甲南大学での学生自死事件、その後 (4)

前3回の記事に続き、昨年4月に取り上げた事件

甲南大学での学生の自死事件(以前の記事)

についての続報である。「一連の経過」改訂版を下に示して連載を始める:

【概要再掲】2018年3月11日、甲南大学文化部(文化系サークルの集合体)において、歴代部長を中心とした部活動の上級生が大学公認部の権限を利用し、目障りな下級生を排除するための名誉棄損誤情報をでっち上げ、意図的に外部に流布した。これが重大なパワーハラスメント事件の発端である。以下、ご家族の手記から続けて引用する:

【抗議の自死】

中井ハラスメント委員長、秋宗学生部長の発言の後、遂に「抗議の自死」に至った。

被害者学生は、警察が第一発見者となるように工夫し、他者に迷惑がかからない配慮をして、自死を決行した。命懸けで、警察に甲南大学ハラスメント被害を届けたのである!

被害者学生の様子がおかしいと心配した友人から、自死の当日に学生部窓口に連絡があったが、応対した大学職員は、「そんなに大事(おおごと)にしていいのか」として、直ぐに対応しなかった。そして、かなりのタイムラグの後、中村英雄学生部事務部長から被害者学生の自宅に電話があったのは、自死の後であった。このとき遺族が甲南大学と直接交わした会話は、約30秒のみである:「これまで何度も抗議した。取り返しのつかないことが起こってしまった」との遺族の言葉に対して、中村学生部事務部長は、間を置かず「わかりました。弁護士の名前を教えて下さい」との言葉だけで終わった。

○ 抗議の自死後

被害者学生側の当時の代理人弁護士は、代理人として被害者学生とのやり取りは行っていたが、大学に文章を出すことは無かった。学生の自死後、遺族に「もっと早く伝えるべきだったが、自分の子供が甲南学園の中学に通っているので、これ以上この件に関われない」と代理人契約は打ち切られた。遺族は当時の弁護士を信じていただけに大変なショックを受けた(当時の代理人が決定したいきさつ:被害者学生と母が、2018年6月、かかりつけ医の紹介で、ある弁護士を尋ねたところ「自分は甲南大学大学院の関係者なので適任者を紹介する。君は非常にしっかりした人物なので、以後は自分で弁護士と相談し、親は大学に出向かない方が良い」と言われ、そのアドバイスで当時の代理人が決まった)。

現在の代理人弁護士に出会うまで、何人もの弁護士と話をしたが「甲南大学」と聞くと皆一変して無理だと断られた。これまでにも甲南ハラスメント問題は水面下で何度もあったらしいが、恐らくこのような事情でメディアで大きく報じられていないだけであることが遺族には漏れ聞こえてくる。

○ 母が、知人・友人・恩師達から聞いた被害者学生の様子

自宅に弔問に訪れてくれた当時のあるアルバイト先の店長曰く、「平素一番いきいきと仕事をしていたのに、3月のパワハラ後の時期、あまりに落ち込んだ様子だったので理由を尋ねると、『部長に嫌われて、その他と結託して悪い噂を流され、はぶられている。部活辞めたくないけど回避できない。大学に言ったが取り合ってくれなかった。みんなで丸め込んでいる。』と話した後『でも僕は、頑張ります。』と言っていた。」という。

一緒にアルバイトをしていた長年の親友は、「普段から部活動を誇らしく語っていた。だからこそ面くらった、自分の居場所が居場所じゃ無くなる辛さをその様子から感じた。当時の甲南大学の酷い対応を思い起こせば、悲しみと憤りが蘇る」という。

被害者学生は、おおらかで優しく小学校・中高の親友達からも人望厚く、直接指導を受けた恩師たちは一様に、「純真で責任感強く、人一倍努力家で、将来が楽しみだった」と無念の涙を流してくれた。(遺書には)家族全員と親友に、愛情あふれる自分の思いを綴り残している。また、自分が受けた被害の記録と、甲南大学及び加害者学生への抗議文もしっかりと綴り日付と名前のサインを記している。

【自死後の甲南大学の無責任な対応】

○ 甲南大学の隠蔽体質

甲南大学ハラスメント委員会は、本件の虚偽情報の拡散について、「現在に至ってなお格別問題視すべき事情までは無いといえる」と学生の被害を無かったものとした。被害者学生は、秋宗学生部長からの「どう処分してほしいか」という問いに対して「加害者部長の交代・当該部活動の休止」の2点を示したが、処分はされず、偽情報が打ち消されない状況の中で、文化会学生から被害者学生には、「団体を軽く見ている」という発言も飛び出した。早期に加害者に常識的な人間教育を行わなかった甲南大学の罪は深い。我が息子は、2018年3月以降、大学の対応に傷つきながら、徐々に聴力を失いつつも、自身の名誉回復に全力を尽くした末、同年10月抗議のために命を絶った。

甲南大学は、自らの大学の学生が、学生生活に関係する事柄を理由にして、しかも、大学にもその問題を訴えかけていたにも関わらず、命を絶ったというのに、学生の自死がわかった後も、遺族と向き合って言葉を交わすことはなかった。遺族と関わることを避けていた。その一方で、甲南大学は加害者学生及びその家族とこっそり会合し、いまだに加害者学生も「自分たちに問題は無い」と未だ当方への謝罪はない。

魅力ある他大学にも複数合格していたのに、本人が地元での起業を目的として「甲南大学」を選び、それに賛同してしまったことを遺族は心から後悔している。

大学においても、例えば旅行会社と同じように、万一の問題が起こった時に、初めてその大学の本当の価値が露呈するだろう。

しかし残念ながら、甲南大学は時代に逆行した「村社会」で、被害は隠蔽され、問題行動があっても、外部に漏れなければ誰も責任を取らない。被害内容の聞き取りは、途中から虚偽の自白を強要するようなやり取りに変容し、「やっていないから、言っていない!(父母の会事務局職員・会長も確認)」の学生の声を、甲南大学はメディアに「横領の事実は無かったものの男子学生が誤解を招く発言をしていて、他の学生が横領は真実と信じたのはやむを得ないと判断した。一連の本学の対応に問題はなく、第三者委員会の調査には応えられない」と更に誤解が生じるコメントを発し論点をすり替えた。それは、更なる惨憺たる名誉棄損のハラスメント行為である。

問題を問題としない甲南大学・Konan Universityの常識の感覚が一般社会常識とはズレていること、そうしなければ「2018年問題」(注2018年をめどに18歳以下の人口が減少期に入ることで、学生獲得戦争が過熱し、大学の倒産もありうるという問題)に対し甲南大学が生き残れない程の切羽詰まった状況であることを、母親は息子の自死を通じて嫌というほど知ってしまった。

パワハラ発生後、せめて、甲南大学が加害者部長を交代させるとか、適切な文章を出すなど何らかの適切な対処をしていれば、こんなことにはならなかっただろう。

「被害者学生自死」後に、非公開で当該部と加害者学生に軽微な「注意」など発しているが、「アリバイ工作」以外何の意味も無く、かけがえのない命は取り返せない。

○ 報道後の甲南大学の無神経な対応

2019年4月「甲南大学生自死報道」の後に、甲南の公式ネットMy KONAN上で「本学学生に関する報道について、(言い訳中略)本学の対応に問題は無かったと考えていますが、(言い訳中略)改めて心よりご冥福をお祈り申し上げます」という無神経な記載を見つけた。

甲南大学は、ひたすら「言い訳」を繰り返すのみである。学生を抗議自死に追いやり、1年半後に報道で暴かれ、ネット上で被害者に「冥福」という言葉を使うデリカシーの無さには、改めて驚いた。

かけがえのない大切な体は骨になっても、魂は、現在も信念を貫いて存在している。

○ 被害学生や家族に投げられた酷い言葉の数々

被害学生が抗議の自死に至るまでの間、あれほど、母親も言葉を尽くして何度も抗議したのに、甲南大学は被害者学生の基本的な人権さえ保護することなく「被害者と加害者の言い分が違うので、まだ納得できない」等とし、

加害者学生はラインで一斉連絡しながら排除目的のハラスメントを実行したのに(連載2回目に掲載)、「加害者達の口裏合わせだとは思わない」と取り合わなかった。

被害学生は、「何度も聞くと君の説明内容が異なっている」とも言われた。基本的な説明は何も変わっていない。何度も聞かれ、説明の仕方が変わった言葉尻を捉えられた。被害者を守るという発想は、かけらもなかった。毎回、怒りを通り越して呆れるばかりで、心身共に疲弊させられた。

ふりかえれば、甲南大学は、初動の間違いを引き返して訂正・謝罪せず、被害者学生と家族に以下のような暴言の数々を浴びせ続けた。

「大体君ね、いつまでそんなことを言っているの?黙らなければ君の就職にも響く」

「大学側はこれ以上に君を陥れることはしない」

「部のハラスメントとは?何のことですか」

「残念ながら君を要注意人物とみなす」

「君やったと言ったよね?」

「ハラスメントは認められなかった。現在に至っても問題だとは大学は認識していない」

「実社会では問題のあった人物が自分から辞めるのは普通のことだ(被害者に対して)」

「全部録音していますか?全部録音していなければ、うちの大学の学生の人数は多いのだから、いちいちこんな問題を覚えていられませんよ」

「いつまでも、そんなことばかり言っているから、もうお宅とは話をしたくないのですよ」「お母さんにも伝えた(?)、ハラスメントは個人対象であり、それを理解して訴えたはず」

 録音記録を全部文章化し書きだせば、まだまだありキリが無い。誰がこれらの「学生人権蔑視発言」をしたかは、当人がこの文章を読めば直ぐに、ぐさりと心に思い当たるだろう。

中井伊都子ハラスメント委員長は、「本学(甲南大学)における『キャンパスハラスメント』については規程第2条第1項各号に定義されているところ、本件においては、同項第3号『課外活動も含め学修活動のすべての領域において、優位な立場にある者が、その立場等を利用し、教育指導上逸脱した行為・言動によって相手方に心的傷害を与え活動意欲を失わせること』に該当するか否かを判断することとなる」とした上で、本件の問題点を指摘しつつも、「格別問題視すべき事情まではない」などと被害実態を無視し、『いずれも、キャンパスハラスメントに該当しない』」という甲南オリジナルの法を適用した。更に酷いことには、さも被害者学生に問題があるかのような、「被害トラブルについての苦情を書いた文章の内容が場違いなものであった」「部が組織的に情報を流している事実が確認できなかった」「部長らによる嫌疑の内容の周知は徒らに申立人(被害者学生)の悪事を広めるために行われたものではなく、(中略)逸脱した行為・言動であったとはいえない」等々の無茶苦茶な文言で「キャンパスハラスメントとは認定できない」という結論へと終着させた。そして、中井副学長(当時)、秋宗学生部長からの面談での最後の言葉掛けは、耳を疑うかのような「困った場合は力になるので、いつでも申し出てほしい」との、2018年3月からの経緯に真っ向から逆行する伝達であった。

「大学のどこに言えばいいのか。瑕疵で済まされているが、自分はダメージを負っている。納得がいかない。警察に届けることも考えている」と訴える当時の息子の心中を思い起こすほどに、なお悲痛である。

