甲南大学での学生自死事件、その後 (1)

昨年(2020年)4月本ブログに掲載の甲南大学についての記事

甲南大学で学生が自殺 サークルのトラブルに大学が責任をもって関与せず/新潟大学/群馬大学(最近のアカデミックハラスメント例 (4))

の続報を、ご家族の手記を引用する形で掲載したいと思います。

本件は一個人の問題でなく、社会問題として検証する必要があると考えます。そのために、当事者学生ご家族のご協力を得て、本記事の掲載が実現されました。事件よりほぼ2年余りが経過しようとする今、大学側からの誠意をもった対処がない一方で、学内的にも社会的にも事件が忘れられようとしています。事件発生から現在に至るまでの甲南大学の表の顔と裏の顔の使い分けに、ご家族は強い嫌悪感と憤りを抱いておられます。この記事では、ご家族提供の事件の資料などをご紹介しつつ、そのような目的に添うべく、本事件を振り返ってみたいと思います。

(1)ご家族の手記

 はじめに

甲南大学の学生が抗議の自死を行った。

その学生の母親が現在の心境を語ってくれた。

まずはその母親の言葉から、連載を始めたい。

母親の言葉

甲南大学は、多額の学費を徴収しながらアカデミックハラスメントを行った。

最愛の息子は、延々と甲南大学に振り回され、自分の尊厳を守る最終手段として「抗議の自死」に至った。自死から、2年と2か月が経過したが息子の魂は今も生きている。

抗議の自死直後の甲南大学の倫理観が欠如した対応

息子の抗議の自死の後、甲南大学から私には、一本の電話、弔電、弔問等一切無い。息子の自死後、甲南大学が先ず実行したことは、「甲南全職員に被害者に個別に接してはいけない」という箝口令である。その後私が甲南大学に様子確認で訪れた折、中村英雄学生部事務部長、中井圭吾学生課長らと遭遇したが、彼らは無言で私の顔を睨みつけ、不敵で無礼極まりなかった。息子の自死直後に、ある祝賀会の場で「喜びに溢れる」という言葉の公への発信があったが、息子の命の尊さを土足で踏みにじる耐え難いものであった。

(自死後1ヶ月に満たない時期に開催された文化会表彰式・祝賀会)

表彰式・祝賀会が開催された11月16日は、抗議の自死からまだ一月も経っていない時期である。この日の表彰式・祝賀会は、自死前にアカデミックハラスメント対応をした学生部 (秋宗学生部長) 主催で、吉沢理事長も出席した。抗議自死の遺書には「甲南大学の対応 (中略 )文化会での名誉毀損行為、」という記載も残されている。

かけがえのない最愛の存在を失い、私たち遺族には、言いようのない怒りと虚無感、悲しみで息をするのもつらい時間がこれからも続く。

純真な学生が大学に被害を訴え、必死で対応を求め続けたにも拘わらず、その後の甲南大学のアカデミックハラスメント対応が学生を自死にまで追いやった。不祥事の自覚症状がないのか、甲南大学の倫理観の欠如は、怒りを通り越して気持ちが悪い。

抗議の自死に対し、原因の調査すらしようとしない。無神経な態度は続いている。

抗議の自死から1年が経過し、私は代理人弁護士を通じて甲南大学に第三者委員会設置を申し入れた。甲南大学吉沢理事長からは、「甲南大学の対処に問題はない。審議を了しており、今後調査するつもりはない。」という内容の手紙を代理人経由で受け取った。

息子の存命中から自死後も、一連の無礼な甲南大学の態度は、被害者である息子の尊厳と家族の心身を深く傷つけ続けた。息子の自死から約1年半後、私はようやく代理人を通じて、「甲南大学」吉沢理事長・長坂学長を大阪弁護士会館に呼び出したが、吉沢理事長は遺族との面会を拒否したまま、誠意ある対応は一切なく現在に至る。

自死後遺族と対面した際の学長の姿勢

2019年3月14日の大阪弁護士会館での吉沢英成理事長面会拒否・長坂学長との対面では、いかにして最愛の息子の平和な学生生活が破壊されていったか、抗議自死までの経緯を確認した。「甲南大学は、学生生活の安全を確保すべきではなかったのか、悪質なパワーハラスメントから被害者を守るどころか加害者に何の処罰も行わすハラスメント自体を無かった事とした。その名誉棄損によって平和な学生生活が破壊され、聴力を失う等、取り返しのつかない被害を受けた上に、大学の傲慢で杜撰な対応は、被害者学生を抗議の自死にまで至らせた。」という内容について、そして、これまでの甲南大学対応の異常性経緯を改めて息子が残した言葉等生きた足跡の爪痕を見せながら、代理人と共に、長年家族ぐるみの付き合いがある母の友人立会いの下、遺族の生の声で訴え抗議した。

「なぜこのような学生自死事件が起こったと考えるか。」と対面の長坂悦敬学長(現理事長)に私が問い詰めたところ、長坂学長は、「対応した彼ら彼女らにも問題があるかもしれないが、学生全般のレベルが低いから。」という言葉を口ごもりつつ残して去っていった。同席で息子の担任教授は、「責任感のある学生だった。もっと適切な対応が成されるべきだった。」と長坂学長の隣で発言してくれた。その後、甲南大学代理人から口頭で「香典にしては多額、命の値段には程遠い金額」の提示があったが、命の尊さを無視した内々の陳腐なもので、遺族としては到底受け入れられない。

更に呆れることには、被害者学生を自死へと追い詰めた甲南大学関係者達は、その後昇格人事で、中井学長の紅白スーツ姿笑顔の写真が(自死報道後、写真差し替え)ネット上に掲載されていた。

(中井伊都子学長就任写真・甲南大学人事決定写真)

代理人による記者会見と甲南大学によるさらなる追い打ち

吉沢元理事長を筆頭に、長坂当時学長(現理事長)、中井当時副学長(現学長)の『表の顔・裏の顔』のギャップには強い嫌悪と憤りを感じる。

学生の「命がけの抗議」に対し、甲南大学は、反応しないまま風化を望みつつ、遺族には組織権力という暴力を振り回した。

甲南大学に入学したことは、我が息子とその家族にとって、人生の痛恨の極みである。

甲南大学学生自死事件は、個人の不幸な問題という範疇ではなく、社会問題として世の中に問いかける必要性を遺族は痛感し、代理人が記者会見を開き、新聞・テレビ報道へと踏み切り、報道がなされた。

「甲南大学生抗議自死」新聞報道に至るまで事件は隠蔽され、遺族には面会拒否の裏側で、吉沢理事長は祝辞で「人間的な豊かさを持たすには、直接的なフェイスtoフェイスの関係を豊かにすることが重要になる。」同じ壇上での長坂学長の祝辞は「正志く強く朗らかに進んでいきたい。」と公言している。尊い命を悼むことなく、大学幹部らが笑顔で繰り返し開催する盛大な祝賀会開催・乾杯の様子は、遺族の心情を深く傷つけた。

(2019年4月21日、吉沢英成理事長、長坂学長ら、久本神戸市長、井戸兵庫県知事と共に神戸ポートピアホテルパーティ会場壇上にて盛大に鏡割り・祝賀会)

被害者学生を抗議の自死に至らせてもなお、甲南大学の反省、被害者学生と遺族に対する誠意ある対応は全く無い。それは一般社会の常識では考えられない惨憺たるものである。

しかも、各種報道の後、メディア・ネットによる甲南大学の名誉棄損発言、低俗で稚拙なSNSへの書き込みがなされた。これは被害者学生の尊厳をさらに深く傷つけるものであり、今後、遺族は毅然とした態度で対応する。

(ニュース映像写真)

(毎日新聞記事)

https://mainichi.jp/articles/20200308/k00/00m/040/328000c

https://mainichi.jp/articles/20200329/k00/00m/040/206000c

:昨年4月の本ブログ記事に抜粋を掲載しています。

(朝日新聞)

https://www.asahi.com/articles/ASN3B72LCN3BPIHB028.html

(神戸新聞)

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202003/0013180260.shtml

(産経新聞)

https://www.sankei.com/west/news/200310/wst2003100004-n1.html

以上の「ご家族の手記(母親の言葉)」は、ともすれば一時の感情に任せて書かれたものと思われがちだが、次に示す一連の事件の経過に対応したものである。

 

伊藤詩織さんの事件に関連して留意すべきこと二つ

前記事で、伊藤詩織さんが米国「TIME」誌の2020年版「世界で最も影響力のある人100人」に選ばれたことに触れた。伊藤詩織さんに関するネットやマスコミ上の記事や言説はフェイクや中傷も含め枚挙に暇がないが、現在今一度再確認したいことは次の2つである。詳細な全体像はデイリー新潮の一連の記事(44件)

https://www.dailyshincho.jp/search/?kw=伊藤詩織さん&disp_page=1&sid=ergc7tnolmlq0gjqclk5u7t7h5

に詳しいのでそちらに譲り、肝心な部分のみ下記に抜粋してまとめる。

1.本事件はもとTBSワシントン支局長山口による卑劣な性犯罪=性暴力事件である!

