「甲南グループ」第4の闇:甲南医療センターにおける研修医自死事件(2022年)(2)

(2)甲南医療センターにおける研修医自死事件(2022年)の背景と民事裁判

事件の経緯を、前記事とは異なる少し詳しい年表形式で記すと以下のようになる。

高島晨伍さん 過労自死を巡る経緯(年表)

1)採用と初期研修の開始

2020年

  • 3月: 神戸大学医学部を卒業
  • 4月1日: 甲南医療センターに採用され、初期研修を開始

2)専門研修開始と自死、遺族の動き

2022年

  • 2月7日: 北海道での地域医療研修を終え、センターへ復帰
  • 4月1日: 消化器内科の専攻医(専門研修)として採用
  • 5月17日: 晨伍さんが自宅で過労自死
  • 9月8日: 遺族が西宮労基署へ労災申請
  • 12月19日: 遺族が労働基準法違反で運営法人(甲南会)および院長らを刑事告訴

3)労災認定、病院会見、行政の動き

2023年

  • 6月5日: 西宮労基署が労災認定
  • 8月17日: 報道を受け、病院側が記者会見を開催
  • 8月18日: 遺族側が記者会見を開催
  • 12月19日: 西宮労基署が運営法人などを労働基準法違反容疑で書類送検
  • 12月20日: 晨伍さんの母が共同代表を務める「医師の過労死 家族会」発足・初会合

4)民事訴訟の開始

2024年

  • 2月2日: 遺族が損害賠償を求めて運営法人(甲南会)を提訴
  • 4月22日: 民事訴訟の第1回口頭弁論

5)刑事処分の判断と裁判の継続

2025年

  • 2月4日: 神戸地検が刑事告発分について不起訴処分を決定
  • 12月26日: 民事訴訟の第2回口頭弁論

 

続いて、ここでも二つ新聞記事を引用する:第一は次である:

20231224 神戸新聞NEXT

<若き医師の⾃死 甲南医療センターで何が起きたか> (上)時間外207時間「もう無理」 外来、救急、学会…過酷勤務の果て

https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202312/0017161841.shtml

この写真資料は上記の神戸新聞の記事より引用。

この記事によれば、当時は、同期がおらず最年少だった高島さんは、日中の外来・救急対応や病棟診療に加え、学会発表の準備に追われ、休日もなく深夜帰宅が続く過酷な勤務を送っていた。このような状況に精神的に追い詰められ、趣味を楽しむ余裕や自宅の衛生状態を保つ気力も消失。自死直前には家族に「もう無理」と号泣して訴え、2022年5月17日に自宅で命を絶った(遺書には両親や同僚への言葉が残されていた)。

その後、西宮労基署は、亡くなる直前1ヶ月間の時間外労働を労災認定基準(160時間)を超える207時間50分と算出。専攻医になった直後に、過重な業務と学会準備が重なったことによるうつ病発症と認め、労災認定した。この後、病院側、遺族側が相次いで記者会見を行った(2023年8月)。

(上)病院側の記者会見の様子

2023年12月19日、同労基署は労働基準法違反の疑いで病院の運営法人等を書類送検。母親の淳子さんは病院側に真摯な対応を求めており、提訴も視野に入れていた。しかし病院側(具英成院長)は、高島さん本人の自己申告(4月は30.5時間)を根拠に、「過重労働をさせた認識はない」と記者会見で主張、過重労働自体を否定した。この頑なで不誠実な態度が遺族による翌年(2024年2月)の提訴に繋がる。第一回口頭弁論の際、遺族は改めて記者会見を行っている。

次の記事は以下のものである:

20251227 m3.com記事

26歳専攻医の過労⾃殺、裁判⻑「双⽅の対⽴が⾮常に 激しい」

https://www.m3.com/news/open/iryoishin/1314012

この記事によれば、第二回口頭弁論では、裁判長により、両者の主張が真っ向から対立する四つの主要争点が提示された。それらを要約すると次のようになる: 

