による深刻な性被害をはじめとする多数のセクシャルハラスメント及びパワーハラスメントの認定がなされています。

当社は、この検証報告書を非常に重く受け止めました。検証報告書に記載されているとおり、長年にわたって当社で代表取締役を務めた広河氏による行為については、当社の責任の重さを痛感しており、広河氏による行為の被害に遭われた方々に、深く謝罪いたします。

また、当社は、検証報告書にあるとおり「加害者としての自制と責任の履行を公にすることこそが、広河氏にできる、社会的意義ある最後の仕事」であると考えます。当社としては、広河氏に対し、「まずは自分が行ったことを直視し、独善的で自己中心的な弁明を公の場で行うことは控え、これ以上被害者らに恐怖と苦痛と不安感を与えるような言動は絶対にしないよう、行動を自重することを強く求める」との勧告を遵守するよう求めます。

検証報告書を受けて、当社として、被害に遭われた方々への相談窓口を設置いたします。広河氏の被害にあわれた方については、下記(問い合わせ先)にご連絡ください。被害にあわれた方については、プライバシーに配慮した上で、当社として誠実に対応してまいります。

最後に、改めて、被害に遭われた方々に深く謝罪いたします。

2019年12月27日

株式会社デイズジャパン

代表清算人 川島 進

(問い合わせ先)

days@legalcommons.jp

弁護士 竹内  彰志

弁護士 河﨑 健一郎

 

DAYS JAPAN広河隆一氏による「性暴力事件」について (4)-2

―デイズジャパン検証委員会による報告書(2019/12/26公開)についてのコメント(2/3)― 

(1/3)に引き続き、報告書の要約とコメントする作業を進めてみたい。

3)ハラスメント実態と労働環境の酷さ

a) 広河氏によるセクシャルハラスメント

  • 概況

 ハラスメントの具体的事項は、最も古いもの(2004年)から最も新しいもの(2017年)まで、デイズジャパン社設立以降のほぼ全期間に渡る。被害者の属性は、デイズジャパン社社員、ボランティア、インターン生、フォトジャーナルズム学校(一時デイズジャパン社が企画していた一般向け講座)、受講生、広河事務所社員、アルバイト等多岐に渡る。また、検証委員会に寄せられた被害態様を纏めると以下のようになる(2014-17年):性交の強要 3人/性交には至らない性的身体的接触 2人/裸の写真の撮影 4人/言葉によるセクハラ(性的関係に誘われる等) 7人/環境型セクハラ(AVを社員が見える場所におく) 1人。

 特に指摘すべき点として、「被害者らが抱いていた広河氏への尊敬の念に乗じてセクハラに及んだこと」「被害者らが広河氏の精神的圧力を感じて性的要求に応じざるを得なかったり、明白な拒絶はできずやんわりとかわすしかなかった」と言う点を挙げている。また、狡猾な戦略として、特に程度が深刻なハラスメントは、社員以外のボランティアやアルバイトの女性が狙われていた可能性も指摘されている。

  • セクシャルハラスメントに関する証言

 検証報告では、先の被害態様別に多くの具体的な表現が記録されている。最初の週刊誌記事や、その後の新聞・web記事等とも重なるので、ここでは引用はしないが、極めて悪質であることはいうまでもない。またデイズジャパン社と深い関係にあった守屋氏及びアウレオ社からの派遣社員が被害者へ二次被害を及ぼしたり、ハラスメントのもみ消し等に一役買っていたことも報告されている。

 そして最も重要な点は、収録された証言は検証委員会の客観性についてのチェックを経て、全て信用性があると認定されている点である。これに対し、広河氏になされた検証委員会からの幾つかの質問、「女性たちがあなたに向けていた好意は敬意やあこがれであって、異性としての好意とは別物だったと述べているが」、「被害女性たちは祖父に近い年齢であるあなたを本当に性愛の対象としてみていたのか」、「この女性にこのようなことをしなかったのか」に対し、「当時はそう思った」、「そういう(老人を対象にする)人もいますよ」、「その女性(の存在自体)を憶えていない」と言う、曖昧な、抽象的なさらにはごまかすような回答に終始したため、検証委員会は「証言されたいずれの件についても『相手の女性の合意は無かった』」と認定し、「広河氏の説明の信用性は極めて低く不誠実であるとしか言いようがない」と結論づけている。

b) 広河氏によるパワーハラスメント

1. パワハラの定義

  • 厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」提言(2012年3月)等

=『同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為』

  • いわゆるパワーハラスメント防止法*(2019年5月)30条の2第1項

=『職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの』とし、『それによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない』と規定。

