DAYS JAPAN広河隆一氏による「性暴力事件」について (2)

「その後」の経過

 3月20日のDAYS JAPAN最終号の発行後の動きは余り多くないようである。目に付いたものは以下の記事であるが、見落としがある可能性があり、その場合はお赦し頂ければ幸いである。これに関しては、参考になるまとめサイトの記事https://togetter.com/li/1330896もあるので、是非ご参照頂きたい。

 

2019/3/22 写真誌(DAYS JAPAN)元スタッフ・元社員らが「DAYS元スタッフの会」https://days-former-staffs.jimdofree.comを結成。これまで同誌などに関わったスタッフらに連帯を呼びかける声明も発表。「証言を集め、問題を多方面から検証したい」としている。 

https://www.kanaloco.jp/article/entry-155962.html

https://www.kanaloco.jp/article/entry-160098.html

https://www.asahi.com/articles/ASM3N6VFDM3NUCVL01V.html

  「元スタッフの会」のホームページ上にある「会」発足声明、ケース集のページは是非訪れて頂きたい。前者には、<会の目的>、<会発足の経緯>、<呼びかけ>が含まれており、特に<会発足の経緯>には、(1)で触れたDAYS JAPAN 社の人事の「混乱」に絡んで、被害者を含む当時の事情を知るスタッフがほぼ全員排除されたことが述べられている。また、外部の第三者委員会の検証に協力しないもう一つの理由として「当時の社員数名が『検証に応じてなされた証言を役員が検閲するか』を確認したところ、『会社に不利益になるものを載せないのは当然だ』との回答があった。自分たちの証言が意図的に改変、もしくは隠蔽されることを懸念している」とし、独自の取り組みを進める拠り所としている。 

2019/3/24 シンポジウム「広河隆一氏の性暴力から考える」(主催:早稲田大学ジャーナリズム研究所)が開催され、ジャーナリストら約160人らが参加。 

https://www.kanaloco.jp/article/entry-156475.html

https://mainichi.jp/articles/20190326/k00/00m/040/361000c?pid=14516

https://buzfeed.cpm/jp/akikokobayashi/days5?bffbjapan&utm_term=4ldqpgp#4ldqpgp

  上記記事によれば、登壇者は週刊文春で問題を最初に報道したライターの田村栄治氏、バズフィードジャパンの小林明子チーフニュースエディター、「メディアにおけるセクハラを考える会」代表の谷口真由美・大阪国際大准教授、後藤弘子・千葉大大学院専門法務研究科長。司会はアジアプレス・インターナショナルの野中章弘代表で、各識者が最終号の検証報告をどう見るか、意見を述べたようである。他に、参加していた津田大介氏(ジャーナリスト)やフェミニズム思想に詳しい岡野八代・同志社大教授らも発言したという。ここでは特に、谷口氏と後藤氏の意見を紹介する:

 谷口氏;「(検証号)第2部(後述)への協力依頼があったが断った。事前に広川氏の面談調査の結果もわからないということだったので、協力しようがないと判断した」、その上で「この段階では検証になっていない。資料的価値があるかもしれないが、報道の自由は何のためにあるのか。性暴力被害に真摯に向き合っているのか」と問いかけたという。

 後藤氏;「広河氏がどう責任を取るのか、DAYSとしてどう責任を取るのかが全く見えない報告書」と感想を述べ、「刑法の強制性交罪の成立には暴行や脅迫が必要という『暴行脅迫要件』を取り上げ、「2017年の刑法改正時にこの要件の撤廃を求める声が強く上がっていたが、実現しなかった。『暴行がなければ性暴力に当たらない』という主張は加害者の典型的な弁明だ。ここで広河氏の『合意だと思っていた』という主張を掲載することで、今後同種の事案で加害者が『合意』を主張する際にこれが利用されるのではないかと危惧している」と話したという。 

3月20日最終号の内容について

第1部:検証委員会報告

 (1)で述べた3氏(金子雅臣、上柳寿郎、太田啓子)がメンバー。「会社の干渉なく独立して検証を行うことを条件として3人は委員として就任した」とされ、「休刊後も関係者のヒアリングを続け最終報告をめざす」ようである(ネットで発表?)。上記の幾つかの記事やシンポジウムで指摘されているように、広河氏の面談調査(聞き取り)結果がメインで被害実態の調査や検証結果は無い。この調査は、「担当者」が聞き取りを行い、広川氏の主張に逐一考察を加える形式でまとめられていて、「広川氏個人の、極めて不十分な個別の問題点が次々と指摘され、注意に鈍感な子どもに行うような「説教」が行われている印象である。その一方で、圧倒的な権力をかさにきて行ってきた多くのセクシャルハラスメント(性暴力)、それと表裏一体であったパワーハラスメント、さらにはそれらを許容してきた取り巻きの人々などの問題、などの具体像が殆どなく、全体像が極めて見えにくくなっている。この問題の根本的解決には、最終報告書を待つしか無いのであろうか?果たしてそれは十分なものになるのか、今後も注視して行きたいと思う。以下にはQ1~Q8まである問答の内、Q1とQ6について、広河氏の解答と調査担当者の見解を要約して載せる:

Q1 デイズジャパンで扱ってきた性暴力と自分の性暴力の違いは?

(広河)DAYS JAPANはこの15年間40~50もの多くの「女性に対する暴力」に企画を取り扱ってきた。発刊の志の幾つかの柱の一つでもあった。それゆえ「私は自分が性暴力で女性を傷つけていることを指摘されても、当初は全く理解できませんでした」。そこで、もう一度考えたとき「私がDAYSで扱った『女性への暴力』は『あからさまな暴力』、『身体的な暴力』と捉えていたが、、、、『あからさまでない暴力』、『非身体的な暴力』は無視していたことに気づいた」。非身体的暴力によるその及ぼす傷の深さ等について、私の被害者が10年後でもPTSDを発症していることを知り、はじめて加害の可能性を認識することが出来た。これまでは「女性への暴力の一面しか取り上げることが出来なかった。

(調査担当者)外見的には、氏の言う「合意」に基づく「性的な関係」は「あからさまな暴力」とは一見全く無縁に見えるが、実は地続きの同根の問題である。問題の焦点は「暴力的かどうか」の外見ではなく、まさに意に反した強制されたものかどうかである。この意味で本来重なるべき二つのテーマが広河氏の中で(都合良く)分離されていることが大きな疑問となっている理由である。この問題に氏は真正面から答えねばならない。

Q6 「不本意な合意」「合意の強要」

(広河氏)私は、相手の同意があればそれはセクハラではないと考えてきた。(しかしながら)相手がいくら合意しても、その合意の中身は本意ではなく、仕方なく、つまり合意せざるを得ない立場や力関係で合意しているのだと考えるべき、という考え方は私に取っては新しいものであった,,,この中身や深さは、正直言って中々理解することは困難であった。男女間では合意があればいいのだと考えていて、田村氏が女性達を取材した結果では、合意は認められると述べていたから、まさか私の行為が「性犯罪」として週刊文春に掲載されるとは思ってみなかった。

私に対して、「強姦」とか「レイプ」という言葉で批判がされている。それに対して「合意があった」のだからそれらには当たらない、またあからさまな暴力などは用いていないのだから、それらと私の例とは一緒にしないで欲しい、などと(自己防衛の)言葉を繰り返してきた。しかし私自身も「強姦」とは何かというとき暴力や脅迫を思い浮かべるいわゆる「強姦神話」に影響を受けてきたことがわかってきた。

被害を行けたという方には謝罪しなければならない。「性暴力」や「セクハラ」、「パワハラ」に対する認識を深めながら、事実を確定する作業も行い、被害者にはきちんと謝罪を出来るようにしたい。

(調査担当者)広河氏は当初「暴力は無く」、「合意があった」として女性(達)との性的関係がレイプに当たらないのは当然だとしていたが、その後「非身体的暴力」、「不本意な合意」という言葉を知り、相手との関係性における自らの地位が、相手に「不本意な合意」を強いていた可能性について言及するに至っている。氏が「合意」と感じていたものは、不本意に「合意」せざるを得なかったという状況であり、はじめから合意しないという選択肢がほぼ存在しない状況における「合意の打診」は実質的には「合意の強要」に等しい。

 ただそもそも、なぜ当時、氏が「当該女性達との間で対等に自由な合意を形成できる余地があった」と考えたのかはやはり疑問である。氏にはどこかで、相手が自分に向ける敬意や信頼を利用し、それに乗じて若い女性と性的関係をもつことが出来るという意識はあったのではないか。問題は、「僕『の仕事』に魅力を感じたり憧れたりしていた女性達」が氏に向ける敬意の目線を、氏が勝手に恋愛感情や性愛的な行為に読み替え、それに基づいて行動していたことである。これらの行動を自己正当化する根拠として、形式的「暴力が無く」、見かけ上の「合意があった」と強弁しているだけの気がするがどうであろうか?

