DAYS JAPAN広河隆一氏による「性暴力事件」について (4)-1

―デイズジャパン検証委員会による報告書(2019/12/26公開)についてのコメント(1/3)― 

 報告書(デイズジャパン社のホームページhttps://daysjapan.netからダウンロード可能)はかなり長文(A4 112頁)で詳細なものであり多岐に渡っているので、まず以下に目次を引用する。なお委員会の委員は金子雅臣(職場のハラスメント研究所 代表)、上柳敏郎(弁護士)、太田啓子(弁護士)の3氏である(同名記事 (1)参照)。

第1 調査経過

第2 デイズジャパン社及び広河隆一氏の概要等

第3 広河氏によるハラスメント行為

第4 ハラスメント発生の原因

第5 デイズジャパン社の労働環境

第6 会社解散決定に至る経緯

第7 労働組合結成とデイズジャパン社の対応

第8 会社解散の問題点—「偽装解散」だったのか

第9 一般財団法人日本フォトジャーナリズム協会の現状についての状況

第10 デイズジャパン社のコンプライアンス

第11 広河氏の現在の考え方と検証委員会の意見

第12 ハラスメントの責任履行の勧告

第13 デイズジャパン社の事件から得られる教訓 

  まず初めに、この報告書自体はかなりの期間(9ヶ月?)をかけたせいもあり、詳細かつ客観的な(デイズジャパン社との独立性が担保されている)ものとなっており、事件前後の経過もある程度追うことができて、十分評価できると思われる。この種の社会的に話題となった事件で、ここまでの詳細な報告は恐らく初めてではないだろうか。大学などでのアカデミックハラスメントでは、被害者のプライバシー保護を隠れ蓑にして、被害実態や加害者の詳細がうやむやにされ、結果的に加害者を擁護したり、被害者に二次被害を与えるることは日常茶飯事である。報告書の内容で印象に残った点の主観的要約と幾つかの項目へのコメントを試みてみたい。

 1)調査過程

 2018年末の、週刊誌による広河氏のハラスメント告発以降、当初はデイズジャパン社の依頼により直後に会社代理人に就任した弁護士と年末まで編集長であった人物による調査、面談が開始された。しかしながら「調査に熱心すぎた」その弁護士は2週間足らずの2019年1月13日、デイズジャパン社により解任されたようである。その後、検証結果を掲載するという最終号の期限(3月)が迫る中、会社代理人とは別の第三者に検証作業を依頼することになり、2月上旬に発足したのがこの検証委員会である。

 調査を進めるにあたって、デイズジャパン社と重要な関係をもつと思われる広河事務所、日本フォトジャーナリズム協会などにも委嘱・調査の対象を拡げることになった。調査期間は(結果的に)2月中旬から12月20日までとなったようである。調査は資料調査とヒアリングが行われたが、一言で言ってそれらの作業は多くの制約を受けた困難なものであったようで、その要因として挙げられているのは次の3つである。

a) デイズジャパン社からの情報提供の不足

 特に過去に在籍していた社員などについての情報が未整理で混乱していて、そのため関係者の名簿作りから始めざるを得なかったようであるが、社員以外にも多くの(短期)ボランティアやインターン、果てはなんら契約関係のない一時的な「アシスタント」という職種も存在し、曖昧でほとんど記録も無い状況であったらしい。すなわち、調査しながら調査対象を発掘し、その範囲を決めていくような作業であったという。当初判明したデイズジャパン社の関係者数はおよそ以下のようであったという:

  • デイズジャパン社元従業員;82名
  • 広河事務所元従業員;11名
  • ボランティア;13名
  • 役員;5名
  • 協力会社アウレオ社*の出向社員;6名

*監査役 守屋祐生子氏が代表取締役を務める健康食品販売会社

 そして最終的なヒアリングの実施人数は45名(デイズジャパン社元社員11名、広河事務所元社員4名、元インターン1名、アウレオ社出向社員2名、役員及び元役員5名、フリーランス編集スタッフ4名、デイズジャパン社顧問税理士1名、顧問社労士1名、その他ジャーナリストら広河氏と交際があった者12名)であった。

b) デイズジャパン社役員らの言動等への不信感の影響

 まずそのきっかけとなったのは、先に述べた、最初に会社代理人になった弁護士の1月中旬での解任である。熱心にハラスメント実態の解明に取り組もうとしていた弁護士を解任することは執行部への不信感増大につながった。これと関連して、当時労働組合を結成していて会社解散に伴う退職時期を交渉していた一部社員が、最終号の編集などから排除されたという事情も大きい。当初は年末退職の予定であった社員らも、広河氏のハラスメント告発による混乱の中で、最終号が検証委員会による(中間)報告と外部スタッフによる(セクシャル)ハラスメントについての企画記事で構成されることになったため、改めて編集に参加する意欲を見せていたらしいが、全員排除されたらしい。

 さらに同名記事 (1)でも触れたが、1月末の本検証委員会の発足にあたり、その(社員に対する)説明の中で、川島氏(取締役)が、社員からの「検証に応じてなされた証言を役員が検閲するか」という質問に対し、「会社に不利益になるものは載せないのが当然である」と回答するという事態が発生。これを聞いたものは検証委員会の公正性に疑念を抱くことになった。デイズジャパン社からの独立性を保証する形で委嘱され発足した検証委員会の正当性を委嘱者自らが否定するという体たらくである。この発言は、元社員有志により結成された「DAYS」元スタッフの会のHP

https://days-former-staffs.jimdofree.com/

で発表された声明(2019/3/22付)で初めて指摘された(検証委員会もこの時初めて知り、直ちに川島氏ら幹部に確認している。彼らは当初否定していたがその後認めるに至った)。このことについて検証委員会は「一部の関係者に対し事情を説明して理解を求めるための時間と労力は相当なものを要することになってしまったのは事実である」としている。なお、最終号掲載(2019年3月号)の検証委員会作成記事については、以下のようなコメントがある。「全貌把握には至っていないため、、、『中間報告』という形式をとることは控え、その時点での広河氏の説明及びこれについての批判的考察を入れて報告するに留めざるを得なかった」。

c) 広河氏の非協力

 結局デイズジャパン社からの情報提供によっては、広河氏から性的被害を受けた女性達の多くには接触できなかった。それに加え、広河氏本人は、過去に性的関係をもった女性達については「記憶がない」としてその女性達の名前を明らかにすることはせず、『被害者が誰であるか把握すること自体に相当の時間と労力を要した』という状況であったらしい。

 また、検証委員会が会社の解散決定に関連して広河氏が出資し(500万円)2018年11月に設立した」一般財団法人フォトジャーナリズム協会について調査しようとしたが、設立時の役員が2019年6月に変更された後の新役員について、広河氏は明確な回答を避け続け、やっと11月に登記で明らかになるという事情があった。さらにその後においても、「協会」は度重なるヒアリングの申し込みにも応えず文書による回答も得られないという状況が続き、検証作業の著しい遅れに繋がった。

 検証委員会の次の指摘はある意味本事案の大きなポイントであるかも知れない:広河氏、及び役員らによる非協力的態度は、デイズジャパン社は既に解散が決定しており清算段階に入った会社であるという、本件の特殊性に由来するところもある。すなわち一般的には、「会社等が組織内の不祥事について第三者による検証を依頼するのは、(客観的調査によって)組織の問題を糾して社会的信頼を回復し、その後の事業を健全かつ円滑に行うことが目的である。今回の場合は、デイズジャパン社には今後に事業継続が無いという事情から、広河氏及び役員間で信頼回復のモチベーションが働かなかった、と結論している。

 2)広河氏、デイズジャパン社の概要等

a) 広河氏の概要

  • 1943年中国天津市で出生。早稲田大学を卒業後、1967年5月にイスラエルで取材を開始し3年間滞在。以降、パレスチナ難民を巡る中東問題、核、チェルノブイリや福島の原発事故等の問題について各地で取材を行い、フォトジャーナリストとして活躍。
  • 1987年から1990年まで講談社の「DAYS JAPAN」編集部に参画し、1990年1月廃刊後はフリージャーナリストとして活動。「DAYS JAPAN」復刊のため2003年にデイズジャパン社を設立し、以降2014年9月まで「DAYS JAPAN」の編集長を努めた。以降は発行人(下記b)の経過参照)。
  • 広河氏には、講談社出版文化賞(1989)(チェルノブイリとスリーマイル島の原発事故報道)、読売写真大賞(1992)(レバノン戦争とパレスチナ人キャンプの虐殺事件報道)、土門拳賞(2002)(写真記録パレスチナ)など著名な賞の受賞歴がある。また、「パレスチナ瓦礫の中の子ども達」(徳間書店)、「新版 パレスチナ」(岩波書店)等の著書もある。
  • 取材・報道の傍ら、救援活動にも尽力。1991年「チェルノブイリ子ども基金」設立、ベラルーシやウクライナの病院等に日本から医療物資や医療費などの支援を行った。1994年「パレスチナの子どもの里親運動」を設立、難民キャンプに「子どもの家」を建設。福島原発事故後は、「DAYS放射能測定器支援基金」、「DAYS被災自動支援募金」を立ち上げ、2012年には福島原発事故で被爆した子どもたちの健康回復のための保養センターとして、NPO法人「球美の里」設立。なおチェルノブイリ救援について2001年にベラルーシから国家栄誉勲章を、2011年にはウクライナからウクライナ有功勲章を受けている。
  • 2018年12月26日の週刊誌によるセクシャルハラスメント報道をきっかけに同日付けでデイズジャパン社の取締役を解任された。

 b) デイズジャパン社の概要

  • 設立の経緯:1987年、広河氏は講談社の「DAYS JAPAN」編集部に、当時編集長であった土屋右二氏からの誘いを受けて参画、1998年の創刊号から廃刊となる1990年1月号まで同誌の発行に携わった。その後、広河氏と講談社「DAYS JAPAN」元編集長の土屋右二氏、デザイナーであった川島進氏とで「DAYS JAPAN」復刊をめざし、同人らが取締役となって2003年にデイズジャパン社を立ち上げた。月刊誌「DAYS JAPAN」は2004年3月の創刊号から2019年3月の最終号まで、通算183号を発行した。
  • デイズジャパン社は、雑誌・書籍の出版、写真展・報告会の開催、災害被災地等で行う救援活動の請負及び情報提供サービス等を目的としており、「DAYS JAPAN」誌の発行のほか、書籍の出版や写真展等のイベントに加え、写真コンテストであるDAYS国際フォトジャーナリズム大賞を主催していた。
  • 会社役員等:設立時は代表取締役広河氏、取締役土屋氏及び川島氏、監査役が守屋氏(前述)。以降広河氏が代表取締役を務めていたが、2018年12月26日の解任以降は川島進氏が代表取締役に就任している。(その後)2019年11月20日小川美奈子氏が取締役社長に就任し12月30日付けで退任している。2019年3月31日株主総会決議(発行済株式数200株、現在の株主は守屋、広河、川島、土屋、富岡、小川の各氏らしい)によりデイズジャパン社は解散。現在は川島氏が代表清算人となり清算手続中。

 c) デイズジャパン社の財政

  • 定期購読者の存在と広河氏の圧倒的存在感

 雑誌「DAYS JAPAN」は、創刊前から定期購読者を募集して確保し、それによって維持できる程度の売り上げを見込んで創刊されたようである(広河氏の説明による)。この異例なことが可能であった背景には、初期の購読者の中には、当時既に広河氏が書いていた「HIROPRESS」の購読者や以前からの広河氏の著作の愛読者、支援者が多かったためと考えられる。これらの雑誌創刊に至る経緯や初期の財政的基盤を従来からの支援者に依拠して作っていたこと等から、DAYS JAPAN誌における広河氏の圧倒的な存在感はよく分かる(これこそが長期で広範かつ悪質なハラスメントの背景である)。