4つの主要争点と双方の主張

  • 1. 業務の該当性(研鑽・カルテ閲覧等の扱い)
    • 遺族側: 労災認定や第三者委員会報告書を踏まえ、学会発表準備や研修プログラム(J-OSLER)、業務上のカルテ閲覧・待機体制も指揮命令下・支配関係にあるため業務であると主張。
    • 病院側: 担当患者数や業務内容から「過大ではない」と反論。在院時間の長さは業務と無関係な膨大なカルテ閲覧が原因であり、学会準備等も指揮命令によるものではないと主張。
  • 2. 自死の業務起因性(心理的負荷・労働時間)
    • 遺族側: 月200時間超の長時間労働に加え、専攻医への環境変化や雑務などによる過重な心理的負荷がうつ病・自死の原因であると主張。
    • 病院側: 電子カルテのログを基準に試算した残業時間は月40〜63時間程度であり、刑事告訴も不起訴処分になったと指摘。父親(医師)による処方歴等も挙げ、業務起因性を否定。
  • 3. 病院の法的責任(過重労働の予見可能性)
    • 遺族側: IDカードやカルテログから勤務実態を把握する義務があり、安全配慮義務を怠っていたと主張。
    • 病院側: 本人の想定外の行動であり予見・予防は不可能な上、適切な労務管理体制は構築していたと反論。
  • 4. 損害賠償額の認定(過失相殺・素因減額)
    • 遺族側: 高島さんは独立した社会人であり、家族の関与や過失相殺の余地はないと主張。
    • 病院側: 仮に責任が認められる場合でも、本人や診察を行った父親ら両親側の過失や素因減額が認められるべきと主張。

裁判長の受け止め

双方の膨大な資料提出とプレゼンテーションを受け、林裁判長は「双方の対立が非常に激しい事件だ」と締めくくった。

公判は継続中で、引き続き動向を注視したい。

次の記事「『甲南グループ』第4の闇:甲南医療センターにおける研修医自死事件(2022年)(3)医療グループと学園グループを繋ぐもの」に続く。

「甲南グループ」第4の闇:甲南医療センターにおける研修医自死事件(2022年)(1)

(1)甲南医療センターにおける研修医自死事件(2022年)の概要

Geminiに「甲南グループ」について聞くと、三つの回答がある。一つ目が、いわゆる「甲南チケット」を創始した企業グループ、二つ目、三つ目が、医療法人「甲南会グループ(公益財団法人 甲南会)」、学校法人「甲南学園 / 甲南女子学園」である。

二つめには、甲南医療センター(旧 甲南病院)、六甲アイランド甲南病院、各種訪問看護ステーションや介護関連施設が含まれるが、本記事はこのグループに属する甲南医療センター(旧甲南病院)でおきた事件である。ちなみに、三つ目のグループには甲南大学、甲南女子大学、甲南学園甲南小学校などが設置されている。

本記事で「甲南グループ」といっているのは、上記二つ目と三つ目を合わせた総称である。医療機関と教育機関という、一見直接関係が無いような2つのグループが、実は歴史的にも結びつきが深く、その共通した組織運営思想が、人権意識とコンプライアンスに欠けた時代錯誤的なものになっていることを声を上げて指摘し、関係者(組織運営責任者、所属教職員、学生、在校生など)に警鐘を鳴らしたい。

これまでの「三つの闇」はいずれも甲南大学で起こった事件である。一つ目は30年来闘われたが現在は落ち着いている、語学教育系の多数の非常勤講師へのパワーハラスメント、二つ目は、2018年に起きた大学執行部による誤った指導がもたらした学生自死事件、三つめは少し前に記事を掲載した、中島先生への理不尽なパワハラ事件である。いずれも本ブログで追跡しているので、該当カテゴリーの一連の記事を参照されたい。

上記二つのグループの結びつきについては、このシリーズ第三稿で論ずるが、この第一稿では、まずは2022年に甲南医療センターで起きた青年医師自死事件について、その概要を見てみたい。

まずこの事件の発生から現在までの事実経過は以下のようなものである:

高島晨伍さん 過労自殺を巡る経緯

これらの写真資料は読売新聞の以下の記事(当時)から引用。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20230817-OYT1T50021/

https://www.yomiuri.co.jp/national/20230817-OYT1T50021/2/

  • 2020年3月〜4月:勤務開始

神戸大学医学部卒業後、4月より甲南医療センター(2022年2月28日グランドオープン)で初期研修医として勤務を開始。

  • 2022年2月〜5月:専攻医就任と自死

北海道での地域医療研修を経て2月に同センターへ復帰。4月より消化器内科の専攻医として勤務を始めるが、5月17日に自宅で過労自死。

  • 2022年9月〜12月:遺族による申請と刑事告訴

9月に遺族が西宮労基署へ労災申請を実施。12月には労働基準法違反の疑いで運営法人および院長らを刑事告訴。

  • 2023年6月〜12月:労災認定と書類送検

6月5日に西宮労基署が労災認定。8月に病院側・遺族がそれぞれ会見を開き、12月19日に西宮労基署が運営法人などを書類送検。翌日にはご遺族(母)が共同代表を務める「医師の過労死 家族会」の初会合を開催。

