DAYS JAPAN広河隆一氏による「性暴力事件」について (4)-2

―デイズジャパン検証委員会による報告書(2019/12/26公開)についてのコメント(2/3)― 

(1/3)に引き続き、報告書の要約とコメントする作業を進めてみたい。

3)ハラスメント実態と労働環境の酷さ

a) 広河氏によるセクシャルハラスメント

  • 概況

 ハラスメントの具体的事項は、最も古いもの(2004年)から最も新しいもの(2017年)まで、デイズジャパン社設立以降のほぼ全期間に渡る。被害者の属性は、デイズジャパン社社員、ボランティア、インターン生、フォトジャーナルズム学校(一時デイズジャパン社が企画していた一般向け講座)、受講生、広河事務所社員、アルバイト等多岐に渡る。また、検証委員会に寄せられた被害態様を纏めると以下のようになる(2014-17年):性交の強要 3人/性交には至らない性的身体的接触 2人/裸の写真の撮影 4人/言葉によるセクハラ(性的関係に誘われる等) 7人/環境型セクハラ(AVを社員が見える場所におく) 1人。

 特に指摘すべき点として、「被害者らが抱いていた広河氏への尊敬の念に乗じてセクハラに及んだこと」「被害者らが広河氏の精神的圧力を感じて性的要求に応じざるを得なかったり、明白な拒絶はできずやんわりとかわすしかなかった」と言う点を挙げている。また、狡猾な戦略として、特に程度が深刻なハラスメントは、社員以外のボランティアやアルバイトの女性が狙われていた可能性も指摘されている。

  • セクシャルハラスメントに関する証言

 検証報告では、先の被害態様別に多くの具体的な表現が記録されている。最初の週刊誌記事や、その後の新聞・web記事等とも重なるので、ここでは引用はしないが、極めて悪質であることはいうまでもない。またデイズジャパン社と深い関係にあった守屋氏及びアウレオ社からの派遣社員が被害者へ二次被害を及ぼしたり、ハラスメントのもみ消し等に一役買っていたことも報告されている。

 そして最も重要な点は、収録された証言は検証委員会の客観性についてのチェックを経て、全て信用性があると認定されている点である。これに対し、広河氏になされた検証委員会からの幾つかの質問、「女性たちがあなたに向けていた好意は敬意やあこがれであって、異性としての好意とは別物だったと述べているが」、「被害女性たちは祖父に近い年齢であるあなたを本当に性愛の対象としてみていたのか」、「この女性にこのようなことをしなかったのか」に対し、「当時はそう思った」、「そういう(老人を対象にする)人もいますよ」、「その女性(の存在自体)を憶えていない」と言う、曖昧な、抽象的なさらにはごまかすような回答に終始したため、検証委員会は「証言されたいずれの件についても『相手の女性の合意は無かった』」と認定し、「広河氏の説明の信用性は極めて低く不誠実であるとしか言いようがない」と結論づけている。

b) 広河氏によるパワーハラスメント

1. パワハラの定義

  • 厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」提言(2012年3月)等

=『同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為』

  • いわゆるパワーハラスメント防止法*(2019年5月)30条の2第1項

=『職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの』とし、『それによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない』と規定。

*略称「労働施策総合推進法」

  • 雇用管理上講ずべき措置等に関する指針素案(厚労省2019年10月)のパワーハラスメントに該当する行為についての例示

=(一部抜粋)

<脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)>

(該当すると考えられる例)人格否定発言(性自認に関する侮辱含む)、長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、能力否定、罵倒の電子メール等を複数宛に送信する。

<業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)>(例)新卒採用者に必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること、業務との関係の無い私的な雑用の処理を強制的に行わせること。