  • 決算報告

 直近第15期(2017/10/1~2018/9/30)の決算報告概要は下記の通りである。売上高の相当割合が定期購読に占められていたので、定期購読者を増やすこと、既存の定期購読者の継続がデイズジャパン社の売り上げ確保には非常に重要であった。

定期購読売上高 約5,900万円(約61%)、取次店売上高 約1,400万円(約15%)、その他商品売上高 約1,400万円(約14%)、広告収入 約1,000万円(約10%) 合計 9,700万円。

  • 守屋監査役及びアウレオ社による支援

 アウレオ社は守屋氏が、1997年に創業した健康補助食品等の製造・販売をする会社で、関連会社として健康補助食品等をネット販売する株式会社シェアワールドをもつ(こちらの代表取締役も守屋氏)。広河氏との最初の接点は、DAYS JAPAN創刊より10年以上前のパレスチナ里親支援活動であったらしいが、2003年頃から広河氏がDAYS JAPAN 創刊のための支援を求める活動を進める中で守屋氏が多額の寄付をし、株主になることと監査役に就任することについての広河氏の打診に応えたという経緯があったようである。以下、アウレオ社及び守屋氏による経済的支援を列挙する:

  • 大口株主になる(筆頭株主)。
  • 発刊前に数百冊の定期購読を約束し14年半(350万円/年)継続。総額約5,000万円。
  • DAYS大賞のスポンサー、総額1,400万円(14×100万円)
  • DAYS JAPAN誌への広告費用 各号30万円。
  • 広河氏の活動自体への支援:

映画「人間の戦場」*製作費用(上映による収入で足りない分)、保養施設「球美の里」へバス1台。

* http://www.ningen-no-senjyo.com/

  ただしアウレオ社は、デイズジャパン社で人手が足りないときや広河氏が対応したくない人事上のトラブルが発生したときなどに、同社の社員をデイズジャパン社に出向させて働かせるということまで何度も行っており、その人件費は全てアウレオ社が負担していたらしい。後述のように、この事情が広河氏によるハラスメントをより複雑化・助長していた面もあることは見逃せない

 そういう問題はあるにしても、アウレオ社、守屋氏による支援はデイズジャパン社の存続を財政面で支えた「大スポンサー」であったことは間違い無い。しかもそれは、デイズジャパン社、広河氏を無条件で支える一方通行という形でなされたようである。

*この原稿執筆中の1月12日、ハラスメント被害者の一人によるデイズジャパン社を訴えた損害賠償請求が提訴されたというニュースが流れた**。これは恐らく本件に関連して最初に司法的判断を求めるものになると思われる。

** https://mainichi.jp/articles/20200112/k00/00m/040/053000c

最近のアカデミックハラスメント例 (3)

【名古屋工業大学】

 最近の報道によれば、名古屋工業大学において、セクハラ・アカハラを伴う事例の発生があったそうである(2019年12月)。以下に、大学からの報道発表を転載する。また根拠とされたハラスメント防止ガイドラインのpdfを引用するする。割と厳密なガイドラインがあるのに、複数のハラスメントが一体になった悪質な事例の気がするが詳細は明らかでない。                                       ==========

懲戒処分の公表について

国立大学法人名古屋工業大学は、社会的説明責任を明確にするとともに、職員の服務に関する自覚を促し、不祥事の再発防止に資することを目的として、下記のとおり懲戒処分を公表します。

1.被処分者 大学院工学研究科 教授

2.処分年月日 2019年12月19日

3.処分内容 停職 3月                                  

4.事案の概要
同教授は、学生に対して継続的なセクハラを行った。また、教員及び学生に対して不適切な指導及び過度な言動により精神的苦痛を与えた。
これらの行為は本学が定めるハラスメント防止ガイドラインに反しており、同教授を懲戒処分として停職(3月)とした。                                       ==========

職員の懲戒処分について

 本学が定めるハラスメント防止ガイドラインに反してハラスメントを行った本学教授について、本日、当該教授を停職(3月)としました。当該教授の行為は、大学の教職員としてあるまじきもので極めて遺憾であり、被害に遭われた方や関係者の皆様に深くお詫びいたします。
 大学として、この度の事態を厳粛に受け止め、今後このようなことが起こらないよう、教職員に対してより一層の意識啓発を図り、また、体制を更に整えることでハラスメント防止に努めていく所存です。                              ==========

2019年12月19日 国立大学法人名古屋工業大学長 鵜飼 裕之

お問い合わせ先

本件に関すること 名古屋工業大学 人事課
①人事課長 箕浦(Tel:052-735-5010)
②人事課副課長 佐久間(Tel:052-735-5023)
上記電話番号が繋がらない場合は、(Tel:052-735-5375)までお願いします。
担当者から折り返し連絡させていただきます。
E-mail : roumu[at]adm.nitech.ac.jp

広報に関すること 名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp *それぞれ[at]を@に置換してください。 

名古屋工業大学ハラスメント防止ガイドライン  

【帯広畜産大学】

 帯広畜産大学では、助教によるアカデミックハラスメントについて、軽めの処分がなされたようであるが(2019年10月)、その後続いてさらなる処分が課され、少しもめている感じが見受けられる。処分に対する異議申立等の制度は勿論あるように思うが、どうであろうか。                                       ==========

教員の懲戒処分について(*2)

2019年10月31日

本学教員に対して,下記のとおり懲戒処分を決定しましたので公表いたします。

被 処 分 者:助教(男性・40代)
処分事案の概要:停職2週間の懲戒処分を受けたにもかかわらず,停職期間初日から計6日間出勤した命令違反
処 分 内 容:停職(6か月)
処  分  日:令和元年10月29日

【学長コメント】
本学教員がこのような行為を行ったことは誠に遺憾であり,心より深くお詫び申し上げます。また,今回の事態を重く受け止め,今後このようなことが起こらないよう,より一層規律の遵守を徹底し,社会の信頼回復に努めて参ります。

令和元年10月31日
国立大学法人帯広畜産大学
学長  奥田 潔

職員の懲戒処分について(*1)

2019年9月4日

本法人職員に対して、下記のとおり懲戒処分を決定しましたので公表いたします。なお、被害者のプライバシーを保護する観点から、本件の詳細につきましては、公表を差し控えさせていただきます。

被処分者:助教(男性・40代)
処分事案:ハラスメントに関する措置の遵守事項違反及び誠実義務違反
処分内容:停職(2週間)
処 分 日:令和元年9月4日

【学長コメント】
本学教員がこのような事態に至ったことは誠に遺憾です。
同教員の行為は、教員としてあるまじきものであり、被害に遭われた方をはじめ関係各位に深くおわび申し上げます。
今回、このような事態が発生したことを重く受け止め、教職員及び学生等への意識啓発を推進し、今後、このようなことが起こらないよう,再発防止にあたっていくとともに、信頼の回復に努めてまいります。

令和元年9月4日
国立大学法人帯広畜産大学
学長  奥田 潔

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帯広畜産大学ハラスメント規定 

帯広畜産大学ハラスメント対策ガイドライン

【静岡県立大学】

 2019年3月に、下記のような講師に対する処分が発表されている。これによれば、事案の発生は少し前(2016~2017年)で、長期に渡り複数の学生に対し様々なハラスメントが行われたようである。一般に大学では、学生の退学、卒業等により当事者が現場にいなくなると当局がうやむやにしたり握り潰してしまうことが良くあるが、時間をかけて調査し処分まで進めたのは評価できるのではないだろうか。但し、被処分者の性別明示は必要であろうか?

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本学教員による本学学生へのアカデミック・ハラスメント行為に係る懲戒処分について

本学学生に対してアカデミック・ハラスメントを行った本学教員を、懲戒処分としましたので、下記のとおり公表します。

処分概要

被処分者

静岡県立大学講師(女性)

処分の内容

停職1ヶ月

処分の理由

被処分者は、2016年4月から2017年6月までの間、被処分者のゼミに所属する複数の学生に対して、長期にわたり、繰り返し、学生の人格を否定する(傷つける)発言や、ゼミの主要な活動から排除されたと学生が受け止めてしまう発言、ゼミ活動の水準や位置付け・指導の方針などの基本的姿勢は徹底して不変とし、それに従うか他のゼミに移るかの「二者択一」を迫る発言、学生の心身の状況及びプライバシーに関する配慮に欠けた追い詰める発言を行うといった、アカデミック・ハラスメント(アカハラ)を行い、学生の修学上の権利を侵害した。

処分日

2019年3月27日(水曜日)

学長コメント

本学教員によるアカデミック・ハラスメント行為により被害にあわれた方と、その御家族、及び関係の方々に、心よりお詫び申し上げます。
高い倫理性が求められる教員がハラスメントを行うことは決して許されるものではなく、全教職員を対象とするハラスメント防止研修を行うなど、その防止に取り組んできた中での今回の事件は、誠に遺憾であります。
この事態を重く受け止め、ハラスメント防止対策を強化し、学生が安心して勉学に専念できる環境を整えるとともに、大学の信頼を回復するよう努めてまいります。
2019年3月27日
静岡県立大学 学長 鬼頭 宏

 【滋賀県立大学】

 この例も若干旧聞に属するが(2017年)、当時の副学長が処分されていることは特筆すべき点で、多くの大学でハラスメント対策や告発制度は名ばかりで機能していない(特に大学の執行部=幹部のメンバーは事務局長が防衛に回ることがしばしば)が、この大学では一定機能しており珍しく自浄作用があることを示唆している。また報道発表も匿名ではあるものの具体的なハラスメントの内容が細かく報告されており、処分の内容に相応する酷さであることが推測できる。以下、公開されている関連文書を紹介する。

==========

本学教員の懲戒処分について(お詫び)

 本学教員による女子学生に対するセクシュアル・ハラスメントについて、このたび該当教員に対し、停職等の処分を行いました。

 本学では、ハラスメントの防止に関する規程を定め、ハラスメント相談員を設置するとともに、研修会を実施するなど、良好な教育・研究環境の整備に努めてまいりましたが、このような事態となり、学生、保護者や県民の皆さまをはじめ関係者の方の信頼を大きく損なう結果となりましたことを深くお詫び申し上げます。