事件の簡単な経過を上記デイリー新潮の記事の引用で見てみよう:

(https://www.dailyshincho.jp/article/2019/12250800/?all=1)

(https://www.dailyshincho.jp/article/2019/12260800/?all=1&page=2)

「2015年4月3日、TBSのワシントン支局長だった山口記者が一時帰国した折、ニューヨークで知り合い、TBSに働き口を求めていた詩織さんと会食した。山口記者のホームグラウンドである東京・恵比寿で2軒目までハシゴしたところから意識を失った彼女は、その後タクシーに乗せられた。タクシーはシェラトン都ホテルへ。山口記者の部屋に連れ込まれ、翌日未明、性行為の最中に目が覚めた」

「4月30日に警視庁高輪署が詩織さんからの刑事告訴状を受理。捜査を進めた結果、裁判所から準強姦(当時)容疑で逮捕状が発布された。6月8日、アメリカから日本に帰国するタイミングで山口記者を逮捕すべく署員らは成田空港でスタンバイした。しかし、その直前に逮捕は中止。捜査員は目の前を行く山口記者をただ見つめることしかできなかった。中止の命令は、当時の警視庁刑事部長で現・警察庁ナンバー3、官房長の中村格(いたる)氏によるもので、彼自身、「(逮捕は必要ないと)私が決裁した」と本誌(週刊新潮)の取材で認めている」

「(中村格=)官邸絡みのトラブルシューター・守護神・番犬たる部長。その命を受け、捜査の仕切り直しを担った警視庁本部からの書類送検を受けた東京地検は、ほぼ1年後の16年7月に不起訴と判断。詩織さんは17年5月、検察審査会に審査申し立てを行なったものの、9月に「不起訴相当」の議決が出ている」

「勝訴判決の前、詩織さんは週刊新潮の取材に応じてくれた。まずは、17年5月の実名による告発会見から振り返って、

『あの時は、自分の生活がこれからどうなってしまうのか全く想像ができないままその場に臨みました。時間が経過し、今は自分の生活や仕事も少しずつ取り戻しながらも、この事件に向き合えていることは私にとって大きなことで、周囲の支援してくださる方に感謝しています。この民事訴訟を通じ、私が求めていたのは裁判の判決自体ではなく、それまでの刑事事件の手続きでは分からなかった部分を明らかにすることでした。ホテルのドアマンの方がお話ししてくださるようになったのも、訴訟を提起したからだと思っています』

 法廷で、山口記者が事件後に詩織さんに宛てたメールと陳述書の中身に齟齬があることなどが明らかになったのも、訴訟を提起した成果と言える。

『裁判で色々な証言や主張が公になり、そうしたことからも、訴訟はとても有意義なものでした。またこの間の様々な出会いから、事件のトラウマにどう向き合えばいいのかヒントを貰うこともできました。性犯罪に関する刑法の規定はまだまだ改善の余地があり、見直しは必要だと思っています。他にも被害者のサポートなど変えなければいけない部分はかなりあるはずです。でも、2年前と比べると、こうした議論が活発になってきたのは本当に良かったことだと思いますし、あの頃に見ていた景色とは確実に変わってきている部分もあるなと感じています』」

「去る(2019年)12月18日の10時30分、東京地裁709号法廷。時の宰相とそれにかしずく官邸官僚トップを巻き込んだ裁判に審判が下った」「12月18日に東京地裁が下した判決は、山口記者は詩織さんに対し、330万円の金員を支払えというもの。詩織さんの全面的な勝訴であるが、会見で山口記者は控訴の意向を示している。だから、2020年以降に両者は、東京高裁で更なるお上の裁きを待つことになる」

他の諸記事も合わせて読むと、山口の行きつけの店に2件付き合わされた伊藤さんは、ホテルに向かったタクシーの中で吐いたり殆ど歩けなかったようなかなり酷い状態であった(逮捕状請求に向け警視庁で捜査が進んでいた際、ホテルのドアマンが証言した「幻の陳述書」に詳しい。現在進行中の控訴審で重要な役割を果たすと予想されている)。これに関して伊藤さんは、飲んでいる際にデートレイプドラッグを使われたという強い疑いを持っている。また、事件後伊藤さんに宛てたメールの中で、山口は、レイプに際して避妊具を使わなかったことを認めた上で「自分の精液は薄いから妊娠の心配はない」などど嘯いている。これは正しく卑劣な性犯罪以外の何物でもないだろう!

写真はたまたま本事件の現場となったホテル。風評被害補償は山口氏に請求されるべきであるが、誠実なベテランドアマンの証言が近いうちにホテルの評判を取り戻すことに貢献するであろう。

2.準強姦容疑による山口逮捕もみ消しは菅総理(当時官房長官)側近=中村格官房長(警察官僚出身)により行われ、中村は次期警察庁長官への昇格が濃厚!

上に引用したように、中村氏の意図的な介入は彼自身が認めている:(再引用)

「4月30日に警視庁高輪署が詩織さんからの刑事告訴状を受理。捜査を進めた結果、裁判所から準強姦(当時)容疑で逮捕状が発布された。6月8日、アメリカから日本に帰国するタイミングで山口記者を逮捕すべく署員らは成田空港でスタンバイした。しかし、その直前に逮捕は中止。捜査員は目の前を行く山口記者をただ見つめることしかできなかった。中止の命令は、当時の警視庁刑事部長で現・警察庁ナンバー3、官房長の中村格(いたる)氏によるもので、彼自身、「(逮捕は必要ないと)私が決裁した」と本誌(週刊新潮)の取材で認めている」

この中村格は事件当時、警察官僚の交代劇が進みつつある中で、次のような位置(No. 3)にあり、現在は次期警察庁長官への昇格が噂されている。自ら「警察いらん!」を地で行くようなこういう人物が警察のトップになることは、black jokeであるのみならず、まさしく警察の権威そのものの大失墜であろう。以下引用(https://www.dailyshincho.jp/article/2020/01120600/)

「2019年12月26日の「首相動静」欄に、こんな文言が掲載された。

『警察庁の栗生俊一長官、松本光弘次長、北村博文交通局長、大石吉彦警備局長、警視庁の三浦正充警視総監、斉藤実副総監と会食』

『首相が警察幹部を労った、いわゆる“お疲れ様会”ですね。すでに官邸には、新しい長官と総監の人事が伝えられています』

 順当に行けば、1月のどこかの閣議で人事が了承されることになる。

 具体的には、栗生俊一長官が退任し、その後に松本光弘次長が、三浦正充警視総監が退任し、斉藤実警視庁副総監が、それぞれ新たに就任する。両者の人事は同時ではなく少しずれる可能性はある。そして、この会食の場にはいなかったあの中村格官房長が警察庁ナンバー2である次長の席に就任予定なのだが、そこに触れる前に、長官人事について説明しておこう。

 栗生氏は2018年1月に就任し、任期は2年ということになる。就任前にはパチンコ業者からの付け届けを示唆する怪文書が出回ったこともあった。2017年12月19日配信記事「警察庁幹部がパチンコ業者から付け届け!?“告発”の裏で繰り広げられる人事の暗闘」では名を伏せて報じられているが、このときターゲットになったのが、長官就任前の栗生氏だった。

「栗生さんは最終的には官房副長官のポストに就きたいと思っている。このポストは長らく内閣情報官を務め、国家安全保障局長に就いた北村滋さんも関心を示している。栗生さんは昭和56年入庁で、北村さんは55年入庁。1年違いの二人は犬猿の仲なんですよ」(同)

 その栗生氏の跡を襲う松本氏は、警察庁外事情報部長時代には『グローバル・ジハード』(講談社)という書籍を上梓し、その後、警備局長→官房長→次長と順調に出世すごろくのマスを進んできた。もっとも、さる警察庁関係者によると、

「警察庁出身で官邸を仕切る杉田さん(和博官房副長官)が『松本長官』には難色を示してきました。ウマが合わないと言ってしまえばそれまでですが、杉田さん好みの報告の仕方があって、松本さんはそれに馴染まなかったことが確かにありましたね。ただ、仮に松本さんが退任、あるいは総監に就いた場合、栗生さんが3年目に突入することになる。“いつまでやるんだ!!”って声はかなり聞こえてきていました。オリパラ警備で何かあったら最低でも長官・総監のどちらかは詰め腹を切らされますから、なかなかつらい役回りとも言えますね」

「中村氏は菅義偉官房長官の秘書官を長らく務め、その絶大な信頼を得てきた。山口氏逮(その官邸ベッタリぶりもデイリー新潮の記事に詳しい)の中止命令をする一方、安倍首相元秘書の子息による単なるゲームセンターでのケンカに捜査一課を投入し、相手を逮捕するという離れ業もやってのけたのは「週刊新潮」が報じた通り。官邸絡みのトラブルシューター・守護神・番犬たる部長が、いよいよ警察庁長官の座に手をかけたということになる

 準強姦逮捕状の握り潰しが露見した当時、国会議員だった元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は、その頃から捜査の大きな問題点を指摘していた。

『この事件では、そもそも逮捕状が出ていたのに、当時の刑事部長が途中で捜査を止めてしまうというまったく異例の判断がされました。そのことが起点となり、法治国家としてはあるまじきその後の流れができてしまったのだと考えています。というのも、刑事事件の捜査においては、強制捜査の有無が証拠の集まり方を左右することになるからです。被疑者が逮捕されていないのに、被疑者と親しかったり、利害関係を有している関係者が、捜査に積極的に協力することは、はっきり言ってあまりありません。やはり被疑者を逮捕してはじめて、関係者たちはことの重大さに気づき、捜査にきちんと協力するようになるものなのです』(週刊新潮19年12月26日号に寄せたコメント)」

最後に指摘しておきたいのは、この事件、裁判の進展に関する日本のマスコミの報道の仕方とネット世論の動向である。マスコミは最初から被害者による「稀な」告発としてその正当性を正面から報道しようとせず、「売名行為だ」というネット世論盛り上げに大きく貢献した。そこから端を発したネット民(特に安倍政権支持者)は、日本の#MeToo運動は政化したことにより、進化・発展しなかった」と主張するに至っている。果たして事件を政治化したのはどちらの側なのか?そして、真実を述べているのはどちらなのかを、日本の世論より遥かに早く判断し報道して来たのが、世界のマスコミ・世論であろう

LGBT差別にまつわるハラスメント その後(2)

最近の新たな動き

  • パワハラ防止義務付け関連法が可決(2019年5月)

【概要】

 職場でのパワハラ防止を(企業に)義務付ける関連法が昨年5月29日、参院本会議で可決成立した。併せて、今後策定されるパワハラ対策指針にSOGIハラ(注1)およびアウティングの防止も盛り込まれることになった。パワハラ防止対策の一環として各企業に義務付けられる(取り組みが求められる)。