2. 概況

  • 「ほぼ全員が日常的に被害者だった」と述べるほど日常的かつ深刻。
  • 労働環境:長時間労働をせざるを得ず、時間外手当や休日出勤手当の不払など労働基準法違反が恒常的。問題視されると「裁量労働制だから」と言い張るなどした。
  • 気に入らない社員の不当解雇や退職に追い込むなども無頓着に行われていた。これに対する問題意識も経営陣全体に乏しかった。
  • ハラスメントの態様:「怒鳴る」「いらいらしてスイッチが入ってしまうと激高する」。これらは厚労省指針素案の「厳しい叱責を繰り返し行うこと」や「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責」の類型に該当する。

3. 証言と認定

  • 精神的な様々な攻撃:感情の起伏が激しくいきなり嵐のように怒鳴り散らすことが日常的、これに対し皆萎縮している印象(確信犯的?)。全てを管理しないと気が済まないが、面倒臭い人事や事務はしたくない。自身でも継続困難を感じていたらしく、会社を閉じたいと考え出した頃から様々なことへの投げやり感や、人格崩壊が加速、などが証言されている。
  • 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、過大な要求:関係のない編集会議に参加させられる、「残業をするな」という一方で過重な量の業務を与える、広川氏のために病院に薬を取りに行く、などが証言されている。
  • 寄せられたこれらの証言の具体性、数の多さ、証言間の整合性などから広川氏が日常的に社員らに対しパワーハラスメントに及んでいたことは明白である。これにより社員らに対して違法な労務環境への不当な忍耐を強いようとしていた。また、労働関係法令違反も慢性化していた と言える。

4. 労務管理

  • 時間外労働・休日労働に関する協定書 2017年6月締結、7月渋谷労基署に届出。
  • 裁量労働制 編集・取材業務に従事する従業員について専門業務型が適用されていた。協定締結 2015年6月。2016年4月~支払い確認。
  • フレックスタイム制協定書締結 2017年6月。
  • 始業時刻午前10時、就業午後6時、休憩1時間。
  • 裁量労働制導入以降は、ほとんどの従業員に一定時間相当分(毎月40時間程度)の残業代相当額を裁量手当として支給していた。

5. 労働実態

 詳細は省略するが(「報告書」をぜひ読んで頂きたい)、残業代、休日出勤手当の不払い/退職強要、不当解雇/広河氏の認識/残業代不払の実態などについての証言が数多く寄せられている。これにたいする広河氏の認識は、特に社員の離職があまりに頻繁だった状況に対しては、「退職していく個人の勝手で引継ぎが大変になり会社が大迷惑を被った」、「むしろやめていく側に能力が足りなかった」と捉えるという労務管理についての知識もなく反省もしない酷いものであった。

 実際は、数々の証言が示しているように、退職理由の多くは表向きは家族の事情という体裁は取っていたとしても、実際には劣悪な労働条件や広河氏の人となりに触れて失望したり、あるいはハラスメントを受けたからというものであった。 

 また、大手出版社による買収が不成立であった理由は、「大手出版社では、DAYSでやるのと比べ、人件費も経費も数倍かかり確実に赤字になるだろう」ということであったらしい。このことは、通常の出版社でかかる人件費よりはるかに少ない条件でやっていたこと、言い換えると、広河氏が自慢していた「無借金経営」は不当なまでの人件費抑制により成り立っていたことを示す。

4) ハラスメント発生の原因

 「今回の一連の出来事は、、、彼が自ら作り上げた『王国』に君臨し何らの抑止力が働かない組織の中で、人事権を乱用し、日常的なハラスメントを働くなど身勝手な行動を繰り返してきたことが事の本質である。」と報告書もこの項の冒頭で述べている。報告書に従い、広河氏個人にまずは焦点を当て、もう少し詳しく以下の2つの観点から見てみよう。組織としての問題は後述される。

a) セクシャルハラスメント

  • 周囲の評価―「妄想癖」「認知症」「強い被害者意識」 ここもあまり深入りはしないが、「被害者意識」についてだけ簡単にコメントしておく。社員の一人によれば、「常に被害者意識があった。被害妄想がひどく、記憶を自身の都合の良いように書き換え、自身の嘘を信じ込みながら他人を批判することが常だった。加害者であることが明らかな場合でも、自身が被害者だと信じ込んでいるように見えた。この状況を確信犯だという人と、無意識だという人がいた。個人的には全て自己防衛に集約するのではないかと考える」ということであったらしい。結局「自分しか見ていない」ということであろう。実際、別の複数の証言から検証委員会としては、「ハラスメントの背景に、何らかの自らの抑制の効かない(病的?)要因があった可能性は極めて低い」と断じている。