 大学として、今回の事態を真摯に受け止め、今後、このような事態が発生することのないよう再発防止に向けた取り組みを推進してまいります。

 1 被処分者   人間文化学部教授(60歳代 男性)

          (事案発生当時)理事・副学長 兼 人間文化学部教授

 2 処分の内容  停職2月(平成29年10月11日付け)

 3 処分の理由

    被処分者は、遅くとも平成27年8月には、申立者と現地調査の日程や集合場所等についてLINEを通じて頻繁に連絡を取り合っていたが、特に平成27年12月から平成28年5月までの間には、外出や食事といった調査研究に関係の無い個人的な誘いが13回、教員と学生との関係において不要とみられる日程確認のための連絡が5回認められた。

    また、当該期間中に調査研究とは関係の無い場所を私有車で申立者と2人で少なくとも3回訪問している。中でも平成28年1月2日には、申立者を調査だけでなく温泉に誘うとともに、翌1月3日には、実際に福井県内の道の駅に併設されている温浴施設を訪れていた。

    このほか、平成28年3月には、被処分者の依頼した作業に従事するため、申立者が学内に宿泊することを特に問題視することもなく認めるとともに、翌朝に申立者を誘い朝食を共にした。

    被処分者の一連の行為は、本学「ハラスメントの防止等のために公立大学法人滋賀県立大学役員および職員が認識すべき事項についての指針」においてセクシュアル・ハラスメントになり得る言動として例示する、「食事やデートにしつこく誘うこと」や「不必要な個人指導を行うこと」にあたるものである。

    これらの被処分者の行為は本学就業規則第45条第1項第1号などに該当することから、懲戒処分を行ったものです。

 4 再発防止の取り組み

    大学として、今回の事態を真摯に受け止め、今後、このような事態が発生することのないよう再発防止に向け以下の取り組みを推進する。

 (1)本日、理事長から事案の発生した人間文化学部の学部長および学科長に再発防止と学生に対するきめ細かな相談対応や就学上の配慮などについて指示した。

 (2)本日、緊急に各学部長および事務局管理職を招集し、理事長から再発防止の徹底を指示した。

 (3)役員・教職員と学生それぞれに対し理事長緊急メッセージを速やかに発出する。

 (4)教職員全員に学生とのLINEによる1対1のやり取りや2人きりでの出張など、学生との接し方についてあらためて点検する。

 (5)全学を対象にハラスメント研修を11月13日に実施するとともに、事案の発生した人間文化学部等でも別途研修を行い、教職員一人一人のハラスメントに対する認識を深めるとともに、ハラスメントの未然防止を徹底する。

    また、学生に対しても、あらためてハラスメントに関する相談窓口(ハラスメント相談員)を周知する。

 (6)被処分者については、二度とこのようなことのないよう外部機関の主催するハラスメント研修を受講させ理事長あて報告を求める。

平成29年10月11日                                        公立大学法人滋賀県立大学                                        理事長 廣川 能嗣

最近のアカデミックハラスメント例 (2)

【沖縄県立芸術大学】

 2019年6月18日付けの記事

https://digital.asahi.com/articles/ASM6L5TZ4M6LTPOB003.html?iref=pc_ss_date

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/434512

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/434738

によれば、沖縄県は県立芸術大学の教授を減給1/10 3ヶ月の懲戒処分にしたと発表したという。理由はアカデミックハラスメント、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント(の全て‼?)を行ったということらしい(「被害者が特定される」との理由で処分者の詳細は公表されず)。

 記事によれば、大学によると、教授は授業を受ける学生に対し立場を利用したり教育的配慮を欠いた言葉を言ったり、授業を補佐する非常勤講師に不快感を与える態度や言葉を投げかけたり、不特定多数の教員らに性的な言葉を吐いたりしたという。201711月、学生が大学に相談して発覚。調査の過程でパワハラやセクハラの被害申告があったという。比嘉泰治学長は「誠に申し訳なく、再発防止に努めます」とのコメントを出したという。

 また最近の記事(2019年9月11日付け)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/470034

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/470040

によれば、学生にアカでミックハラスメントをしたとして別の教授が減給処分1/10 1ヶ月を受けている。この件も被害者特定の恐れを理由に、教授の氏名や性別などを明らかにしていない。

 大学によると、教授は特定の学生に能力を否定するような発言をしたという。本人だけでなく、周囲に対しても学生を否定するような不適切な発言があったらしい。2018年2月に学生が被害を申し立てた。大学は調査を進め18年末までに被害を認定。処分発表までに9ヶ月を要した理由を「手続きの都合」と説明している。被害にあった学生はすでに卒業、教授は謝罪したという。

 ところで、大学のホームページでハラスメントに関する取り組みを見てみると相談窓口の案内も丁寧であり、申し込みはメールで可能で、随時相談が周りから知られない場所で行うとされている。平成29、30年度からはハラスメントに関するアンケートの集計結果(参考のため下記に引用)も掲載されており、評価できる(但し回収率は20 %以下ではあるが)。これらの努力は比較的頻繁に様々なハラスメントの告発と処分が行われるという形で実を結んでいると言えるかもしれない。

ハラスメント学内アンケート H29年度

ハラスメント学内アンケート H30年度

 OISTと沖芸大の例を考えてみると、人権侵害(ハラスメント)についての、ネット技術を駆使した全学的アンケートのようなものを学生や一般教職員の側から組織し、力を合わせてハラスメントの実態や隠蔽工作を暴いていくことも可能かもしれない。但し、結果を当局に通知する際、報告・告発により不利益を被らないことを当局に約束させることが不可欠であるが、、、。

【北里大学】

 学校法人北里研究所は、教育職員の男性(53歳)に3ヶ月出勤停止の懲戒処分を科したと発表(2019年2月15日付)*1。発表の中で、処分理由として、「被処分者は、所属する講師ならびに学生に対し、勤務形態、研究室運営、研究活動等の様々な局面で非違行為を行った」として、「その言動は、研究・指導・教育という業務上適正な範囲でなされるものではなく、発言自体その表現において許容限度を超え、著しく相当性を書くものであり、精神的・身体的苦痛を与え、研究室や教室内の環境を悪化させ、働く権利、就学上の権利を侵害した」と説明している。

 内容が具体的でなく解りにくいが、担当者によると、他の大学から来た教員が以前からその研究室にいた異なる研究を行ってきた教員や学生に自身の研究を強要するような行為が、「許容限度を超える」発現や行動によってなされたもののようである。被害を知った大学側がヒヤリング調査を実施して、その男性教員に対し、「再三注意してきたが改善が見られなかった」ため今回の処分となったらしい。

 多分この事件を受けて大学当局は4月1日付で『ハラスメントは許しません!!』と題する通達?を出している。また、平成20年(2008年)4月1日には『人権侵害防止宣言』が制定され、その後も相談体制を整備しつつ『人権侵害(ハラスメント)防止のためのガイドライン』、『人権侵害防止委員会規定』、『人権侵害防止相談員細則』などを制定して取り組みを進めてきたようであるが、今回の事案は防ぎきれなかったようである。文書を制定し体制を整備する(今ではどこでもやっている!?)だけでは、それらのまともな運用が保証されないことには十分注意すべきである。組織構成員の絶えざる学習(研修)とハラスメント撲滅への自覚的な点検と相互の注意喚起等が日常的に要請される。

*1 https://j-cast.com/2019/02/18350648.html?p=all

最近のアカデミックハラスメント例 (1)

【学校法人】沖縄科学技術大学院大学【学園】

沖縄タイムスの記事

2019年3月20日付の沖縄タイムスの記事

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/402920

によれば、沖縄科学技術大学院大学(Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University, OIST)で昨年、匿名の学内有志によるインターネット上の意識調査があったという。現役やもとの教職員78人が回答した驚くべき結果は、回答者の58 %が「自身が被害に遭った」、85 %が「被害に遭った人を知っている」と答えていたという。セクハラについては「自身」が11 %、「知っている」が41 %であったという。一方で、自身や他者のハラスメント被害を大学当局に通報したのは19 %であった。理由(複数回答)は「何かが変わるとは思われない」が69 %、「報復を恐れた」と「苦情申し立て手続きが機能していない」が各51 %であったという。また、自由記述には、「通報しても権力者が有利に手続きを進めてしまう」、「報復として共著論文の著者から外されそうになり、形だけの謝罪をした」などの意見があった他、「自分の身分を心配せずに意見を述べる仕組みがあるか」という質問には、90 %が「いいえ」と答え「独裁体制で、退職するほかに選択肢がなかった」などの記述もあったという。

 調査は昨年11月で、学内のスティーブン・エアド博士らが専用サイトのアドレスを匿名メールで教職員や学生に知らせる形で始まり、エアド氏はその後名乗り出て大学当局に結果を通知したという。調査を一つの契機として教職員労組を結成し委員長に就任したエアド氏は、「OISTはパワハラと権力乱用の文化を育んでおり、調査結果は幹部への告発。実態を知るものとしては驚きではない」とかたったという。一方OIST当局は取材に対し、「回答はごく少数」、「実際に定義によりハラスメントと認められるものが不明」と指摘しつつ、教職員・学生は、「機密性に配慮した学外の専用ホットラインや副学長、研究科長に報告したり相談することができる」としている。報道を受け?4月2日付で大学ホームページに掲載された「OISTにおけるハラスメント等に関する一部報道について 」と題する文書を下記に掲載しておく。

 ただ、その後2019年5月11日の沖縄タイムスの記事

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/418520

によれば、上記のOIST教職員労組のスティーブン・エアド委員長が、当局から6月中旬限りでの雇い止めを通告されたということである。昨年結成された労組側は結成の報復で違法だと批判しているが、OIST当局は否定しているという。ハラスメントの確認・再調査(アンケート?)等の取り組みなしにいきなり解雇とは!?