 パワハラ関連法は、働きやすい職場環境を整え、社員の退職や意欲低下などを防ぐのが狙いで、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、女性活躍推進法、育児・介護休業法など計5本の法律を改正するものである。パワハラを「職場において行われる優越的な関係を背景にした言動」などと定義し(具体的にどのような行為がパワハラに当たるのかについては、厚生労働省策定の指針(注2)による)、企業に相談窓口の設置や発生後の再発防止策を求め、社員がパワハラをした場合の処分内容を就業規則に盛り込むほか、相談者のプライバシー保護の徹底も求める。

 罰則規定は見送られたが、パワハラが常態化しており勧告しても改善が見られない場合には企業名を公表する。大企業は2020年4月、中小企業は2022年4月に対応が義務付けられる。

【LGBT法連合会】

https://www.outjapan.co.jp/lgbtcolumn_news/news/2019/5/16.html

同連合会は、「大きな前進として評価できる」との声明を発表した(以下要約)。

 「衆議院、参議院の議論では、与野党各会派から、SOGIハラやアウティング対策を進めるべきであるとの意見が出された。この内容を盛り込んだ付帯決議が与野党全員賛成の全会一致という形で、国会の決議に実を結んだことは大きな一歩である。LGBT法連合会としても、求める施策の重要な一つであるハラスメント対策の実現に向け、この間精力的な働きかけを行ったが、日本全国の事業主に対する義務付けの方向で結実したことについて、関係各位の尽力を讃え、喜びを分かち合いたい。他方、具体的な対策の内容については、今後、厚生労働省の審議会の議論に委ねられることとなり、注視していく必要がある。特に、就職活動中の学生や、インターンシップ生、実習生等に対して、どのような対策が行われるかが注目されるものである」また、以下の点についても言及している。
 「LGBT法連合会は、1日も早いSOGIハラやアウティングの根絶に向け、今後も働きかけを強めていく。また、今回のハラスメント対策の対象とならない、労働以外の分野におけるハラスメントや、差別的な職場異動や退職勧奨、解雇などの、いわゆる差別的取扱いへの対策に向けて、領域を問わない差別禁止法の制定を引き続き求めていく」
また、次のようなコメントも付与されています。
 『なお、国がどのようなことをSOGIハラであると定めるかは、今後の指針の策定を待たなくてはいけませんが、現時点でSOGIハラが一般的に(LGBTコミュニティにおいて)どのようなことを指すとされているのか知りたいという方は、「なくそう!SOGIハラ」のサイトをご覧ください。また、7月12日発売の『はじめよう!SOGIハラのない学校・職場づくり』は、たくさんの事例を交えながら解説した決定版・保存版的な一冊になっています。ぜひお手元に置いておくことをお勧めいたします』

(注1)SOGI:SOGIは、Sexual Orientation(性的指向)とGender Identity(性自認)の英語の頭文字をとった頭字語(イニシャル言葉)です。読み方は「ソジ」が一般的ですが、「ソギ」とも言うようです。
 LGBTという言い方では、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルは性的指向についてのマイノリティ、トランスジェンダーは性自認についてのマイノリティであるということが伝わらず、「ゲイの人は心は女性で、女性になりたがっている」などという誤解を招くこともある(性的指向と性自認がごっちゃになりがちである)ため、「性的指向および性自認」という概念(性の要素、尺度)を表す言葉として生み出されました。
 また、性的指向および性自認は、セクシュアルマイノリティに限らずすべての人に関わる(ヘテロセクシュアルもシスジェンダーも含む)概念であることから、「LGBTの問題であってストレートには関係ない話」ではなく、誰にでも関係があることなんですよ、と言いやすくなります。「SOGIについて考えてみると、異性愛は多様な性的指向の一つにすぎず、シスジェンダーも多様な性自認のありようの一つであることがわかる」というように。
2011年頃から国際社会で使われるようになり、日本でも2015年頃から紹介されはじめました。2017年のレインボー国会では、SOGIに関連する差別やいじめ、いやがらせ、ハラスメントを指す「SOGIハラ」という言葉が提唱されました。なお、SOGIは、LGBTに代わる新しいセクシュアルマイノリティの総称ではありませんので、「SOGIの人」といった言い方は誤りです。「SOGIに関するマイノリティ」とか「SOGIに関する差別の解消」「SOGIハラ」という使い方になります。ちなみに、LGBTが現在、LGBTQとかLGBTQ+といった言い方になってきているように、SOGIについても、SOGIEという言い方に変わってきています。EはGender Expression(性表現)のEです。

SOGIハラ:性的指向・性自認(SOGI)に関するハラスメントのことを「SOGIハラ」と言います。
 2017年3月9日に衆議院第一議員会館で開催された、LGBTへの差別をなくし、世間の人たちに理解を深めていただき、より公正で平等な社会をつくるための法制定を国会議員に求める「レインボー国会」という院内集会で初めて「SOGIハラ」という言葉が提唱されました。

 2019年、職場でのパワーハラスメント(パワハラ)防止を義務付ける関連法が成立したことに伴い、厚労省が「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(以下「指針」)を策定し、SOGIは個人情報やプライバシーであると明記され、SOGIハラならびにアウティングもパワハラであると見なされることになりました。
 これにより、すべての企業等や自治体がSOGIハラ・アウティング防止施策の実施を義務付けられることとなりました。これは「措置義務」であり、もし対策を怠った場合、都道府県労働局による助言・指導・勧告等が行われることになります。

 指針にパワハラ防止施策として定められた措置義務の内容は、以下の通りです。これらの措置がすべてSOGIハラおよびアウティングにも適用されることとなりました
(1) パワハラがあってはならない旨や懲戒規定を定め、周知・啓発すること
(2) 相談窓口を設置し周知するとともに、適切に相談対応できる体制を整備すること
(3) パワハラの相談申し出に対する事実関係の確認、被害者への配慮措置の適正実施、行為者への措置の適正実施、再発防止措置をそれぞれ講じること
(4) 相談者・行為者等のプライバシー保護措置とその周知、相談による不利益取り扱い禁止を定め周知・啓発すること

 各企業等や自治体は、2020年6月以降(中小企業等は2022年4月以降)の措置の実施が義務づけられています。また、いわゆるカスタマーハラスメントや、就活生・インターンシップ生・フリーランス等へのハラスメントについても、上記の(1)〜(4)の取組みを行うことが望ましいとされましたが、これらにもSOGIハラ・アウティングの防止が含まれることとなります。なお、法の履行確保のため、都道府県労働局による助言・指導・勧告等の規定も整備されました。

 指針で示されたSOGIハラの例として、以下のようなことが挙げられます。
・相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含め、人格を否定するような言動を行うこと。
・SOGIを理由に、労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすることや、一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること(SOGIを理由にした仕事からの排除はパワハラに該当すると国会で答弁されています)
・「彼氏(彼女)はいるの?」など交際相手について執拗に問うこと(厚労省はパートナー関係のようなプライベートに関するハラスメントを「個の侵害」に当たるパワハラとして周知してきました。パートナーが同性である場合、より深刻であると言えます。

 指針を踏まえると、「オカマ」「ホモ」「レズ」などの差別用語はもちろん、「ひょっとしてこっち系?」などと手の甲を反対側の頬に当てる仕草や、職場でのLGBTQに対する中傷やいじめ(陰口)全般がSOGIハラに含まれますし、中性的な人を営業職や店頭での仕事から外すなどの排除なども該当します。

 

(注2)厚生労働省作成の指針:以下に資料pdfを貼り付けておきます。

厚生労働省 指針

いずれもOUT JAPAN Co. Ltd. https://www.outjapan.co.jpのLGBTコラム等より。

2)LGBTQ当事者を支援する「プライドフォーラム」が一橋大でスタート(2019年8月)

https://www.huffingtonpost.co.jp/entry/hitotsubashidai-pride-bridge_jp_5d4bcc93e4b01e44e4753536

https://www.outjapan.co.jp/lgbtcolumn_news/news/2019/8/9.html

 これらの記事によれば、一橋大アウティング事件をきっかけに、LGBTQ当事者支援をめざすプログラム「プライドフォーラム」が同大でスタートしたという。プログラムを立ち上げた任意団体「プライドブリッジ」が2019年8月8日に発表。

 「プライドフォーラム」は、一橋大学がジェンダー社会科学研究センター(CGraSS)とプライドブリッジが共同事業として立ち上げた。具体的な活動内容としては、大学内にLGBTQ当事者や支援者(アライ)が立ち寄ったり、っジェンダーやセクシュアリティに関する情報を得たりすることができるリソースセンターを設けるほか、性の多様性を学ぶための寄付講座を開始する、ということである。

 キーパーソン(の一人)である松中権さん(注3)によると、団体設立の経緯は次のようであったと言う。

安心・安全な場所をつくる

 「二度と同じような悲しい出来事が一橋大学で起こらないようにしたい」そう思った松中さんは、一橋大学のキャンパスをLGBTQの学生や教職員にとって安心・安全な場所に変えるために、プライドブリッジを立ち上げることを決意。同大学の在校生・卒業生に呼びかけて、賛同者を募った。現在までに129名が賛同しており、今回の立ち上げにつながった。プライドフォーラムの最初のアクションとして9月に学内に作られるリソースセンターでは、ジェンダーやセクシュアリティに関する資料を準備し、集まってきた人が資料を読んだり交流したりするほか、小規模イベントなども開催する予定だ。

 松中さんは一橋大学ではカミングアウトしていなかったが、大学在学中に留学したメルボルン大学で、LGBTQの当事者が集まるための部屋を見つけ、そこでカミングアウトすることができた。その時に「こういう場所があったらいいな」と思ったという。

 また、同じく9月にスタートする「ジェンダー・セクシュアリティとライフデザイン」という全13回の寄付講座では、LGBTQの当事者や支援者などをゲストスピーカーとして呼び、企業やNPOなどによるジェンダーやセクシュアリティの先進的な取り組みなどを学ぶ。それ以外にも、LGBTQフレンドリーな教育環境整備のための実態調査や、学生と教職員の定期的な意見交換会などの開催も予定しているという。

 ハフポスト日本版への寄稿の中で、LGBTQの当事者にとって「安心」した場所をつくることと同時に、何かがあった時に頼れる、何かを事前に食い止められる「安全」な場所があることも大切だと訴えた松中さん。9月からスタートするプライドフォーラムで、「LGBTQの学生や、働く人がいて当たり前だということが共有できる流れができてほしい」と語った。