*略称「労働施策総合推進法」

  • 雇用管理上講ずべき措置等に関する指針素案(厚労省2019年10月)のパワーハラスメントに該当する行為についての例示

=(一部抜粋)

<脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)>

(該当すると考えられる例)人格否定発言(性自認に関する侮辱含む)、長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、能力否定、罵倒の電子メール等を複数宛に送信する。

<業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)>(例)新卒採用者に必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること、業務との関係の無い私的な雑用の処理を強制的に行わせること。

2. 概況

  • 「ほぼ全員が日常的に被害者だった」と述べるほど日常的かつ深刻。
  • 労働環境:長時間労働をせざるを得ず、時間外手当や休日出勤手当の不払など労働基準法違反が恒常的。問題視されると「裁量労働制だから」と言い張るなどした。
  • 気に入らない社員の不当解雇や退職に追い込むなども無頓着に行われていた。これに対する問題意識も経営陣全体に乏しかった。
  • ハラスメントの態様:「怒鳴る」「いらいらしてスイッチが入ってしまうと激高する」。これらは厚労省指針素案の「厳しい叱責を繰り返し行うこと」や「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責」の類型に該当する。

3. 証言と認定

  • 精神的な様々な攻撃:感情の起伏が激しくいきなり嵐のように怒鳴り散らすことが日常的、これに対し皆萎縮している印象(確信犯的?)。全てを管理しないと気が済まないが、面倒臭い人事や事務はしたくない。自身でも継続困難を感じていたらしく、会社を閉じたいと考え出した頃から様々なことへの投げやり感や、人格崩壊が加速、などが証言されている。
  • 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、過大な要求:関係のない編集会議に参加させられる、「残業をするな」という一方で過重な量の業務を与える、広川氏のために病院に薬を取りに行く、などが証言されている。
  • 寄せられたこれらの証言の具体性、数の多さ、証言間の整合性などから広川氏が日常的に社員らに対しパワーハラスメントに及んでいたことは明白である。これにより社員らに対して違法な労務環境への不当な忍耐を強いようとしていた。また、労働関係法令違反も慢性化していた と言える。

4. 労務管理

  • 時間外労働・休日労働に関する協定書 2017年6月締結、7月渋谷労基署に届出。
  • 裁量労働制 編集・取材業務に従事する従業員について専門業務型が適用されていた。協定締結 2015年6月。2016年4月~支払い確認。
  • フレックスタイム制協定書締結 2017年6月。
  • 始業時刻午前10時、就業午後6時、休憩1時間。
  • 裁量労働制導入以降は、ほとんどの従業員に一定時間相当分(毎月40時間程度)の残業代相当額を裁量手当として支給していた。

5. 労働実態

 詳細は省略するが(「報告書」をぜひ読んで頂きたい)、残業代、休日出勤手当の不払い/退職強要、不当解雇/広河氏の認識/残業代不払の実態などについての証言が数多く寄せられている。これにたいする広河氏の認識は、特に社員の離職があまりに頻繁だった状況に対しては、「退職していく個人の勝手で引継ぎが大変になり会社が大迷惑を被った」、「むしろやめていく側に能力が足りなかった」と捉えるという労務管理についての知識もなく反省もしない酷いものであった。

 実際は、数々の証言が示しているように、退職理由の多くは表向きは家族の事情という体裁は取っていたとしても、実際には劣悪な労働条件や広河氏の人となりに触れて失望したり、あるいはハラスメントを受けたからというものであった。 

 また、大手出版社による買収が不成立であった理由は、「大手出版社では、DAYSでやるのと比べ、人件費も経費も数倍かかり確実に赤字になるだろう」ということであったらしい。このことは、通常の出版社でかかる人件費よりはるかに少ない条件でやっていたこと、言い換えると、広河氏が自慢していた「無借金経営」は不当なまでの人件費抑制により成り立っていたことを示す。