 

新聞記事へのOISTからのコメント

2019-04-02

OISTにおけるハラスメント等に関する一部報道について

 3月30日付沖縄タイムス紙に、本学における職場環境について匿名の調査アンケートが実施され、本学に広く不満とハラスメントが存在とする記事が掲載されましたが、当該アンケートは本学によって公式に実施されたものではないこと、また、本学はいかなる形のハラスメントも許容しないということを明確にしたいと考えます。

 当該報道で指摘されているとおり、この非公式アンケートの回答数はごく限られており、本学の在籍職員及び元職員1700名以上のうち、僅か78名の回答によるものです。

 本学は、いくつかの相談窓口を設け、各所から寄せられる全ての苦情やハラスメントを検討し、対応しています。本学は、「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」に基づき、全ての者が尊厳と敬意をもった扱いを受けることができる、安全で互いに尊重しあう環境を築き、これを維持することを約束しています。「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」は本学の基本的価値観(コア・バリュー)であり、本学は、いかなる形であっても、尊重の念を欠くコミュニケーション、差別、ハラスメント、いじめ行為を容認しません。

 セクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメント、その他のハラスメントなどの「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」に反する行為を受けたと考える場合やそのような行為を目撃した場合、OIST教職員・学生は、機密性に配慮した本学外の専用ホットライン、副学長(男女共同参画・人事担当)または研究科長に報告したり相談することができます。

 本学のすべての教職員・学生はセクシャル・ハラスメント防止研修について受講が義務付けられています。また、「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」に関する研修などを受講し、苦情や係争の解決手続きなどに関する相談窓口や相談方法等についての理解を深めることが推奨されています。

 すべての教職員・学生がいかなる種類のハラスメントの訴えについても機密性とプライバシーが保たれた形で解決を求められるようにするのが本学の基本方針です。本学が報告・相談を受けた事案に関しては、いかなる情報も公開しません。また、今後、職場環境についての独立したアンケート調査を実施する予定です。

【終り】

 記事の中ではさらに、次のような幾つかの重要な指摘がなされている。

1) 意識調査では、「幹部が腐敗している」など強い批判の言葉が並部上に、ハラスメント被害が多いだけでなく、被害の訴えを諦める人がもっと多いのは深刻で、上下の信頼関係が成立していない恐れがある。

2) 確かに、回答者数は78人と1,700人の現役在籍者の1割を下回っている。大学当局も少なさを指摘しているが、理由の一つは、当局自身が調査を「フィッシング詐欺」だとして回答しないよう全学に呼びかけたことにある。即ち匿名の調査は妨害されていた形跡がある。

3) 教職員の多くは短期契約を更新している身分であるため幹部に対する立場は弱く、ハラスメントが起きやすい土壌は存在する。

4) 広範囲な調査ができずOISTにおけるハラスメントの全容はわからないままであるが、調査結果に現れた当事者の声は切実であり、数の多少で片付けてはならない。この結果に対する当局の誠実な対応こそ、今後の信頼関係構築と被害掘り起こしや対策につながると思われる。

 これを読むと、研修は行っているし相談できる制度は整っているという通り一遍の言い訳に終始している。決定的に欠けているのは、創立以来既に8年も経過しているのにハラスメントを監視する制度の運用実績などが全く報告されていないことである。この8年間、関連事案は1件も無かったのであろうか?それは制度自体が機能していなかったことの証ではないだろうか?

「大学院大学」とは?

ところで、「大学院大学」なるものを皆様ご存知だろうか?文科省のホームページ

https://mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/attach/1335437.htm

によれば、「大学院大学」は国内に国立4大学・13研究科、公立1大学・1研究科、私立10大学・11研究科となんと15大学もある。その内ほとんど国費で運営されている(予算の大半が文科省からの運営費交付金)国立大学は、総合研究大学院大学(設立1988年)、北陸先端(同1990年)、奈良先端(1991年)、政策研究(1997年)の4校であり、1990年代の国立大学の大学院重点化政策に先んじて設立されている。いわゆるパイロット大学としての試みであるが、学部を持たないため大学院重点化の影響は避けられず、奈良先端を除いては定員割れが続いているところが多い。

  それでは、沖縄科学技術大学院大学とは何なのか?やはり日本政府が運営資金を提供するが、特別な私立大学と位置付けられ、公式には学校法人沖縄科学技術大学院大学学園が設置者となっている。特にOISTは「世界最高水準」、「最先端」などを標榜し、新年度も200億円弱の国費が投入されている。これは複数の文系理系学部をもつ中規模の国立大学のほぼ2倍の予算である。他の国立大学院大学にも同様な点が見受けられ、いずれも数100から2,000人以下の小さなコミュニティで、比較的優遇された予算の下、パイロット大学としてのパフォーマンスが要求されている。これらの事情は成果第一主義で失敗が許されない風土を生み、様々なハラスメントの温床になっていて、自殺者も多いという噂も聞く。実際、インターネットで「大学院大学、ハラスメント」と検索してみても殆ど報道記事や処分例が出てこない。これらはまさにハラスメントに類する事案が設立以来ずっと取り上げられることなく握りつぶされ、相談・検証・処分の体制が殆ど機能していないことを示唆している。これから進学などを考える学生や父兄の皆様には、進学予定先のこのような点も(人伝などで)調べることを強くお勧めする。OISTにも今後他の大学院大学と同じ轍を踏むことなく、研究成果の創出や沖縄振興への貢献に注力できるハラスメントの無い環境を作りあげることが求められている。

DAYS JAPAN広河隆一氏による「性暴力事件」について (3)

広河隆一氏「性暴力事件」に関連する本ブログの記事について

 これまで(1)(2)で見て来たように、この事件は、限られた業界・分野で強大な権威をもつ人物が自分の特定分野における業務上の実績・権威に基づく周囲の畏怖、尊敬の念を、無意識に又は意識的(故意)個人的・性愛的関係における魅力・好意に刷りかえ(圧倒的勘違い)、自分の性的暴力を継続したり正当化しようとしたきた典型例でもある。ところが、アカデミックハラスメントを主に扱う本ブログでも既に多くの類似例(以下参照)が報告されている。

アメリカサイエンス(学術)界のセクハラ事件 (1)

アメリカサイエンス(学術)界のセクハラ事件 (2)

セクハラ常習教員がのさばりはびこった結果組織モラルが崩壊 (1)

セクハラ常習教員がのさばりはびこった結果組織モラルが崩壊 (2)

セクハラ常習教員がのさばりはびこった結果組織モラルが崩壊 (3)

 アカデミックハラスメントでは、政界、マスコミ・ジャーナリズム業界等で最近話題になってきた「性暴力」事件が、大学・研究機関や学会等では、話題になり難い故に、もっと頻繁かつ悪質な形で起きていること、を是非判って頂きたいと思います。考えてみれば、政界、ジャーナリズム業界、(医)学会のいずれもこれまで男性が圧倒的な力を持ってきた業界です。出生率が上がらないのは残念ながら女性の人権を無視し続けてきた男性のせいであるのは間違いないようです。

 アカデミックハラスメンについては、あなたの親族・友人やあなたの大切なご子弟が、このような被害を日常的に受けている可能性は決して稀ではない、ということを再認識して頂きたいです。注意深い眼で是非周囲を眺めて頂き、おかしいなと思ったら是非声を上げて下さい。もちろん所属組織外のわれわれに連絡頂いても結構です(ご相談・お問い合わせ メニュー参照)。

DAYS JAPAN広河隆一氏による「性暴力事件」について (2)

「その後」の経過

 3月20日のDAYS JAPAN最終号の発行後の動きは余り多くないようである。目に付いたものは以下の記事であるが、見落としがある可能性があり、その場合はお赦し頂ければ幸いである。これに関しては、参考になるまとめサイトの記事https://togetter.com/li/1330896もあるので、是非ご参照頂きたい。

 

2019/3/22 写真誌(DAYS JAPAN)元スタッフ・元社員らが「DAYS元スタッフの会」https://days-former-staffs.jimdofree.comを結成。これまで同誌などに関わったスタッフらに連帯を呼びかける声明も発表。「証言を集め、問題を多方面から検証したい」としている。 

https://www.kanaloco.jp/article/entry-155962.html

https://www.kanaloco.jp/article/entry-160098.html

https://www.asahi.com/articles/ASM3N6VFDM3NUCVL01V.html

  「元スタッフの会」のホームページ上にある「会」発足声明、ケース集のページは是非訪れて頂きたい。前者には、<会の目的>、<会発足の経緯>、<呼びかけ>が含まれており、特に<会発足の経緯>には、(1)で触れたDAYS JAPAN 社の人事の「混乱」に絡んで、被害者を含む当時の事情を知るスタッフがほぼ全員排除されたことが述べられている。また、外部の第三者委員会の検証に協力しないもう一つの理由として「当時の社員数名が『検証に応じてなされた証言を役員が検閲するか』を確認したところ、『会社に不利益になるものを載せないのは当然だ』との回答があった。自分たちの証言が意図的に改変、もしくは隠蔽されることを懸念している」とし、独自の取り組みを進める拠り所としている。 

2019/3/24 シンポジウム「広河隆一氏の性暴力から考える」(主催:早稲田大学ジャーナリズム研究所)が開催され、ジャーナリストら約160人らが参加。 

https://www.kanaloco.jp/article/entry-156475.html

https://mainichi.jp/articles/20190326/k00/00m/040/361000c?pid=14516

https://buzfeed.cpm/jp/akikokobayashi/days5?bffbjapan&utm_term=4ldqpgp#4ldqpgp

  上記記事によれば、登壇者は週刊文春で問題を最初に報道したライターの田村栄治氏、バズフィードジャパンの小林明子チーフニュースエディター、「メディアにおけるセクハラを考える会」代表の谷口真由美・大阪国際大准教授、後藤弘子・千葉大大学院専門法務研究科長。司会はアジアプレス・インターナショナルの野中章弘代表で、各識者が最終号の検証報告をどう見るか、意見を述べたようである。他に、参加していた津田大介氏(ジャーナリスト)やフェミニズム思想に詳しい岡野八代・同志社大教授らも発言したという。ここでは特に、谷口氏と後藤氏の意見を紹介する:

 谷口氏;「(検証号)第2部(後述)への協力依頼があったが断った。事前に広川氏の面談調査の結果もわからないということだったので、協力しようがないと判断した」、その上で「この段階では検証になっていない。資料的価値があるかもしれないが、報道の自由は何のためにあるのか。性暴力被害に真摯に向き合っているのか」と問いかけたという。

 後藤氏;「広河氏がどう責任を取るのか、DAYSとしてどう責任を取るのかが全く見えない報告書」と感想を述べ、「刑法の強制性交罪の成立には暴行や脅迫が必要という『暴行脅迫要件』を取り上げ、「2017年の刑法改正時にこの要件の撤廃を求める声が強く上がっていたが、実現しなかった。『暴行がなければ性暴力に当たらない』という主張は加害者の典型的な弁明だ。ここで広河氏の『合意だと思っていた』という主張を掲載することで、今後同種の事案で加害者が『合意』を主張する際にこれが利用されるのではないかと危惧している」と話したという。 

3月20日最終号の内容について

第1部:検証委員会報告

 (1)で述べた3氏(金子雅臣、上柳寿郎、太田啓子)がメンバー。「会社の干渉なく独立して検証を行うことを条件として3人は委員として就任した」とされ、「休刊後も関係者のヒアリングを続け最終報告をめざす」ようである(ネットで発表?)。上記の幾つかの記事やシンポジウムで指摘されているように、広河氏の面談調査(聞き取り)結果がメインで被害実態の調査や検証結果は無い。この調査は、「担当者」が聞き取りを行い、広川氏の主張に逐一考察を加える形式でまとめられていて、「広川氏個人の、極めて不十分な個別の問題点が次々と指摘され、注意に鈍感な子どもに行うような「説教」が行われている印象である。その一方で、圧倒的な権力をかさにきて行ってきた多くのセクシャルハラスメント(性暴力)、それと表裏一体であったパワーハラスメント、さらにはそれらを許容してきた取り巻きの人々などの問題、などの具体像が殆どなく、全体像が極めて見えにくくなっている。この問題の根本的解決には、最終報告書を待つしか無いのであろうか?果たしてそれは十分なものになるのか、今後も注視して行きたいと思う。以下にはQ1~Q8まである問答の内、Q1とQ6について、広河氏の解答と調査担当者の見解を要約して載せる:

Q1 デイズジャパンで扱ってきた性暴力と自分の性暴力の違いは?