 この被害者意識は、「ハラスメント加害者」として指摘を受けたときに極端な動揺とともに顕著に現れ、自分が「(ハラスメントに関する)価値観が変動する時代の流れについていけなかった被害者」であるかのような口ぶりで語ることがあり、以前から許されていなかったことをしてしまったに過ぎないのだということを正面から受け入れられない要因の一つとなっている。

  • 「立場」という権力の無自覚 広河氏は、「(自分は)限られた狭い世界のスペシャリストで、世間的には金も権力もなく」従って、セクハラの背景となるような立場でもないし権威もない、とメモなどでしばしば言っているらしい。しかし、狭い世界であっても自分の王国を作り、好き放題にやればそこには権力が生じている。セクハラではあからさまな地位をかさにきた権限を振るったり、強引に相手をねじ伏せたりすることは必ずしも必要でない。一旦、そのような「権力」関係に陥れば、下位者からの迎合は上位者からは「自発的な合意」「積極的な合意」に見えてしまうことがある。上位者は常に自分の立場の権力性に敏感でなければならない。一見するとVoluntary(自発的)だが、実は「余儀なくされた合意」であり、無言の強要によるUnwelcome(望まない)なものとなる。この鈍感さが広河氏自身の「性的合意」のハードルを著しく下げていた原因であろうと指摘されている。

ご都合主義的な権力利用 報告書は、この広河氏の「相手への優越性」を否定し、実際には存在しない「相手との対等な関係性」を自分の都合の良いように場面ごとに主張するご都合主義は、彼の特性でありパワーハラスメントや労務管理においても度々顔を出す、と指摘している。例えば、広河氏は次のような言葉を述べている、「DAYSは、労使関係や搾取などという資本主義の常識が合わない企業を目指して誕生した。それはむしろ運動体という言葉があっていた」。

 広河氏は、週刊文春の記事にある、何度も性交を強要されたと述べている女性の「広河氏から口止めされた」という趣旨の言葉には一貫して強い反発を示している。そして「口止めなどしていない。事実ではないことを書かれている。反論したい」と繰り返し、この女性の意に反する性的関係を強要したことを否定したがる。これに対し検証委員会は、仮に口止めをするなど明白な地位利用の外形行為がなかったとしても、(圧倒的に優越的な人間関係にあるなかで性的関係に誘っているのだから)その一時のみをもって、行為の悪質さに本質的な差異があるということはできない」とし、ヒアリングしたこの女性からの証言は信用性があると認定し、この女性が「口止めをされた」と感じたことは事実であるとしている(加えて、この女性の裸の写真も撮っている)。

 他の幾つかの証言なども考慮して、検証委員会は「広河氏は、客観的には明らかに優越的な地位を利用して性的関係を迫っていたにもかかわらず、その自覚が無かった、あるいはある程度自覚はあっても、それを認めることは自らを不利な立場に置くと考えて否定しているのではないかと思われる」、つまり「一方では、自分の権力を自覚的に振りかざし、他方では、これに頓着せず明らかに自分より劣位にある女性たちに対し対等な関係であるかのように振る舞うという、自分に都合のいい独善的な態度を取っているとしか言いようがない」と結論している。