今となっては、一時でも甲南学園に関わったことが、遺族として無念極まりない結果となった。「人間教育」に合致しないイメージ営業優先の大学コンプライアンスを掲げ『閉鎖的な教育現場での言葉が学生を死に追いやった事実』を認識し、(大学の担当者は)生涯その事実を心に刻んで間違いを悔いて欲しい。

【なんの反省もない甲南大学】

甲南大学を信じて入学したことを悔やんでも悔やみきれない日々が、自死被害者学生とその遺族には、これから先も永遠に続くだろう。

より酷くなっていく甲南大学の高圧的な態度に、被害者学生は2018年6月以降母親に話していたーー「甲南大学∞マークは首を絞める綱にしか見えなくなってきた」と。

甲南大学HPより↓↓↓)

甲南大学を語るには5つ目のキーワード【ハラスメント】が要りそうである。

 

 

甲南大学での学生自死事件、その後 (3)

前々記事,前記事に続き、昨年4月に取り上げた案件

甲南大学での学生の自死事件(以前の記事)

についての続報である。また「一連の経過」を再掲して連載を始めたい:

2018年3月11日、甲南大学文化部(文化系サークルの集合体)において、歴代部長を中心とした部活動の上級生が、大学公認部の権限を利用し、目障りな下級生を排除するための名誉棄損誤情報をでっち上げ、意図的に外部に流布した。これが重大なパワーハラスメント事件の発端である。以下、ご家族の手記からの引用の続きである:

○ ハラスメント委員会への申立て

2018年5月には、被害者学生の名誉回復を求める文章を、長坂悦敬学長・吉沢英成理事長にも、母親直筆の手紙の形で直接手渡しており、大学トップもハラスメント問題をもちろん承知であった。(それでも)全く大学の動きが無いため、被害者学生と家族は、甲南ハラスメント委員会へ被害を届けた。

その後、中村英雄学生部事務部長・秋宗秀俊学生部長(教授)・中井伊都子ハラスメント委員長・父母の会事務局・ハラスメント委員会教授陣の連携により、学生の被害は救済されると思いきや、全く逆で、被害者学生と家族を疲弊させ、貶める方向へと進んでいった。

被害者学生と家族にとっては、時間ばかりが浪費され、SNS等で被害者学生に対する中傷が蔓延するとともに、甲南大学は被害者学生を救済するどころか、被害を無かったものとして徹底的にもみ消す行動に出た。

以下はこの間被害者学生が親友に送った一連のメールである:

 

被害者学生と家族にとっては、常識的に、そのような大学の対処は想定外であった。思い起こせば、「必ずちゃんとする」という甲南大学の発言を素直に信じたことが更なる悲劇の始まりであった。今となっては、2018年5月の時点で、甲南大学ハラスメント委員会ではなく、新聞報道やSNS上で抗議するべきであったと強く後悔している。

○ ハラスメント委員会の無責任な対応

その後も、甲南大学側は延々と答えを引き延ばし中傷被害が拡大した。

2018年9月11日、「ハラスメントが大学には起こらなかった。問題があったとは考えていない」というハラスメント委員長・中井伊都子当時副学長(現学長)は、公式コメントを発し、それは被害者学生を深く傷つける結果となった(下部に掲載は学長への報告文書)。しかも「甲南大学はハラスメントと認定しない」の対処が後押しとなって、加害者学生は更なる中傷文章を発した

その状況を被害者学生が納得できる訳もなく、大学に抗議を継続した結果、対応していた中井伊都子副学長・秋宗秀俊学生部長(教授)・中村英雄学生部事務部長らの被害者への言動と公式文章は被害者学生を貶める内容へとエスカレートしていった。

 

○ 大学に被害を訴えたために、逆に大学から被害を受ける

「自分を強制退部させたやり方が社会では通用しないやり方であり、部として問題だと考えているので処分に値する」という被害者学生の訴えに対して、中村部長は、「会社では、もし何か不祥事があった場合、自主的に会社を辞めるように勧めるやり方はある。当該部のやり方は社会で通用しない方法というわけではない」と被害者学生に発言した。

事件発生当初から抗議自死後までも続く一連の甲南大学の言動は、社会一般では通用しない

「君の言動が問題であったと考えている」という被害者学生の将来をぶち壊す甲南大学の的外れな発言に口をつぐむことなく「加害者を放置すれば、(甲南大学内では)また同じことが起こってしまう。自分はダメージを負っている」と被害者学生が大学職員に理路整然と抗議しても、全く対応されなかった。甲南大学・複数職員による、被害者学生一人を(3対1等で)無理やり屈服させて黙らせようとする被害者学生とのやり取りが繰り返された。

ハラスメント委員会での教授陣による「どの行為がキャンパスハラスメントに該当すると考えているか?」の質問の繰り返し。ハラスメント認定無し。それ以降、中井ハラスメント委員長・秋宗学生部長・中村学生部事務部長3人による面談は、理不尽で高圧的な到底納得できない内容であった。(傲慢不遜な一連の甲南関係者の言動記録は現存)その後も、反省無き当該加害者部員の無神経な言動・中傷も続いた。

被害者学生は、ハラスメント被害について、中井ハラスメント委員長に最後の最後まで電話で抗議したが、専横な返答に対して「もう僕は、それでもいいです」と電話を切った後「甲南大学はレベルが低すぎる!」と顔を真っ赤にして、こぶしを握り締めて憤慨していた。その時の息子の姿と声が、今も母親の脳裏に焼き付いている。「自分の将来についてじっくり考える」と母親に話し「もう甲南にいても何もならない。辛いだけや。勉強に関係なくいい学校じゃない。」と無念な気持ちを親友に伝えた。

心労から片耳の聴力も失った。

その後 (4)に続く。

甲南大学での学生自死事件、その後 (2)

前記事に続き、昨年4月に取り上げた案件

甲南大学での学生の自死事件(以前の記事)

についての続報である。まず「一連の経過」の表を再掲して連載を始めたい:

2018年3月11日、甲南大学文化部(文化系サークルの集合体)において、歴代部長を中心とした部活動の上級生が、大学公認部の権限を利用し、目障りな下級生を排除するための名誉棄損誤情報をでっち上げ、意図的に外部に流布した。これが重大なパワーハラスメント事件の発端である。以下、ご家族の手記からの引用の続きである:

【事件概略

事の起こりは、2018年3月11日、甲南大学が公認する部活動において(歴代部長を中心とした)上級生が部の権限を利用し、目障りな被害者学生の存在を排除するために、名誉棄損誤情報をでっち上げ、意図的に外部に吹聴したパワーハラスメントである。

被害者学生が事件直後に大学に被害を申し出たにも拘わらず、甲南大学の適切な対応が成されず学生の被害は拡大していき、同年5月以降の甲南大学パワーハラスメントの隠蔽を目的とする対応(甲南大学によるアカデミックハラスメント)が被害者学生を自死へと追いやった。

【甲南大学公認文化会・公認部の名誉棄損パワハラ発生~抗議自死までの経緯】

○ 部の上級生による名誉毀損パワハラの発生

被害者学生は、2017年入学以来、甲南大学公認の文化部活動において、中高一貫進学校での豊富な行事参加経験を基に、1年生でありながら学園祭企画等で統率力を発揮した。また、次期部長のポジションに決定し、他大学との連携活動も責任感を持って行っていた。

自分の考えと常識を持ち合わせ、上級生の理不尽な要求(無理やりの髪染め・合宿での深夜に及ぶ飲食会合の強制、部の計画性の欠如)があったが、それに迎合することなく、部長らの行動の倫理的間違いを指摘・注意した。

結果的に、その経緯によって部長ら上級生からは目障りな存在になってしまった。しかし、被害者学生は、仲間として部員を信じて積極的に部活動に参加していた。まさか上級生の妬み嫉みを生み出し、彼らの悪質なハラスメントで自分の学生生活が台無しになるとは、全く予測できなかった。

学年末、2018年3月、当時の歴代部長3人(4年男子元々部長・3年女子元部長・2年女子当時部長)は結託し、被害者学生を部から排除することを目的として、周到な計画の下、無実の被害者学生を「2017年度11月文化祭の売上げを横領した人物」に仕立て上げ、強制退部とした。更には、部長の権限を利用して、他のクラブへの入部拒否の要請文(甲南公式部捺印)を出した。その偽りの情報は、甲南大学のみならず、他大学にも吹聴された。

このパワーハラスメントは、「通り魔に刺されたような被害」でショックが大きかった。

部長を中心とした部内の上級生たちは、被害者学生(気に入らない人物)を排除する方法をライン等で繰り返しミーティングし、犯罪的な中傷をでっち上げ、平穏だった被害者学生の学生生活を破壊する異常な行動を引き起こした。

被害者学生は、甲南大学の学生相談窓口に相談をした。SNS上でも理不尽な中傷被害を受けている被害者学生に対して、甲南大学中村英雄学生部事務部長は、「知らない人がほとんどだから気にすることはない」と何度もやり過ごした。被害者学生は担任教授にも付き添いを依頼し、甲南大学学生部に再度被害を申し出た。事件発生当初より、学生が横領をしていないことは残されていた伝票上も明らかで、それを証言する経理の学生の存在もあった。秋宗学生部長が事件聞き取りを開始したが、被害者の痛みを理解している様子は無かった。

3月より名誉回復の処置(正門掲示板やMy KONAN=甲南大学在学生HPへの訂正と名誉回復文章の掲示)を何度も要望した。ようやく5月の連休明けに、甲南大学が特別な処置と称する文章が正門前に掲示された (下の写真のポスター)。ところが、特別な処置と称するそのポスターは、当時の大学HPのハラスメント一般に関する解説頁を単にカラーコピーしたものに過ぎず、何らの名誉回復の内容も含まれていない。これは、大学当局のこの事件に対する鈍い感覚とやる気・真剣味の無さを象徴しており、その内容の無さゆえに、その後も被害者の悪い噂の拡大は止まることは無かった。

念のために拡大してみると

やはり大学HPのハラスメント関連ページのコピーであった。なお、自死事件後の現在では、ハラスメント説明ページは、事件当時のハラスメント定義と比較すると、2018年のハラスメント自死事件が定義内容に当てはまらないように修正され、より簡略化した内容の文章が掲載されている。

(現在の甲南大学HPのハラスメント関連ページ)

https://www.konan-u.ac.jp/life/campus_harassment/

○ 大阪法テラスで弁護士にも相談

2018年5月になっても適切な対応が無いため、被害者学生は大阪法テラス・弁護士への相談に出向いた。5月18日、母親が甲南大学に出向き、中井当時副学長(現学長)、秋宗学生部長(現学部長・理事)、中村英雄学生部事務部長に面談し「法テラスに相談している」と伝えると、甲南大学側は、甲南大学学生部個室で被害者学生の母親に「申し訳なかった。対処に困っている。加害者学生はおそらく反省していないので、訓告か勧告を考えている」と発言していた。しかし、実際には被害者学生名誉回復への大学の適切な対応はなされず、中傷被害は拡散し続け、被害者学生は体調を崩していった。

5月25日、危機感を感じた母親は、甲南大学による名誉回復のための文章の掲示を求め、原案を甲南大学・学生部において中村学生部事務部長に目の前で書かせ(甲南父母の会事務局立会い)その場でコピーも取ったが、その文章の公表は実現せず、現在も闇へと葬られたままである。以下がその時書かせた文章(中村学生部長直筆)のコピーの写真である

(かすれて読みにくい部分もあるので活字にすると)