第2部:「性暴力ハラスメント」にみる構造とは?についての意見

 この部分の責任編集者は林美子氏で、肩書きはジャーナリスト、「メディアで働く女性ネットワーク(WiMN)」代表世話人、元朝日新聞者記者、などとある。多分、ネットや業界では有名人なのではないかと思われるが、素人の1読者にとっては(説明が無いので)なぜ林氏がえらばれたのか、どうして適任なのかもピンと来ないのが正直なところである。そうなると提示された内容で判断するしかないが、「広河氏の性暴力をどう考えるか」という編集責任者を引き受けた思い(経緯)について書いた文章に簡単にコメントしてみる。

 朝日の記者時代からの広河氏との付き合い(その際は氏がそういう人物であることに「全く気付かなかった」としている)に触れた後、今回の最終号の編集依頼があったときのDAYS JAPANからの説明を紹介している。すなわち「最終号を、広河氏の事件を含め、性暴力やセクシャルハラスメントが蔓延する日本社会の構造について読者が考えるきっかけとしたい、それがジャーナリズム雑誌としてのDAYS JAPANの最後の務めだ」というものであったらしい。この時点では、林氏自身は、やめていった編集部員だけでなく肝心の被害者からも殆ど話を聞けないまま最終号を出すことになるとは予測していなかったかも知れない。しかしながらこの説明により編集責任を引き受けたことが、第1部の不完全さにより、結局広河氏の件を日本社会の構造一般の問題に薄めてしまおうというDAYS JAPAN側の(無意識の?)意図に結果として協力することになっている気がしてならない。検証号で必要なのは、いまさら上から目線で読者を「指導」するのでなく、一つ一つの具体的事実の詳細な発掘・調査と広河氏本人への確認であろう。それをやらないまま、加害者本人に弁明の機会のみを与えることはあってはならない。まさに、第1部の不完全さが第2部の意義を台無しにしている可能性は大きい。以下、「性暴力を理解する」、「権力とは何か」、「同意と合意」、「ハラスメントとは何か」という記述が続くが、以下の内容と重なることも多いのでここではあえてスルーする。

 インタビュー記事などを寄せた方々(9名)もいずれも詳しく存じ上げないので、これも私自身が勉強になった(刺激を受けた)と思うものを幾つか紹介するに留める。まずは全員の記事の小見出しと筆者を記しておく(敬称略)。これで内容もかなり推測できる。

1) 男性は女性を鏡にする自称「反権力、反体制」男性が陥る「権力志向」   伊藤公雄(京都産業大学客員教授)

2) セクハラ「常態化」するメディアメディア・記者こそ生活感・人権感覚を取り戻そう 南 彰(日本新聞労連中央執行委員長)

3) 自分の持つ影響力や権力に自覚を 

大澤祥子(一般社団法人ちゃぶ台返し女子アクション共同代表理事)

4) 対等でなければ同意はない同意がない性的行為は性暴力である

山本 潤(一般社団法人Spring代表理事)

広河氏の性暴力事件について「刑事的に責任を取らせるのはおそらく難しい」としつつその必要性を考えたいとしている。その中で、「加害者が『同意があった』と誤信したら無罪になってしまう」日本の現状に対し、ドイツの刑法、及びイギリスの性暴力対策法の考え方を紹介している。

ドイツでは、2016年の刑法改正で、加害者による暴行脅迫は性犯罪の成立要件ではなくなったという。またイギリスの「対策法」では、「能力」と「自由」がそろって初めて「同意」ができる、と書いてあるという。ここで「能力」とは、年齢や、知的障害の有無、酩酊状態かどうかといったことで、「自由」とは、暴行・脅迫や上位にある地位の利用がなく、その人が断る自由が保障されていること、であるというすなわち、対等という関係がなければ同意というものは存在しない従わなければいけない状態があればそれは性暴力だ、ということになる。

また、組織における「権限」について、上のものが持つ権限はきちんと仕事をするための権限であって、(相手に同意を得ず)性行為をするための権限でも、怒鳴ったりしてストレスを発散する(パワハラをする)権限でもない、という基本的な指摘もしている。大切なのは、「女性を同じ人間だと思い」対等に扱えるかという点で、外国で見かける性的に成熟した対等な関係で、高め合い尊重し合う関係が日本ではなかなか目に見えないとされる。Springの活動を通じ目指していることは、「同意がない性的行為は性暴力」という認識を世の中の当たり前にすることで、特に今は、刑法の暴行脅迫要件の撤廃について活動をしている、すなわち、「性行為に同意はなかったが、暴行脅迫も無かったから有罪にできない」みたいなおかしな話は終わらせたいという。

5) セクハラを周囲が黙認することは加害者にお墨付きを与えていること

牟田和恵(大阪大学大学院人間科学研究科教授)

「権力」関係はどんなにミクロでも「認知のゆがみ」を引き起こし、無自覚かつ残酷なセクハラ、パワハラを引き起こすことが指摘されている。それと同時に、第三者(傍観者)による黙認は加害者の許容(と被害の一層の拡大・長期化)につながることも述べられ、特に男たちが声を上げることの重要性を説いている。「男の加害者は男が注意すれば聞く。だからこそ大多数の男性の意識を変えていかなくてはならない」としている(高齢男性の私も実感として賛成)。性暴力や性被害を扱う視点を加害者〜男性から被害者〜女性へ変えていかないといけない、という結論は重要であると感じる。

6) 人間を「モノ」として見る価値観が、差別と暴力の構造を生んでいる

野中章弘(アジアプレス・インターナショナル代表)

7) 広河氏の問うた戦争被害者への視点とは何だったのか

玉本英子(ジャーナリスト)

8) 左翼の男性たちに告ぐ 反省することは大事ですよ

濱田すみれ(アジア女性資料センター事務局)

「一言で言うなら、(これまで散々セクハラ、パワハラをやってきた)左翼の男たち、いい加減にしろ!ってことですね」。同感。家庭生活における両性の平等をうたっている「(憲法)24条を変えさせないキャンペーン」も重要だと感じる。多分全ての根はそこかも知れないと思う。

9) 閉鎖的な組織に潜むカリスマによる性暴力

白石 草(OurPlanet-TV代表)

「なぜ、これほど過酷な被害が、長い間封印されていたのか」という問いから始まる寄稿は、広河氏がまさに「人権派のカリスマ」であったことによる圧倒的な権力格差とそれを許した周りの人間・組織にその答えを見出しつつ、新しいメディアに相応しい新しい組織規範を紹介している。オルタナティブメディア(↔マスメディア)が掲げるべき条件(*1)がそれであるが、これが既に1960年代に提唱されているのには正直驚いた。また、実際に「組織内で声を上げることや被害を訴えることの難しさ」についても提案がある(高齢男性である私にとっても、第三者として加害者に注意することさえ大変勇気がいったので、この難しさは少しは想像できる)。それは、現在ある、子どもへの暴力防止プログラム「CAP (Child Assault Prevention)」(*2)のような道具・技術を背景にした取り組みがメディアで働く女性には必要ではないか、という指摘である。「このような性暴力やそれを生み出す構造を改善するには、加害者を減らすしかないが、加害者は殆どの場合無自覚なのでそれには膨大な時間がかかる。なるべく早く密室での次の被害者をなくすためには女性自身が自分の権利を主張し、自らの体と心を守るしかない」としている。

*1 「Zマガジン」を立ち上げた社会活動家、マイケル・アルバートによる(訳:神保哲夫『オルタナティブ・メディア〜変革のための市民メディア入門』より。

*2 日本でプログラムを扱っている団体は現在2つあると思われる(東日本と西日本?):

https://cap.j-net, https://j-capta.org/cap/index.html

 最後のコラム「OUTLOOK」を本号にも書かれている斎藤美奈子さんの記事が経営陣の問題に明確に言及・危惧していることが印象に残る。

DAYS JAPAN 広河隆一氏による「性暴力事件」について (1)

(1) 大体の事実経過

この「事件」については既にご存知の方、びっくりされた方も多いと思うが、未だ混乱が収束したと言う状況ではないこの時期(2019年8月現在)に、あえてこれまでの経過と事件の内容・本質について、本ブログ(アカデミックハラスメント情報資料室)の関係者でDAYS JAPAN の一読者の立場から、出来る範囲でまとめ、コメントを試みたい。