(広河)DAYS JAPANはこの15年間40~50もの多くの「女性に対する暴力」に企画を取り扱ってきた。発刊の志の幾つかの柱の一つでもあった。それゆえ「私は自分が性暴力で女性を傷つけていることを指摘されても、当初は全く理解できませんでした」。そこで、もう一度考えたとき「私がDAYSで扱った『女性への暴力』は『あからさまな暴力』、『身体的な暴力』と捉えていたが、、、、『あからさまでない暴力』、『非身体的な暴力』は無視していたことに気づいた」。非身体的暴力によるその及ぼす傷の深さ等について、私の被害者が10年後でもPTSDを発症していることを知り、はじめて加害の可能性を認識することが出来た。これまでは「女性への暴力の一面しか取り上げることが出来なかった。

(調査担当者)外見的には、氏の言う「合意」に基づく「性的な関係」は「あからさまな暴力」とは一見全く無縁に見えるが、実は地続きの同根の問題である。問題の焦点は「暴力的かどうか」の外見ではなく、まさに意に反した強制されたものかどうかである。この意味で本来重なるべき二つのテーマが広河氏の中で(都合良く)分離されていることが大きな疑問となっている理由である。この問題に氏は真正面から答えねばならない。

Q6 「不本意な合意」「合意の強要」

(広河氏)私は、相手の同意があればそれはセクハラではないと考えてきた。(しかしながら)相手がいくら合意しても、その合意の中身は本意ではなく、仕方なく、つまり合意せざるを得ない立場や力関係で合意しているのだと考えるべき、という考え方は私に取っては新しいものであった,,,この中身や深さは、正直言って中々理解することは困難であった。男女間では合意があればいいのだと考えていて、田村氏が女性達を取材した結果では、合意は認められると述べていたから、まさか私の行為が「性犯罪」として週刊文春に掲載されるとは思ってみなかった。

私に対して、「強姦」とか「レイプ」という言葉で批判がされている。それに対して「合意があった」のだからそれらには当たらない、またあからさまな暴力などは用いていないのだから、それらと私の例とは一緒にしないで欲しい、などと(自己防衛の)言葉を繰り返してきた。しかし私自身も「強姦」とは何かというとき暴力や脅迫を思い浮かべるいわゆる「強姦神話」に影響を受けてきたことがわかってきた。

被害を行けたという方には謝罪しなければならない。「性暴力」や「セクハラ」、「パワハラ」に対する認識を深めながら、事実を確定する作業も行い、被害者にはきちんと謝罪を出来るようにしたい。

(調査担当者)広河氏は当初「暴力は無く」、「合意があった」として女性(達)との性的関係がレイプに当たらないのは当然だとしていたが、その後「非身体的暴力」、「不本意な合意」という言葉を知り、相手との関係性における自らの地位が、相手に「不本意な合意」を強いていた可能性について言及するに至っている。氏が「合意」と感じていたものは、不本意に「合意」せざるを得なかったという状況であり、はじめから合意しないという選択肢がほぼ存在しない状況における「合意の打診」は実質的には「合意の強要」に等しい。

 ただそもそも、なぜ当時、氏が「当該女性達との間で対等に自由な合意を形成できる余地があった」と考えたのかはやはり疑問である。氏にはどこかで、相手が自分に向ける敬意や信頼を利用し、それに乗じて若い女性と性的関係をもつことが出来るという意識はあったのではないか。問題は、「僕『の仕事』に魅力を感じたり憧れたりしていた女性達」が氏に向ける敬意の目線を、氏が勝手に恋愛感情や性愛的な行為に読み替え、それに基づいて行動していたことである。これらの行動を自己正当化する根拠として、形式的「暴力が無く」、見かけ上の「合意があった」と強弁しているだけの気がするがどうであろうか?

第2部:「性暴力ハラスメント」にみる構造とは?についての意見

 この部分の責任編集者は林美子氏で、肩書きはジャーナリスト、「メディアで働く女性ネットワーク(WiMN)」代表世話人、元朝日新聞者記者、などとある。多分、ネットや業界では有名人なのではないかと思われるが、素人の1読者にとっては(説明が無いので)なぜ林氏がえらばれたのか、どうして適任なのかもピンと来ないのが正直なところである。そうなると提示された内容で判断するしかないが、「広河氏の性暴力をどう考えるか」という編集責任者を引き受けた思い(経緯)について書いた文章に簡単にコメントしてみる。

 朝日の記者時代からの広河氏との付き合い(その際は氏がそういう人物であることに「全く気付かなかった」としている)に触れた後、今回の最終号の編集依頼があったときのDAYS JAPANからの説明を紹介している。すなわち「最終号を、広河氏の事件を含め、性暴力やセクシャルハラスメントが蔓延する日本社会の構造について読者が考えるきっかけとしたい、それがジャーナリズム雑誌としてのDAYS JAPANの最後の務めだ」というものであったらしい。この時点では、林氏自身は、やめていった編集部員だけでなく肝心の被害者からも殆ど話を聞けないまま最終号を出すことになるとは予測していなかったかも知れない。しかしながらこの説明により編集責任を引き受けたことが、第1部の不完全さにより、結局広河氏の件を日本社会の構造一般の問題に薄めてしまおうというDAYS JAPAN側の(無意識の?)意図に結果として協力することになっている気がしてならない。検証号で必要なのは、いまさら上から目線で読者を「指導」するのでなく、一つ一つの具体的事実の詳細な発掘・調査と広河氏本人への確認であろう。それをやらないまま、加害者本人に弁明の機会のみを与えることはあってはならない。まさに、第1部の不完全さが第2部の意義を台無しにしている可能性は大きい。以下、「性暴力を理解する」、「権力とは何か」、「同意と合意」、「ハラスメントとは何か」という記述が続くが、以下の内容と重なることも多いのでここではあえてスルーする。

 インタビュー記事などを寄せた方々(9名)もいずれも詳しく存じ上げないので、これも私自身が勉強になった(刺激を受けた)と思うものを幾つか紹介するに留める。まずは全員の記事の小見出しと筆者を記しておく(敬称略)。これで内容もかなり推測できる。

1) 男性は女性を鏡にする自称「反権力、反体制」男性が陥る「権力志向」   伊藤公雄(京都産業大学客員教授)

2) セクハラ「常態化」するメディアメディア・記者こそ生活感・人権感覚を取り戻そう 南 彰(日本新聞労連中央執行委員長)

3) 自分の持つ影響力や権力に自覚を 

大澤祥子(一般社団法人ちゃぶ台返し女子アクション共同代表理事)

4) 対等でなければ同意はない同意がない性的行為は性暴力である

山本 潤(一般社団法人Spring代表理事)

広河氏の性暴力事件について「刑事的に責任を取らせるのはおそらく難しい」としつつその必要性を考えたいとしている。その中で、「加害者が『同意があった』と誤信したら無罪になってしまう」日本の現状に対し、ドイツの刑法、及びイギリスの性暴力対策法の考え方を紹介している。

ドイツでは、2016年の刑法改正で、加害者による暴行脅迫は性犯罪の成立要件ではなくなったという。またイギリスの「対策法」では、「能力」と「自由」がそろって初めて「同意」ができる、と書いてあるという。ここで「能力」とは、年齢や、知的障害の有無、酩酊状態かどうかといったことで、「自由」とは、暴行・脅迫や上位にある地位の利用がなく、その人が断る自由が保障されていること、であるというすなわち、対等という関係がなければ同意というものは存在しない従わなければいけない状態があればそれは性暴力だ、ということになる。

また、組織における「権限」について、上のものが持つ権限はきちんと仕事をするための権限であって、(相手に同意を得ず)性行為をするための権限でも、怒鳴ったりしてストレスを発散する(パワハラをする)権限でもない、という基本的な指摘もしている。大切なのは、「女性を同じ人間だと思い」対等に扱えるかという点で、外国で見かける性的に成熟した対等な関係で、高め合い尊重し合う関係が日本ではなかなか目に見えないとされる。Springの活動を通じ目指していることは、「同意がない性的行為は性暴力」という認識を世の中の当たり前にすることで、特に今は、刑法の暴行脅迫要件の撤廃について活動をしている、すなわち、「性行為に同意はなかったが、暴行脅迫も無かったから有罪にできない」みたいなおかしな話は終わらせたいという。

5) セクハラを周囲が黙認することは加害者にお墨付きを与えていること

牟田和恵(大阪大学大学院人間科学研究科教授)

「権力」関係はどんなにミクロでも「認知のゆがみ」を引き起こし、無自覚かつ残酷なセクハラ、パワハラを引き起こすことが指摘されている。それと同時に、第三者(傍観者)による黙認は加害者の許容(と被害の一層の拡大・長期化)につながることも述べられ、特に男たちが声を上げることの重要性を説いている。「男の加害者は男が注意すれば聞く。だからこそ大多数の男性の意識を変えていかなくてはならない」としている(高齢男性の私も実感として賛成)。性暴力や性被害を扱う視点を加害者〜男性から被害者〜女性へ変えていかないといけない、という結論は重要であると感じる。

6) 人間を「モノ」として見る価値観が、差別と暴力の構造を生んでいる

野中章弘(アジアプレス・インターナショナル代表)

7) 広河氏の問うた戦争被害者への視点とは何だったのか

玉本英子(ジャーナリスト)

8) 左翼の男性たちに告ぐ 反省することは大事ですよ

濱田すみれ(アジア女性資料センター事務局)

「一言で言うなら、(これまで散々セクハラ、パワハラをやってきた)左翼の男たち、いい加減にしろ!ってことですね」。同感。家庭生活における両性の平等をうたっている「(憲法)24条を変えさせないキャンペーン」も重要だと感じる。多分全ての根はそこかも知れないと思う。

9) 閉鎖的な組織に潜むカリスマによる性暴力

白石 草(OurPlanet-TV代表)

「なぜ、これほど過酷な被害が、長い間封印されていたのか」という問いから始まる寄稿は、広河氏がまさに「人権派のカリスマ」であったことによる圧倒的な権力格差とそれを許した周りの人間・組織にその答えを見出しつつ、新しいメディアに相応しい新しい組織規範を紹介している。オルタナティブメディア(↔マスメディア)が掲げるべき条件(*1)がそれであるが、これが既に1960年代に提唱されているのには正直驚いた。また、実際に「組織内で声を上げることや被害を訴えることの難しさ」についても提案がある(高齢男性である私にとっても、第三者として加害者に注意することさえ大変勇気がいったので、この難しさは少しは想像できる)。それは、現在ある、子どもへの暴力防止プログラム「CAP (Child Assault Prevention)」(*2)のような道具・技術を背景にした取り組みがメディアで働く女性には必要ではないか、という指摘である。「このような性暴力やそれを生み出す構造を改善するには、加害者を減らすしかないが、加害者は殆どの場合無自覚なのでそれには膨大な時間がかかる。なるべく早く密室での次の被害者をなくすためには女性自身が自分の権利を主張し、自らの体と心を守るしかない」としている。