その後 (3)に続く。

甲南大学での学生自死事件、その後 (1)

昨年(2020年)4月本ブログに掲載の甲南大学についての記事

甲南大学で学生が自殺 サークルのトラブルに大学が責任をもって関与せず/新潟大学/群馬大学(最近のアカデミックハラスメント例 (4))

の続報を、ご家族の手記を引用する形で掲載したいと思います。

本件は一個人の問題でなく、社会問題として検証する必要があると考えます。そのために、当事者学生ご家族のご協力を得て、本記事の掲載が実現されました。事件よりほぼ2年余りが経過しようとする今、大学側からの誠意をもった対処がない一方で、学内的にも社会的にも事件が忘れられようとしています。事件発生から現在に至るまでの甲南大学の表の顔と裏の顔の使い分けに、ご家族は強い嫌悪感と憤りを抱いておられます。この記事では、ご家族提供の事件の資料などをご紹介しつつ、そのような目的に添うべく、本事件を振り返ってみたいと思います。

(1)ご家族の手記

 はじめに

甲南大学の学生が抗議の自死を行った。

その学生の母親が現在の心境を語ってくれた。

まずはその母親の言葉から、連載を始めたい。

母親の言葉

甲南大学は、多額の学費を徴収しながらアカデミックハラスメントを行った。

最愛の息子は、延々と甲南大学に振り回され、自分の尊厳を守る最終手段として「抗議の自死」に至った。自死から、2年と2か月が経過したが息子の魂は今も生きている。

抗議の自死直後の甲南大学の倫理観が欠如した対応

息子の抗議の自死の後、甲南大学から私には、一本の電話、弔電、弔問等一切無い。息子の自死後、甲南大学が先ず実行したことは、「甲南全職員に被害者に個別に接してはいけない」という箝口令である。その後私が甲南大学に様子確認で訪れた折、中村英雄学生部事務部長、中井圭吾学生課長らと遭遇したが、彼らは無言で私の顔を睨みつけ、不敵で無礼極まりなかった。息子の自死直後に、ある祝賀会の場で「喜びに溢れる」という言葉の公への発信があったが、息子の命の尊さを土足で踏みにじる耐え難いものであった。

(自死後1ヶ月に満たない時期に開催された文化会表彰式・祝賀会)

表彰式・祝賀会が開催された11月16日は、抗議の自死からまだ一月も経っていない時期である。この日の表彰式・祝賀会は、自死前にアカデミックハラスメント対応をした学生部 (秋宗学生部長) 主催で、吉沢理事長も出席した。抗議自死の遺書には「甲南大学の対応 (中略 )文化会での名誉毀損行為、」という記載も残されている。

かけがえのない最愛の存在を失い、私たち遺族には、言いようのない怒りと虚無感、悲しみで息をするのもつらい時間がこれからも続く。

純真な学生が大学に被害を訴え、必死で対応を求め続けたにも拘わらず、その後の甲南大学のアカデミックハラスメント対応が学生を自死にまで追いやった。不祥事の自覚症状がないのか、甲南大学の倫理観の欠如は、怒りを通り越して気持ちが悪い。

抗議の自死に対し、原因の調査すらしようとしない。無神経な態度は続いている。

抗議の自死から1年が経過し、私は代理人弁護士を通じて甲南大学に第三者委員会設置を申し入れた。甲南大学吉沢理事長からは、「甲南大学の対処に問題はない。審議を了しており、今後調査するつもりはない。」という内容の手紙を代理人経由で受け取った。

息子の存命中から自死後も、一連の無礼な甲南大学の態度は、被害者である息子の尊厳と家族の心身を深く傷つけ続けた。息子の自死から約1年半後、私はようやく代理人を通じて、「甲南大学」吉沢理事長・長坂学長を大阪弁護士会館に呼び出したが、吉沢理事長は遺族との面会を拒否したまま、誠意ある対応は一切なく現在に至る。

自死後遺族と対面した際の学長の姿勢

2019年3月14日の大阪弁護士会館での吉沢英成理事長面会拒否・長坂学長との対面では、いかにして最愛の息子の平和な学生生活が破壊されていったか、抗議自死までの経緯を確認した。「甲南大学は、学生生活の安全を確保すべきではなかったのか、悪質なパワーハラスメントから被害者を守るどころか加害者に何の処罰も行わすハラスメント自体を無かった事とした。その名誉棄損によって平和な学生生活が破壊され、聴力を失う等、取り返しのつかない被害を受けた上に、大学の傲慢で杜撰な対応は、被害者学生を抗議の自死にまで至らせた。」という内容について、そして、これまでの甲南大学対応の異常性経緯を改めて息子が残した言葉等生きた足跡の爪痕を見せながら、代理人と共に、長年家族ぐるみの付き合いがある母の友人立会いの下、遺族の生の声で訴え抗議した。

「なぜこのような学生自死事件が起こったと考えるか。」と対面の長坂悦敬学長(現理事長)に私が問い詰めたところ、長坂学長は、「対応した彼ら彼女らにも問題があるかもしれないが、学生全般のレベルが低いから。」という言葉を口ごもりつつ残して去っていった。同席で息子の担任教授は、「責任感のある学生だった。もっと適切な対応が成されるべきだった。」と長坂学長の隣で発言してくれた。その後、甲南大学代理人から口頭で「香典にしては多額、命の値段には程遠い金額」の提示があったが、命の尊さを無視した内々の陳腐なもので、遺族としては到底受け入れられない。

更に呆れることには、被害者学生を自死へと追い詰めた甲南大学関係者達は、その後昇格人事で、中井学長の紅白スーツ姿笑顔の写真が(自死報道後、写真差し替え)ネット上に掲載されていた。

(中井伊都子学長就任写真・甲南大学人事決定写真)

代理人による記者会見と甲南大学によるさらなる追い打ち

吉沢元理事長を筆頭に、長坂当時学長(現理事長)、中井当時副学長(現学長)の『表の顔・裏の顔』のギャップには強い嫌悪と憤りを感じる。

学生の「命がけの抗議」に対し、甲南大学は、反応しないまま風化を望みつつ、遺族には組織権力という暴力を振り回した。

甲南大学に入学したことは、我が息子とその家族にとって、人生の痛恨の極みである。

甲南大学学生自死事件は、個人の不幸な問題という範疇ではなく、社会問題として世の中に問いかける必要性を遺族は痛感し、代理人が記者会見を開き、新聞・テレビ報道へと踏み切り、報道がなされた。

「甲南大学生抗議自死」新聞報道に至るまで事件は隠蔽され、遺族には面会拒否の裏側で、吉沢理事長は祝辞で「人間的な豊かさを持たすには、直接的なフェイスtoフェイスの関係を豊かにすることが重要になる。」同じ壇上での長坂学長の祝辞は「正志く強く朗らかに進んでいきたい。」と公言している。尊い命を悼むことなく、大学幹部らが笑顔で繰り返し開催する盛大な祝賀会開催・乾杯の様子は、遺族の心情を深く傷つけた。

(2019年4月21日、吉沢英成理事長、長坂学長ら、久本神戸市長、井戸兵庫県知事と共に神戸ポートピアホテルパーティ会場壇上にて盛大に鏡割り・祝賀会)

被害者学生を抗議の自死に至らせてもなお、甲南大学の反省、被害者学生と遺族に対する誠意ある対応は全く無い。それは一般社会の常識では考えられない惨憺たるものである。

しかも、各種報道の後、メディア・ネットによる甲南大学の名誉棄損発言、低俗で稚拙なSNSへの書き込みがなされた。これは被害者学生の尊厳をさらに深く傷つけるものであり、今後、遺族は毅然とした態度で対応する。

(ニュース映像写真)

(毎日新聞記事)

https://mainichi.jp/articles/20200308/k00/00m/040/328000c

https://mainichi.jp/articles/20200329/k00/00m/040/206000c

:昨年4月の本ブログ記事に抜粋を掲載しています。

(朝日新聞)

https://www.asahi.com/articles/ASN3B72LCN3BPIHB028.html

(神戸新聞)

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202003/0013180260.shtml

(産経新聞)

https://www.sankei.com/west/news/200310/wst2003100004-n1.html

以上の「ご家族の手記(母親の言葉)」は、ともすれば一時の感情に任せて書かれたものと思われがちだが、次に示す一連の事件の経過に対応したものである。

 

伊藤詩織さんの事件に関連して留意すべきこと二つ

前記事で、伊藤詩織さんが米国「TIME」誌の2020年版「世界で最も影響力のある人100人」に選ばれたことに触れた。伊藤詩織さんに関するネットやマスコミ上の記事や言説はフェイクや中傷も含め枚挙に暇がないが、現在今一度再確認したいことは次の2つである。詳細な全体像はデイリー新潮の一連の記事(44件)

https://www.dailyshincho.jp/search/?kw=伊藤詩織さん&disp_page=1&sid=ergc7tnolmlq0gjqclk5u7t7h5

に詳しいのでそちらに譲り、肝心な部分のみ下記に抜粋してまとめる。

1.本事件はもとTBSワシントン支局長山口による卑劣な性犯罪=性暴力事件である!

事件の簡単な経過を上記デイリー新潮の記事の引用で見てみよう:

(https://www.dailyshincho.jp/article/2019/12250800/?all=1)

(https://www.dailyshincho.jp/article/2019/12260800/?all=1&page=2)

「2015年4月3日、TBSのワシントン支局長だった山口記者が一時帰国した折、ニューヨークで知り合い、TBSに働き口を求めていた詩織さんと会食した。山口記者のホームグラウンドである東京・恵比寿で2軒目までハシゴしたところから意識を失った彼女は、その後タクシーに乗せられた。タクシーはシェラトン都ホテルへ。山口記者の部屋に連れ込まれ、翌日未明、性行為の最中に目が覚めた」

「4月30日に警視庁高輪署が詩織さんからの刑事告訴状を受理。捜査を進めた結果、裁判所から準強姦(当時)容疑で逮捕状が発布された。6月8日、アメリカから日本に帰国するタイミングで山口記者を逮捕すべく署員らは成田空港でスタンバイした。しかし、その直前に逮捕は中止。捜査員は目の前を行く山口記者をただ見つめることしかできなかった。中止の命令は、当時の警視庁刑事部長で現・警察庁ナンバー3、官房長の中村格(いたる)氏によるもので、彼自身、「(逮捕は必要ないと)私が決裁した」と本誌(週刊新潮)の取材で認めている」

「(中村格=)官邸絡みのトラブルシューター・守護神・番犬たる部長。その命を受け、捜査の仕切り直しを担った警視庁本部からの書類送検を受けた東京地検は、ほぼ1年後の16年7月に不起訴と判断。詩織さんは17年5月、検察審査会に審査申し立てを行なったものの、9月に「不起訴相当」の議決が出ている」

「勝訴判決の前、詩織さんは週刊新潮の取材に応じてくれた。まずは、17年5月の実名による告発会見から振り返って、

『あの時は、自分の生活がこれからどうなってしまうのか全く想像ができないままその場に臨みました。時間が経過し、今は自分の生活や仕事も少しずつ取り戻しながらも、この事件に向き合えていることは私にとって大きなことで、周囲の支援してくださる方に感謝しています。この民事訴訟を通じ、私が求めていたのは裁判の判決自体ではなく、それまでの刑事事件の手続きでは分からなかった部分を明らかにすることでした。ホテルのドアマンの方がお話ししてくださるようになったのも、訴訟を提起したからだと思っています』