(注3)ブライドブリッジ会長で、同大学の卒業生。ハフポスト日本版への寄稿で、一橋大学アウティング事件に大きなショックを受けた、と綴った。現在はゲイを公表し、学校の中にLGBTQの人たちをサポートするNPO法人「グッド・エイジング・エールズ」などの代表を務めるが、大学在学中にはカミングアウトしていなかった。松中さんは「私が大学生の時は、カミングアウトは選択肢に入っていませんでした。学校の中に相談できる場所があったら良かったと思いました」と語っている。

(注4)プライド(PRIDE):
 世界中で開催されているLGBTのパレードはしばしば「プライド」と呼ばれます。ニューヨークのパレードであればニューヨーク・プライド、サンフランシスコのパレードであればサンフランシスコ・プライドといった具合に。LGBTのパレードは(優勝祝賀パレードでもエレクトリカルパレードでもなく)LGBTの「プライド」を示すパレードだからです。

 では、LGBTの「プライド」とはいったいどのようなものでしょうか? 日本語でプライドというと「プライドが高い」「プライドが傷つけられた」というように、ネガティブな意味合いをイメージする方も多いと思います。「沽券」に近いニュアンスです。欧米で言うところの本来の「プライド」は「誇り」であり、自らを恥じない、堂々と自信を持っているという意味です。Appleのティム・クックCEOがカムアウトした際に「私はゲイであることを誇りに思っている(I’m proud to be gay)」と述べたように、pride, proudは肯定的な(とてもgoodな)意味で用いられます。
 アメリカでは過去に、赤狩りの急先鋒を務めたロイ・コーン検事(当時)やFBI初代長官のJ・E・フーバーらが有名ですが、クローゼット・ゲイの公人が保身のために(自身がゲイだとバレないように)率先してゲイを脅したり、破滅させたりしてきたという黒い歴史があります。今やそうした卑劣さこそ恥ずべきことと見なされています。自分がセクシュアルマイノリティであることを恥じることなく受け容れ、堂々とカミングアウトしよう、胸を張って生きていこうとする心意気が「プライド」です(OUTも同様の意味で使われています。OUT JAPANの社名の由来です)。

【附録】

この間、コロナで多忙で(言い訳)投稿が途絶えてしまい申し訳ありませんでした。ただ、最近ずいぶん元気が出ることが続いたので、幾つかコメントしたいと思います(A)。

*1 少し旧聞に属しますが、皆様もご存じの通りNEWS WEEKの今年の100人に大阪ナオミさん,伊藤詩織さんが選ばれました!特に伊藤詩織さんに関しては、恥ずべき国内世論を乗り越え、#Metoo運動の日本の先駆者=世界標準として認められました。

*2   Congratulations 大阪都構想廃案。

*3 Congratulations @JoeBiden and @KamaraHarris.

*4 今回のアメリカ大統領選挙と並行して進められた議会議員選挙で多くのLGBTQメンバーが立候補し、当選しました。

特に*3,4はまた記事として投稿する予定です。

LGBT差別にまつわるハラスメント その後(1)

事実経過 (再)

 昨年4月、このテーマについて記事を書いてから、ほぼ1年半が経とうとしている。この間、コロナによる激変があったが、特に「一橋大学アウティング事件」などをめぐるその後はどうなったのか。前記事にはリンク切れも多くなっており、少し気になったので調べてみた。なお、弁護士ドットコムの一連の関連したニュースを参考にしている。

まずは「一橋大生のアウティング事件」の経緯を再度確認してみよう。

2015年4月  一橋法科大学院の男子学生、同級生に恋愛感情を告白。

同年6月    その同級生に、約10人参加のLINEアプリグループに同性愛者だと実名を挙げて書き込まれ、心身に不調をきたす。その後、担当教授やハラスメント相談員らに相談したが、大学はクラス替えなどの対策をせず。

同年8月24日 講義中にパニック状態になり校舎から転落死。

2016年    両親は同級生と大学(がアウティングに対し適切な対応を取らなかったとして)に損害賠償を求めて提訴。

2018年1月  同級生と和解。

*同年7月    証人尋問。証言者は、大学側から、学生が被害を相談した教授、ハラスメント相談室長、学校医。遺族側から、父、母、妹の計6人。但し、当該学生と最も密にやり取りしていた相談室の専門相談員は、事件後に退職しており、証人として呼べなかったという。

裁判で遺族側は、専門相談員が、アウティング被害に悩む学生に対し、同性愛者であることに悩んでいるかのような対応をとったことを問題視している。加えて、ゲイの学生に対し、性同一性障害の治療(が必要か?)で有名なメンタルクリニックをすすめており、性的思考と性自認を混同していたのではないか、と指摘している。

この点について、相談員に請われてこのクリニックを紹介した校医は、「個人情報の関係で、セクシャリティによる悩みとしか聞いていなかった」と語ったという。いっぽうで、性的思考の問題だったとしても、「精神医学の対象ではない」ものの通常のクリニックに比べれば、「手厚く対応してくれる」と思っていたそうである。つまり、個人情報保護の問題で(職員間の)連携がうまくいかなかった、と言いたいようである。

一方遺族側は、事件後の大学の対応について証言したという:【父親】学生がなくなった翌日、大学側との面談の中で「ショックなことを申し上げます。息子さんは同性愛者でした」と言われ、「(息子が亡くなったのに)何を言っているのだろう」と憤慨した。また、学生(息子)がハラスメント相談室に行っていたことは知っていたため、相談内容を教えて欲しいと伝えたが、「守秘義務」を理由に拒まれた。後日、学生の遺品から相談内容の写しが出てきたので、大学側に説明を求めたが、やはり回答は得られなかった。49日を過ぎて改めて説明を求めたところ、大学側が報告に来ることになったが、「弁護士を同席させる」と伝えたところ、予定はキャンセルになり、大学側からの連絡は途絶えた。「息子のことを知りたかったが、大学側に拒否されて、裁判するしか無かった」。

【母親、妹】学生の死後、彼が高校時代にも同級生の男性生徒に告白し、断られていたことを知った。しかしその相手とは、亡くなる直前まで一緒に遊ぶなど、親しい関係が継続していたという。「同性愛を苦にしていたのなら、高校の時に自殺していた」(母親)。「兄は同性愛を苦にしていたのではなく、アウティングを苦にしていた」(妹)。大学側は遺族側に対し、反対尋問は行わなかったという。

*同年10月     31日、弁論終結。この日も学生の両親が出廷。2016年8月の報道以来、傍聴席には毎回、裁判を支援する当事者や一橋大OBの姿があったという。両親は(閉廷後)傍聴席に向かって一礼。母親は「いつもありがとうございます」と述べ、目頭を抑えていたということである。

2019年2月27日

東京地裁(鈴木正紀裁判長)請求を棄却。「大学が適切な対応を怠ったとは認められない」(被害を相談した教授について「クラス替えをしなかったことが安全配慮義務に違反するとは言えない」とし、相談員についても「クラス替えの必要性を教授らに進言する義務は無かった」と認定)とした。

その後現在までの主な経過は次のようになるかと思われる。

2019年3月7日

上記判決を不服として遺族側が控訴。担当弁護士は「(学生の)相談への対応は、ことに重大性によって変わるはずだが、地裁判決はアウティング(暴露)の重大性・危険性に言及していない。どれほど酷いことをされたかを改めて主張することになる」と話している。

*2020年6月   三重県が「アウティング禁止条例」制定に向けた動き。3日、鈴木英敬知事が県議会本会議の知事提案説明の中で表明。年内の制定を目指すという。この条例には、都道府県として初めて、本人の了解なく性的思考や性自認を暴露するアウティングやカミングアウトの強制の禁止を盛り込む方針。一部報道で「罰則の検討」も報じられたが、県ダイバーシティ社会推進課は(弁護士ドットコムニュースの取材に)「罰則は現時点で未定。実効性の担保について議論していく」と回答。アウティングの禁止をめぐっては、一橋大の事件がきっかけとなって、東京都国立市で、2018年全国に先駆けた条例が施行されている。

【この三重県の方針に関する担当弁護士の意見】

アウティングはなぜダメか? アウティングとは、情報の暴露により社会や他人に自分をどう見せるのかという「情報コントロールの自由」を奪うこと。だからアウティングは、時に人間関係を破壊し、孤立を引き起こす。現実にそうならなくとも、本人は「そうなるかも知れない」という恐怖と不安に苛まれる。

性の問題に限らず、出自や家族の事情、健康や疾病についての情報など、個人が隠したいと思う情報を勝手に暴露するアウティングは、いずれも人権侵害。「誰も気にしていないのに大げさだ」「堂々とすればよいことなのに」「いつまでもクヨクヨせず早く元通りになりなよ」などという反応は、アウティングで奪われるもの(アウティングによりもたらされるダメージ、損失)に対する無理解。

-アウティングを条例で禁止することの意味は? アウティングが「ヒドいこと」だということについて、伝わる人には伝わるのに、伝わらない人には全然伝わらないジレンマの中、「あぁ、法律や条例で、アウティングは違法だと書いてくれていたら!」と思うことはある。しかし、伝わらない人に「法律(条例)に書いてあるからダメなんですよ!」と言ってみても、それは「ただ怒られた」「なんだか住み心地が悪くなってきた」と思わせるだけかもしれない。結果として、その人が口をつぐんでも、それは「怒られるから口をつぐむ社会」になるだけ。

-罰則を盛り込むことについては? 罰則をつけると、かえって問題の本質が理解しにくくなるのではないか。「アウティングをしたら犯罪者になる」という入口と出口しか見えない。本質を理解することが重要な問題であるからこそ、罰則によらなくても、たとえば、国立市の条例のように、アウティングが違法であると確認するようなかたちのほうが穏当ではないか。                           ピンとこない人をむやみに萎縮させることなく、「自分は平気だと思っていたけど、他人もそうだとは限らないのだ」と、その想像力に働きかける。自分が自分を中心に生きているように、他人もその人を中心に生きている。自分が自由であるのと同じように、他人も自由である。言い尽くされた「当たり前の人権」をポロッと忘れたときに起こるのがアウティング。