まずおおざっぱな事実経過は次のようなものであろうかと思われる(細かい点は正確でない可能性有り)。

 

2018/12/26  この日発売の「週刊文春」19年1月3日・10日号は、広河隆一氏(*1)が事実上主宰していた雑誌DAYS JAPAN (*2) の元ボランティア等7人の女性達による、広河氏の10年に渡る性暴力・セクハラ被害の証言 (*3) を掲載・告発。     

       同日、広河氏自身から短いコメント(*4)が出され、またDAYS JAPAN発行元((株)デイズジャパン)からもコメント (*5) が発表された。

       デイズジャパン社からのコメントでは「広河氏が被害者の方々の尊厳を傷つけてしまった」と詫び、広河氏の代表取締役等からの解任を報告している。また「弊社として、広河氏の言説を看過するわけにはいかず、これに与する立場ではない」として、本人に今後の誠実な対応を求めると同時に雑誌刊行への取り組みの意志を示している。

2018/12/31   (株)デイズジャパンより2回目のコメント(6*)。事件の検証をDAYS最終号(もともと3月末で休刊予定)で公表すると表明。

       この声明では、上記7名以外にも「性暴力」被害者がいたこと、「性暴力」とは別に社員・協力スタッフに対するパワハラともいわれる事例があったことなどを認め(度々の問題提起に対し会社として真摯な対応をして来なかったが)、具体的に踏み込んだ内容となっている。今後については(責任者を入れ替え?)引き続き広河氏個人に対する調査と誠実な対応の要請を続ける他、会社についても今回の問題について「組織としてのありよう」を検証し、最終号で公表するとしている。

 2019/1/31    8人目の被害者が毎日新聞に実名手記を発表。タイトルは「性犯罪の温床を作り出したデイズジャパンの労働環境」で、編集部での過酷な長時間労働やハラスメントが蔓延していた実態を詳述し、広河氏の性暴力が永年隠蔽されてきた背景を分析している。すなわち会社ぐるみで許容されてきたパワハラ体質と性暴力は密接に関係していた訳である。 

http://mainichi.jp/articles/20190131/k00/00m/040/128000c

同日     「週刊文春」2019年2月7日号は、元アルバイトの女性による新たな性暴力被害の証言を掲載。広河氏からの依頼で海外取材に同行した際、現地で部屋が一つしか用意されておらず、取材先の男性スタッフ達から性交渉の依頼があること(真実か?)を伝えられた上で「彼らとセックスするか、僕と一つになるか、どっちか」と迫られたと言う。それから2週間は「悪夢のような日々」であったと語っている。

 2019/2/15    DAYS JAPAN社、最終号の発売を1ヶ月延期すると発表。当初2月20日発売の予定であったが、広河氏によるセクハラ・パワハラ行為についての会社としての検証記事を掲載するとしていた。発売を320日に延期し、3・4月合併号とする (7*)

       この間の編集部、取締役会、検証委員会の変遷に関しては注8*で触れているが、何れにしても、雑誌の最終号で今回の事件の検証を担うべき中心メンバーを巡る混乱振りは素人目にも明らかである。私自身、ジャーナリスム業界や出版界を殆ど知らないので、次々出て来る個人名にコメントのしようも無いが、雑誌を支えてきた人々が受けた衝撃の大きさがその混乱に現れているのだろう。

       次の記事では、本事件の「検証」をめざし、3月中旬に刊行された3・4月合併号(最終号)を紹介し、重要と思われる幾つかの論点(広河氏個人、雑誌デイズジャパンは説明責任を果たしたか?個人及び会社の検証は十分に進んだか?広河氏、或はデイズジャパンの「実績」は全否定されるべきか?)について一読者の観点からコメント・感想を述べてみたい。

 参考記事

https://wezz-y.com/archives/62586

https://abematimes.com/posts/5471992

https://businessinsider.jp/post-182763

https://biz-journal.jp/2019/02/post_26520.html

https://buzzfeed.com/jp/akikokobayashi/daysjapan

DAYS JAPAN 2019年2月号、3/4月合併号(最終号)

 (2) 注1*~8*

*1広河隆一氏 人権派フォトジャーナリストとして知られ「被害者の立場に立って」パレスチナ、チェルノブイリ、福島等についての取材・報道に取り組み、2004年より15年にわたり報道写真誌「DAYS JAPAN」の編集長や発行人をつとめた。75歳。

*2 DAYS JAPAN 一時期定期購読者数は一万人を超えたとも言われる。また、世界的な報道写真賞でもあるDAYS 国際フォトジャーナリズム大賞を主催し、ここ何年かは世界の報道写真家に多くの(副)賞を選考・贈呈している。各地でこの写真誌の「読者会」なるものも結成され、写真展を企画するなど草の根的な支援層も日本各地にあったもようである。

*3性暴力・セクハラ被害の証言 証言の詳しい内容は、元記事を参照されたいが、例えば、2007年頃編集部でアルバイトをしていたジャーナリスト志望の女子大生:広河氏から「僕が写真を教えてあげる」と都内のホテルに誘われ、セックスに持ち込まれた。かねてより編集部内での師の権力を目の当たりにしており「逆らってはいけない人」との思いがあったため断れなかった。その後も業務で叱責されたあとに性交を強要されるなどしたが、立場的に「ここで見放されたらジャーナリストの道は開けない」と思い込み応じてしまった。2008年頃編集部で働いていた当時18歳の女子大生:氏からアシスタントの話をもちかけられたが「アシスタントになるなら一心同体にならないといけないから、体の関係ももたないといけない」と言われ、ジャーナリストの夢のためにセックスに応じた。女性は「断ったら弟子失格の烙印を押されるのではないか」との思いからその後も関係は続いた。その結果。女性は「中くらいのうつ」と診断され、大学を休学、DAYS JAPAN編集部からも離れた。その後写真から離れた生活を送っていたが、東日本大震災の際に広河氏から「アシスタントとして一緒に来ないか」との連絡を受け、夢を諦めきれずに同行。しかしその出張先でも、高熱と薬の副作用で意識朦朧の中、性交を強要された。他にもDAYS JAPAN に関わっていた複数の女性が、「写真を教える」という名目のもとヌード撮影を強要されたり、肉体関係をもつよう誘われたりした過去を暴露している。編集部内で、広河氏によりその圧倒的立場を利用したセクハラが多くの女性に対し長期間行われていたという許し難い恥ずべき状況があったことは疑う余地はないようである。

文春の直撃取材に対し、広河氏自身は女性達との肉体関係は認めつつも「望まない人間をホテルには連れて行かない」、「僕に魅力を感じたり憧れたりしたのであって職を利用したつもりはない(良く聞く論法!)」と反論・弁明している。

 

*4 広川氏自身からのコメント(全文写し)

週刊文春2019年1月3日・10日号に私に関する記事が掲載されました。

この記事に関して、私は、その当時、取材に応じられた方々の気持ちに気がつくことが出来ず、傷つけたという認識に欠けていました。私の向き合い方が不実であったため、このように傷つけることになった方々に対して、心からお詫び致します。

なお、今回の報道により、私は、株式会社デイズジャパンの代表取締役を解任され、取締役の地位も解任されたこと、またNPO法人沖縄・球美の里についても、名誉理事長を解任されたことをご報告いたします。

2018年12月26日 広河隆一

 

セクハラ行為自体についての言及・謝罪は全く無いまま、直撃取材時の反論から唐突にお詫びに転じているがその理由は違和感がある。果たして「向き合い方」の問題だろうか?「気がついていなかったから」あるいは「傷つけたという認識はなかったので」行為自体は仕方が無かったとでも言っているように聞こえる(轢き逃げと同じ?)。

 

*5 デイズジャパン社からのコメント(コメント全文)

読者のみなさまへ

  週刊文春201913日・10日号に掲載された広河隆一氏の記事に関して

  週刊文春2019年1月3日・10日号に掲載された広河隆一氏の記事に関して、本年12月24日、広河隆一氏(以下「広河氏」)から取材を受けたとの報告があり、弊社としては、直ちに広河氏に対して、聞き取りを行いました。

  その結果、広河氏としては、その当時、取材に応じられた方々の気持ちに気がつくことが出来ず、傷つけたとの認識を持っていなかったこと、傷つけたとの認識を持ち得ないまま今日に至ってしまったことを確認しました。

長年にわたってDAYS JAPAN誌の編集長・発行人としてかかわってきた広河氏が、被害者の方々の尊厳を傷つけてしまったことに対して、弊社として、心からお詫び申し上げます。