  • 2024年2月〜4月:民事訴訟の発起

2月に遺族が損害賠償を求めて運営法人(甲南会)を提訴し、4月に第1回口頭弁論が行われる。

  • 2025年2月〜12月:刑事不起訴と裁判の継続

2月に神戸地検が不起訴処分とするも、12月に民事訴訟の第2回口頭弁論が行われるなど法廷闘争が継続。

以下に他の2つの新聞記事を見てみよう。一つ目は、

230817病院側記者会見 日本経済新聞記事

26歳医師⾃殺で労災認定 ⻑時間労働で精神障害か

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF176YK0X10C23A8000000/

で、病院側の第三者委員会による調査で、4月は約197時間、5月は約133時間に達する時間外労働が判明していて、長時間労働によるうつ状態と精神的ケア欠如が自殺に繋がった可能性が指摘された。ただし、この報告書は遺族側には未開示のまま、病院長(具英成氏)は「病院に居た時間には自主学習や睡眠も含まれ、過重労働の負荷があったとは認識していないとした。一方で病院は、労基署認定の労働時間(死亡直前1か月の残業時間207時間、3か月無休日を理由に労災認定)に基づく未払い残業代と同額の解決金、約130万円を遺族に支払った。

なお、2024年4月施行の改正労働基準法により、研修医らの残業時間には、年1,860時間(月平均155時間、過労死ラインの約2倍)の上限(罰則付き)が設けられた。

二つ目は、

230819 Business Journal 記事

研修医・専攻医の過労⾃殺、相次ぐ…医師の無償の⻑時 間残業で成り⽴つ病院経営

https://biz-journal.jp/medical-care/post_358459.html

で、日経新聞の記事にもあったように、死亡直前の働き方に関して労災認定されたにも関わらず、病院側は、出勤時間には「自己研鑽や休憩」が含まれると主張し、過重労働の認識を否定した。この主張の根拠となった「出勤時間」には残業が数十時間しか含まれていないことが記録に残っているが、遺族によると「生前、病院側から『収益減少』を理由に『常識的な残業申請』をするよう」指示されていたということである。病院側は公然とサービス残業を強要していたのである。

この病院側の冷徹な対応の背景には、若手医師を取り巻く労働環境がある。その第一は、後期研修医は、臨床で実質的な主治医として重い責任を負う一方、指導医との徒弟関係や専門スキル習得・学会準備などのため、長時間労働や上司の指示を断りにくい状況がある。第二は多くの病院が医師や看護師のサービス残業を前提として経営を成り立たせている(「収益」を確保する)実態がある。また、医師は本来は「個人事業主」としての性質が強いにもかかわらず、単なる「勤務労働者」として扱われているため、自己研鑽が「裁量労働」として扱われていない矛盾がある。すなわち、本来医師に払われるべき正当な対価が経営の都合により、削ぎ取られている実態がある。

(2)甲南医療センターにおける研修医自死事件(2022年)の背景と民事裁判に続く。

 

 

中島清貴先生論考:「大学でのいじめ・ハラスメントによる重大事故に関する制度的問題について: 米英中韓と日本との国際比較の観点から」

ここでは、最近中島清貴先生がまとめられた「日本の大学におけるハラスメントや学生の自死事件などの重大事故に関する制度的問題を国際比較の観点から分析・整理・問題提起された論考」を紹介する。

この論考は既に中島先生のHPに掲載されている

https://kiyotakasakura.wordpress.com/wp-content/uploads/2026/08/notice_20260820rev.pdf

が、ここでは、最終節の簡単な要約と、分析した4カ国との比較表を引用する。結論的に言うと、4カ国に比べ、日本の制度が、いかにその組織の構成員保護とハラスメント防止に関して遅れた不十分なものであるかを明らかにしている。日本における大学の学生・職員の人権を尊重し、その健全な育成と職場環境の整備を日常的に保証する制度の確立が強く望まれる。

是非この論考全体を読了されることを強く勧めたい。また、先生が参照された参考文献リストも参考にして頂きたい。

最終章 終わりに の要約

主要国の大学では、ハラスメント等の隠蔽・放置に対して組織自体に致命的な不利益を科す構造が確立されている。一方、日本の大学はいじめ防止対策推進法の対象外とされ、行政ペナルティも欠如しているため、大学の自治を盾に事件を隠蔽・矮小化するモラルハザードに陥っている。高校生と大学生の間にある不自然な法的保護の差別を正し、国際基準の制度改革を通じて学生の人権と真の安全を確保することが不可欠である。

大学、或いは様々な高等教育機関(専門学校、各種学校など)で、いままさにハラスメントを働き、同僚職員や学生を侮辱し、いじめている加害者のあなた、あなたの組織がおかれている現状は先進諸外国とはかけ離れた酷い人権状況にあること、そしてあなたの行動はそれを隠れ蓑にした無自覚で低劣なものであることに気付いて下さい。日本以外の諸外国なら、あなた方こそ、とうに組織から追放されている存在なのです。退場しないなら、直ちに、外部からの批判に真摯に応え、被害者に謝罪するとともに、再発防止のための有効な手段を講じなさい!