現在、和解に向けて進んでいるという情報もある。

北海道大学、琉球大学の事例(6)の補足(最近の例(7))

北海道大学

名和氏の言い分

 名和氏は、学長選考会議による調査時期(2019年初頭?)からパワハラを否定し、「調査」の過程で事情聴取や弁明をする機会が全くなかったことを訴えている。また、文科省への「解任申し出」があった後もその主張を繰り返し、文科省の事情聴取(解任に向けた審査を進めるにあたり手続き上必要)に応じた陳述

名和氏の陳述書(文科省聴取2020年3月16日)

で一連の経過を述べている。その中で、手続きに関する多くの瑕疵を指摘している。主なものは、調査委員会設置までの手続きの瑕疵として、公益通報に関するもの(「公益通報」があったとして選考会議議長と顧問弁護士にいきなり総長室に乗り込まれ、辞任を迫られるという、公益通報規定を明らかに無視した行為があった)と監査報告に関するもの(パワハラ等があったとする年度の監査報告には、ガバナンスなどに関し、1例を除き指摘すべき事項は認められない、特に指摘すべき事項は認められない、とされており、監事は(問題視された事項に関し何故か知らされていなかった)が挙げられている。また、調査委員会の調査手続きの瑕疵(選考会議が設けた調査委員会は、一度も本人への聴取を行わず弁明の機会も与えられなかった。また、調査対象事実の告知や委員会に提出された証拠の閲覧さえできなかった)や総長選考会議の事実認定と評価に関する疑問点と誤りも述べている。さらに、これまでのハラスメント事件についての裁判例も付与されていて、これまでに類似事件による大学役員レベルの解任や罷免の例はないとしている。この陳述書のみを読む限りでは、名和氏の言い分にも一理あると思わせるような部分もある。

 また、この問題に関連して、「資源有志の会」により2020年3月頃より、change.orgにおいて「名和総長の不当解任申し出への反対と名誉回復を訴える」キャンペーン(署名運動)が展開されている。現在のところ大体1,000名の賛同者が集まっているようである。「資源有志の会」は恐らく北大の一部OBの集団であると推測出来るので、「選考会議」の告発時の議長も北大工学部OBであることから、有り体に言うと、(工学部?)卒業生を2分するような形での派閥争いであるのかも知れない。

そもそもの発端は?大学の運営路線の違い(派閥争い)?

上記の「陳述」の中の「2 総長に立候補した経緯等」には、全総長の人件費削減方針に対する異議が立候補の主要な動機であったと述べられている。毎日新聞の記事

https://mainichi.jp/articles/20200329/dd1/k01/100/052000c

によれば、2017年当時、選考会議の意向を受け前学長が提案した人員削減案に反対し、名和氏は寄付金など外部資金調達で削減を大幅に(約15%を約半分に)圧縮したという。

パワハラ内容や調査結果の不開示 やはりプライバシー保護?

しかしながら、いずれにしても名和氏本人も含め、教職員や学生に対してもパワハラの詳細や解任申出に至った理由などはこれまでほとんど説明がなかった。これはある意味、選考会議が密室で学長の解任手続きを進めた、と言えるかもしれない。学内外に無用な不安や混乱を引き起こすことは不適切で、国の公的機関としては組織の私物化などあってはならないことだと思われる。実際教職員組合は、以下のような機関誌や声明

北海道大学教職員組合機関紙2019年9月25日号

北大教職員組合 意向投票1回化の撤回を求める声明(2020年5月15日)

を発表して学内世論の喚起を図っており(成功はしていない?)北海道大学新聞も文科省の処分にあたって号外

北大新聞号外(2020年7月2日)

を出しているが、選考会議からの説明不足から他のマスコミ発表をなぞったものに留まっている。また解任申出書も一部不開示となっている。

解任申出書一部不開示決定

文科省の認定

文科省の発表で気になる点は、事実確認した行為に関して「一般的なパワハラと認定しているものはなく、不適切な行為が行われたというところで確認をしているもの」と担当者が話した、とされていることである。調査の結果同省が事実確認したのは28件あり(①役職員に対する総長として不適切な行為 18件、②対外的な大学の信用失墜行為 5件、③大学代表者、研究者としての問題行為 3件、④総長としての資質を疑われる行為 2件)、不適切な行為としては、威圧的な言動や叱責があったとしているが、詳細については明らかにしていない。官僚特有の作文で真意不明であるが、パワハラ以外にも不適切な点が多々あったと言いたいのであろうが、認定の仕方としては申出書を追認した、極めて雑で荒っぽい感じがする。

7/1記者会見と「今後の方向性」 学長の業務執行状況の点検?副学長も(担当がある故に)

大学発表(2020年7月1日)

この文書では、極めて大雑把な経過説明の後、常套句の「関係者のプライバシー保護」が不開示の理由であったことは述べられているものの、やはり今回も詳細な説明は無い。ただ少し唖然とするのは、選考会議が文部科学大臣に解任の申し出を行ったことを、「本学に自らを律する能力が備わっていることの証であると認識している」とする下りである。本来自律能力・自助能力があるならどうして非民主的に一貫して説明をしないまま密室で事を進める必要があったのであろうか?

大学による経緯説明(2020年7月1日)

この文書では、もう少し詳しい経過報告があるが、選考会議をいう開いたとかいう類の情報と文科省発表内容が繰り返されているだけで、どのようなハラスメントや不適切行為があったのかなどについては依然として謎のままである。

今後に関しては、この文科省判断が出る半年以上前の2019年12月に、総長選考会議は総長選考方法を変更すると決定している。その内容は、教育研究評議会からの推薦を可能にすること(これまでは20人の推薦人で可能?)、意向投票を1回限りとすることが主な内容らしい。これに対し、教職員組合は5月15日になって、この撤回などを求める声明を出している(上掲)。

また、記者会見の最後では、今回の事態を踏まえ、学長選考にあたって管理能力を重視した方法に変更し、学長の業務執行状況の点検を評価する方針も示されたという。即ちこれまで4年目に実施していた業務執行状況の点検を2年目以降毎年行う。点検内容も管理能力に重点を置くという。

これらの方向性は、一定程度評価できるのではないだろうか。なぜなら、国立大学を含む多くの大学では(外国では常識の)執行部の業務点検は殆ど行われて来なかったからである。即ち、今までは(国立大学では、普通意向投票を参考に選考会議で決定するというような手続きを経て)一度学長になると、全体の融和を重視するのでなく、自分のお気に入り(ゴルフ仲間や同じスポーツジムの常連などのお友達?)を副学長に据え、あとは執行部全員で外国出張などを含めやりたい放題というのが良くあるパターンである(どこかの内閣と酷似!)。この意味で、以前述べた、学長立候補或いは就任前の身体検査に加え、学長業務の頻繁な点検と不祥事や不適切行為があった場合の罷免を可能にする制度が早急に整備されねばならない。また、担当を明確にして任命されることの多い副学長についても任務分担を意識した業務の点検がやはり厳しく行われるべきである、と考えられる

今回の文科省の処分にビビっている学長・総長も結構いるかも知れない。自分の業務遂行に自信があり、自ら点検制度を構築するような学長がいれば良いのだが。

 

琉球大学

医学部だけでも度々繰り返されて来たハラスメント 医療現場は大丈夫か?

 「医学部教員の独り言」なるブログ

https://smedpi.hatenablog.com/

などによれば、琉球大学医学部のハラスメント事件は」この20年ほど繰り返し起こっているようである。大学執行部のこの種の問題に関する取り組みが真剣に行われていない証拠でもあるような気がするのだが、、、。

例1:「研究で嫌がらせを受けた/琉大医学部助教授、指導教授を提訴(琉球新報1999年11月23日付)

琉球大学医学部のB教授から約8年間研究活動などで嫌がらせを受け、大学側もその嫌がらせに対し適切な措置を怠ったとして同大のA助教授がB教授と大学側を相手取り、550万円の損害賠償を求める訴訟を22日、那覇地裁に起こした。

訴状によると、A助教授は1991年10月頃、雑誌への論文投稿に関し、B教授から「自分も著者に加えないと論文発表を許さない」などの要求を受け、これを拒否したのが発端となり、物品購入や同大紀要への業績掲載の妨害、実験・事務機器利用妨害など数々の嫌がらせを受けたという。このため、A助教授は九州まで出向いて研究を行わざるを得ない状況に追い込まれるなど「B教授の私怨、腹いせで学問研究の自由や人格権を侵害された」としている。これに対し、B教授、ふき山医学部長(当時)は「訳が分からない、覚えがない」、「内容がよく分からない」などと述べていたという。

那覇地裁は2003年2月12日、原告の訴えを認め、国に約55万円の支払いを命じた。教授への請求は棄却。

例2:教授相手に今日提訴/琉大医学部講師等2人(琉球新報2001年6月27日)

琉球大学医学部の不当な医局人事や研究妨害で精神的苦痛などを被ったとして、同大医学部講師と元研修医の2人が国と同大教授を相手に計2000万円の損害賠償を求める訴えを、それぞれ那覇地裁に起こした。

訴状によると元研修医は1997年に県立八重山病院に赴任中、人手不足に加え切迫した家庭の事情などから応援医師派遣を要請したが、無視された上その後の移動でも不当な扱いがなされたため退職。民間病院への転職でも妨害があったなどと主張している。また同大医学部講師は「上司の教授が権限を乱用して外来診療の担当を妨害している」と主張。新規患者の割り当てから排除されたことで研究活動を制限され、医師本来の診療ができない、不当、不合理な立場におかれている」と訴えていた。いずれも地裁判断などは不明。

例3:琉球大学、医学部の男性教員を停職10ヶ月の処分(時事通信2013年3月21日)