弊社としては、DAYS JAPANが標榜する理念に照らしても、極めて深刻な事態だと認識し、こうした事態を踏まえ、昨日、臨時取締役会を開催し、広河氏を代表取締役から解任し、また、臨時株主総会を開催し、取締役からも解任いたしました。広河氏との関係も清算中です。

弊社として、広河氏の言説を看過するわけにはいかず、これに与する立場ではないことも鮮明にいたします。

広河氏が、自ら本件について誠実な対応を取ることを求めるとともに、弊社としても、弊社の存在意義をふまえ、最後までDAYS JAPANの刊行に取り組む所存です

末尾ながら、読者の皆様を始め、広河氏とともに活動してきた方々の信頼を失わせる事態となってしまったこと、また関係者の方々に多大なるご迷惑とご心配をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます。

2018年12月26日 株式会社デイズジャパン

広河氏からのコメントと同じくハラスメンと行為自体についての言及は無い。自体の深刻さは指摘しているものの「なぜ深刻なのか」についてもはっきりしない。今後の本人、及び雑誌としての誠実な対応は最低限の義務であり、多くの人々が関心を持ち続けるであろう。

 6*(2回目のコメント全文)

みなさまへ

週刊文春2019年1月3日・10日号の取材に応じられた方々をはじめ、被害にあわれた方々とご家族・関係者の方々、また読者の皆様へ深くお詫び申し上げます。

本年12月26日付の弊社の声明及び広河氏のコメントが発表されて以降、多くの方々からご意見をいただきました。なかには、弊社サイトに掲載した広河氏のコメントについて、「デイズジャパンはあのコメントで良いと思っているのか」と言う厳しいご指摘もありました。

弊社は、本年12月26日付の声明でも明らかにしたように、広河氏から記事の件について報告を受けて以降、継続的に広河氏に対して聞き取りを行っており、声明を発表した後も続けております。聞き取りを通じて、記事で取材に応じられた方々以外にも、同種の件があったことを確認いたしました。

また、弊社においては、今回報じられたような「性暴力」とは別に、(広河氏による?)社員や協力スタッフに対するパワーハラスメントと評価されるべき事態が複数回ありましたが、個別的な対応に留まってきました。

  過去のこれらの問題について、社員や協力スタッフから問題提起があったこともありましたが、会社として被害を受けた方の訴えに真摯に対応し、二度とそうした被害が生じないよう全社を挙げて対策をとることをせず、会社として取り組むべきことを取り組まないまま今日に至ってしまいました

今回の報道を契機として、あまりにも遅すぎましたが、広河氏個人の責任とは別に、弊社としての責任を痛感しているところです。

現在、弊社は、今回の報道を機に就任した弊社代理人を責任者として、広河氏個人の過去の言動による被害実態について調査を行うとともに、広河氏を絶対化させてきた会社の構造・体質についても、役員など関係者への聞き取りなどの調査を行っているところです。

弊社としては、広河氏の解任によって今回の件が終結させられるとは考えておりませんし、そうあってはならないと考えています。広河氏に対しては、これまでの広河氏自身の言動によって被害を受けた方々に誠実に対応することを求め続けていきますし、弊社としても、自らのこの間の組織のありようについて真摯に検証し、弊社雑誌「DAYS JAPAN」の最終号において公表する予定です。

2018年12月31日    株式会社デイズジャパン

7*  デイズジャパンは発売延期の理由を、最終号では「検証委員会の報告に加え、人権や差別をテーマに掲げている団体・個人においても不可視化されてしまう女性差別・ハラスメントの問題に取り組み伝えていこう」と考え「最終号の編集委員を、これらの問題に取り組んできた方々へお願いし、発売を1が月延期することで、現在出来ることを見て頂く」ということにしたと述べている。また検証委員会のメンバーとして次の3名も公表している(8*)。委員長 金子雅臣氏(一般社団法人 職場のハラスメント研究所 代表)、委員 上柳敏郎氏(弁護士)、委員 太田啓子氏(弁護士)。

8* 人事・検証体制の混乱

素人が理解するのはかなり困難を伴うが、この経緯をネット情報など

 https://bunshun.jp/articles/-/10742

 をもとに辿ると大体次のようになりそうである。

1月19日発行の2月号に「編集部の今後の方針と次号について」というメッセージがあるが(内容には後で触れる)、末尾には、DAYS JAPAN編集長 ジョー横溝、編集部 小島亜佳莉、金井良樹 とある。しかしながらほぼ10日後の1月末、ジョー横溝編集長は辞任するが、2月初めの集会で「なぜ15年間みんな黙ってきたのか、掘り起こさないといけないと言ったんですが、それが上に通じず、僕はDAYSを去ることになりました」と語ったと言う。

また「新しい代理人」として2018年末に任命した馬奈木誠太郎弁護士を2週間足らずの2月13日で解任し、次の新しい代理人として、竹内彰志、稲村宥人両弁護士が決まったようである。そして彼らと会社執行部(取締役会?)により、「第三者性を担保した」検証委員会を1月末までに発足させたと言う。検証委員会の委員長には金子雅臣氏(労働ジャーナリストで社団法人「職場のハラスメント研究所」所長)、委員には記述の通り、上柳敏郎氏、太田啓子氏の両弁護士が選ばれた。

今ひとつこの間全く見えないのは会社執行部、即ち取締役会の構成である。広河氏の解任後代表取締役(及びDAYS発行人)に選ばれたのは川島進氏で、DAYS創刊号からアートディレクターをつとめ、デイズジャパン設立当初からの取締役・株主でもある。二人の付き合いは30年以上前に遡り、講談社時代 (1988-90) のDAYS JAPANでともに仕事をした後も広河氏の多くの著書で、装丁やデザインを担当、氏とは盟友ともいえる間柄らしい。最終号の発行責任者はこの川島進氏であった。もう一人の取締役は広河氏の妻で(2018年11月就任)大手出版社の編集者で広河氏の著作の編集も担当しているらしい。即ち 公私とも極めて関係の深い人物である。

3人目の取締役は、先述の講談社「DAYS JAPAN」で編集長をつとめた土屋右二氏で、やはりデイズジャパン設立時からの取締役である。「広河君のことは同士だと思っていた」らしいが性暴力の報道を受け決別を決意、デイズジャパンには1月には取締役辞任の通知を出したと言う。川島氏からは「取締役は3人必要なので辞任は認められない」と言われたが、もうデイズジャパンには一切関わらないと話したという(多分1月末時点)。

バンカ島事件 (3)

世界的な反性暴力の潮流の中で日本(人)は今後何をすべきか?

昨年のノーベル平和賞

  記事(1) の中で、リネット・シルヴァーさんは、最近の#MeToo運動がブルウィンクルさんの告発に確信を与える(勇気付ける)ものになったと言及しているが、注目すべきフレーズとして、”(it’s known) rape and sexual assault are used as weapons in war”レイプや性的暴行は戦争における武器として使われてきたがある。この表現は、昨年のノーベル平和賞が強姦被害者を支援する活動家、ナディア・ムラド氏とデニ・ムクウェゲ医師の二人に与えられた際、ノーベル賞委員会が授賞理由としてあげた「戦争の武器として性暴力が使われるのを終わらせようと努力して」きて、「そのような戦争犯罪について社会(世界)が認識し戦っていくよう、重要な貢献をした」という文章中の表現とほぼ同じである。

BBCの記事*1によれば、二入の業績は以下のように要約できるであろう。

https://www.bbc.com/japanese/45760596

ナディア・ムラドさん:イラクの少数派ヤジディ教徒で、過激派「イスラム国」(IS)に拷問、強姦された(3ヶ月にわたりISに性奴隷として扱われ、繰り返し売買され、性暴力を含む様々な形で虐待された)のち脱出し、ISに捕らわれたヤジディ教徒解放に奔走した。ISから脱出して間もない頃BBCから受けたインタビューで、匿名での撮影とインタビューを断り「いいえ、私たちがどういう目に遭ったのか、世界に診てもらいましょう」と述べたという。現在は国連親善大使として人身売買被害者の救済のため活動し、強姦など性暴力が戦争の武器として使われる現状に対して国際社会として取り組むよう訴えてきた。2016年授賞したバーツラフ・ハベル人権賞の授賞スピーチでは、ISによる犯罪を国際裁判所に裁いてもらい、戦闘手段としての強姦に厳罰を適用するよう、国際社会に訴えかけた。