 法廷で、山口記者が事件後に詩織さんに宛てたメールと陳述書の中身に齟齬があることなどが明らかになったのも、訴訟を提起した成果と言える。

『裁判で色々な証言や主張が公になり、そうしたことからも、訴訟はとても有意義なものでした。またこの間の様々な出会いから、事件のトラウマにどう向き合えばいいのかヒントを貰うこともできました。性犯罪に関する刑法の規定はまだまだ改善の余地があり、見直しは必要だと思っています。他にも被害者のサポートなど変えなければいけない部分はかなりあるはずです。でも、2年前と比べると、こうした議論が活発になってきたのは本当に良かったことだと思いますし、あの頃に見ていた景色とは確実に変わってきている部分もあるなと感じています』」

「去る(2019年)12月18日の10時30分、東京地裁709号法廷。時の宰相とそれにかしずく官邸官僚トップを巻き込んだ裁判に審判が下った」「12月18日に東京地裁が下した判決は、山口記者は詩織さんに対し、330万円の金員を支払えというもの。詩織さんの全面的な勝訴であるが、会見で山口記者は控訴の意向を示している。だから、2020年以降に両者は、東京高裁で更なるお上の裁きを待つことになる」

他の諸記事も合わせて読むと、山口の行きつけの店に2件付き合わされた伊藤さんは、ホテルに向かったタクシーの中で吐いたり殆ど歩けなかったようなかなり酷い状態であった(逮捕状請求に向け警視庁で捜査が進んでいた際、ホテルのドアマンが証言した「幻の陳述書」に詳しい。現在進行中の控訴審で重要な役割を果たすと予想されている)。これに関して伊藤さんは、飲んでいる際にデートレイプドラッグを使われたという強い疑いを持っている。また、事件後伊藤さんに宛てたメールの中で、山口は、レイプに際して避妊具を使わなかったことを認めた上で「自分の精液は薄いから妊娠の心配はない」などど嘯いている。これは正しく卑劣な性犯罪以外の何物でもないだろう!

写真はたまたま本事件の現場となったホテル。風評被害補償は山口氏に請求されるべきであるが、誠実なベテランドアマンの証言が近いうちにホテルの評判を取り戻すことに貢献するであろう。

2.準強姦容疑による山口逮捕もみ消しは菅総理(当時官房長官)側近=中村格官房長(警察官僚出身)により行われ、中村は次期警察庁長官への昇格が濃厚!

上に引用したように、中村氏の意図的な介入は彼自身が認めている:(再引用)

「4月30日に警視庁高輪署が詩織さんからの刑事告訴状を受理。捜査を進めた結果、裁判所から準強姦(当時)容疑で逮捕状が発布された。6月8日、アメリカから日本に帰国するタイミングで山口記者を逮捕すべく署員らは成田空港でスタンバイした。しかし、その直前に逮捕は中止。捜査員は目の前を行く山口記者をただ見つめることしかできなかった。中止の命令は、当時の警視庁刑事部長で現・警察庁ナンバー3、官房長の中村格(いたる)氏によるもので、彼自身、「(逮捕は必要ないと)私が決裁した」と本誌(週刊新潮)の取材で認めている」

この中村格は事件当時、警察官僚の交代劇が進みつつある中で、次のような位置(No. 3)にあり、現在は次期警察庁長官への昇格が噂されている。自ら「警察いらん!」を地で行くようなこういう人物が警察のトップになることは、black jokeであるのみならず、まさしく警察の権威そのものの大失墜であろう。以下引用(https://www.dailyshincho.jp/article/2020/01120600/)

「2019年12月26日の「首相動静」欄に、こんな文言が掲載された。

『警察庁の栗生俊一長官、松本光弘次長、北村博文交通局長、大石吉彦警備局長、警視庁の三浦正充警視総監、斉藤実副総監と会食』

『首相が警察幹部を労った、いわゆる“お疲れ様会”ですね。すでに官邸には、新しい長官と総監の人事が伝えられています』

 順当に行けば、1月のどこかの閣議で人事が了承されることになる。

 具体的には、栗生俊一長官が退任し、その後に松本光弘次長が、三浦正充警視総監が退任し、斉藤実警視庁副総監が、それぞれ新たに就任する。両者の人事は同時ではなく少しずれる可能性はある。そして、この会食の場にはいなかったあの中村格官房長が警察庁ナンバー2である次長の席に就任予定なのだが、そこに触れる前に、長官人事について説明しておこう。

 栗生氏は2018年1月に就任し、任期は2年ということになる。就任前にはパチンコ業者からの付け届けを示唆する怪文書が出回ったこともあった。2017年12月19日配信記事「警察庁幹部がパチンコ業者から付け届け!?“告発”の裏で繰り広げられる人事の暗闘」では名を伏せて報じられているが、このときターゲットになったのが、長官就任前の栗生氏だった。

「栗生さんは最終的には官房副長官のポストに就きたいと思っている。このポストは長らく内閣情報官を務め、国家安全保障局長に就いた北村滋さんも関心を示している。栗生さんは昭和56年入庁で、北村さんは55年入庁。1年違いの二人は犬猿の仲なんですよ」(同)

 その栗生氏の跡を襲う松本氏は、警察庁外事情報部長時代には『グローバル・ジハード』(講談社)という書籍を上梓し、その後、警備局長→官房長→次長と順調に出世すごろくのマスを進んできた。もっとも、さる警察庁関係者によると、

「警察庁出身で官邸を仕切る杉田さん(和博官房副長官)が『松本長官』には難色を示してきました。ウマが合わないと言ってしまえばそれまでですが、杉田さん好みの報告の仕方があって、松本さんはそれに馴染まなかったことが確かにありましたね。ただ、仮に松本さんが退任、あるいは総監に就いた場合、栗生さんが3年目に突入することになる。“いつまでやるんだ!!”って声はかなり聞こえてきていました。オリパラ警備で何かあったら最低でも長官・総監のどちらかは詰め腹を切らされますから、なかなかつらい役回りとも言えますね」

「中村氏は菅義偉官房長官の秘書官を長らく務め、その絶大な信頼を得てきた。山口氏逮(その官邸ベッタリぶりもデイリー新潮の記事に詳しい)の中止命令をする一方、安倍首相元秘書の子息による単なるゲームセンターでのケンカに捜査一課を投入し、相手を逮捕するという離れ業もやってのけたのは「週刊新潮」が報じた通り。官邸絡みのトラブルシューター・守護神・番犬たる部長が、いよいよ警察庁長官の座に手をかけたということになる

 準強姦逮捕状の握り潰しが露見した当時、国会議員だった元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は、その頃から捜査の大きな問題点を指摘していた。

『この事件では、そもそも逮捕状が出ていたのに、当時の刑事部長が途中で捜査を止めてしまうというまったく異例の判断がされました。そのことが起点となり、法治国家としてはあるまじきその後の流れができてしまったのだと考えています。というのも、刑事事件の捜査においては、強制捜査の有無が証拠の集まり方を左右することになるからです。被疑者が逮捕されていないのに、被疑者と親しかったり、利害関係を有している関係者が、捜査に積極的に協力することは、はっきり言ってあまりありません。やはり被疑者を逮捕してはじめて、関係者たちはことの重大さに気づき、捜査にきちんと協力するようになるものなのです』(週刊新潮19年12月26日号に寄せたコメント)」

最後に指摘しておきたいのは、この事件、裁判の進展に関する日本のマスコミの報道の仕方とネット世論の動向である。マスコミは最初から被害者による「稀な」告発としてその正当性を正面から報道しようとせず、「売名行為だ」というネット世論盛り上げに大きく貢献した。そこから端を発したネット民(特に安倍政権支持者)は、日本の#MeToo運動は政化したことにより、進化・発展しなかった」と主張するに至っている。果たして事件を政治化したのはどちらの側なのか?そして、真実を述べているのはどちらなのかを、日本の世論より遥かに早く判断し報道して来たのが、世界のマスコミ・世論であろう

LGBT差別にまつわるハラスメント その後(2)

最近の新たな動き

  • パワハラ防止義務付け関連法が可決(2019年5月)

【概要】

 職場でのパワハラ防止を(企業に)義務付ける関連法が昨年5月29日、参院本会議で可決成立した。併せて、今後策定されるパワハラ対策指針にSOGIハラ(注1)およびアウティングの防止も盛り込まれることになった。パワハラ防止対策の一環として各企業に義務付けられる(取り組みが求められる)。

 パワハラ関連法は、働きやすい職場環境を整え、社員の退職や意欲低下などを防ぐのが狙いで、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、女性活躍推進法、育児・介護休業法など計5本の法律を改正するものである。パワハラを「職場において行われる優越的な関係を背景にした言動」などと定義し(具体的にどのような行為がパワハラに当たるのかについては、厚生労働省策定の指針(注2)による)、企業に相談窓口の設置や発生後の再発防止策を求め、社員がパワハラをした場合の処分内容を就業規則に盛り込むほか、相談者のプライバシー保護の徹底も求める。

 罰則規定は見送られたが、パワハラが常態化しており勧告しても改善が見られない場合には企業名を公表する。大企業は2020年4月、中小企業は2022年4月に対応が義務付けられる。

【LGBT法連合会】

https://www.outjapan.co.jp/lgbtcolumn_news/news/2019/5/16.html

同連合会は、「大きな前進として評価できる」との声明を発表した(以下要約)。

 「衆議院、参議院の議論では、与野党各会派から、SOGIハラやアウティング対策を進めるべきであるとの意見が出された。この内容を盛り込んだ付帯決議が与野党全員賛成の全会一致という形で、国会の決議に実を結んだことは大きな一歩である。LGBT法連合会としても、求める施策の重要な一つであるハラスメント対策の実現に向け、この間精力的な働きかけを行ったが、日本全国の事業主に対する義務付けの方向で結実したことについて、関係各位の尽力を讃え、喜びを分かち合いたい。他方、具体的な対策の内容については、今後、厚生労働省の審議会の議論に委ねられることとなり、注視していく必要がある。特に、就職活動中の学生や、インターンシップ生、実習生等に対して、どのような対策が行われるかが注目されるものである」また、以下の点についても言及している。
 「LGBT法連合会は、1日も早いSOGIハラやアウティングの根絶に向け、今後も働きかけを強めていく。また、今回のハラスメント対策の対象とならない、労働以外の分野におけるハラスメントや、差別的な職場異動や退職勧奨、解雇などの、いわゆる差別的取扱いへの対策に向けて、領域を問わない差別禁止法の制定を引き続き求めていく」
また、次のようなコメントも付与されています。
 『なお、国がどのようなことをSOGIハラであると定めるかは、今後の指針の策定を待たなくてはいけませんが、現時点でSOGIハラが一般的に(LGBTコミュニティにおいて)どのようなことを指すとされているのか知りたいという方は、「なくそう!SOGIハラ」のサイトをご覧ください。また、7月12日発売の『はじめよう!SOGIハラのない学校・職場づくり』は、たくさんの事例を交えながら解説した決定版・保存版的な一冊になっています。ぜひお手元に置いておくことをお勧めいたします』