琉球大学は21日、セクハラやアカハラをしたとして、医学部の50代男性教員を定食10ヶ月の処分にしたと発表した(処分は19日付)。同大によると、教員は2007~10年頃、元大学事務職員の女性と女子研究生に対して繰り返し性的な発言をしたり、静的な関係を迫ったりしたほか、優位な立場を利用して指示を出したという。

例4:「琉大パワハラ」職場改善で和解 那覇地裁 大学側と技師合意(2014年3月27日沖縄タイムス、28日琉球新報)

2011年に提訴された、医学部附属病院の検査技師ら5人が、同病院の検査部長と輸血部長を併任する医学部教授に職務から排除されるなどのパワハラを受けたとして、琉球大学(大城肇学長)と教授に計825万円の損害賠償を求めていた訴訟で、27日までに那覇地裁(鈴木博裁判長)で和解が成立した。職場環境の改善に向けて合意書を交わしたと言う。

合意書では、琉大側に職務分担の改善やハラスメント調査の適正な実施のほか、他大学の指針などを参照した上での防止策の策定や合意書の職員への通知などを求めている。原告側は「職場環境の改善を求める主張が全面的に盛り込まれた」と歓迎。「ハラスメントは学内で他にもある。大学が合意内容を履行するおよう注視していきたい」と話した。大城学長も「大学は今後とも各部署の全職員が働きやすい職場になるよう努力していく」とのコメントを発表した。

合意書(北大教職員組合HPから)

 

北大学長に文科省より解任通知(最近のアカデミックハラスメント例(6)北海道大学、琉球大学)

北大学長に解任通知(文科省) 学長「不当な処分」、北大教職員組合「説明不足」

NHK (https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200630/k10012489001000.html)や共同通信によれば、昨年7月より北海道大学の「学長選考会議」が解任を求めていた名和豊春学長について、文科省が解任を通知していたということである(6月30日付、本人談)。学長本人は「(事情聴取もなく)解任は不当な処分。この決定に至った審査過程について説明を求めるとともに、処分の取り消しの訴えを起こすことなどを検討したい」としている。

この事件についての最初の動きはどうも北大OBから開始されたものらしく、最初は地元の経済誌によりスクープされた形である。その経緯は本ブログの2年前の記事

北大総長にパワハラ疑惑!?

に既に紹介済である。

名和学長は2017年4月学長に就任したが、2018年10月頃からパワハラ騒動が明るみに出て問題視されたため、同年12月から休職していた。その後体調が回復したものの、昨年7月大学側が文科省に解任を申し出たため復職は実現していなかった。文科省の調査では、大学の役員や職員に対し、威圧的な言動など、合わせて28件の不適切な行為が確認されたため、「国立大学の学長に適していない」として30日付で解任処分をしたということらしい。7月1日の北大の記者会見の様子は後日詳報したい。

また、昨年3月29日付の毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200329/k01/100/052000c

によれば、2018年末から2019年7月の解任申し出に至るパワハラ騒動のなかで、一般教職員や学生に対する経過と理由の説明などは一切なく、全く密室で進められたものらしく、このような「選考会議」を中心とする動きに教職員組合は強く抗議する声明を出している(2020年1月)。すなわち、どのようなパワハラがどの程度の規模であったのかなどは一切明らかになっていない。また、学長本人も述べているように、事情聴取について選考会議のレベルから果たして公平に行われていたのかという疑問にも何らのコメントさえないのが現状である。どうも低レベルな派閥争いに過ぎなかったのかも知れないが、1年半にわたる大規模国立大学における執行部の空白は、国民の負託を受けている多額の税金で運用されている公的機関としては、あまりにも不誠実かつお粗末であるような気がする(これについては続編予定)。

アカハラ事件と大学執行部(学長(総長)を含む役員)の責任の取り方ー辞職、解任は極めてまれ。開き直り、隠ぺいの張本人である場合も!-

この問題に関しては、奇しくも前の記事で、セクハラ処分に関する立教大学総長の引責辞任劇を扱ったところである。その中でも述べたが、一般に、学長を含む大学執行部がアカデミックハラスメント事件の責任を取ることは殆どない。仮にあっても、形式上の監督責任を果たしていなかったからとして、すべての責任を加害者に押し付けつつ、被害者のプライバシーに関わるという決まり文句で加害者のプライバシーを保護しつつ一定の処分をし(その妥当性についての説明は殆どない)、自らには極めて軽微な「処分」を課すだけである。

 それどころか今回の場合のように、大学や研究組織の執行部や役員自身がハラスメントの加害者になる場合も頻発している。別の言い方をすれば、パワーハラスメントやアカデミックハラスメントを公然と行ってきた教員がハラスメント批判を跳ねのけたり居直ったり事実を否定したりしたのち執行部の役員になっていることが残念ながらしばしばあるのである!

 そしてこの例のように、事件が教職員に対するパワハラ案件である場合は、事件の調査・解決に少し時間がかかっても(数年はかかるが)、被害者がそのまま在職でき(次例のように退職に追い込まれることもある)、加害者が処分されて被害者にも一定の利益がもたらされることはある(稀ではあるが)。しかしながら、ハラスメント加害者であるのに、居直って或いは隠ぺいして組織の役員になっている連中が隠ぺいや否定の対象にしているのは、殆ど男性教員が女子学生・大学院生に対して行ったセクハラ案件、或いはパワハラにより学生が自殺した場合が多い。国立大学も含め、ほとんどの大学がハラスメント相談窓口や調査組織などをもち、ときおり軽微な「処分」を発表しているが、その背景には多くの案件が調査委員会で(当事者の抵抗によって)滞留しており、被害学生の卒業や終了に伴い、うやむやにされてしまうケースが多々ある。留学生が被害者の場合も不安定な在留条件が隠ぺいに利用されることもよくある。また学生の自殺の場合は、2つ前の記事にもあるように、地方マスコミへの情報徹底非開示と親族の裁判提起を抑え込むあらゆる努力が大学・組織一体となってなされる場合さえある。このようにして、あらゆる手段をもって自身のハラスメントをなかったことにしたのち、組織を代表する役員についている教職員も多く、今回の文科省処分にビビっている連中も日本全国に結構存在することは間違いがない。

 こういう悪しき陋習を断ち切るためにもわれわれはこの間ずっと、重要ハラスメント案件には学内調査ではなく、外部の中立的人材を含む第三者委員会の設立とその主導による問題の調査・情報開示・解決を求めてきた。また、ハラスメントのやり得・逃げ得・隠ぺいを許さず、在学中や在職中に何ら報われなかった多くの被害者の無念を晴らすためにも、新しい「ハラスメント貯金」運動なるものを今後提唱して行きたい。(いずれ詳細は述べるが)これは、ハラスメント当事者がメモ、写真、動画など様々な手段でしっかりハラスメント現場を記録し、それらを周りの友人、知人、同僚や理解ある上司などに客観的に認定してもらうことから始める。これらのデータを組織ごとに(外部に)着実に蓄積し、ハラスメント常習者に関して逃げ得を許さず、機会があれば大衆的に暴露し責任を取らせることも視野に入れている。外国では既にやられていることではあるが。

 最近の情報では、本ブログで取り上げたセクハラとパワハラの常習者

二人同日に学生が自殺した大学

セクハラ常習教員(1)

セクハラ常習教員(2)

セクハラ常習教員(3)

が、相次いでそれぞれの組織で役員になっていることが分かっている。この組織名(大学名)は、本ブログへ問い合わせして頂ければ開示する。但し、問い合わせた方が、現在または今後、その組織に関連して人権にかかわるような不利益を被る恐れがある場合を想定します。くれぐれも該当する恐れのある組織・大学に近いうちに就職や進学を考えている方は、一見派手な表面ではわからないその組織の内部のハラスメント環境をぜひ(ネットで)調べてみて、自分の大切な将来を決める参考にすることをお勧めする。本来輝かしくかけがえのない若い貴重な数年を無駄にするどころか地獄の日々にしてしまう可能性もあるので。

琉球大学医学部教授のパワハラに対し、那覇地裁が賠償命令

琉球新報の最近の記事

https://this.kiji.is/604486214556157025

によれば、同大学医学研究科の男性教授2人が、男性講師に対して退職を迫るなどのパワーハラスメントを繰り返していたとして、男性講師が教授2人と琉大を相手に損害賠償計730万円を求めた訴訟で、琉大に100万円の支払いを命じていた。教授2人ん対する請求は国賠法上の対象とならないとして退けられたため、原告は福岡高裁に控訴。琉大側も判決を不服として控訴している。初回期日は4月15日であったらしいがどうなったのであろうか。

判決によると、元々教授2人が講師のデータを無断で論文などで発表し不和になっていたところ、(講師の)科研費非常勤の申請に不備が見つかり、これ乗じて原告を退職に追い込むような発言があったと事実認定したという。これを「ハラスメント行為というべきである」としているらしい。

この事件についてもまた続報をお届けしたいと考えている。

 

立教大学総長の引責辞任と日本大学におけるサークル活動の闇(最近のアカデミックハラスメント例(5))

立教大学 セクハラ対応の拙さを認め総長が引責辞任

最近の毎日新聞やCheristian Todayなどによれば、2018年に発覚したセクハラについての初期対応の誤りで、郭洋春(カクヤンチュン)総長が引責辞任する(今年度末=来年3月)という。

https://mainichi.jp/articles/20200515/k00/00m/040/197000c

https://mainichi.jp/articles/20200516/ddm/012/040/061000c

https://www.christiantoday.co.jp/articles/28055/20200515/rikkyo-university-sexial-harassment.htm

https://www.christiantoday.co.jp/articles/27012/20190711/rikkyo-university-tw-vice-presidents-resigned.htm

記事から拾った経緯はまとめると大体次のようになると思われる:

*2018年6月、1件目の被害深刻。郭氏は当時の副総長二人に対応を指示。副総長らは加害教員の所属学部と調査し(人権ハラスメント対策センターに相談しないまま)、

*2018年12月、学部長による厳重注意処分とした。加害教員は当時学内で要職を務めていたが、郭氏は解任しなかった。しかし、

*2019年3月、学内の「人権ハラスメント対策センター」が「処分は軽すぎる」と指摘したため、郭氏はこの時点で加害教員を要職から外した。再調査の途中の

*2019年7月、加害教員が厳重注意処分を受けた後に2件目のハラスメント事件を起こしていたことが発覚。

 その後大学は外部有識者を交えた委員会を設立し(今年3月まで)、郭氏(総長)らの一連の対応についても検証した結果、二人の副総長に加え、被害申告があった後も加害教員を要職に留まらせた早朝にも責任があるとの結論に至ったという。

*2020年3月(23日付)、2件のハラスメント事案を起こした教員を懲戒解雇。

2020年5月(8日)、学校法人立教学院の理事会で、ハラスメント行った教員の任命責任と監督責任、また初期対応の責任を重く受け止め、任期途中での辞意を表明。同日理事会が申し出を受理。その結果、郭氏は新型コロナウイルス感染拡大に伴う対応にめどをつけて今年度末で(副総長を)辞任することになったという。なお、初期対応に当たった副総長二人、池上岳彦教授(経済学部、統轄副総長=後任は野沢正充教授(法学研究科))、松尾哲久教授(コミュニティ福祉学部)も誤りを認め、既に辞任している(2019年6月30日付、7月4日の学部長会議で承認)。

 しかしながら、大学はこの間の経緯(事案の中身や加害教員の氏名等)については「被害者のプライバシー保護のため」として公表してないので、詳細は不明のままである。

 

 郭総長は1959年東京都で生まれている在日朝鮮人である。加害者教員も韓国人教員であったらしく、そのため当初処分をしなかったのでは、という憶測もある。また、ネットでは、「ハラスメントで執行部の、特に総長が引責辞任することは珍しい」という反応もあるらし。確かに、日本全国の他大学では、もっぱら加害者に責任を押し付けるのみで、任命・監督責任を明確化しケジメをつけたという例は私の知る限りはでなく、率直に評価すべきかもしれない。ただ注意すべきは、副総長二人も含め、彼らは大学を辞めるのではなく単にその地位を退くだけである点である。大学全体の評価を著しく下げたという意味では管理責任はもっと大きい気もするのであるが、それでも他大学よりはマシというべきか。

 

日本大学 アメフト事件の1年前にサークル活動で起こっていた悲惨な事件

またも週刊文春であるが(2020年5月7・14日号)、アメフト部で例の「悪質タックル事件」がおきた2018年の前年、もっと悲惨な事故が日大のサークルである「プロレス研究部」で起きていた。被害者Aさんの父の話:「息子は就職することもかなわず、ずっと自宅やリハビリ施設での両様生活を余儀なくされているます。しかい、大学側は真摯に事故原因を究明することもなく。『こちらに責任はない』と言い切った。『ふざけるな』という気持ちでいっぱいです。

 他の記事なども参照して、大体の経過をたどると以下のようであるらしい。

*2015年、Aさん(他の私立大学の2年生)日大のプロレス研究会「NUWA」に入る。

Aさんによると「プロレスが昔から好きで、ネットでたまたまNUWAのホームページを見つけたんです。『他大学も歓迎』とあったので、入会しました」。それから週に2回ほど、日大法学部6号館で開かれる練習に参加。

*2017年、当時サークル内で、Xという学生にいじめられていた(Aさんの脛をたたく、食費を出させる、の他に、Aさん(4年生で就活中)をサークルに残らせるために「留年しろ」と脅す、授業に出るため練習を断ったAさんにしつこく「出て来い」と連絡するなど)が、ある日Xから「試合でバックドロップをかけられるように」と言い渡され、Xの後輩のY(体格は良いが試合は未経験)との練習を強要された。当時Aさん(身長166cm、63kg)はそれまで主に「お笑い試合」に出場しているようなメンバーだった。

注1)サークルNUWA:日本大学のプロレス研究会(他大学の関連団体ともにときどき学園祭等で「興行」を行ってきた。学生プロレスはコミカルなお笑い的プロレス等を含む趣味的な興行が主流であったが、若干のOBが芸能人になったことも有り、次第に社会的に認知されるようになった。この事故を受けNUWAは、現在は活動停止から解散になっている。

注2)バックドロップ:相手の背後から脇の下に首を入れ、相手のタイツのベルトを掴んで後方に投げ飛ばす荒っぽい危険な技。受け身をとれない状態で技を受けると頸椎の重大な損傷に繋がり、プロの試合でも実際に負傷者が出ている。

*2017年8月1日 それまでの練習中もXは、受け身を取るのは格好悪いので「首から落ちろ、首から!」というような命令を再三強要していたらしいが、この日はYがAさんに3度バックドロップをかけた後、Xの「見栄えが悪い。振りぬく感じが足りない」という指示がさらにあり、YはAさんを思いきり後方に投げ飛ばした。周囲のメンバーも「Aさんが完全に上半身をフリーに(受け身を取らずに?)投げられる技を受けるのは初めてだったので『大丈夫かよ』と心配していたという。

 投げられた後、首の脱臼による凄い痛みのため意識はあったが、急に息苦しくなりそのまま救急車で病院に搬送された。診断は重症の脊髄損傷。緊急手術が施され何とか一命はとりとめたが、今も首から下が自力で動かせない全身不随の状態になった。

*2017年8月~2018年12月 その後周囲の助けもあって大学は卒業したが、体の状態は戻らなかった。また、事故についての調査と見解を日大側に求めたが、「サークル活動中に起こった不慮の事故」との見解を口頭で告げられただけで、まともに取り合ってもらえなかった。Yは一度見舞いに来たがから謝罪は無かったという。

*2018年12月、Aさんは日大とX、Yに対し、5000万円の損害賠償を求める(民事)裁判を起こした。司法関係者によると、日大は「サークルの連絡会を開催して活動内容について注意喚起した。大学として十分な措置を講じた」と反論し、真っ向から争う姿勢を見せている。XとYはAさんを「長年の経験者」とし、Aさんが怪我をした投げ技についても「Xの指示はなかった」と主張しているという。

 ちなみに、6月に管轄の神田警察署に被害届を提出。2020年3月10日に、XとYは業務上過失傷害の疑いで書類送検されている。初公判は5月21日に予定されていたらしいが、果たして開かれたのであろうか?

 文春の最近の取材申し込みに対しても、Yは携帯で今回の事故の件を尋ねると「ちょっと今忙しいので後ほどで」と切れ、その後は不通。Xは携帯に出ず、留守電とメールで取材を申し込むも締め切りまでに応答無し。日大企画広報部広報課は「係争中であるからお答えを控えさせて頂く」と回答があったようである。

学生同士のいじめ・トラブル

 この事件は、学生同士のサークル活動に絡む「いじめ」に端を発し、大学当局の放任ともいえる無責任な管理体制の中で、取り返しのつかない結果を招いてしまったと言う点で、極めて残念な事件である。小中高でのいじめの体験を相対化できないまま大学に来てもいじめを続けている大学生には、大学・サークル活動の自治等を牧歌的に与えるのではなく、これらの点をしっかり教育するか厳格に管理することが大学には求められよう。また、被害を受けた当事者・家族には、被害の訴えに対し誠実に対応してくれるところが殆ど無い現状がある。両事件とも既に裁判が進んでいるので、今後の動向もしっかり追跡したい。

大学側の不誠実な対応

 日大は、Aさんが日大生ではなくプロレス研究会の会員でもないので(事前に提出するべき研究会名簿に名前が入っていなかった)、保険対象ではないため(賠償金を払いたくないため?)ひたすら練習中の事故で片付けようとしているとも推測される。研究会の顧問は法学部の教員が配置されており、大学としてのサークル活動の管理責任はあったと思われる。事件について公表し、加害学生を処分し、謝罪を行わせるべきである。

 この点についても、前記事の甲南大学の例と似ており、何らかの不都合な理由により謝罪と賠償責任を果たすべき問題からひたすら逃亡しようとしている。

なぜか大手のマスコミ(新聞テレビなど)には取り上げられず!?どこかからの圧力か?

甲南大学で学生が自殺 サークルのトラブルに大学が責任をもって関与せず/新潟大学/群馬大学(最近のアカデミックハラスメント例 (4))

【甲南大学】

 「部費横領」トラブルで大学対処せず、学生が自殺

 毎日がコロナ関連のニュースで明け暮れる中、3月9日 、ある学生の自殺が報じられた。但し、関西ローカルかも知れないので、埋もれてしまわないことを切に祈るものである。以下に、精力的に報道を続けている毎日新聞の記事から主に引用しつつ、事件を見ていく。

http://mainichi.jp/artticles/20200329/k00/00m/040/206000c

http://mainichi.jp/articles/20200308/k00/00m/040/328000e?cx_fm=mailhiru&cx_ml=article

http://mainichi.jp/articles/20200309/ddp/041/040/009000c

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202003/0013180260.shtml

https://digital.asahi.com/articles/ASN3B72LCN3BPIHB028.html?iref=pc_ss_date#

https://digital.asahi.com/articles/DA3S14399168.html?iref=pc_ss_date#

 概要:甲南大学2年の男子学生が、2018年10月、自殺していたことが分かった。その原因は、「学園祭の模擬店の売上金を横領した」などの誤った事実を理由に文科系クラブを強制退部させられ、その情報が広まったことであるらしい。実際には横領の事実はなく、学生は名誉回復のための対応を大学に求めたが実現せず、その後命を絶った。大学側は「一連の対応は問題なかった」としているが、遺族は検証のための第三者委員会の設置を求めている。しかしながら未だに実現していない。

 事実経過:

  • 18年3月 「この学生が(17年11月の)学園祭の模擬店の売り上げを横領した」などの誤った情報が部長らによって部員に周知され、学生は退部勧告を受けた後、強制退部させられた。

 部長は25の文化系団体の部長らで構成する甲南大学公認:「文化会」でも学生の入部を拒否するよう要請。学生は入部を希望した複数の部の関係者に「ブラックリスト入りしている」などと言われた。