デニ・ムクウェゲ医師:婦人科の医師であるムクウェゲ氏は紛争の続くコンゴ民主共和国東部で強姦被害者の治療に同僚たちと取り組み、戦争の武器として使われる性暴力による重傷に対する治療法を確立してきた。患者の人数は約3万人と言われる。被害者の多くは、性器など身体に深刻な重傷を負っている場合が多く、それに対する再建手術などの治療法を確立し、被害者に提供してきた。2008年には、国連人権賞、ナイジェリア紙が選ぶ「今年のアフリカ人」など様々な賞に選ばれたほか、2014年には、欧州議会が優れた人権活動家に贈る「思想と自由のためのサハロフ賞」を授賞。現在国連平和維持部隊の警護を受けながら、コンゴ東部ブカブのパンジー医院で生活している。戦闘行為としての強姦を厳しく取り締まるよう、国際社会に呼びかけてきた。

日本で相次ぐ性暴力事件に対する無罪判決

  これに対して最近の日本における酷い状況はどうだろう?THE BIG ISSUE JAPAN 360号の「雨宮所凛(あめみやかりん)の活動日誌」によれば、この3、4月性暴力事件に対する無罪判決が相次いでいる。3月12日福岡地裁:テキーラなどを飲まされた女性が性的暴行された事件において、男性が無罪判決。3月19日静岡地裁:強制性交致傷罪に問われた男性が無罪。3月28日静岡地裁:実の娘を12歳から2年間性的暴行をした罪に問われていた父親が無罪。理由は、「家が狭い」から家族が気づかなかったのはおかしい、長女の証言は信用できないなどである。4月4日名古屋地裁:中学2年生の時から実の娘に性的虐待をしていた父親が無罪、などである。

 わずか1ヶ月ほどの間に続いたこれら一連の司法判断を受けて、4月11日午後7時から東京駅近くの広場で開催されたのが、性暴力と性暴力判決に抗議するスタンディングデモであった。底冷えする夜であったのに400人もの女性が全国から駆けつけた。手にしたプラカードには「裁判官に人権教育と性教育を!」、「おしえて!性犯罪者と裁判長はどう拒否したらヤダって理解できるの?」、「Yes Means Yes !」などの文字があった。

 最初は著名人が判決への怒りをスピーチしたものの、途中からは多くの参加者(性暴力、セクハラを受けてきた人、17歳の高校生、50代女性、、、)が飛び入りでマイクを握り思いの丈を語ったという。ここでは、紹介されている発言を再掲して、われわれが向かうべき次のステップへのきっかけとしたい。

 「子供の頃に強制わいせつの被害に遭いました。20歳になってから記憶が蘇って、PTSDの症状で学校に行けなくなりました。夜も眠れませんでした。もう10年以上経ちました。非正規で、バイトして、ギリギリで生活してて、それでやってるバイトでセクハラ。ふざけんじゃねえよ!!どうして被害に遭う私たちが社会を転々としないといけないんでしょうか?」「幼馴染だった友人は、家庭内暴力の末に、性的虐待の被害にも遭って、24歳で自殺しました。助けてくれる大人はいませんでした。今日、たくさんの人が花を持って集まった。その花をどうか、生きられなかった私の友達や誰かの友達に、たむけてあげてください」

日本人男性として思うこと

  バンカ島事件については、私自身最近まで詳細は知らなかったが、今回の記事を契機に色々調べてみて、この事件は、従軍看護師とはいえ歴とした民間人で、例え捕虜であったとしても当時でさえ人権はある程度尊重されていたゆえに、虐殺(銃殺)など到底有りえないことだと思われる。それに加え、銃殺の前に強姦するというのは常軌を逸しているという気がする。しかも同様のことを香港、フィリビン、バンカ島と続けて行っているのはほぼ確実である(同じ聯隊かも?)。これらの事実はこの日本軍兵士による強姦・虐殺という一連の行為が戦局などに追い詰められた突発的な行為でなく、大隊のかなり上まで承知していた計画的な犯罪であったことを示唆している。「南京虐殺被害者はもっと少なかった(そもそも無かった!)」とか「朝鮮人慰安婦は強制してやらせたものではない」と幾ら宣伝しても、この事件の本質を見ると世界の世論に対する説得力に著しく欠けていると言わざるをえない。

 この事件の酷さには、私自身日本人(高齢)男性として、そのような祖父、父をもったことを大変恥ずかしく思う。そして、加害者の側からもっと様々な事実の発掘に努める必要があったのに、全くそのようなことが出来ていないことも深く反省している。もちろん今からでも遅くないので(余り時間がないが)やるつもりではあるが。

 このバンカ島事件についてのBBCの記事への大手マスコミの反応は殆ど無かったが、時々話題になるこのような「昔の出来事」に関し、世間一般のいつもの言説は、サトウ氏の見解にもあった「どこの戦争でもあること」、「戦争中の異常な状況下だから仕方ない」、「占領軍も日本でやっていた」、「加害者も被害者ももう殆どいないからもういいんじゃないの!」「加害者も多く戦死しているのだから罪には問えないよ」等の緩くかつ乱暴なものである。本当にこのようなぬるま湯的な総括で世界は許してくれるのかを真剣に考えるときに来ている気がする。このような過去をもつ日本こそ率先して戦争犯罪(慰安婦)博物館などを設立し、戦争犯罪に関する世界的な客観的かつ第三者的な研究拠点を作ると同時に、戦争犯罪を厳しく追及し裁く国際裁判所等も誘致すべきではないだろうか。公正な国際裁判における加害者への厳罰こそが戦争犯罪もしくは戦時下性暴力を減らす大きな一歩となると考えられる。とりあえず今はせめて伴走者(#WithYou)として走り始めることを誓いたいと思う。

バンカ島事件 (2)

日本軍兵士により虐殺された看護師らは多分殺害前にレイプされていた!

 実は、(1)の事件は、既に26年前(1993年)日本人研究者によって公けにされていた。以下にそのことを報道したオーストラリアの新聞記事を翻訳して紹介する。

*1 22 Sep 1993 – Murdered nurses were probably raped by Japanese officers, says academic, Trove ノーマン・アブジョレンセン(署名)

 日本人学者の研究*2によると、第2次大戦時、バンカ島において日本軍に虐殺された21人のオーストラリア人従軍看護師達(のグループ)は、ほぼ確実に殺害される直前に日本軍兵士によりレイプされていたが、そのレイプの事実は彼女らの(名誉ある)記憶を守るため(永年)隠されていたということである。

 そのような苦難を生き延びた看護師のただ一人の生存者、(シスター)ヴィヴィアン・ブルウィンクルは、オーストラリア当局への説明の中でレイプについて一切言及していない。

 この大量虐殺の報告は、当時の呆然としていたオーストラリア(の人々)を恐れさせると同時に激しく怒らせることになった。「オーストラリア国立大学における日本」という国際会議で今日(1993年当時)タナカユキ(田中利幸)氏(現在=1993年当時メルボルン大学教員)により発表された論文によれば、(様々な)証拠は、シスターブルウィンクルは「調査に際し、彼女の亡くなった同僚達をレイプの犠牲者として知られるという不名誉から守るため真実を述べなかった」ことを示唆しているとしている。シスターブルウィンクルも負傷して死に瀕していたが、その後陸地に戻ることができた(虐殺は海岸の海の中で行われた)。

 その看護師達は、1942年2月11日(日本軍による陥落より4日前)シンガポールから避難したが、彼女らが乗船した船(ヴァイナブルック号)は、日本軍の飛行機により爆撃され、スマトラとバンカ島の中間で沈没した。12人の従軍看護師を含む多くの乗客が溺死したが、他の人々は最大4日も漂流したのちバンカ島に辿り着いた。彼女らは日本兵によって捕らえられ、男性(殆どが英国人兵士)とは分離させられた後(海中で)銃殺された。そのとき彼女らは全員オーストラリア軍従軍看護師の制服を着用し赤十字の腕章を着けていたというのに、である。

 タナカ氏は次のことは極めて重要であると述べている:日本兵らは、銃剣により殺害した英国人兵士の遺体は海岸に放置したのに対し、彼女らの体の「証拠」は後に残されないように確認していた。

 終戦後直ちに、オーストラリア軍調査委員会は加害者の探索を開始した−(なぜなら)(岐阜歩兵)第229聯隊(聯隊長田中良三郎少将、事件当時大佐)第1大隊の何人かの日本兵は(後で判ることだが)バンカ島事件の2ヶ月前香港で起こった(英国人)看護師に対するレイプ・虐殺事件に関与した疑いで既に英国により取り調べを受けていたからである(調査委員会は田中良三郎少将を逮捕したが、聯隊はガダルカナルでほぼ全滅したため証言者が殆どいなかったようである*3。第1大隊長(折田優少佐、事件当時大尉)は、戦後ロシアに抑留されていたが、その後東京に戻ったものの、(裁判で)尋問される前に自殺している(タナカ氏の著書*2によると、1948年6月16日舞鶴に帰還した後、6月19日に米軍に身柄を引き渡され、巣鴨拘置所に拘留された。その勾留中の9月に窓ガラス修理用の道具で首の血管を切って自殺し、起訴には至らなかった)。