*1 「Zマガジン」を立ち上げた社会活動家、マイケル・アルバートによる(訳:神保哲夫『オルタナティブ・メディア〜変革のための市民メディア入門』より。

*2 日本でプログラムを扱っている団体は現在2つあると思われる(東日本と西日本?):

https://cap.j-net, https://j-capta.org/cap/index.html

 最後のコラム「OUTLOOK」を本号にも書かれている斎藤美奈子さんの記事が経営陣の問題に明確に言及・危惧していることが印象に残る。

DAYS JAPAN 広河隆一氏による「性暴力事件」について (1)

(1) 大体の事実経過

この「事件」については既にご存知の方、びっくりされた方も多いと思うが、未だ混乱が収束したと言う状況ではないこの時期(2019年8月現在)に、あえてこれまでの経過と事件の内容・本質について、本ブログ(アカデミックハラスメント情報資料室)の関係者でDAYS JAPAN の一読者の立場から、出来る範囲でまとめ、コメントを試みたい。

まずおおざっぱな事実経過は次のようなものであろうかと思われる(細かい点は正確でない可能性有り)。

 

2018/12/26  この日発売の「週刊文春」19年1月3日・10日号は、広河隆一氏(*1)が事実上主宰していた雑誌DAYS JAPAN (*2) の元ボランティア等7人の女性達による、広河氏の10年に渡る性暴力・セクハラ被害の証言 (*3) を掲載・告発。     

       同日、広河氏自身から短いコメント(*4)が出され、またDAYS JAPAN発行元((株)デイズジャパン)からもコメント (*5) が発表された。

       デイズジャパン社からのコメントでは「広河氏が被害者の方々の尊厳を傷つけてしまった」と詫び、広河氏の代表取締役等からの解任を報告している。また「弊社として、広河氏の言説を看過するわけにはいかず、これに与する立場ではない」として、本人に今後の誠実な対応を求めると同時に雑誌刊行への取り組みの意志を示している。

2018/12/31   (株)デイズジャパンより2回目のコメント(6*)。事件の検証をDAYS最終号(もともと3月末で休刊予定)で公表すると表明。

       この声明では、上記7名以外にも「性暴力」被害者がいたこと、「性暴力」とは別に社員・協力スタッフに対するパワハラともいわれる事例があったことなどを認め(度々の問題提起に対し会社として真摯な対応をして来なかったが)、具体的に踏み込んだ内容となっている。今後については(責任者を入れ替え?)引き続き広河氏個人に対する調査と誠実な対応の要請を続ける他、会社についても今回の問題について「組織としてのありよう」を検証し、最終号で公表するとしている。

 2019/1/31    8人目の被害者が毎日新聞に実名手記を発表。タイトルは「性犯罪の温床を作り出したデイズジャパンの労働環境」で、編集部での過酷な長時間労働やハラスメントが蔓延していた実態を詳述し、広河氏の性暴力が永年隠蔽されてきた背景を分析している。すなわち会社ぐるみで許容されてきたパワハラ体質と性暴力は密接に関係していた訳である。 

http://mainichi.jp/articles/20190131/k00/00m/040/128000c

同日     「週刊文春」2019年2月7日号は、元アルバイトの女性による新たな性暴力被害の証言を掲載。広河氏からの依頼で海外取材に同行した際、現地で部屋が一つしか用意されておらず、取材先の男性スタッフ達から性交渉の依頼があること(真実か?)を伝えられた上で「彼らとセックスするか、僕と一つになるか、どっちか」と迫られたと言う。それから2週間は「悪夢のような日々」であったと語っている。

 2019/2/15    DAYS JAPAN社、最終号の発売を1ヶ月延期すると発表。当初2月20日発売の予定であったが、広河氏によるセクハラ・パワハラ行為についての会社としての検証記事を掲載するとしていた。発売を320日に延期し、3・4月合併号とする (7*)

       この間の編集部、取締役会、検証委員会の変遷に関しては注8*で触れているが、何れにしても、雑誌の最終号で今回の事件の検証を担うべき中心メンバーを巡る混乱振りは素人目にも明らかである。私自身、ジャーナリスム業界や出版界を殆ど知らないので、次々出て来る個人名にコメントのしようも無いが、雑誌を支えてきた人々が受けた衝撃の大きさがその混乱に現れているのだろう。

       次の記事では、本事件の「検証」をめざし、3月中旬に刊行された3・4月合併号(最終号)を紹介し、重要と思われる幾つかの論点(広河氏個人、雑誌デイズジャパンは説明責任を果たしたか?個人及び会社の検証は十分に進んだか?広河氏、或はデイズジャパンの「実績」は全否定されるべきか?)について一読者の観点からコメント・感想を述べてみたい。

 参考記事

https://wezz-y.com/archives/62586

https://abematimes.com/posts/5471992

https://businessinsider.jp/post-182763

https://biz-journal.jp/2019/02/post_26520.html

https://buzzfeed.com/jp/akikokobayashi/daysjapan

DAYS JAPAN 2019年2月号、3/4月合併号(最終号)

 (2) 注1*~8*

*1広河隆一氏 人権派フォトジャーナリストとして知られ「被害者の立場に立って」パレスチナ、チェルノブイリ、福島等についての取材・報道に取り組み、2004年より15年にわたり報道写真誌「DAYS JAPAN」の編集長や発行人をつとめた。75歳。

*2 DAYS JAPAN 一時期定期購読者数は一万人を超えたとも言われる。また、世界的な報道写真賞でもあるDAYS 国際フォトジャーナリズム大賞を主催し、ここ何年かは世界の報道写真家に多くの(副)賞を選考・贈呈している。各地でこの写真誌の「読者会」なるものも結成され、写真展を企画するなど草の根的な支援層も日本各地にあったもようである。

*3性暴力・セクハラ被害の証言 証言の詳しい内容は、元記事を参照されたいが、例えば、2007年頃編集部でアルバイトをしていたジャーナリスト志望の女子大生:広河氏から「僕が写真を教えてあげる」と都内のホテルに誘われ、セックスに持ち込まれた。かねてより編集部内での師の権力を目の当たりにしており「逆らってはいけない人」との思いがあったため断れなかった。その後も業務で叱責されたあとに性交を強要されるなどしたが、立場的に「ここで見放されたらジャーナリストの道は開けない」と思い込み応じてしまった。2008年頃編集部で働いていた当時18歳の女子大生:氏からアシスタントの話をもちかけられたが「アシスタントになるなら一心同体にならないといけないから、体の関係ももたないといけない」と言われ、ジャーナリストの夢のためにセックスに応じた。女性は「断ったら弟子失格の烙印を押されるのではないか」との思いからその後も関係は続いた。その結果。女性は「中くらいのうつ」と診断され、大学を休学、DAYS JAPAN編集部からも離れた。その後写真から離れた生活を送っていたが、東日本大震災の際に広河氏から「アシスタントとして一緒に来ないか」との連絡を受け、夢を諦めきれずに同行。しかしその出張先でも、高熱と薬の副作用で意識朦朧の中、性交を強要された。他にもDAYS JAPAN に関わっていた複数の女性が、「写真を教える」という名目のもとヌード撮影を強要されたり、肉体関係をもつよう誘われたりした過去を暴露している。編集部内で、広河氏によりその圧倒的立場を利用したセクハラが多くの女性に対し長期間行われていたという許し難い恥ずべき状況があったことは疑う余地はないようである。

文春の直撃取材に対し、広河氏自身は女性達との肉体関係は認めつつも「望まない人間をホテルには連れて行かない」、「僕に魅力を感じたり憧れたりしたのであって職を利用したつもりはない(良く聞く論法!)」と反論・弁明している。

 

*4 広川氏自身からのコメント(全文写し)

週刊文春2019年1月3日・10日号に私に関する記事が掲載されました。

この記事に関して、私は、その当時、取材に応じられた方々の気持ちに気がつくことが出来ず、傷つけたという認識に欠けていました。私の向き合い方が不実であったため、このように傷つけることになった方々に対して、心からお詫び致します。

なお、今回の報道により、私は、株式会社デイズジャパンの代表取締役を解任され、取締役の地位も解任されたこと、またNPO法人沖縄・球美の里についても、名誉理事長を解任されたことをご報告いたします。

2018年12月26日 広河隆一

 

セクハラ行為自体についての言及・謝罪は全く無いまま、直撃取材時の反論から唐突にお詫びに転じているがその理由は違和感がある。果たして「向き合い方」の問題だろうか?「気がついていなかったから」あるいは「傷つけたという認識はなかったので」行為自体は仕方が無かったとでも言っているように聞こえる(轢き逃げと同じ?)。

 

*5 デイズジャパン社からのコメント(コメント全文)

読者のみなさまへ

  週刊文春201913日・10日号に掲載された広河隆一氏の記事に関して

  週刊文春2019年1月3日・10日号に掲載された広河隆一氏の記事に関して、本年12月24日、広河隆一氏(以下「広河氏」)から取材を受けたとの報告があり、弊社としては、直ちに広河氏に対して、聞き取りを行いました。

  その結果、広河氏としては、その当時、取材に応じられた方々の気持ちに気がつくことが出来ず、傷つけたとの認識を持っていなかったこと、傷つけたとの認識を持ち得ないまま今日に至ってしまったことを確認しました。

長年にわたってDAYS JAPAN誌の編集長・発行人としてかかわってきた広河氏が、被害者の方々の尊厳を傷つけてしまったことに対して、弊社として、心からお詫び申し上げます。

弊社としては、DAYS JAPANが標榜する理念に照らしても、極めて深刻な事態だと認識し、こうした事態を踏まえ、昨日、臨時取締役会を開催し、広河氏を代表取締役から解任し、また、臨時株主総会を開催し、取締役からも解任いたしました。広河氏との関係も清算中です。

弊社として、広河氏の言説を看過するわけにはいかず、これに与する立場ではないことも鮮明にいたします。

広河氏が、自ら本件について誠実な対応を取ることを求めるとともに、弊社としても、弊社の存在意義をふまえ、最後までDAYS JAPANの刊行に取り組む所存です

末尾ながら、読者の皆様を始め、広河氏とともに活動してきた方々の信頼を失わせる事態となってしまったこと、また関係者の方々に多大なるご迷惑とご心配をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます。

2018年12月26日 株式会社デイズジャパン

広河氏からのコメントと同じくハラスメンと行為自体についての言及は無い。自体の深刻さは指摘しているものの「なぜ深刻なのか」についてもはっきりしない。今後の本人、及び雑誌としての誠実な対応は最低限の義務であり、多くの人々が関心を持ち続けるであろう。

 6*(2回目のコメント全文)