4) ハラスメント発生の原因

 「今回の一連の出来事は、、、彼が自ら作り上げた『王国』に君臨し何らの抑止力が働かない組織の中で、人事権を乱用し、日常的なハラスメントを働くなど身勝手な行動を繰り返してきたことが事の本質である。」と報告書もこの項の冒頭で述べている。報告書に従い、広河氏個人にまずは焦点を当て、もう少し詳しく以下の2つの観点から見てみよう。組織としての問題は後述される。

a) セクシャルハラスメント

  • 周囲の評価―「妄想癖」「認知症」「強い被害者意識」 ここもあまり深入りはしないが、「被害者意識」についてだけ簡単にコメントしておく。社員の一人によれば、「常に被害者意識があった。被害妄想がひどく、記憶を自身の都合の良いように書き換え、自身の嘘を信じ込みながら他人を批判することが常だった。加害者であることが明らかな場合でも、自身が被害者だと信じ込んでいるように見えた。この状況を確信犯だという人と、無意識だという人がいた。個人的には全て自己防衛に集約するのではないかと考える」ということであったらしい。結局「自分しか見ていない」ということであろう。実際、別の複数の証言から検証委員会としては、「ハラスメントの背景に、何らかの自らの抑制の効かない(病的?)要因があった可能性は極めて低い」と断じている。

 この被害者意識は、「ハラスメント加害者」として指摘を受けたときに極端な動揺とともに顕著に現れ、自分が「(ハラスメントに関する)価値観が変動する時代の流れについていけなかった被害者」であるかのような口ぶりで語ることがあり、以前から許されていなかったことをしてしまったに過ぎないのだということを正面から受け入れられない要因の一つとなっている。

  • 「立場」という権力の無自覚 広河氏は、「(自分は)限られた狭い世界のスペシャリストで、世間的には金も権力もなく」従って、セクハラの背景となるような立場でもないし権威もない、とメモなどでしばしば言っているらしい。しかし、狭い世界であっても自分の王国を作り、好き放題にやればそこには権力が生じている。セクハラではあからさまな地位をかさにきた権限を振るったり、強引に相手をねじ伏せたりすることは必ずしも必要でない。一旦、そのような「権力」関係に陥れば、下位者からの迎合は上位者からは「自発的な合意」「積極的な合意」に見えてしまうことがある。上位者は常に自分の立場の権力性に敏感でなければならない。一見するとVoluntary(自発的)だが、実は「余儀なくされた合意」であり、無言の強要によるUnwelcome(望まない)なものとなる。この鈍感さが広河氏自身の「性的合意」のハードルを著しく下げていた原因であろうと指摘されている。

ご都合主義的な権力利用 報告書は、この広河氏の「相手への優越性」を否定し、実際には存在しない「相手との対等な関係性」を自分の都合の良いように場面ごとに主張するご都合主義は、彼の特性でありパワーハラスメントや労務管理においても度々顔を出す、と指摘している。例えば、広河氏は次のような言葉を述べている、「DAYSは、労使関係や搾取などという資本主義の常識が合わない企業を目指して誕生した。それはむしろ運動体という言葉があっていた」。

 広河氏は、週刊文春の記事にある、何度も性交を強要されたと述べている女性の「広河氏から口止めされた」という趣旨の言葉には一貫して強い反発を示している。そして「口止めなどしていない。事実ではないことを書かれている。反論したい」と繰り返し、この女性の意に反する性的関係を強要したことを否定したがる。これに対し検証委員会は、仮に口止めをするなど明白な地位利用の外形行為がなかったとしても、(圧倒的に優越的な人間関係にあるなかで性的関係に誘っているのだから)その一時のみをもって、行為の悪質さに本質的な差異があるということはできない」とし、ヒアリングしたこの女性からの証言は信用性があると認定し、この女性が「口止めをされた」と感じたことは事実であるとしている(加えて、この女性の裸の写真も撮っている)。

 他の幾つかの証言なども考慮して、検証委員会は「広河氏は、客観的には明らかに優越的な地位を利用して性的関係を迫っていたにもかかわらず、その自覚が無かった、あるいはある程度自覚はあっても、それを認めることは自らを不利な立場に置くと考えて否定しているのではないかと思われる」、つまり「一方では、自分の権力を自覚的に振りかざし、他方では、これに頓着せず明らかに自分より劣位にある女性たちに対し対等な関係であるかのように振る舞うという、自分に都合のいい独善的な態度を取っているとしか言いようがない」と結論している。