タナカ氏は、英国とオーストラリア両国の調査による文書から、次のように推定している:即ち、バンカ島でオーストラリア軍看護師を虐殺した兵士達は、殆ど確実に、香港で英国人看護師をレイプし虐殺した兵士達で同一である。この理由により、オーストラリア軍看護師はやはり虐殺される前にレイプされていたと考えられる。

タナカ氏の論文は次のことも明らかにしている:日本人だけがレイピスト(強姦者)ではなく、(最近の文献によれば)1945年10月に呉で日本人一般市民への一連のレイプ事件が占領軍により起こされたが、その(加害者の)中にオーストラリア軍兵士も含まれていたということである。

ある研究者は、警察により募集された売春婦は「防火線」の役割を果たしたと言っている:「オーストラリア兵は最悪だ。彼らは若い女性をジープに引きずり込み、山の方を拉致した後レイプした。私はほぼ毎晩彼女らの助けを求める悲鳴を聞いた」。戦争時のレイプや日本で言うところの「慰安婦(売春婦になることを強いられた、多くの場合外国人女性)」について多くの研究実績をもつタナカ氏は「戦争とレイプは同じ種類の事柄であり:即ち、それらは本質的に互いに関係している」。(以下省略)

2* 田中利幸『知られざる戦争犯罪―日本軍はオーストラリア人に何をしたか』大月書店、1993年12月2日第1刷発行、ISBN 4-272-52030-X

3* https://ja.wikipedia.org/wiki/バンカ島事件

  • 田中利幸氏について

https://ja.wikipedia.org/wiki/田中利幸

田中氏は1949年5月福井県生まれ(70歳)の歴史学者で、広島市立大学教授を経て、現在ドイツのハンブルグ社会研究所で「紛争時の性暴力」研究プロジェクトメンバー。従来は知られていなかった日本軍による戦争犯罪の事例を紹介してきた。戦争犯罪に関しては、加害者が被害者でもある両面性、戦争犯罪の普遍性といった問題意識も有し、アメリカ軍など連合国側による戦争犯罪との比較研究も進めている。また、第2次大戦時日本軍の「人肉食」への言及でも知られている。これらの「業績」に対し、いわゆる「右翼」の側から「反日デマ」、「国賊」等口汚いネットバッシングも受けている。

バンカ島事件 (1)

1942年に、日本兵は豪の看護師21人を銃殺する前に何をしたのか? 真実追求の動き

 英国BBC放送の最近の記事*1によれば、「事件」の概要は以下の通りである:第2次大戦中の1942年、オーストラリアの女性看護師の一団が、日本軍兵士達によって殺害された。この事件に関連して、複数の(女性)歴史研究者(リネット・シルヴァーさん−軍事史研究者、バーバラ・エンジェルさん-伝記作家、デス・ローレンスさん−テレビキャスター)の調査により、ある事象が浮かび上がり、正式に公表されようとしている。その内容とは「その看護師達は殺害前日本兵達に性的暴行を受けたが、オーストラリア政府はそれをひた隠しにしてきた」というものである。

*1 https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-47986990

シルヴァーさんによる調査結果:シルヴァーさんはまずこう述べている;「この真実を発掘し、ついに公表するには複数の女性の力が必要だった」。ここでいう「真実」とはオーストラリア人看護師22人に起きた上記のような悲惨な体験をさす。行き残ったのはヴィヴィアン・ブルウィンクルさんただ一人であった。そして「オーストラリア軍の高官たちは、悲しみにくれる家族たちに家族が強姦されていたという汚名を与えたくなかった。恥ずべきことだと思われていたので。(当時)レイプは死よりもひどい運命と考えられ、ニュサウスウェールズ州では1955年まで(加害者は)絞首刑による極刑で処罰されていた」とも述べている。この圧力により、ブルウィンクルさんは東京裁判でも、強姦について「話すのを禁じられた」ということである。ブルウィンクルさんはこのことをキャスターであるローレンスさん(2017年証言)に伝え残していた。

シルヴァーさんによると「ヴィヴィアンさんはこの命令に従っており、オーストラリア政府にも多少の罪悪感があった。(何故なら)政府高官。は1942年の香港侵攻の際、日本兵がイギリス人看護師たちをレイプし殺害したのを知っていたにもかかわらず、オーストラリア人看護師のシンガポールからの避難が遅れたからである」。またバンカ島でマラリアの手当てを受けていた日本兵の証言もあるという。シルヴァーさんによれば、その兵士はオーストラリアの調査官に当時悲鳴を聞いたと話し、「兵士たちが海岸で楽しんでいるところで、次は隣の小隊の番だ」と聞かされたとも証言していた。

 さらに伝記作家のエンジェルさんは、ブルウィンクルさんが着ていた看護師の制服に残された色違いの糸と銃弾の穴について調べた結果を述べている。即ち、糸の違いは上半身のボタンが一旦引きちぎられ、後に(死後制服が展示された際に)そこだけ違う色の糸で縫いつけられてことが伺われる。また、制服の2カ所に残る銃弾痕(入口と出口)はぴったり合うにはやはり暴行の事実が示唆されるということも判明した。

 最後にシルヴァーさんは言う:ブルウィンクルさんが1945-46年に話したいと思っていた「ありのままの真実」は重要なことである。なぜなら「もし私がこの話を語らなければ、私自身も沈黙の風潮と政府の圧力に加担し、加害者を守ることになってしまうから。看護師たちの話を語る必要がある!それでやっと彼女たちの正義が実現する」。また今回の一連の証拠を発掘した歴史研究者が3人とも女性であったことについて「歴史(history)が彼の話(his-story)として語られるのをずっと聞いてきた。今回はその反対だ」とも述べている。さらに、最近の#MeToo運動との類似性も指摘している:何かを言える前に女性達が長い時間待つことを強いられると感じる同じような社会的道徳観が存在する。

 

LGBT差別にまつわるハラスメント (4)

現場では?現状と具体的な対処方法

 名古屋大学の「ガイドライン」を当事者はどう受け止めているのか?記事*12によると、例えば学内の性的少数者の交流サークルの1メンバーは「これまで方針を示すものが何も無かったので、形になったことは意味があるし、自分達の存在が認められたようで嬉しい」と評価している。中でも改善を求めていた健康診断の受診方法については、個別対応できることがホームページに明記され既に実施されたということである。

 一方で注文としては「ガイドラインにはやたらと「相談できます」等の文言が並ぶが、これまで相談員の無理解にがっかりして来たメンバーは少なくない。教職員の研修や学生の啓発等を盛り込んで欲しい」という意見や「ハード面の対応を必要とするT(トランンスジェンダー)に対してはきめ細かいがLGB(同性愛者)への配慮に触れた部分が少ない。アウティング防止策をもっと考えて欲しい」という訴えもあるようだ。

 実際記事*13では、様々な具体的なアウティング被害の体験が紹介されている。信頼し心を許していた周りの人間の一人が、(例えば、LGB当事者だから守ってあげて欲しいなどと)善かれと思ってやったことが、本人には極めて大きい諸オックであることが多い一方で、周囲には当事者間の問題として距離を置かれやすいという側面もあり、性暴力と構造が似ているという指摘もある。

 人気はあるがそれ故に人権感覚が麻痺している芸人らにより、未だに笑いのネタにされることも多いLGBT問題であるが故に、意図的なアウティングによるいじめや侮辱(ハラスメント)に至らなくとも、想定外のカミングアウトへの戸惑いなどから誰かに話してしまうことも起こりがちであるようだ。

 それではカミングアウトされたらどうすれば良いのだろうか?これに対する答えが、やはり記事*13に名各区に記述されている。以下に再掲する:

カミングアウトを受け止める心構え

  • 信頼して話してくれたことに感謝を示す
  • (恋愛感情の告白を伴う場合)相手が恋愛対象か対象外なのかはっきり伝える
  • わかったふり、なかったことにはしない。知りたいことは率直に聞いてみる
  • 本人の了解なく相手の生活圏内の人に話さない
  • 不安があれば、双方が信頼できる人に同席してもらい、相手と話し合う
  • 一人で抱えきれなくなったら、守秘義務のある専門窓口に相談する

(原ミナ汰さんによる)