(注1)SOGI:SOGIは、Sexual Orientation(性的指向)とGender Identity(性自認)の英語の頭文字をとった頭字語(イニシャル言葉)です。読み方は「ソジ」が一般的ですが、「ソギ」とも言うようです。
 LGBTという言い方では、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルは性的指向についてのマイノリティ、トランスジェンダーは性自認についてのマイノリティであるということが伝わらず、「ゲイの人は心は女性で、女性になりたがっている」などという誤解を招くこともある(性的指向と性自認がごっちゃになりがちである)ため、「性的指向および性自認」という概念(性の要素、尺度)を表す言葉として生み出されました。
 また、性的指向および性自認は、セクシュアルマイノリティに限らずすべての人に関わる(ヘテロセクシュアルもシスジェンダーも含む)概念であることから、「LGBTの問題であってストレートには関係ない話」ではなく、誰にでも関係があることなんですよ、と言いやすくなります。「SOGIについて考えてみると、異性愛は多様な性的指向の一つにすぎず、シスジェンダーも多様な性自認のありようの一つであることがわかる」というように。
2011年頃から国際社会で使われるようになり、日本でも2015年頃から紹介されはじめました。2017年のレインボー国会では、SOGIに関連する差別やいじめ、いやがらせ、ハラスメントを指す「SOGIハラ」という言葉が提唱されました。なお、SOGIは、LGBTに代わる新しいセクシュアルマイノリティの総称ではありませんので、「SOGIの人」といった言い方は誤りです。「SOGIに関するマイノリティ」とか「SOGIに関する差別の解消」「SOGIハラ」という使い方になります。ちなみに、LGBTが現在、LGBTQとかLGBTQ+といった言い方になってきているように、SOGIについても、SOGIEという言い方に変わってきています。EはGender Expression(性表現)のEです。

SOGIハラ:性的指向・性自認(SOGI)に関するハラスメントのことを「SOGIハラ」と言います。
 2017年3月9日に衆議院第一議員会館で開催された、LGBTへの差別をなくし、世間の人たちに理解を深めていただき、より公正で平等な社会をつくるための法制定を国会議員に求める「レインボー国会」という院内集会で初めて「SOGIハラ」という言葉が提唱されました。

 2019年、職場でのパワーハラスメント(パワハラ)防止を義務付ける関連法が成立したことに伴い、厚労省が「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(以下「指針」)を策定し、SOGIは個人情報やプライバシーであると明記され、SOGIハラならびにアウティングもパワハラであると見なされることになりました。
 これにより、すべての企業等や自治体がSOGIハラ・アウティング防止施策の実施を義務付けられることとなりました。これは「措置義務」であり、もし対策を怠った場合、都道府県労働局による助言・指導・勧告等が行われることになります。

 指針にパワハラ防止施策として定められた措置義務の内容は、以下の通りです。これらの措置がすべてSOGIハラおよびアウティングにも適用されることとなりました
(1) パワハラがあってはならない旨や懲戒規定を定め、周知・啓発すること
(2) 相談窓口を設置し周知するとともに、適切に相談対応できる体制を整備すること
(3) パワハラの相談申し出に対する事実関係の確認、被害者への配慮措置の適正実施、行為者への措置の適正実施、再発防止措置をそれぞれ講じること
(4) 相談者・行為者等のプライバシー保護措置とその周知、相談による不利益取り扱い禁止を定め周知・啓発すること

 各企業等や自治体は、2020年6月以降(中小企業等は2022年4月以降)の措置の実施が義務づけられています。また、いわゆるカスタマーハラスメントや、就活生・インターンシップ生・フリーランス等へのハラスメントについても、上記の(1)〜(4)の取組みを行うことが望ましいとされましたが、これらにもSOGIハラ・アウティングの防止が含まれることとなります。なお、法の履行確保のため、都道府県労働局による助言・指導・勧告等の規定も整備されました。

 指針で示されたSOGIハラの例として、以下のようなことが挙げられます。
・相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含め、人格を否定するような言動を行うこと。
・SOGIを理由に、労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすることや、一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること(SOGIを理由にした仕事からの排除はパワハラに該当すると国会で答弁されています)
・「彼氏(彼女)はいるの?」など交際相手について執拗に問うこと(厚労省はパートナー関係のようなプライベートに関するハラスメントを「個の侵害」に当たるパワハラとして周知してきました。パートナーが同性である場合、より深刻であると言えます。

 指針を踏まえると、「オカマ」「ホモ」「レズ」などの差別用語はもちろん、「ひょっとしてこっち系?」などと手の甲を反対側の頬に当てる仕草や、職場でのLGBTQに対する中傷やいじめ(陰口)全般がSOGIハラに含まれますし、中性的な人を営業職や店頭での仕事から外すなどの排除なども該当します。

 

(注2)厚生労働省作成の指針:以下に資料pdfを貼り付けておきます。

厚生労働省 指針

いずれもOUT JAPAN Co. Ltd. https://www.outjapan.co.jpのLGBTコラム等より。

2)LGBTQ当事者を支援する「プライドフォーラム」が一橋大でスタート(2019年8月)

https://www.huffingtonpost.co.jp/entry/hitotsubashidai-pride-bridge_jp_5d4bcc93e4b01e44e4753536

https://www.outjapan.co.jp/lgbtcolumn_news/news/2019/8/9.html

 これらの記事によれば、一橋大アウティング事件をきっかけに、LGBTQ当事者支援をめざすプログラム「プライドフォーラム」が同大でスタートしたという。プログラムを立ち上げた任意団体「プライドブリッジ」が2019年8月8日に発表。

 「プライドフォーラム」は、一橋大学がジェンダー社会科学研究センター(CGraSS)とプライドブリッジが共同事業として立ち上げた。具体的な活動内容としては、大学内にLGBTQ当事者や支援者(アライ)が立ち寄ったり、っジェンダーやセクシュアリティに関する情報を得たりすることができるリソースセンターを設けるほか、性の多様性を学ぶための寄付講座を開始する、ということである。

 キーパーソン(の一人)である松中権さん(注3)によると、団体設立の経緯は次のようであったと言う。

安心・安全な場所をつくる

 「二度と同じような悲しい出来事が一橋大学で起こらないようにしたい」そう思った松中さんは、一橋大学のキャンパスをLGBTQの学生や教職員にとって安心・安全な場所に変えるために、プライドブリッジを立ち上げることを決意。同大学の在校生・卒業生に呼びかけて、賛同者を募った。現在までに129名が賛同しており、今回の立ち上げにつながった。プライドフォーラムの最初のアクションとして9月に学内に作られるリソースセンターでは、ジェンダーやセクシュアリティに関する資料を準備し、集まってきた人が資料を読んだり交流したりするほか、小規模イベントなども開催する予定だ。

 松中さんは一橋大学ではカミングアウトしていなかったが、大学在学中に留学したメルボルン大学で、LGBTQの当事者が集まるための部屋を見つけ、そこでカミングアウトすることができた。その時に「こういう場所があったらいいな」と思ったという。

 また、同じく9月にスタートする「ジェンダー・セクシュアリティとライフデザイン」という全13回の寄付講座では、LGBTQの当事者や支援者などをゲストスピーカーとして呼び、企業やNPOなどによるジェンダーやセクシュアリティの先進的な取り組みなどを学ぶ。それ以外にも、LGBTQフレンドリーな教育環境整備のための実態調査や、学生と教職員の定期的な意見交換会などの開催も予定しているという。

 ハフポスト日本版への寄稿の中で、LGBTQの当事者にとって「安心」した場所をつくることと同時に、何かがあった時に頼れる、何かを事前に食い止められる「安全」な場所があることも大切だと訴えた松中さん。9月からスタートするプライドフォーラムで、「LGBTQの学生や、働く人がいて当たり前だということが共有できる流れができてほしい」と語った。

(注3)ブライドブリッジ会長で、同大学の卒業生。ハフポスト日本版への寄稿で、一橋大学アウティング事件に大きなショックを受けた、と綴った。現在はゲイを公表し、学校の中にLGBTQの人たちをサポートするNPO法人「グッド・エイジング・エールズ」などの代表を務めるが、大学在学中にはカミングアウトしていなかった。松中さんは「私が大学生の時は、カミングアウトは選択肢に入っていませんでした。学校の中に相談できる場所があったら良かったと思いました」と語っている。

(注4)プライド(PRIDE):
 世界中で開催されているLGBTのパレードはしばしば「プライド」と呼ばれます。ニューヨークのパレードであればニューヨーク・プライド、サンフランシスコのパレードであればサンフランシスコ・プライドといった具合に。LGBTのパレードは(優勝祝賀パレードでもエレクトリカルパレードでもなく)LGBTの「プライド」を示すパレードだからです。

 では、LGBTの「プライド」とはいったいどのようなものでしょうか? 日本語でプライドというと「プライドが高い」「プライドが傷つけられた」というように、ネガティブな意味合いをイメージする方も多いと思います。「沽券」に近いニュアンスです。欧米で言うところの本来の「プライド」は「誇り」であり、自らを恥じない、堂々と自信を持っているという意味です。Appleのティム・クックCEOがカムアウトした際に「私はゲイであることを誇りに思っている(I’m proud to be gay)」と述べたように、pride, proudは肯定的な(とてもgoodな)意味で用いられます。
 アメリカでは過去に、赤狩りの急先鋒を務めたロイ・コーン検事(当時)やFBI初代長官のJ・E・フーバーらが有名ですが、クローゼット・ゲイの公人が保身のために(自身がゲイだとバレないように)率先してゲイを脅したり、破滅させたりしてきたという黒い歴史があります。今やそうした卑劣さこそ恥ずべきことと見なされています。自分がセクシュアルマイノリティであることを恥じることなく受け容れ、堂々とカミングアウトしよう、胸を張って生きていこうとする心意気が「プライド」です(OUTも同様の意味で使われています。OUT JAPANの社名の由来です)。

【附録】

この間、コロナで多忙で(言い訳)投稿が途絶えてしまい申し訳ありませんでした。ただ、最近ずいぶん元気が出ることが続いたので、幾つかコメントしたいと思います(A)。

*1 少し旧聞に属しますが、皆様もご存じの通りNEWS WEEKの今年の100人に大阪ナオミさん,伊藤詩織さんが選ばれました!特に伊藤詩織さんに関しては、恥ずべき国内世論を乗り越え、#Metoo運動の日本の先駆者=世界標準として認められました。

*2   Congratulations 大阪都構想廃案。

*3 Congratulations @JoeBiden and @KamaraHarris.

