最近のアカデミックハラスメント例 (1)

【学校法人】沖縄科学技術大学院大学【学園】

沖縄タイムスの記事

2019年3月20日付の沖縄タイムスの記事

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/402920

によれば、沖縄科学技術大学院大学(Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University, OIST)で昨年、匿名の学内有志によるインターネット上の意識調査があったという。現役やもとの教職員78人が回答した驚くべき結果は、回答者の58 %が「自身が被害に遭った」、85 %が「被害に遭った人を知っている」と答えていたという。セクハラについては「自身」が11 %、「知っている」が41 %であったという。一方で、自身や他者のハラスメント被害を大学当局に通報したのは19 %であった。理由(複数回答)は「何かが変わるとは思われない」が69 %、「報復を恐れた」と「苦情申し立て手続きが機能していない」が各51 %であったという。また、自由記述には、「通報しても権力者が有利に手続きを進めてしまう」、「報復として共著論文の著者から外されそうになり、形だけの謝罪をした」などの意見があった他、「自分の身分を心配せずに意見を述べる仕組みがあるか」という質問には、90 %が「いいえ」と答え「独裁体制で、退職するほかに選択肢がなかった」などの記述もあったという。

 調査は昨年11月で、学内のスティーブン・エアド博士らが専用サイトのアドレスを匿名メールで教職員や学生に知らせる形で始まり、エアド氏はその後名乗り出て大学当局に結果を通知したという。調査を一つの契機として教職員労組を結成し委員長に就任したエアド氏は、「OISTはパワハラと権力乱用の文化を育んでおり、調査結果は幹部への告発。実態を知るものとしては驚きではない」とかたったという。一方OIST当局は取材に対し、「回答はごく少数」、「実際に定義によりハラスメントと認められるものが不明」と指摘しつつ、教職員・学生は、「機密性に配慮した学外の専用ホットラインや副学長、研究科長に報告したり相談することができる」としている。報道を受け?4月2日付で大学ホームページに掲載された「OISTにおけるハラスメント等に関する一部報道について 」と題する文書を下記に掲載しておく。

 ただ、その後2019年5月11日の沖縄タイムスの記事

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/418520

によれば、上記のOIST教職員労組のスティーブン・エアド委員長が、当局から6月中旬限りでの雇い止めを通告されたということである。昨年結成された労組側は結成の報復で違法だと批判しているが、OIST当局は否定しているという。ハラスメントの確認・再調査(アンケート?)等の取り組みなしにいきなり解雇とは!?

 

新聞記事へのOISTからのコメント

2019-04-02

OISTにおけるハラスメント等に関する一部報道について

 3月30日付沖縄タイムス紙に、本学における職場環境について匿名の調査アンケートが実施され、本学に広く不満とハラスメントが存在とする記事が掲載されましたが、当該アンケートは本学によって公式に実施されたものではないこと、また、本学はいかなる形のハラスメントも許容しないということを明確にしたいと考えます。

 当該報道で指摘されているとおり、この非公式アンケートの回答数はごく限られており、本学の在籍職員及び元職員1700名以上のうち、僅か78名の回答によるものです。

 本学は、いくつかの相談窓口を設け、各所から寄せられる全ての苦情やハラスメントを検討し、対応しています。本学は、「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」に基づき、全ての者が尊厳と敬意をもった扱いを受けることができる、安全で互いに尊重しあう環境を築き、これを維持することを約束しています。「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」は本学の基本的価値観(コア・バリュー)であり、本学は、いかなる形であっても、尊重の念を欠くコミュニケーション、差別、ハラスメント、いじめ行為を容認しません。

 セクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメント、その他のハラスメントなどの「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」に反する行為を受けたと考える場合やそのような行為を目撃した場合、OIST教職員・学生は、機密性に配慮した本学外の専用ホットライン、副学長(男女共同参画・人事担当)または研究科長に報告したり相談することができます。