 私自身はこれらのルールが最も腑に落ち解りやすいという印象を持ちましたが、皆様はどうでしょうか?考えてみると、これらは男女間の異性愛の場合や広くは人と人との関係でも全く同じで、相手ときちんと対話して信頼して打ち明けられたことはその人の許可なく他人に言わない、という凄く当たり前のこと(人権意識)ではないでしょうか?この意味で、教育の場などで教員から生徒や学生にカミングアウトする試み*14は色々な意味で大変勇気がいることである上に、単なる教育効果を越えた周りの人への波及力があり、大いに尊敬に値すると考えます。ごく自然にそういう機会を選択できる社会を1日でも早く作って行きたいと思います。

 最後に、一橋大学事件を担当されているナンモリ法律事務所のHP(http://www.nanmori-law.jp)も是非 訪れてみて下さい。裁判に関する詳しい経過・資料等にアクセスできます。

*13 <アウティング無き社会へ>(上)(中)(下)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021702000147.html

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021802000109.html

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021902000129.html

*14教育の窓 先生からのカミングアウト LGBT、理解へ繋ぐ (毎日新聞 2019/12/3)https://mainichi.jp/articles/20181203/ddm/013/100/019000c

LGBT差別にまつわるハラスメント (3)

各大学におけるLGBT対応指針

 こうした動きを背景に、LGBTなど性的少数者の学生への対応についてガイドラインを策定する大学が増えている。学籍簿の名前の扱い、トイレの使用、就職支援など学生生活に関わる幅広い分野で具体的な対応策を示し、セクシュアルティー(性のあり方全般)を理由とする差別や不利益をなくすのが狙いである。留学生の増加等大学の国際化が進む中、LGBTを始めとする多様性の尊重はますます重要となって来ている。以下幾つかの大学の取り組みを簡単に見ていく。

【名古屋大学】「LGBT等に関する基本理念と対応ガイドライン」を制定し2018年9月に公表。ガイドラインは情報管理、錠業、留学、環境整備等8項目に分類され、それぞれ具体的な方針が示されている。例えば「情報管理」では、学籍簿や証明書、学位等に自認する性に基づく通称名を利用できることや学生向け名簿等の文書には性別欄を外すこと、「授業」では、スポーツ授業での性別グループ分けの有無、身体的接触、合宿等宿泊を伴うイベント等に事前情報明記、等が挙げられている。また予算を伴うトイレや更衣室の改修や拡充を工夫して進める(多目的と入れマップの配布等)こと等も述べられているようである。

 職員についても、先例を参考にしつつ福利厚生や人事制度にも踏み込んでいる。例えば、職員にパートナーがいる場合、自治体の証明書や海外のパートナーシップ契約が確認できる書類があれば、配偶者がいる職員と同様の福利厚生や人事制度の対象となる。

【国際基督教大学】2012年、ジェンダー研究センターが性的少数者の学生向け生活ガイドを発行(現在9版?まで改訂)。16年には位置づけを見直して、名前を「できることガイド」に変え、セクシュアリティの観点から現在利用可能な制度の中で役立つ情報(授乳室の利用方法など)を紹介している。

【筑波大学】「カミングアウト」についての項目を設けている点が特徴で、当事者への支援だけでなく、カミングアウトされたときに周囲がどう対応するかも説明している。さらに「アウティング(カミングアウトの内容の本人の意に反しての暴露)」に対し、「自殺といった最悪の結果を招きかねない」などと厳しい表現を使い、ハラスメントと認定している点も注目に値する。

【京都精華大学】2016年に、異なる境遇や価値観をもつ他者への理解を深め、共助の精神を身につける環境作りに努める「ダイバーシティ推進宣言」を公表。

【早稲田大学】2017年、性的少数者の相談支援、交流、啓発等を行うGS(ジェンダー&セクシュアリティ)センターを設立。

【大阪大学】2017年、性的指向と性自認の多様性と権利を認識し、偏見と差別をなくす啓発活動を行うとする基本方針を提示した。

【お茶の水大学】戸籍上は男性でも性別を女性と認識しているトランスジェンダー学生の入学を20年4月から認めると発表。

 これから大学への進学を考えている高校生の皆さんやその父兄の方々には、入試の偏差値や就職率、もしくは授業料などに加えて、是非色々な大学のハラスメント状況を調べてみてはどうだろうか?各大学のホームページには意外とハラスメント関係の様々な情報が記載されているものである。青春の貴重な一時期に自分自身や友人・子弟が思いがけない悲惨な境遇に陥らないために是非とも事前の情報収集に努め、大学選択の重要基準として活用されることをお勧めします!

*9 LGBT差別禁止 首都圏に広がる 自治体、条例など明文化 (東京新聞 2018/4/23)https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201804/CK2018042302000128.html

*10 様々な性 大学でも支援を キャンパス・セクハラ全国ネット福岡で9月1、2日 教育の場、改善できる点は(西日本新聞、2018/8/17)https://www.nishinippon.co.jp/feature/life_topics/article/441904/

*11 LGBT「大学の連携大切」 筑波大がシンポ 毎日新聞 2018/10/27)

https://mainichi.jp/articles/20181028/ddl/k08/040/084000c

*12 教育の窓 大学にLGBT対応指針 学生生活の具体例明記 (毎日新聞 2018/11/19)https://mainichi.jp/articles/20181119/ddm/013/100/015000c

LGBT差別にまつわるハラスメント (2)

大学等での取り組みや自治体等での条例制定の動き

 まず、以下の最初の記事(*9)によれば、LGBTなど静的少数者への差別禁止や解消を条例で明文化する自治体が首都圏で増えている。2018年4月には、東京都国立市と世田谷区がそれぞれ条例を施行。専門家は「多様性と調和」を掲げる来年の東京五輪が追い風になっているとみているようだ。

 国立市は「女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」で、性的指向や性自認(自分の性への認識)による差別を禁じた上で、「公表の自由が個人の権利として保障される」と明記。加えて「本人の意に反して公にしてはならない」とした。罰則規定は無い。吉田徳史(のりふみ)市長室長は、条例のポイントを「性的指向等のカミングアウトを芝居人の権利も守る条例にしました」と説明する。国立市は前投稿の事件が起きた一橋大学を市内に有する自治体である。

 世田谷区の条例は「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」で、条例が定める基本的施策でも多様な性への理解促進や性的少数者への支援を盛り込んでいるという。また既に、文京区と多摩市でも2013年に性的指向や性自認による差別を禁じた条例が成立している他、渋谷区も「性的少数者への差別禁止」を定めていて、いずれも男女平等や共同参画の条例で、性的少数派に限らず誰もが性別等により差別的な取り扱いを受けないよう求めているのが特徴となっている。文京、豊島両区、千葉市では、条例ではないが、窓口や学校での、当事者対応の配慮点を記述した職員、教員向け対応指針をまとめている。

 都道府県レベルでは、首都圏の9都県市は1昨年12月「性的指向や性自認による偏見や差別の無い社会をめざす」との共通メッセージを発表。東京都にも2018年4月、庁内調整の担当組織が出来たという。国会での法整備は、与野党の溝(理解増進か差別解消か)が大きくその見通しは立っていないようである。東京五輪に絡む単なるブームに終わらせず確実に定着させて行くためには、國や都道府県による法律や制度の整備が強く望まれるところである。

 これに加えて、取り組みが遅れていた全国の様々な大学でも幾つか連携した動きが見受けられる*10-12。

 2018年9月1~2日、大学職員等でつくる「キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク」は福岡県春日市で全国集会を開いた(24回目)。今回の主要テーマは、性的マイノリティであった。1日目は「ライフ・プランニング」をテーマに3人で語る企画が、また2日目には、午前の3つの分科会の後午後からシンポジウム「大学におけるダイバーシティ政策と官製キャリアプラン」がそれぞれ開催された。分科会の一つは「大学における性的マイノリティー支援」をテーマとし、九州大、福岡教育大、佐賀大等の性的少数者の学生サークル(セクマイサークル)メンバーが大学に求める支援等について意見交換した他、全国ネットの九州ブロックが2018年6月に九州・沖縄の大学や短大113校を対象に実施した、性的マイノリティーの学生支援に関する調査結果も報告した。

 今年の全国集会の事務局は「社会での性的マイノリティーへの理解が進む中、大学での取り組みは遅れている。当事者の学生が直面する困難は教員が把握しづらいことも多い。セクマイサークルも匿名性が高く活動を維持することが難しい場合が多い」と課題を挙げている。特にシンポジウムでは、高校生等を対象に行政が主導する「ライフ/プランニング」教育が特定に行き方を方向付けかねないと懸念し、多様な性と絡めて自分らしい生き方につなげる方策を語り合うとした。詳しくは上記「全国ネットワーク」のHPを参照されたい。