*4 今回のアメリカ大統領選挙と並行して進められた議会議員選挙で多くのLGBTQメンバーが立候補し、当選しました。

特に*3,4はまた記事として投稿する予定です。

LGBT差別にまつわるハラスメント その後(1)

事実経過 (再)

 昨年4月、このテーマについて記事を書いてから、ほぼ1年半が経とうとしている。この間、コロナによる激変があったが、特に「一橋大学アウティング事件」などをめぐるその後はどうなったのか。前記事にはリンク切れも多くなっており、少し気になったので調べてみた。なお、弁護士ドットコムの一連の関連したニュースを参考にしている。

まずは「一橋大生のアウティング事件」の経緯を再度確認してみよう。

2015年4月  一橋法科大学院の男子学生、同級生に恋愛感情を告白。

同年6月    その同級生に、約10人参加のLINEアプリグループに同性愛者だと実名を挙げて書き込まれ、心身に不調をきたす。その後、担当教授やハラスメント相談員らに相談したが、大学はクラス替えなどの対策をせず。

同年8月24日 講義中にパニック状態になり校舎から転落死。

2016年    両親は同級生と大学(がアウティングに対し適切な対応を取らなかったとして)に損害賠償を求めて提訴。

2018年1月  同級生と和解。

*同年7月    証人尋問。証言者は、大学側から、学生が被害を相談した教授、ハラスメント相談室長、学校医。遺族側から、父、母、妹の計6人。但し、当該学生と最も密にやり取りしていた相談室の専門相談員は、事件後に退職しており、証人として呼べなかったという。

裁判で遺族側は、専門相談員が、アウティング被害に悩む学生に対し、同性愛者であることに悩んでいるかのような対応をとったことを問題視している。加えて、ゲイの学生に対し、性同一性障害の治療(が必要か?)で有名なメンタルクリニックをすすめており、性的思考と性自認を混同していたのではないか、と指摘している。

この点について、相談員に請われてこのクリニックを紹介した校医は、「個人情報の関係で、セクシャリティによる悩みとしか聞いていなかった」と語ったという。いっぽうで、性的思考の問題だったとしても、「精神医学の対象ではない」ものの通常のクリニックに比べれば、「手厚く対応してくれる」と思っていたそうである。つまり、個人情報保護の問題で(職員間の)連携がうまくいかなかった、と言いたいようである。

一方遺族側は、事件後の大学の対応について証言したという:【父親】学生がなくなった翌日、大学側との面談の中で「ショックなことを申し上げます。息子さんは同性愛者でした」と言われ、「(息子が亡くなったのに)何を言っているのだろう」と憤慨した。また、学生(息子)がハラスメント相談室に行っていたことは知っていたため、相談内容を教えて欲しいと伝えたが、「守秘義務」を理由に拒まれた。後日、学生の遺品から相談内容の写しが出てきたので、大学側に説明を求めたが、やはり回答は得られなかった。49日を過ぎて改めて説明を求めたところ、大学側が報告に来ることになったが、「弁護士を同席させる」と伝えたところ、予定はキャンセルになり、大学側からの連絡は途絶えた。「息子のことを知りたかったが、大学側に拒否されて、裁判するしか無かった」。

【母親、妹】学生の死後、彼が高校時代にも同級生の男性生徒に告白し、断られていたことを知った。しかしその相手とは、亡くなる直前まで一緒に遊ぶなど、親しい関係が継続していたという。「同性愛を苦にしていたのなら、高校の時に自殺していた」(母親)。「兄は同性愛を苦にしていたのではなく、アウティングを苦にしていた」(妹)。大学側は遺族側に対し、反対尋問は行わなかったという。

*同年10月     31日、弁論終結。この日も学生の両親が出廷。2016年8月の報道以来、傍聴席には毎回、裁判を支援する当事者や一橋大OBの姿があったという。両親は(閉廷後)傍聴席に向かって一礼。母親は「いつもありがとうございます」と述べ、目頭を抑えていたということである。

2019年2月27日

東京地裁(鈴木正紀裁判長)請求を棄却。「大学が適切な対応を怠ったとは認められない」(被害を相談した教授について「クラス替えをしなかったことが安全配慮義務に違反するとは言えない」とし、相談員についても「クラス替えの必要性を教授らに進言する義務は無かった」と認定)とした。

その後現在までの主な経過は次のようになるかと思われる。

2019年3月7日

上記判決を不服として遺族側が控訴。担当弁護士は「(学生の)相談への対応は、ことに重大性によって変わるはずだが、地裁判決はアウティング(暴露)の重大性・危険性に言及していない。どれほど酷いことをされたかを改めて主張することになる」と話している。

*2020年6月   三重県が「アウティング禁止条例」制定に向けた動き。3日、鈴木英敬知事が県議会本会議の知事提案説明の中で表明。年内の制定を目指すという。この条例には、都道府県として初めて、本人の了解なく性的思考や性自認を暴露するアウティングやカミングアウトの強制の禁止を盛り込む方針。一部報道で「罰則の検討」も報じられたが、県ダイバーシティ社会推進課は(弁護士ドットコムニュースの取材に)「罰則は現時点で未定。実効性の担保について議論していく」と回答。アウティングの禁止をめぐっては、一橋大の事件がきっかけとなって、東京都国立市で、2018年全国に先駆けた条例が施行されている。

【この三重県の方針に関する担当弁護士の意見】

アウティングはなぜダメか? アウティングとは、情報の暴露により社会や他人に自分をどう見せるのかという「情報コントロールの自由」を奪うこと。だからアウティングは、時に人間関係を破壊し、孤立を引き起こす。現実にそうならなくとも、本人は「そうなるかも知れない」という恐怖と不安に苛まれる。

性の問題に限らず、出自や家族の事情、健康や疾病についての情報など、個人が隠したいと思う情報を勝手に暴露するアウティングは、いずれも人権侵害。「誰も気にしていないのに大げさだ」「堂々とすればよいことなのに」「いつまでもクヨクヨせず早く元通りになりなよ」などという反応は、アウティングで奪われるもの(アウティングによりもたらされるダメージ、損失)に対する無理解。

-アウティングを条例で禁止することの意味は? アウティングが「ヒドいこと」だということについて、伝わる人には伝わるのに、伝わらない人には全然伝わらないジレンマの中、「あぁ、法律や条例で、アウティングは違法だと書いてくれていたら!」と思うことはある。しかし、伝わらない人に「法律(条例)に書いてあるからダメなんですよ!」と言ってみても、それは「ただ怒られた」「なんだか住み心地が悪くなってきた」と思わせるだけかもしれない。結果として、その人が口をつぐんでも、それは「怒られるから口をつぐむ社会」になるだけ。

-罰則を盛り込むことについては? 罰則をつけると、かえって問題の本質が理解しにくくなるのではないか。「アウティングをしたら犯罪者になる」という入口と出口しか見えない。本質を理解することが重要な問題であるからこそ、罰則によらなくても、たとえば、国立市の条例のように、アウティングが違法であると確認するようなかたちのほうが穏当ではないか。                           ピンとこない人をむやみに萎縮させることなく、「自分は平気だと思っていたけど、他人もそうだとは限らないのだ」と、その想像力に働きかける。自分が自分を中心に生きているように、他人もその人を中心に生きている。自分が自由であるのと同じように、他人も自由である。言い尽くされた「当たり前の人権」をポロッと忘れたときに起こるのがアウティング。

現在、和解に向けて進んでいるという情報もある。

北海道大学、琉球大学の事例(6)の補足(最近の例(7))

北海道大学

名和氏の言い分

 名和氏は、学長選考会議による調査時期(2019年初頭?)からパワハラを否定し、「調査」の過程で事情聴取や弁明をする機会が全くなかったことを訴えている。また、文科省への「解任申し出」があった後もその主張を繰り返し、文科省の事情聴取(解任に向けた審査を進めるにあたり手続き上必要)に応じた陳述

名和氏の陳述書(文科省聴取2020年3月16日)

で一連の経過を述べている。その中で、手続きに関する多くの瑕疵を指摘している。主なものは、調査委員会設置までの手続きの瑕疵として、公益通報に関するもの(「公益通報」があったとして選考会議議長と顧問弁護士にいきなり総長室に乗り込まれ、辞任を迫られるという、公益通報規定を明らかに無視した行為があった)と監査報告に関するもの(パワハラ等があったとする年度の監査報告には、ガバナンスなどに関し、1例を除き指摘すべき事項は認められない、特に指摘すべき事項は認められない、とされており、監事は(問題視された事項に関し何故か知らされていなかった)が挙げられている。また、調査委員会の調査手続きの瑕疵(選考会議が設けた調査委員会は、一度も本人への聴取を行わず弁明の機会も与えられなかった。また、調査対象事実の告知や委員会に提出された証拠の閲覧さえできなかった)や総長選考会議の事実認定と評価に関する疑問点と誤りも述べている。さらに、これまでのハラスメント事件についての裁判例も付与されていて、これまでに類似事件による大学役員レベルの解任や罷免の例はないとしている。この陳述書のみを読む限りでは、名和氏の言い分にも一理あると思わせるような部分もある。

 また、この問題に関連して、「資源有志の会」により2020年3月頃より、change.orgにおいて「名和総長の不当解任申し出への反対と名誉回復を訴える」キャンペーン(署名運動)が展開されている。現在のところ大体1,000名の賛同者が集まっているようである。「資源有志の会」は恐らく北大の一部OBの集団であると推測出来るので、「選考会議」の告発時の議長も北大工学部OBであることから、有り体に言うと、(工学部?)卒業生を2分するような形での派閥争いであるのかも知れない。

そもそもの発端は?大学の運営路線の違い(派閥争い)?

上記の「陳述」の中の「2 総長に立候補した経緯等」には、全総長の人件費削減方針に対する異議が立候補の主要な動機であったと述べられている。毎日新聞の記事

https://mainichi.jp/articles/20200329/dd1/k01/100/052000c

によれば、2017年当時、選考会議の意向を受け前学長が提案した人員削減案に反対し、名和氏は寄付金など外部資金調達で削減を大幅に(約15%を約半分に)圧縮したという。

パワハラ内容や調査結果の不開示 やはりプライバシー保護?

しかしながら、いずれにしても名和氏本人も含め、教職員や学生に対してもパワハラの詳細や解任申出に至った理由などはこれまでほとんど説明がなかった。これはある意味、選考会議が密室で学長の解任手続きを進めた、と言えるかもしれない。学内外に無用な不安や混乱を引き起こすことは不適切で、国の公的機関としては組織の私物化などあってはならないことだと思われる。実際教職員組合は、以下のような機関誌や声明

北海道大学教職員組合機関紙2019年9月25日号

北大教職員組合 意向投票1回化の撤回を求める声明(2020年5月15日)

を発表して学内世論の喚起を図っており(成功はしていない?)北海道大学新聞も文科省の処分にあたって号外

北大新聞号外(2020年7月2日)

を出しているが、選考会議からの説明不足から他のマスコミ発表をなぞったものに留まっている。また解任申出書も一部不開示となっている。

解任申出書一部不開示決定

文科省の認定

文科省の発表で気になる点は、事実確認した行為に関して「一般的なパワハラと認定しているものはなく、不適切な行為が行われたというところで確認をしているもの」と担当者が話した、とされていることである。調査の結果同省が事実確認したのは28件あり(①役職員に対する総長として不適切な行為 18件、②対外的な大学の信用失墜行為 5件、③大学代表者、研究者としての問題行為 3件、④総長としての資質を疑われる行為 2件)、不適切な行為としては、威圧的な言動や叱責があったとしているが、詳細については明らかにしていない。官僚特有の作文で真意不明であるが、パワハラ以外にも不適切な点が多々あったと言いたいのであろうが、認定の仕方としては申出書を追認した、極めて雑で荒っぽい感じがする。

7/1記者会見と「今後の方向性」 学長の業務執行状況の点検?副学長も(担当がある故に)

大学発表(2020年7月1日)

この文書では、極めて大雑把な経過説明の後、常套句の「関係者のプライバシー保護」が不開示の理由であったことは述べられているものの、やはり今回も詳細な説明は無い。ただ少し唖然とするのは、選考会議が文部科学大臣に解任の申し出を行ったことを、「本学に自らを律する能力が備わっていることの証であると認識している」とする下りである。本来自律能力・自助能力があるならどうして非民主的に一貫して説明をしないまま密室で事を進める必要があったのであろうか?