 本学のすべての教職員・学生はセクシャル・ハラスメント防止研修について受講が義務付けられています。また、「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」に関する研修などを受講し、苦情や係争の解決手続きなどに関する相談窓口や相談方法等についての理解を深めることが推奨されています。

 すべての教職員・学生がいかなる種類のハラスメントの訴えについても機密性とプライバシーが保たれた形で解決を求められるようにするのが本学の基本方針です。本学が報告・相談を受けた事案に関しては、いかなる情報も公開しません。また、今後、職場環境についての独立したアンケート調査を実施する予定です。

【終り】

 記事の中ではさらに、次のような幾つかの重要な指摘がなされている。

1) 意識調査では、「幹部が腐敗している」など強い批判の言葉が並部上に、ハラスメント被害が多いだけでなく、被害の訴えを諦める人がもっと多いのは深刻で、上下の信頼関係が成立していない恐れがある。

2) 確かに、回答者数は78人と1,700人の現役在籍者の1割を下回っている。大学当局も少なさを指摘しているが、理由の一つは、当局自身が調査を「フィッシング詐欺」だとして回答しないよう全学に呼びかけたことにある。即ち匿名の調査は妨害されていた形跡がある。

3) 教職員の多くは短期契約を更新している身分であるため幹部に対する立場は弱く、ハラスメントが起きやすい土壌は存在する。

4) 広範囲な調査ができずOISTにおけるハラスメントの全容はわからないままであるが、調査結果に現れた当事者の声は切実であり、数の多少で片付けてはならない。この結果に対する当局の誠実な対応こそ、今後の信頼関係構築と被害掘り起こしや対策につながると思われる。

 これを読むと、研修は行っているし相談できる制度は整っているという通り一遍の言い訳に終始している。決定的に欠けているのは、創立以来既に8年も経過しているのにハラスメントを監視する制度の運用実績などが全く報告されていないことである。この8年間、関連事案は1件も無かったのであろうか?それは制度自体が機能していなかったことの証ではないだろうか?

「大学院大学」とは?

ところで、「大学院大学」なるものを皆様ご存知だろうか?文科省のホームページ

https://mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/attach/1335437.htm

によれば、「大学院大学」は国内に国立4大学・13研究科、公立1大学・1研究科、私立10大学・11研究科となんと15大学もある。その内ほとんど国費で運営されている(予算の大半が文科省からの運営費交付金)国立大学は、総合研究大学院大学(設立1988年)、北陸先端(同1990年)、奈良先端(1991年)、政策研究(1997年)の4校であり、1990年代の国立大学の大学院重点化政策に先んじて設立されている。いわゆるパイロット大学としての試みであるが、学部を持たないため大学院重点化の影響は避けられず、奈良先端を除いては定員割れが続いているところが多い。

  それでは、沖縄科学技術大学院大学とは何なのか?やはり日本政府が運営資金を提供するが、特別な私立大学と位置付けられ、公式には学校法人沖縄科学技術大学院大学学園が設置者となっている。特にOISTは「世界最高水準」、「最先端」などを標榜し、新年度も200億円弱の国費が投入されている。これは複数の文系理系学部をもつ中規模の国立大学のほぼ2倍の予算である。他の国立大学院大学にも同様な点が見受けられ、いずれも数100から2,000人以下の小さなコミュニティで、比較的優遇された予算の下、パイロット大学としてのパフォーマンスが要求されている。これらの事情は成果第一主義で失敗が許されない風土を生み、様々なハラスメントの温床になっていて、自殺者も多いという噂も聞く。実際、インターネットで「大学院大学、ハラスメント」と検索してみても殆ど報道記事や処分例が出てこない。これらはまさにハラスメントに類する事案が設立以来ずっと取り上げられることなく握りつぶされ、相談・検証・処分の体制が殆ど機能していないことを示唆している。これから進学などを考える学生や父兄の皆様には、進学予定先のこのような点も(人伝などで)調べることを強くお勧めする。OISTにも今後他の大学院大学と同じ轍を踏むことなく、研究成果の創出や沖縄振興への貢献に注力できるハラスメントの無い環境を作りあげることが求められている。