  • 性暴力についての理解と女性蔑視 「広河氏は、戦場での女性の性被害などを取り上げているのに」という疑問が各方面から投げかけられているが、それに対して、氏はそもそも女性に人権などわかっていなかった、で済ませるのでなくもう少し普遍的に考えられるべきテーマがあると検証委員会は指摘する。その理由は、「女性への性被害を問題視するような言動を取りながらその一方で女性に対し性暴力をふるい、それが本人の中で同居してしまうという現象が、広河氏に限らず、人権侵害と闘うことや社会正義をテーマに掲げる組織の中で繰り返し起こされてきた事件でもあるから」。

 確かにDAYS JAPANではこれまで、スーダン・難民女性の苦難、日本軍「慰安婦」問題、コンゴのレイプ被害者シェルター、段ボールハウスの少女、暴力ポルノ、アダルトビデオの中の犯罪、アフリカ・レイプにおびえる女性たち、のような様々な性暴力をテーマとして扱ってきたが、検証委員会の指摘は、それらはわかりやすい「あからさまな暴力」であるという点である。他方広河氏が被害者らに行ったのは明白な性暴力だが、相手に対する優越的な地位に乗じるという手段によるものであって、「あからさまな性暴力」があったわけではない。このことは自身の性暴力の正当化のための弁「私はそうした暴力的なことはやっていない。あくまで合意によるものであり、決して性暴力などというものではない」に都合よく利用されている。すなわち、性暴力の理解の偏りが顕著である。

 また、広河氏の性的誘いに対し、毅然として拒否した女性たちに、様々な嫌がらせや脅しまでもかけたりしていることから、検証委員会は、そもそも女性を対等な存在として認めていなかったと推測している。さらには、職場という、仕事を媒介につながっている人間関係において、個人的に親密な関係が築かれることも無かったままいきなり性的関係に誘うということ自体が、女性というだけで性的対象・存在として扱うという女性蔑視意識の表れだとも指摘している。

 さらには、検証委員会は、広河氏の男女関係観・恋愛観には、いわゆる「フリーセックス」論が自己の性的行為を正当化する論拠の一つであった可能性も指摘している。広河氏によれば、被害女性らとは「つきあっていた」のであり「大人の男女の関係」ということであったらしいが、仮にそうであったとしても、妻がいながら親子以上に年齢の離れた若い女性を次から次へと「恋愛関係に誘った」というのはそれ自体非常識で異様なことであるのでは、という指摘に対しては「不倫関係を周囲に隠す」という意識は全くなかったとし、まさに「フリーセックス」を実践していたという自己主張にも聞こえる回答をしている。すなわち氏は、「フリーセックス」論を、若い女性を一方的に性的存在とみなす女性蔑視意識や自分の立場が持つ優位性を都合よく無視して性的関係を強要したことを糊塗する手段として、主観的に利用していたということであろう。

  • 「性的関係への合意」と認知の歪み 広河氏による「合意の拡大解釈」に向けた作業は様々なテクニックを駆使して行われたことが広く証言されている。例えば、やんわりとした「性的な関係についての話題」や「フリーセックスについての議論」を投げかけたり、相手の交際状況などの性的な経験を聞き出すことで、許容範囲を探ろうとしていた。また、仕事である写真家としての技術や経験も動員して性的な誘いかけをしていた。さらには、「仕事のための二人だけの合宿」の提案、「仕事のアシスタントとしての同伴」なども計画していた。

 問題は、こうしたテクニックを駆使したり、仕事に絡む誘いをしておいて、相手が喜んで応じた時点で、勝手に「性的関係に脈がある」と捉えていた点である。仕事や指導の誘いに応じたことを「性的関係への合意」と解釈することはあまりにも独りよがりであった。結局、広河氏が断片的に思い返し繰り返すところの「性的合意に繋がるサイン」は客観的にはそうは言えないものばかりであり、現に被害女性たちも強く否定している

 すなわち、若い女性を一方的に性的存在として扱う視線と女性からの性的な承認によって自信を得たいという氏の願望が「性的関係への合意を得たと認識するハードル」を極端に下げる方向で作用した結果生まれたのがこの認知の歪みである。