大学による経緯説明(2020年7月1日)

この文書では、もう少し詳しい経過報告があるが、選考会議をいう開いたとかいう類の情報と文科省発表内容が繰り返されているだけで、どのようなハラスメントや不適切行為があったのかなどについては依然として謎のままである。

今後に関しては、この文科省判断が出る半年以上前の2019年12月に、総長選考会議は総長選考方法を変更すると決定している。その内容は、教育研究評議会からの推薦を可能にすること(これまでは20人の推薦人で可能?)、意向投票を1回限りとすることが主な内容らしい。これに対し、教職員組合は5月15日になって、この撤回などを求める声明を出している(上掲)。

また、記者会見の最後では、今回の事態を踏まえ、学長選考にあたって管理能力を重視した方法に変更し、学長の業務執行状況の点検を評価する方針も示されたという。即ちこれまで4年目に実施していた業務執行状況の点検を2年目以降毎年行う。点検内容も管理能力に重点を置くという。

これらの方向性は、一定程度評価できるのではないだろうか。なぜなら、国立大学を含む多くの大学では(外国では常識の)執行部の業務点検は殆ど行われて来なかったからである。即ち、今までは(国立大学では、普通意向投票を参考に選考会議で決定するというような手続きを経て)一度学長になると、全体の融和を重視するのでなく、自分のお気に入り(ゴルフ仲間や同じスポーツジムの常連などのお友達?)を副学長に据え、あとは執行部全員で外国出張などを含めやりたい放題というのが良くあるパターンである(どこかの内閣と酷似!)。この意味で、以前述べた、学長立候補或いは就任前の身体検査に加え、学長業務の頻繁な点検と不祥事や不適切行為があった場合の罷免を可能にする制度が早急に整備されねばならない。また、担当を明確にして任命されることの多い副学長についても任務分担を意識した業務の点検がやはり厳しく行われるべきである、と考えられる

今回の文科省の処分にビビっている学長・総長も結構いるかも知れない。自分の業務遂行に自信があり、自ら点検制度を構築するような学長がいれば良いのだが。

 

琉球大学

医学部だけでも度々繰り返されて来たハラスメント 医療現場は大丈夫か?

 「医学部教員の独り言」なるブログ

https://smedpi.hatenablog.com/

などによれば、琉球大学医学部のハラスメント事件は」この20年ほど繰り返し起こっているようである。大学執行部のこの種の問題に関する取り組みが真剣に行われていない証拠でもあるような気がするのだが、、、。

例1:「研究で嫌がらせを受けた/琉大医学部助教授、指導教授を提訴(琉球新報1999年11月23日付)

琉球大学医学部のB教授から約8年間研究活動などで嫌がらせを受け、大学側もその嫌がらせに対し適切な措置を怠ったとして同大のA助教授がB教授と大学側を相手取り、550万円の損害賠償を求める訴訟を22日、那覇地裁に起こした。

訴状によると、A助教授は1991年10月頃、雑誌への論文投稿に関し、B教授から「自分も著者に加えないと論文発表を許さない」などの要求を受け、これを拒否したのが発端となり、物品購入や同大紀要への業績掲載の妨害、実験・事務機器利用妨害など数々の嫌がらせを受けたという。このため、A助教授は九州まで出向いて研究を行わざるを得ない状況に追い込まれるなど「B教授の私怨、腹いせで学問研究の自由や人格権を侵害された」としている。これに対し、B教授、ふき山医学部長(当時)は「訳が分からない、覚えがない」、「内容がよく分からない」などと述べていたという。

那覇地裁は2003年2月12日、原告の訴えを認め、国に約55万円の支払いを命じた。教授への請求は棄却。

例2:教授相手に今日提訴/琉大医学部講師等2人(琉球新報2001年6月27日)

琉球大学医学部の不当な医局人事や研究妨害で精神的苦痛などを被ったとして、同大医学部講師と元研修医の2人が国と同大教授を相手に計2000万円の損害賠償を求める訴えを、それぞれ那覇地裁に起こした。

訴状によると元研修医は1997年に県立八重山病院に赴任中、人手不足に加え切迫した家庭の事情などから応援医師派遣を要請したが、無視された上その後の移動でも不当な扱いがなされたため退職。民間病院への転職でも妨害があったなどと主張している。また同大医学部講師は「上司の教授が権限を乱用して外来診療の担当を妨害している」と主張。新規患者の割り当てから排除されたことで研究活動を制限され、医師本来の診療ができない、不当、不合理な立場におかれている」と訴えていた。いずれも地裁判断などは不明。

例3:琉球大学、医学部の男性教員を停職10ヶ月の処分(時事通信2013年3月21日)

琉球大学は21日、セクハラやアカハラをしたとして、医学部の50代男性教員を定食10ヶ月の処分にしたと発表した(処分は19日付)。同大によると、教員は2007~10年頃、元大学事務職員の女性と女子研究生に対して繰り返し性的な発言をしたり、静的な関係を迫ったりしたほか、優位な立場を利用して指示を出したという。

例4:「琉大パワハラ」職場改善で和解 那覇地裁 大学側と技師合意(2014年3月27日沖縄タイムス、28日琉球新報)

2011年に提訴された、医学部附属病院の検査技師ら5人が、同病院の検査部長と輸血部長を併任する医学部教授に職務から排除されるなどのパワハラを受けたとして、琉球大学(大城肇学長)と教授に計825万円の損害賠償を求めていた訴訟で、27日までに那覇地裁(鈴木博裁判長)で和解が成立した。職場環境の改善に向けて合意書を交わしたと言う。

合意書では、琉大側に職務分担の改善やハラスメント調査の適正な実施のほか、他大学の指針などを参照した上での防止策の策定や合意書の職員への通知などを求めている。原告側は「職場環境の改善を求める主張が全面的に盛り込まれた」と歓迎。「ハラスメントは学内で他にもある。大学が合意内容を履行するおよう注視していきたい」と話した。大城学長も「大学は今後とも各部署の全職員が働きやすい職場になるよう努力していく」とのコメントを発表した。

合意書(北大教職員組合HPから)

 

北大学長に文科省より解任通知(最近のアカデミックハラスメント例(6)北海道大学、琉球大学)

北大学長に解任通知(文科省) 学長「不当な処分」、北大教職員組合「説明不足」

NHK (https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200630/k10012489001000.html)や共同通信によれば、昨年7月より北海道大学の「学長選考会議」が解任を求めていた名和豊春学長について、文科省が解任を通知していたということである(6月30日付、本人談)。学長本人は「(事情聴取もなく)解任は不当な処分。この決定に至った審査過程について説明を求めるとともに、処分の取り消しの訴えを起こすことなどを検討したい」としている。

この事件についての最初の動きはどうも北大OBから開始されたものらしく、最初は地元の経済誌によりスクープされた形である。その経緯は本ブログの2年前の記事

北大総長にパワハラ疑惑!?

に既に紹介済である。

名和学長は2017年4月学長に就任したが、2018年10月頃からパワハラ騒動が明るみに出て問題視されたため、同年12月から休職していた。その後体調が回復したものの、昨年7月大学側が文科省に解任を申し出たため復職は実現していなかった。文科省の調査では、大学の役員や職員に対し、威圧的な言動など、合わせて28件の不適切な行為が確認されたため、「国立大学の学長に適していない」として30日付で解任処分をしたということらしい。7月1日の北大の記者会見の様子は後日詳報したい。

また、昨年3月29日付の毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200329/k01/100/052000c

によれば、2018年末から2019年7月の解任申し出に至るパワハラ騒動のなかで、一般教職員や学生に対する経過と理由の説明などは一切なく、全く密室で進められたものらしく、このような「選考会議」を中心とする動きに教職員組合は強く抗議する声明を出している(2020年1月)。すなわち、どのようなパワハラがどの程度の規模であったのかなどは一切明らかになっていない。また、学長本人も述べているように、事情聴取について選考会議のレベルから果たして公平に行われていたのかという疑問にも何らのコメントさえないのが現状である。どうも低レベルな派閥争いに過ぎなかったのかも知れないが、1年半にわたる大規模国立大学における執行部の空白は、国民の負託を受けている多額の税金で運用されている公的機関としては、あまりにも不誠実かつお粗末であるような気がする(これについては続編予定)。

アカハラ事件と大学執行部(学長(総長)を含む役員)の責任の取り方ー辞職、解任は極めてまれ。開き直り、隠ぺいの張本人である場合も!-

この問題に関しては、奇しくも前の記事で、セクハラ処分に関する立教大学総長の引責辞任劇を扱ったところである。その中でも述べたが、一般に、学長を含む大学執行部がアカデミックハラスメント事件の責任を取ることは殆どない。仮にあっても、形式上の監督責任を果たしていなかったからとして、すべての責任を加害者に押し付けつつ、被害者のプライバシーに関わるという決まり文句で加害者のプライバシーを保護しつつ一定の処分をし(その妥当性についての説明は殆どない)、自らには極めて軽微な「処分」を課すだけである。

 それどころか今回の場合のように、大学や研究組織の執行部や役員自身がハラスメントの加害者になる場合も頻発している。別の言い方をすれば、パワーハラスメントやアカデミックハラスメントを公然と行ってきた教員がハラスメント批判を跳ねのけたり居直ったり事実を否定したりしたのち執行部の役員になっていることが残念ながらしばしばあるのである!

 そしてこの例のように、事件が教職員に対するパワハラ案件である場合は、事件の調査・解決に少し時間がかかっても(数年はかかるが)、被害者がそのまま在職でき(次例のように退職に追い込まれることもある)、加害者が処分されて被害者にも一定の利益がもたらされることはある(稀ではあるが)。しかしながら、ハラスメント加害者であるのに、居直って或いは隠ぺいして組織の役員になっている連中が隠ぺいや否定の対象にしているのは、殆ど男性教員が女子学生・大学院生に対して行ったセクハラ案件、或いはパワハラにより学生が自殺した場合が多い。国立大学も含め、ほとんどの大学がハラスメント相談窓口や調査組織などをもち、ときおり軽微な「処分」を発表しているが、その背景には多くの案件が調査委員会で(当事者の抵抗によって)滞留しており、被害学生の卒業や終了に伴い、うやむやにされてしまうケースが多々ある。留学生が被害者の場合も不安定な在留条件が隠ぺいに利用されることもよくある。また学生の自殺の場合は、2つ前の記事にもあるように、地方マスコミへの情報徹底非開示と親族の裁判提起を抑え込むあらゆる努力が大学・組織一体となってなされる場合さえある。このようにして、あらゆる手段をもって自身のハラスメントをなかったことにしたのち、組織を代表する役員についている教職員も多く、今回の文科省処分にビビっている連中も日本全国に結構存在することは間違いがない。

 こういう悪しき陋習を断ち切るためにもわれわれはこの間ずっと、重要ハラスメント案件には学内調査ではなく、外部の中立的人材を含む第三者委員会の設立とその主導による問題の調査・情報開示・解決を求めてきた。また、ハラスメントのやり得・逃げ得・隠ぺいを許さず、在学中や在職中に何ら報われなかった多くの被害者の無念を晴らすためにも、新しい「ハラスメント貯金」運動なるものを今後提唱して行きたい。(いずれ詳細は述べるが)これは、ハラスメント当事者がメモ、写真、動画など様々な手段でしっかりハラスメント現場を記録し、それらを周りの友人、知人、同僚や理解ある上司などに客観的に認定してもらうことから始める。これらのデータを組織ごとに(外部に)着実に蓄積し、ハラスメント常習者に関して逃げ得を許さず、機会があれば大衆的に暴露し責任を取らせることも視野に入れている。外国では既にやられていることではあるが。