みなさまへ

週刊文春2019年1月3日・10日号の取材に応じられた方々をはじめ、被害にあわれた方々とご家族・関係者の方々、また読者の皆様へ深くお詫び申し上げます。

本年12月26日付の弊社の声明及び広河氏のコメントが発表されて以降、多くの方々からご意見をいただきました。なかには、弊社サイトに掲載した広河氏のコメントについて、「デイズジャパンはあのコメントで良いと思っているのか」と言う厳しいご指摘もありました。

弊社は、本年12月26日付の声明でも明らかにしたように、広河氏から記事の件について報告を受けて以降、継続的に広河氏に対して聞き取りを行っており、声明を発表した後も続けております。聞き取りを通じて、記事で取材に応じられた方々以外にも、同種の件があったことを確認いたしました。

また、弊社においては、今回報じられたような「性暴力」とは別に、(広河氏による?)社員や協力スタッフに対するパワーハラスメントと評価されるべき事態が複数回ありましたが、個別的な対応に留まってきました。

  過去のこれらの問題について、社員や協力スタッフから問題提起があったこともありましたが、会社として被害を受けた方の訴えに真摯に対応し、二度とそうした被害が生じないよう全社を挙げて対策をとることをせず、会社として取り組むべきことを取り組まないまま今日に至ってしまいました

今回の報道を契機として、あまりにも遅すぎましたが、広河氏個人の責任とは別に、弊社としての責任を痛感しているところです。

現在、弊社は、今回の報道を機に就任した弊社代理人を責任者として、広河氏個人の過去の言動による被害実態について調査を行うとともに、広河氏を絶対化させてきた会社の構造・体質についても、役員など関係者への聞き取りなどの調査を行っているところです。

弊社としては、広河氏の解任によって今回の件が終結させられるとは考えておりませんし、そうあってはならないと考えています。広河氏に対しては、これまでの広河氏自身の言動によって被害を受けた方々に誠実に対応することを求め続けていきますし、弊社としても、自らのこの間の組織のありようについて真摯に検証し、弊社雑誌「DAYS JAPAN」の最終号において公表する予定です。

2018年12月31日    株式会社デイズジャパン

7*  デイズジャパンは発売延期の理由を、最終号では「検証委員会の報告に加え、人権や差別をテーマに掲げている団体・個人においても不可視化されてしまう女性差別・ハラスメントの問題に取り組み伝えていこう」と考え「最終号の編集委員を、これらの問題に取り組んできた方々へお願いし、発売を1が月延期することで、現在出来ることを見て頂く」ということにしたと述べている。また検証委員会のメンバーとして次の3名も公表している(8*)。委員長 金子雅臣氏(一般社団法人 職場のハラスメント研究所 代表)、委員 上柳敏郎氏(弁護士)、委員 太田啓子氏(弁護士)。

8* 人事・検証体制の混乱

素人が理解するのはかなり困難を伴うが、この経緯をネット情報など

 https://bunshun.jp/articles/-/10742

 をもとに辿ると大体次のようになりそうである。

1月19日発行の2月号に「編集部の今後の方針と次号について」というメッセージがあるが(内容には後で触れる)、末尾には、DAYS JAPAN編集長 ジョー横溝、編集部 小島亜佳莉、金井良樹 とある。しかしながらほぼ10日後の1月末、ジョー横溝編集長は辞任するが、2月初めの集会で「なぜ15年間みんな黙ってきたのか、掘り起こさないといけないと言ったんですが、それが上に通じず、僕はDAYSを去ることになりました」と語ったと言う。

また「新しい代理人」として2018年末に任命した馬奈木誠太郎弁護士を2週間足らずの2月13日で解任し、次の新しい代理人として、竹内彰志、稲村宥人両弁護士が決まったようである。そして彼らと会社執行部(取締役会?)により、「第三者性を担保した」検証委員会を1月末までに発足させたと言う。検証委員会の委員長には金子雅臣氏(労働ジャーナリストで社団法人「職場のハラスメント研究所」所長)、委員には記述の通り、上柳敏郎氏、太田啓子氏の両弁護士が選ばれた。

今ひとつこの間全く見えないのは会社執行部、即ち取締役会の構成である。広河氏の解任後代表取締役(及びDAYS発行人)に選ばれたのは川島進氏で、DAYS創刊号からアートディレクターをつとめ、デイズジャパン設立当初からの取締役・株主でもある。二人の付き合いは30年以上前に遡り、講談社時代 (1988-90) のDAYS JAPANでともに仕事をした後も広河氏の多くの著書で、装丁やデザインを担当、氏とは盟友ともいえる間柄らしい。最終号の発行責任者はこの川島進氏であった。もう一人の取締役は広河氏の妻で(2018年11月就任)大手出版社の編集者で広河氏の著作の編集も担当しているらしい。即ち 公私とも極めて関係の深い人物である。

3人目の取締役は、先述の講談社「DAYS JAPAN」で編集長をつとめた土屋右二氏で、やはりデイズジャパン設立時からの取締役である。「広河君のことは同士だと思っていた」らしいが性暴力の報道を受け決別を決意、デイズジャパンには1月には取締役辞任の通知を出したと言う。川島氏からは「取締役は3人必要なので辞任は認められない」と言われたが、もうデイズジャパンには一切関わらないと話したという(多分1月末時点)。

バンカ島事件 (3)

世界的な反性暴力の潮流の中で日本(人)は今後何をすべきか?

昨年のノーベル平和賞

  記事(1) の中で、リネット・シルヴァーさんは、最近の#MeToo運動がブルウィンクルさんの告発に確信を与える(勇気付ける)ものになったと言及しているが、注目すべきフレーズとして、”(it’s known) rape and sexual assault are used as weapons in war”レイプや性的暴行は戦争における武器として使われてきたがある。この表現は、昨年のノーベル平和賞が強姦被害者を支援する活動家、ナディア・ムラド氏とデニ・ムクウェゲ医師の二人に与えられた際、ノーベル賞委員会が授賞理由としてあげた「戦争の武器として性暴力が使われるのを終わらせようと努力して」きて、「そのような戦争犯罪について社会(世界)が認識し戦っていくよう、重要な貢献をした」という文章中の表現とほぼ同じである。

BBCの記事*1によれば、二入の業績は以下のように要約できるであろう。

https://www.bbc.com/japanese/45760596

ナディア・ムラドさん:イラクの少数派ヤジディ教徒で、過激派「イスラム国」(IS)に拷問、強姦された(3ヶ月にわたりISに性奴隷として扱われ、繰り返し売買され、性暴力を含む様々な形で虐待された)のち脱出し、ISに捕らわれたヤジディ教徒解放に奔走した。ISから脱出して間もない頃BBCから受けたインタビューで、匿名での撮影とインタビューを断り「いいえ、私たちがどういう目に遭ったのか、世界に診てもらいましょう」と述べたという。現在は国連親善大使として人身売買被害者の救済のため活動し、強姦など性暴力が戦争の武器として使われる現状に対して国際社会として取り組むよう訴えてきた。2016年授賞したバーツラフ・ハベル人権賞の授賞スピーチでは、ISによる犯罪を国際裁判所に裁いてもらい、戦闘手段としての強姦に厳罰を適用するよう、国際社会に訴えかけた。

デニ・ムクウェゲ医師:婦人科の医師であるムクウェゲ氏は紛争の続くコンゴ民主共和国東部で強姦被害者の治療に同僚たちと取り組み、戦争の武器として使われる性暴力による重傷に対する治療法を確立してきた。患者の人数は約3万人と言われる。被害者の多くは、性器など身体に深刻な重傷を負っている場合が多く、それに対する再建手術などの治療法を確立し、被害者に提供してきた。2008年には、国連人権賞、ナイジェリア紙が選ぶ「今年のアフリカ人」など様々な賞に選ばれたほか、2014年には、欧州議会が優れた人権活動家に贈る「思想と自由のためのサハロフ賞」を授賞。現在国連平和維持部隊の警護を受けながら、コンゴ東部ブカブのパンジー医院で生活している。戦闘行為としての強姦を厳しく取り締まるよう、国際社会に呼びかけてきた。

日本で相次ぐ性暴力事件に対する無罪判決

  これに対して最近の日本における酷い状況はどうだろう?THE BIG ISSUE JAPAN 360号の「雨宮所凛(あめみやかりん)の活動日誌」によれば、この3、4月性暴力事件に対する無罪判決が相次いでいる。3月12日福岡地裁:テキーラなどを飲まされた女性が性的暴行された事件において、男性が無罪判決。3月19日静岡地裁:強制性交致傷罪に問われた男性が無罪。3月28日静岡地裁:実の娘を12歳から2年間性的暴行をした罪に問われていた父親が無罪。理由は、「家が狭い」から家族が気づかなかったのはおかしい、長女の証言は信用できないなどである。4月4日名古屋地裁:中学2年生の時から実の娘に性的虐待をしていた父親が無罪、などである。

 わずか1ヶ月ほどの間に続いたこれら一連の司法判断を受けて、4月11日午後7時から東京駅近くの広場で開催されたのが、性暴力と性暴力判決に抗議するスタンディングデモであった。底冷えする夜であったのに400人もの女性が全国から駆けつけた。手にしたプラカードには「裁判官に人権教育と性教育を!」、「おしえて!性犯罪者と裁判長はどう拒否したらヤダって理解できるの?」、「Yes Means Yes !」などの文字があった。

 最初は著名人が判決への怒りをスピーチしたものの、途中からは多くの参加者(性暴力、セクハラを受けてきた人、17歳の高校生、50代女性、、、)が飛び入りでマイクを握り思いの丈を語ったという。ここでは、紹介されている発言を再掲して、われわれが向かうべき次のステップへのきっかけとしたい。

 「子供の頃に強制わいせつの被害に遭いました。20歳になってから記憶が蘇って、PTSDの症状で学校に行けなくなりました。夜も眠れませんでした。もう10年以上経ちました。非正規で、バイトして、ギリギリで生活してて、それでやってるバイトでセクハラ。ふざけんじゃねえよ!!どうして被害に遭う私たちが社会を転々としないといけないんでしょうか?」「幼馴染だった友人は、家庭内暴力の末に、性的虐待の被害にも遭って、24歳で自殺しました。助けてくれる大人はいませんでした。今日、たくさんの人が花を持って集まった。その花をどうか、生きられなかった私の友達や誰かの友達に、たむけてあげてください」

日本人男性として思うこと

  バンカ島事件については、私自身最近まで詳細は知らなかったが、今回の記事を契機に色々調べてみて、この事件は、従軍看護師とはいえ歴とした民間人で、例え捕虜であったとしても当時でさえ人権はある程度尊重されていたゆえに、虐殺(銃殺)など到底有りえないことだと思われる。それに加え、銃殺の前に強姦するというのは常軌を逸しているという気がする。しかも同様のことを香港、フィリビン、バンカ島と続けて行っているのはほぼ確実である(同じ聯隊かも?)。これらの事実はこの日本軍兵士による強姦・虐殺という一連の行為が戦局などに追い詰められた突発的な行為でなく、大隊のかなり上まで承知していた計画的な犯罪であったことを示唆している。「南京虐殺被害者はもっと少なかった(そもそも無かった!)」とか「朝鮮人慰安婦は強制してやらせたものではない」と幾ら宣伝しても、この事件の本質を見ると世界の世論に対する説得力に著しく欠けていると言わざるをえない。