  • 性暴力についての理解と女性蔑視 「広河氏は、戦場での女性の性被害などを取り上げているのに」という疑問が各方面から投げかけられているが、それに対して、氏はそもそも女性に人権などわかっていなかった、で済ませるのでなくもう少し普遍的に考えられるべきテーマがあると検証委員会は指摘する。その理由は、「女性への性被害を問題視するような言動を取りながらその一方で女性に対し性暴力をふるい、それが本人の中で同居してしまうという現象が、広河氏に限らず、人権侵害と闘うことや社会正義をテーマに掲げる組織の中で繰り返し起こされてきた事件でもあるから」。

 確かにDAYS JAPANではこれまで、スーダン・難民女性の苦難、日本軍「慰安婦」問題、コンゴのレイプ被害者シェルター、段ボールハウスの少女、暴力ポルノ、アダルトビデオの中の犯罪、アフリカ・レイプにおびえる女性たち、のような様々な性暴力をテーマとして扱ってきたが、検証委員会の指摘は、それらはわかりやすい「あからさまな暴力」であるという点である。他方広河氏が被害者らに行ったのは明白な性暴力だが、相手に対する優越的な地位に乗じるという手段によるものであって、「あからさまな性暴力」があったわけではない。このことは自身の性暴力の正当化のための弁「私はそうした暴力的なことはやっていない。あくまで合意によるものであり、決して性暴力などというものではない」に都合よく利用されている。すなわち、性暴力の理解の偏りが顕著である。

 また、広河氏の性的誘いに対し、毅然として拒否した女性たちに、様々な嫌がらせや脅しまでもかけたりしていることから、検証委員会は、そもそも女性を対等な存在として認めていなかったと推測している。さらには、職場という、仕事を媒介につながっている人間関係において、個人的に親密な関係が築かれることも無かったままいきなり性的関係に誘うということ自体が、女性というだけで性的対象・存在として扱うという女性蔑視意識の表れだとも指摘している。

 さらには、検証委員会は、広河氏の男女関係観・恋愛観には、いわゆる「フリーセックス」論が自己の性的行為を正当化する論拠の一つであった可能性も指摘している。広河氏によれば、被害女性らとは「つきあっていた」のであり「大人の男女の関係」ということであったらしいが、仮にそうであったとしても、妻がいながら親子以上に年齢の離れた若い女性を次から次へと「恋愛関係に誘った」というのはそれ自体非常識で異様なことであるのでは、という指摘に対しては「不倫関係を周囲に隠す」という意識は全くなかったとし、まさに「フリーセックス」を実践していたという自己主張にも聞こえる回答をしている。すなわち氏は、「フリーセックス」論を、若い女性を一方的に性的存在とみなす女性蔑視意識や自分の立場が持つ優位性を都合よく無視して性的関係を強要したことを糊塗する手段として、主観的に利用していたということであろう。

  • 「性的関係への合意」と認知の歪み 広河氏による「合意の拡大解釈」に向けた作業は様々なテクニックを駆使して行われたことが広く証言されている。例えば、やんわりとした「性的な関係についての話題」や「フリーセックスについての議論」を投げかけたり、相手の交際状況などの性的な経験を聞き出すことで、許容範囲を探ろうとしていた。また、仕事である写真家としての技術や経験も動員して性的な誘いかけをしていた。さらには、「仕事のための二人だけの合宿」の提案、「仕事のアシスタントとしての同伴」なども計画していた。

 問題は、こうしたテクニックを駆使したり、仕事に絡む誘いをしておいて、相手が喜んで応じた時点で、勝手に「性的関係に脈がある」と捉えていた点である。仕事や指導の誘いに応じたことを「性的関係への合意」と解釈することはあまりにも独りよがりであった。結局、広河氏が断片的に思い返し繰り返すところの「性的合意に繋がるサイン」は客観的にはそうは言えないものばかりであり、現に被害女性たちも強く否定している

 すなわち、若い女性を一方的に性的存在として扱う視線と女性からの性的な承認によって自信を得たいという氏の願望が「性的関係への合意を得たと認識するハードル」を極端に下げる方向で作用した結果生まれたのがこの認知の歪みである。