 最近の情報では、本ブログで取り上げたセクハラとパワハラの常習者

二人同日に学生が自殺した大学

セクハラ常習教員(1)

セクハラ常習教員(2)

セクハラ常習教員(3)

が、相次いでそれぞれの組織で役員になっていることが分かっている。この組織名(大学名)は、本ブログへ問い合わせして頂ければ開示する。但し、問い合わせた方が、現在または今後、その組織に関連して人権にかかわるような不利益を被る恐れがある場合を想定します。くれぐれも該当する恐れのある組織・大学に近いうちに就職や進学を考えている方は、一見派手な表面ではわからないその組織の内部のハラスメント環境をぜひ(ネットで)調べてみて、自分の大切な将来を決める参考にすることをお勧めする。本来輝かしくかけがえのない若い貴重な数年を無駄にするどころか地獄の日々にしてしまう可能性もあるので。

琉球大学医学部教授のパワハラに対し、那覇地裁が賠償命令

琉球新報の最近の記事

https://this.kiji.is/604486214556157025

によれば、同大学医学研究科の男性教授2人が、男性講師に対して退職を迫るなどのパワーハラスメントを繰り返していたとして、男性講師が教授2人と琉大を相手に損害賠償計730万円を求めた訴訟で、琉大に100万円の支払いを命じていた。教授2人ん対する請求は国賠法上の対象とならないとして退けられたため、原告は福岡高裁に控訴。琉大側も判決を不服として控訴している。初回期日は4月15日であったらしいがどうなったのであろうか。

判決によると、元々教授2人が講師のデータを無断で論文などで発表し不和になっていたところ、(講師の)科研費非常勤の申請に不備が見つかり、これ乗じて原告を退職に追い込むような発言があったと事実認定したという。これを「ハラスメント行為というべきである」としているらしい。

この事件についてもまた続報をお届けしたいと考えている。

 

立教大学総長の引責辞任と日本大学におけるサークル活動の闇(最近のアカデミックハラスメント例(5))

立教大学 セクハラ対応の拙さを認め総長が引責辞任

最近の毎日新聞やCheristian Todayなどによれば、2018年に発覚したセクハラについての初期対応の誤りで、郭洋春(カクヤンチュン)総長が引責辞任する(今年度末=来年3月)という。

https://mainichi.jp/articles/20200515/k00/00m/040/197000c

https://mainichi.jp/articles/20200516/ddm/012/040/061000c

https://www.christiantoday.co.jp/articles/28055/20200515/rikkyo-university-sexial-harassment.htm

https://www.christiantoday.co.jp/articles/27012/20190711/rikkyo-university-tw-vice-presidents-resigned.htm

記事から拾った経緯はまとめると大体次のようになると思われる:

*2018年6月、1件目の被害深刻。郭氏は当時の副総長二人に対応を指示。副総長らは加害教員の所属学部と調査し(人権ハラスメント対策センターに相談しないまま)、

*2018年12月、学部長による厳重注意処分とした。加害教員は当時学内で要職を務めていたが、郭氏は解任しなかった。しかし、

*2019年3月、学内の「人権ハラスメント対策センター」が「処分は軽すぎる」と指摘したため、郭氏はこの時点で加害教員を要職から外した。再調査の途中の

*2019年7月、加害教員が厳重注意処分を受けた後に2件目のハラスメント事件を起こしていたことが発覚。

 その後大学は外部有識者を交えた委員会を設立し(今年3月まで)、郭氏(総長)らの一連の対応についても検証した結果、二人の副総長に加え、被害申告があった後も加害教員を要職に留まらせた早朝にも責任があるとの結論に至ったという。

*2020年3月(23日付)、2件のハラスメント事案を起こした教員を懲戒解雇。

2020年5月(8日)、学校法人立教学院の理事会で、ハラスメント行った教員の任命責任と監督責任、また初期対応の責任を重く受け止め、任期途中での辞意を表明。同日理事会が申し出を受理。その結果、郭氏は新型コロナウイルス感染拡大に伴う対応にめどをつけて今年度末で(副総長を)辞任することになったという。なお、初期対応に当たった副総長二人、池上岳彦教授(経済学部、統轄副総長=後任は野沢正充教授(法学研究科))、松尾哲久教授(コミュニティ福祉学部)も誤りを認め、既に辞任している(2019年6月30日付、7月4日の学部長会議で承認)。

 しかしながら、大学はこの間の経緯(事案の中身や加害教員の氏名等)については「被害者のプライバシー保護のため」として公表してないので、詳細は不明のままである。

 

 郭総長は1959年東京都で生まれている在日朝鮮人である。加害者教員も韓国人教員であったらしく、そのため当初処分をしなかったのでは、という憶測もある。また、ネットでは、「ハラスメントで執行部の、特に総長が引責辞任することは珍しい」という反応もあるらし。確かに、日本全国の他大学では、もっぱら加害者に責任を押し付けるのみで、任命・監督責任を明確化しケジメをつけたという例は私の知る限りはでなく、率直に評価すべきかもしれない。ただ注意すべきは、副総長二人も含め、彼らは大学を辞めるのではなく単にその地位を退くだけである点である。大学全体の評価を著しく下げたという意味では管理責任はもっと大きい気もするのであるが、それでも他大学よりはマシというべきか。

 

日本大学 アメフト事件の1年前にサークル活動で起こっていた悲惨な事件

またも週刊文春であるが(2020年5月7・14日号)、アメフト部で例の「悪質タックル事件」がおきた2018年の前年、もっと悲惨な事故が日大のサークルである「プロレス研究部」で起きていた。被害者Aさんの父の話:「息子は就職することもかなわず、ずっと自宅やリハビリ施設での両様生活を余儀なくされているます。しかい、大学側は真摯に事故原因を究明することもなく。『こちらに責任はない』と言い切った。『ふざけるな』という気持ちでいっぱいです。

 他の記事なども参照して、大体の経過をたどると以下のようであるらしい。

*2015年、Aさん(他の私立大学の2年生)日大のプロレス研究会「NUWA」に入る。

Aさんによると「プロレスが昔から好きで、ネットでたまたまNUWAのホームページを見つけたんです。『他大学も歓迎』とあったので、入会しました」。それから週に2回ほど、日大法学部6号館で開かれる練習に参加。

*2017年、当時サークル内で、Xという学生にいじめられていた(Aさんの脛をたたく、食費を出させる、の他に、Aさん(4年生で就活中)をサークルに残らせるために「留年しろ」と脅す、授業に出るため練習を断ったAさんにしつこく「出て来い」と連絡するなど)が、ある日Xから「試合でバックドロップをかけられるように」と言い渡され、Xの後輩のY(体格は良いが試合は未経験)との練習を強要された。当時Aさん(身長166cm、63kg)はそれまで主に「お笑い試合」に出場しているようなメンバーだった。

注1)サークルNUWA:日本大学のプロレス研究会(他大学の関連団体ともにときどき学園祭等で「興行」を行ってきた。学生プロレスはコミカルなお笑い的プロレス等を含む趣味的な興行が主流であったが、若干のOBが芸能人になったことも有り、次第に社会的に認知されるようになった。この事故を受けNUWAは、現在は活動停止から解散になっている。

注2)バックドロップ:相手の背後から脇の下に首を入れ、相手のタイツのベルトを掴んで後方に投げ飛ばす荒っぽい危険な技。受け身をとれない状態で技を受けると頸椎の重大な損傷に繋がり、プロの試合でも実際に負傷者が出ている。

*2017年8月1日 それまでの練習中もXは、受け身を取るのは格好悪いので「首から落ちろ、首から!」というような命令を再三強要していたらしいが、この日はYがAさんに3度バックドロップをかけた後、Xの「見栄えが悪い。振りぬく感じが足りない」という指示がさらにあり、YはAさんを思いきり後方に投げ飛ばした。周囲のメンバーも「Aさんが完全に上半身をフリーに(受け身を取らずに?)投げられる技を受けるのは初めてだったので『大丈夫かよ』と心配していたという。

 投げられた後、首の脱臼による凄い痛みのため意識はあったが、急に息苦しくなりそのまま救急車で病院に搬送された。診断は重症の脊髄損傷。緊急手術が施され何とか一命はとりとめたが、今も首から下が自力で動かせない全身不随の状態になった。

*2017年8月~2018年12月 その後周囲の助けもあって大学は卒業したが、体の状態は戻らなかった。また、事故についての調査と見解を日大側に求めたが、「サークル活動中に起こった不慮の事故」との見解を口頭で告げられただけで、まともに取り合ってもらえなかった。Yは一度見舞いに来たがから謝罪は無かったという。

*2018年12月、Aさんは日大とX、Yに対し、5000万円の損害賠償を求める(民事)裁判を起こした。司法関係者によると、日大は「サークルの連絡会を開催して活動内容について注意喚起した。大学として十分な措置を講じた」と反論し、真っ向から争う姿勢を見せている。XとYはAさんを「長年の経験者」とし、Aさんが怪我をした投げ技についても「Xの指示はなかった」と主張しているという。

 ちなみに、6月に管轄の神田警察署に被害届を提出。2020年3月10日に、XとYは業務上過失傷害の疑いで書類送検されている。初公判は5月21日に予定されていたらしいが、果たして開かれたのであろうか?

 文春の最近の取材申し込みに対しても、Yは携帯で今回の事故の件を尋ねると「ちょっと今忙しいので後ほどで」と切れ、その後は不通。Xは携帯に出ず、留守電とメールで取材を申し込むも締め切りまでに応答無し。日大企画広報部広報課は「係争中であるからお答えを控えさせて頂く」と回答があったようである。

学生同士のいじめ・トラブル

 この事件は、学生同士のサークル活動に絡む「いじめ」に端を発し、大学当局の放任ともいえる無責任な管理体制の中で、取り返しのつかない結果を招いてしまったと言う点で、極めて残念な事件である。小中高でのいじめの体験を相対化できないまま大学に来てもいじめを続けている大学生には、大学・サークル活動の自治等を牧歌的に与えるのではなく、これらの点をしっかり教育するか厳格に管理することが大学には求められよう。また、被害を受けた当事者・家族には、被害の訴えに対し誠実に対応してくれるところが殆ど無い現状がある。両事件とも既に裁判が進んでいるので、今後の動向もしっかり追跡したい。

大学側の不誠実な対応

 日大は、Aさんが日大生ではなくプロレス研究会の会員でもないので(事前に提出するべき研究会名簿に名前が入っていなかった)、保険対象ではないため(賠償金を払いたくないため?)ひたすら練習中の事故で片付けようとしているとも推測される。研究会の顧問は法学部の教員が配置されており、大学としてのサークル活動の管理責任はあったと思われる。事件について公表し、加害学生を処分し、謝罪を行わせるべきである。

 この点についても、前記事の甲南大学の例と似ており、何らかの不都合な理由により謝罪と賠償責任を果たすべき問題からひたすら逃亡しようとしている。

なぜか大手のマスコミ(新聞テレビなど)には取り上げられず!?どこかからの圧力か?