 この事件の酷さには、私自身日本人(高齢)男性として、そのような祖父、父をもったことを大変恥ずかしく思う。そして、加害者の側からもっと様々な事実の発掘に努める必要があったのに、全くそのようなことが出来ていないことも深く反省している。もちろん今からでも遅くないので(余り時間がないが)やるつもりではあるが。

 このバンカ島事件についてのBBCの記事への大手マスコミの反応は殆ど無かったが、時々話題になるこのような「昔の出来事」に関し、世間一般のいつもの言説は、サトウ氏の見解にもあった「どこの戦争でもあること」、「戦争中の異常な状況下だから仕方ない」、「占領軍も日本でやっていた」、「加害者も被害者ももう殆どいないからもういいんじゃないの!」「加害者も多く戦死しているのだから罪には問えないよ」等の緩くかつ乱暴なものである。本当にこのようなぬるま湯的な総括で世界は許してくれるのかを真剣に考えるときに来ている気がする。このような過去をもつ日本こそ率先して戦争犯罪(慰安婦)博物館などを設立し、戦争犯罪に関する世界的な客観的かつ第三者的な研究拠点を作ると同時に、戦争犯罪を厳しく追及し裁く国際裁判所等も誘致すべきではないだろうか。公正な国際裁判における加害者への厳罰こそが戦争犯罪もしくは戦時下性暴力を減らす大きな一歩となると考えられる。とりあえず今はせめて伴走者(#WithYou)として走り始めることを誓いたいと思う。

バンカ島事件 (2)

日本軍兵士により虐殺された看護師らは多分殺害前にレイプされていた!

 実は、(1)の事件は、既に26年前(1993年)日本人研究者によって公けにされていた。以下にそのことを報道したオーストラリアの新聞記事を翻訳して紹介する。

*1 22 Sep 1993 – Murdered nurses were probably raped by Japanese officers, says academic, Trove ノーマン・アブジョレンセン(署名)

 日本人学者の研究*2によると、第2次大戦時、バンカ島において日本軍に虐殺された21人のオーストラリア人従軍看護師達(のグループ)は、ほぼ確実に殺害される直前に日本軍兵士によりレイプされていたが、そのレイプの事実は彼女らの(名誉ある)記憶を守るため(永年)隠されていたということである。

 そのような苦難を生き延びた看護師のただ一人の生存者、(シスター)ヴィヴィアン・ブルウィンクルは、オーストラリア当局への説明の中でレイプについて一切言及していない。

 この大量虐殺の報告は、当時の呆然としていたオーストラリア(の人々)を恐れさせると同時に激しく怒らせることになった。「オーストラリア国立大学における日本」という国際会議で今日(1993年当時)タナカユキ(田中利幸)氏(現在=1993年当時メルボルン大学教員)により発表された論文によれば、(様々な)証拠は、シスターブルウィンクルは「調査に際し、彼女の亡くなった同僚達をレイプの犠牲者として知られるという不名誉から守るため真実を述べなかった」ことを示唆しているとしている。シスターブルウィンクルも負傷して死に瀕していたが、その後陸地に戻ることができた(虐殺は海岸の海の中で行われた)。

 その看護師達は、1942年2月11日(日本軍による陥落より4日前)シンガポールから避難したが、彼女らが乗船した船(ヴァイナブルック号)は、日本軍の飛行機により爆撃され、スマトラとバンカ島の中間で沈没した。12人の従軍看護師を含む多くの乗客が溺死したが、他の人々は最大4日も漂流したのちバンカ島に辿り着いた。彼女らは日本兵によって捕らえられ、男性(殆どが英国人兵士)とは分離させられた後(海中で)銃殺された。そのとき彼女らは全員オーストラリア軍従軍看護師の制服を着用し赤十字の腕章を着けていたというのに、である。

 タナカ氏は次のことは極めて重要であると述べている:日本兵らは、銃剣により殺害した英国人兵士の遺体は海岸に放置したのに対し、彼女らの体の「証拠」は後に残されないように確認していた。

 終戦後直ちに、オーストラリア軍調査委員会は加害者の探索を開始した−(なぜなら)(岐阜歩兵)第229聯隊(聯隊長田中良三郎少将、事件当時大佐)第1大隊の何人かの日本兵は(後で判ることだが)バンカ島事件の2ヶ月前香港で起こった(英国人)看護師に対するレイプ・虐殺事件に関与した疑いで既に英国により取り調べを受けていたからである(調査委員会は田中良三郎少将を逮捕したが、聯隊はガダルカナルでほぼ全滅したため証言者が殆どいなかったようである*3。第1大隊長(折田優少佐、事件当時大尉)は、戦後ロシアに抑留されていたが、その後東京に戻ったものの、(裁判で)尋問される前に自殺している(タナカ氏の著書*2によると、1948年6月16日舞鶴に帰還した後、6月19日に米軍に身柄を引き渡され、巣鴨拘置所に拘留された。その勾留中の9月に窓ガラス修理用の道具で首の血管を切って自殺し、起訴には至らなかった)。

タナカ氏は、英国とオーストラリア両国の調査による文書から、次のように推定している:即ち、バンカ島でオーストラリア軍看護師を虐殺した兵士達は、殆ど確実に、香港で英国人看護師をレイプし虐殺した兵士達で同一である。この理由により、オーストラリア軍看護師はやはり虐殺される前にレイプされていたと考えられる。

タナカ氏の論文は次のことも明らかにしている:日本人だけがレイピスト(強姦者)ではなく、(最近の文献によれば)1945年10月に呉で日本人一般市民への一連のレイプ事件が占領軍により起こされたが、その(加害者の)中にオーストラリア軍兵士も含まれていたということである。

ある研究者は、警察により募集された売春婦は「防火線」の役割を果たしたと言っている:「オーストラリア兵は最悪だ。彼らは若い女性をジープに引きずり込み、山の方を拉致した後レイプした。私はほぼ毎晩彼女らの助けを求める悲鳴を聞いた」。戦争時のレイプや日本で言うところの「慰安婦(売春婦になることを強いられた、多くの場合外国人女性)」について多くの研究実績をもつタナカ氏は「戦争とレイプは同じ種類の事柄であり:即ち、それらは本質的に互いに関係している」。(以下省略)

2* 田中利幸『知られざる戦争犯罪―日本軍はオーストラリア人に何をしたか』大月書店、1993年12月2日第1刷発行、ISBN 4-272-52030-X

3* https://ja.wikipedia.org/wiki/バンカ島事件

  • 田中利幸氏について

https://ja.wikipedia.org/wiki/田中利幸

田中氏は1949年5月福井県生まれ(70歳)の歴史学者で、広島市立大学教授を経て、現在ドイツのハンブルグ社会研究所で「紛争時の性暴力」研究プロジェクトメンバー。従来は知られていなかった日本軍による戦争犯罪の事例を紹介してきた。戦争犯罪に関しては、加害者が被害者でもある両面性、戦争犯罪の普遍性といった問題意識も有し、アメリカ軍など連合国側による戦争犯罪との比較研究も進めている。また、第2次大戦時日本軍の「人肉食」への言及でも知られている。これらの「業績」に対し、いわゆる「右翼」の側から「反日デマ」、「国賊」等口汚いネットバッシングも受けている。

バンカ島事件 (1)

1942年に、日本兵は豪の看護師21人を銃殺する前に何をしたのか? 真実追求の動き

 英国BBC放送の最近の記事*1によれば、「事件」の概要は以下の通りである:第2次大戦中の1942年、オーストラリアの女性看護師の一団が、日本軍兵士達によって殺害された。この事件に関連して、複数の(女性)歴史研究者(リネット・シルヴァーさん−軍事史研究者、バーバラ・エンジェルさん-伝記作家、デス・ローレンスさん−テレビキャスター)の調査により、ある事象が浮かび上がり、正式に公表されようとしている。その内容とは「その看護師達は殺害前日本兵達に性的暴行を受けたが、オーストラリア政府はそれをひた隠しにしてきた」というものである。

*1 https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-47986990

シルヴァーさんによる調査結果:シルヴァーさんはまずこう述べている;「この真実を発掘し、ついに公表するには複数の女性の力が必要だった」。ここでいう「真実」とはオーストラリア人看護師22人に起きた上記のような悲惨な体験をさす。行き残ったのはヴィヴィアン・ブルウィンクルさんただ一人であった。そして「オーストラリア軍の高官たちは、悲しみにくれる家族たちに家族が強姦されていたという汚名を与えたくなかった。恥ずべきことだと思われていたので。(当時)レイプは死よりもひどい運命と考えられ、ニュサウスウェールズ州では1955年まで(加害者は)絞首刑による極刑で処罰されていた」とも述べている。この圧力により、ブルウィンクルさんは東京裁判でも、強姦について「話すのを禁じられた」ということである。ブルウィンクルさんはこのことをキャスターであるローレンスさん(2017年証言)に伝え残していた。

シルヴァーさんによると「ヴィヴィアンさんはこの命令に従っており、オーストラリア政府にも多少の罪悪感があった。(何故なら)政府高官。は1942年の香港侵攻の際、日本兵がイギリス人看護師たちをレイプし殺害したのを知っていたにもかかわらず、オーストラリア人看護師のシンガポールからの避難が遅れたからである」。またバンカ島でマラリアの手当てを受けていた日本兵の証言もあるという。シルヴァーさんによれば、その兵士はオーストラリアの調査官に当時悲鳴を聞いたと話し、「兵士たちが海岸で楽しんでいるところで、次は隣の小隊の番だ」と聞かされたとも証言していた。

 さらに伝記作家のエンジェルさんは、ブルウィンクルさんが着ていた看護師の制服に残された色違いの糸と銃弾の穴について調べた結果を述べている。即ち、糸の違いは上半身のボタンが一旦引きちぎられ、後に(死後制服が展示された際に)そこだけ違う色の糸で縫いつけられてことが伺われる。また、制服の2カ所に残る銃弾痕(入口と出口)はぴったり合うにはやはり暴行の事実が示唆されるということも判明した。

 最後にシルヴァーさんは言う:ブルウィンクルさんが1945-46年に話したいと思っていた「ありのままの真実」は重要なことである。なぜなら「もし私がこの話を語らなければ、私自身も沈黙の風潮と政府の圧力に加担し、加害者を守ることになってしまうから。看護師たちの話を語る必要がある!それでやっと彼女たちの正義が実現する」。また今回の一連の証拠を発掘した歴史研究者が3人とも女性であったことについて「歴史(history)が彼の話(his-story)として語られるのをずっと聞いてきた。今回はその反対だ」とも述べている。さらに、最近の#MeToo運動との類似性も指摘している:何かを言える前に女性達が長い時間待つことを強いられると感じる同じような社会的道徳観が存在する。