 ほぼ同時の2018年10月、筑波大学は大学におけるLGBTなど性的少数者への支援のあり方を考えるシンポジウムを同大東京キャンパスで開催した。同大等5大学の担当者が取り組みを紹介、パネル討論では「良い事例を共有し連携して取り組むことが大事」と確認した。またシンポジウムには、大学や企業の関係者約120人が参加し、筑波大が「当事者の望まない情報暴露をハラスメント(嫌がらせ)と評価する」としたガイドラインの内容を解説した他、早稲田大、お茶飲水女子大、関西学院大、大阪府立大の4大学がそれぞれの取り組みを説明した。その中でお茶の水女子大の副学長は、2020年からの女性自認学生の受け入れ方針に関し「入学資格の「女子」に定義が無いので、学ぶ意欲のある学生を受け入れて多様性を育む」と決断の経緯を説明した。パネル討論では、各大学担当者から「学内で取り組みを進めるには学長等幹部の理解と決定が必要」「良い事柄を共有し各大学が導入することは重要」等の意見が出た模様である。

LGBT差別にまつわるハラスメント (1)

一橋大生のアウティング事件と裁判

 新聞記事等*1-8によれば、事件の概要(事実経過)は大体以下の通りかと思われる。

*2015年4月 一橋法科大学院の男子学生同級生に恋愛感情を告白。

*同年6月   その同級生に、約10人参加のLINEアプリグループに同性愛者だと実名を挙げて書き込まれ、心身に不調をきたす。その後、担当教授やハラスメント相談員らに相談したが、大学はクラス替えなどの対策をせず。

*同年8月24日 講義中にパニック状態になり校舎から転落死。

*2016年    両親は同級生と大学(がアウティングに対し適切な対応を取らなかったとして)に損害賠償を求めて提訴。

*2018年1月  同級生と和解。

*2019年2月27日 東京地裁(鈴木正紀裁判長)請求を棄却。「大学が適切な対応を怠ったとは認められない」(被害を相談した教授について「クラス替えをしなかったことが安全配慮義務に違反するとは言えない」とし、相談員についても「クラス替えの必要性を教授らに進言する義務は無かった」と認定)とした。

 LGBTなど性的マイノリティに対する偏見や差別は、昨年の自民党女性国会議員による極端な差別発言もあって最近やっと可視化され、マスコミ等でも議論の機会が増えてきたが、まだまだ一般的認知度は低い。このような状況の中で、本事件の当事者である一橋大学院生のケースは、他者による本人の同意を得ない同性愛の暴露(アウティング)という形でのセクシャルハラスメントが有名国立大学キャンパス内で発生し、それが悲劇に繋がったものである。

 従来からパワハラ、セクハラが絶えず、多くの(学生)自殺者が出ている大学・研究機関では、当然ながらさらにマイナーな性的少数者差別に関する取り組みはこれまで十分とは言えず、このようなケースの発生は危惧されるところであった。ハラスメントは何らかの差別と結びついている場合が殆どで、特にセクハラでは、差別対象には女性のみでなく性的少数者も含まれ、様々なハラスメントに発展する恐れがある。

 判決後の記者会見で弁護団もコメントしている通り、裁判所は今回何ら本質的な議論(アウティングがなぜ危険なのか、どう対処すべきなのか)に踏み込まず、悲劇を招いた一因である大学の対応を追認した形となった。実際アウティング被害はかなりの規模で日常的に起こっていると推測されるデータもあり(関連民間団体に寄せられた相談件数は2012年3月以降の6年間に110件。信頼する人に告白した結果、周囲に広められ職場に行けなくなる深刻な内容もあった)司法が明確な警鐘を鳴らさない状態は今後重大な事態を次々に招く可能性がある。

*1 同性愛暴露され転落死 一橋大アウティング訴訟 遺族支援者ら明大で集会 (東京新聞 2018/7/21)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201807/CK2018072102000135.html

*2 日本の「当たり前」を問う 同棲弁護士カップルの日常から 今日から渋谷で上映 (東京新聞 2018/9/29)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/metropolitan/list/201809/CK2018092902000169.html

*3 同性愛暴露訴訟、遺族の請求棄却 一橋大生が転落死(共同通信)信https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190227-00000082-kyodonews-soci

*4 アウティング被害後に転落死 一橋大の責任認めず(朝日新聞ディジタル)

https://news.yahoo.co.jp/pickup/6315395

*5 同性愛暴露訴訟 請求棄却 遺族側「本質に踏み込まず」

 (中日新聞 2019/2/28)

*6 社説」同性愛の暴露 尊厳傷つけぬ配慮を (中日新聞 2019/2/28)

*7 大学側の責任認めず 一橋大同性愛暴露訴訟 東京地裁、遺族の請求を棄却 (東京新聞 2019/2/28)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019022802000138.html

*8 LGBT暴露相談110件 アウティング被害深刻 (東京新聞 2019/4/3)

https://www.chunichi.co.jp/s/article/2019040301001826.html

山形大学の“その後” (2)

パワーハラスメント問題

 先に触れた学生への一連のパワハラ事件と並行して推移し、世間を騒がせ呆れさせているのがこの件である。まず経過をかいつまんでみてみると、以下のようになる。

2016/1月    山形大のxEV飯豊研究センター(移動体用蓄電池の産学共同研究センター)、山形大学と山形県飯豊町が山形県飯豊町に整備。出資額は各8億円と7億円。

2017/3-5月   同研究センターの職員3人がセンター長の50代男性教授からパワハラを受けたとして相次いで退職したことが発覚。

2017/5 月~   同大職員組合、センター長の行為を把握しているかどうか、を問う学長宛の質問書を2度提出。これに対し大学側の対応は一貫して冷淡で、告発を無視し続けた。

2017/11月   大学が学内調査に乗り出す(特別対策委員会を設置)。これ以前(10月)に、職員への暴言を記した書置きや張り紙の画像を組合が証拠として公表し、これまでの対応を抜本的に見直すよう求める書面を(大学に)提出。社会的な批判が強まる。

2018/7/24     xEV飯豊研究センター長に減給1万円(1日分給与半額)の懲戒処分を発表。「有り得ない軽さ」と職員組合批判。

2018/8/1        「対策委員会」による2月の聞き取り調査の際、大学側が被害者に、聴取詳細を他言しないことなどを内容とする誓約書への署名を迫った(口止めを強要した)ことが判明。職員組合発表。

2018/9/6       小山学長は、定例記者会見で「(飯塚博)工学部長の(職員組合からパワハラを裏付ける資料を受け取っていながら、大学本部への報告や事実確認等をしなかった)対応は適切」との認識示す。

 この経過をたどるだけでも、学生に対するパワハラ事案に勝るとも劣らぬ迷走ぶりである。特徴的なことは、

a) 最優先になっているのは、ハラスメント被害者の救済でなく、地域と文部科学省に対する大学のメンツであり、そのために加害者を陳腐なまでに防衛する姿勢が顕著なこと。

b) 処分は学内規定によった、ということらしいが、準用したセクハラの規定のうち軽い方を適用しかつその中で最も軽い処分としていること。これは果たして実質的な処分なのか?

2)発覚-調査-処分という一連の流れの中で、被害者への謝罪や補償が一切行われていない上、事情聴取の口止め等まで行おうとしていること。特に「口止め」はさらなる人権侵害に当たる。被害者が同僚や弁護士にさえ相談できなくなり一層孤立化する。

3)職員組合も指摘しているように、ハラスメント防止体制の整備、見直し・再構築等が一連の諸事案を経た前後で極めて不十分で、様々なハラスメントの温床が依然として放置されたままであること。

 もし昨年9月の時点で、事件を「終息」としているなら、学生や父兄だけでなく、地域社会も到底納得していないのではと思われる。事ここに至って、今後の本プロジェクトの大々的発展は本当にあり得るのだろうか?センター長はこの分野の実績を買われ、企業から大学へ移った人材である。企業と大学との人的交流は、基本的には進められるべきであり、実際閉鎖社会である大学に新風を吹き込み新しい化学反応が起きている例も多くある。また、一部では企業人の方がいわゆる「世間的常識」があり、ハラスメントについても外面を気にする企業風土で育った故に意識も高い、という見方もある。しかしながら個々のケースでは必ずしもそうではない。大学も、特に組織の将来をかけたキーパーソン(理事等の役員も含まれる)を外部から招へいする場合には、専門分野の実績に加え、やはりハラスメント歴(現在は“評判”でも法律が出来れば犯歴?)についての「身体検査」が不可欠な時代になっているのではないだろうか?