 学生は、退部勧告を受けた直後から大学の学生部に相談し、関係者間で横領の事実がなかったことを確認した。これを受け、

  • 18年5月 (当該の)部長が「明確な確認を取らないまま、横領したと断定してしまった」などとする謝罪文を学生に渡し、強制退部と他の部への入部拒否の要請をそれぞれ撤回。

 学生は「事実無根の情報が拡散してしまった」と訴え、名誉回復のために謝罪文の掲示などを大学側に求めたが、遺族によると、大学側は「知らない人がほとんどだ」などとして、応じなかった。学生は同月、学内のキャンパスハラスメント防止委員会に苦情を申し立てたが、同委員会は

  • 18年9月、横領したと誤解されるような発言を学生がしていたなどとして当該部長らの行為はハラスメントに該当しないと判断した。
  • 18年10月 自殺。遺書には「自殺に至った主な原因は3月に起こった部および文化会による名誉棄損などによる精神ダメージ(中略)甲南大学の対応も遅く私は限界となりました」などと記されていた。
  • 19年10月 遺族は、甲南大学を経営する学校法人甲南学園に、事実究明と大学側の対応を検証するための第三者委員会の設置を求めたが、法人側は「一連の対応で不適切な点があったとは考えていない」などとして拒否。遺族は「息子の抗議に真摯に向き合うべきだ」と話す。

不誠実な対応に終始し「幕引き」を急ぐ法人:

 法人は(毎日新聞の)取材に「可能な限りの対応をしてきており、問題があったとは考えていない。しかし、一人の学生の貴い命が亡くなってしまったという結果については誠に残念、遺憾としか言いようがない」などと回答している。(加害者である)部長の代理人(多分弁護士)は「亡くなった学生やご遺族の主張が客観的に正しいかはわからない」などと答えてもいる。

ハラスメント委員会の実態 本当に「不適切な点」は無かったのか?:

 その後の取材により、ハラスメント委員会の調査過程などに関し、1) 聴取を行った学生や教職員の人数、肩書も不明なこと2) 調査の詳細は苦情申し立て者にも「開示できない」とされているなど、多くの疑問点が明らかになってきている。

 1) については、例えば、委員会の構成は(公開されている規程によると)副学長(中井伊都子氏)、学生部・学長室事務部・総務部の各部長、学長が指名する専任教員であるらしいが、男子学生が直接聴取を受けた3名以外は他の委員の名前や委員会の開催回数などは明らかにされていない。また、他に聴取を受けた学生や教職員の人数、肩書なども不明のままである。

 さらに、学生が聴取の際訴えた「(当該部長が他部に出した入部拒否要請の)撤回文は名誉回復になっていない。部に非があったことを完全に表にし、部が誤っていることを明らかに示してもらいたい」という内容が、委員会でどう受け止められたのかを検証しようにも、委員会の議事録は学生への聴取録を除き非公開である。

 2) については、一連の毎日新聞の質問に対する法人側の対応は以下のとおりである;

(委員会の調査の客観性や中立性はどう担保されたのか)外部の専門家を委員会に出席させたのか?(規定に「必要と認めるときには外部専門委員等を委員会に出席させることができる」とある):「出席していない。審議の過程で外部専門家である弁護士に、随時、意見を求めていたから」

苦情申立者に議事内容を開示するか?:「保護すべき個人情報が多く開示できない」

苦情を審議したハラスメント委員の名前や肩書、委員数、議論の経過は?:「学内手続きの経緯詳細及び特定の教職員・学生にかかる情報などについては答えを差し控える」

 これらの大学の態度に関し遺族は「息子の悲痛な状況が拡大していくのを無視した大学の対応そのものが(第二の)ハラスメントだ。大学が息子を自死に至らせた経緯が闇のままなのはおかしい」と批判する。この一連の経緯からは、どう見ても法人側の対応が適切であったとは言えない。甲南大学は関西では、多くの社長や経営者を輩出している大学で、その子弟が多く通学・卒業していることでも有名である。当時の甲南大学は100周年(実際には大学設立70周年)に向けて異様な熱気を帯びており、大学イメージアップの広報のためには学内のハラスメント事件をもみ消し、その後の(第二のハラスメントによる)学生抗議自死をも隠蔽する必要があったためではないだろうか。今こそ大学側は、猛省して遺族に謝罪と補償をすべきであろう。

大学における第三者委員会

 本ブログのめざすものや初期の記事でも度々述べてきたように、日本の大学における様々なハラスメント事件に関する学内の調査委員会は、基本的に適切に機能している例は殆ど無い。その意味で現状では各組織の自浄能力に期待するのは無理であり、外部の人材を含む第三者委員会の速やかな設立をめざすべきことを一貫して主張してきた。勿論ハラスメント事件が起きたとき、それに対する最初の対処法として、該当組織の適切な部署に訴えることは悪くはない。しかし並行して第三者委員会設立も進めるのが望ましい。なぜなら学内委員会は色々な点で歪められ、スピードも遅くなることが多く、その結果、緊急避難的な対策は行えても原因追及や加害者への処分などは往々にして当事者の学生などが卒業後ということになる場合が多い。被害者がいなくなるので、加害者の処分がうやむやになり、結局加害者は「やり得」ということが永年繰り返され、結果としてその組織のハラスメント体質がいつまでも改善されず、被害者。自殺者が続くという悪循環になりがちである。

 実際、学校問題の被害者遺族でつくる「全国学校事故・事件を語る会」の内海千春代表世話人は、本事件に関し「大学内で作られた調査組織は大学教授らが委員を務めるので、もっともらしく見える。しかい、外部の目が入っていなければ、組織防衛のために情報が操作される恐れがある。大学が『不適切な対応はしていない』と主張するなら、十分な情報開示や外部の目を入れて検証するなど、説明責任を果たすべきだ」と指摘している。

 小中高校のいじめによる自殺や長期欠席の調査をめぐっては、文部科学省のガイドラインが弁護士や精神科医、学識経験者らで構成する第三者委員会を設置するよう教育委員会や学校法人などに求めている。その中立性を確保するために、学校側と被害者遺族側のそれぞれが推薦した団体から委員を選ぶなどの形式で設置された委員会もある。

 大学や研究機関が第三者機関設置に極めて消極的なのは多分多くのやましい事例をひた隠しにしてきたからであろう。世界をけん引すべき「知の砦」としては本当に恥ずべき情けない話である。

大学における自殺調査の法的枠組み

 ハラスメント事例、学生の自殺事件などに関し、第三者委員会がほとんど設置されない現状は、大学でのみ自殺調査の法的枠組みが無いことにつながっている。即ち、小中高校のいじめに関しては上述の仕組みがあり、労働者が受けるハラスメントについては、2020年6月施行のパワハラ防止法などで事業主に防止措置が義務付けられている。これに対し、殆どの大学は、学生が利用できる相談窓口を設けたり、ハラスメントに関する規程を形式的に整備したりしているが、相談対応や調査の具体的な手法は各大学の判断に委ねられており、調査の公平・中立性を担保する法的な仕組みがない。まずは以下の住友先生のご発言にあるような、全国的なガイドライン制定をめざす動きを作り、関連する条例や法の整備に向けた努力を続ける必要がある。

大学生の自殺統計

 本ブログの初期の記事でも触れたように、日本は諸外国に比べ若年層の自殺者が多いことが知られているが、毎日新聞の記事によると、2018年に自殺した大学生は336人に達する。原因・動機別(重複有)では「学校問題」145人でトップで(43 %)、以下「健康問題」79人、「家庭問題」35人と続く(厚生労働省などの統計による)。

 これに関連し、学校での事件事故の調査に詳しい京都精華大学の住友剛教授(教育学)は次のように話しているという:「大学側の対応に問題があると疑われるケースでは、大学が自らの対応が適切だったかを外部の有識者による第三者委員会を設置して検証すべきであり、その方が大学側の真摯な姿勢を示すことにもなる」、「学生がどのように追い詰められ、大学がどう対応したかについて、国や公的機関が全国の実態を把握し、ガイドラインを作ることが望ましい」。

甲南大学キャンパス・ハラスメント防止ガイドライン

https://www.konan-u.ac.jp/life/campus_harassment/

 もしこの記事をお読みの方で、いわゆる学校問題で深刻な悩みを抱えている方、もしくはそのような友人をご存知の方は、自死を考える前に是非以下に挙げる組織や団体ににアクセスして欲しい。勿論本ブログでも相談は受け付けて力になれるようサポートします。

参考・関連リンク(毎日新聞掲載のものを転載)

03-5286-9090 年中無休 pm8時-am5:30 但し、火曜日 pm5時-am2:30、木曜日 pm8時-am2:30

 

【新潟大学】

50代准教授がセクハラ 停職1ヶ月 

 まず大学側の発表を見てみよう:

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令和元年9月11日付け 職員の懲戒処分について

2019年09月13日 金曜日   お知らせ

 このたび,下記により令和元年9月11日付けで本学職員を懲戒処分としましたので,お知らせします。

事案の概要

 本学自然科学系准教授(男性,50歳代)は,平成28年から平成30年にかけ,研究室の所属学生に対して,学部学生のテストの採点を行わせるなどのアカデミック・ハラスメント行為及び女子学生の容姿や身体的特徴,服装に関する発言を行うなどのセクシュアル・ハラスメント行為を行ったことにより,学生に精神的苦痛を与え,修学上の環境を悪化させたものである。

処分の内容   停職1月

今後の再発防止策等

服務規律の確保について,今後一層の徹底を図ることとしています。

学長のコメント

 学生に精神的な苦痛を与え,修学環境を悪化させるようなハラスメント行為があったことは,新潟大学の職員としての自覚と責任に欠け,誠に遺憾であり,被害を受けられた学生に深くお詫び申し上げます。
 今後このようなことが起こらないよう,職員に対するより一層の規範意識の徹底を図り,再発の防止に努める所存です。

本件に関するお問い合わせ先

総務部労務福利課
電話 025-262-6032

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毎日新聞の記事

https://mainichi.jp/articles/20190913/k00/00m/040/065000c?pid=14606

により補足してみる。

 新潟大によると、准教授は2016-18年にかけ、自身の研究室に所属する大学院修士課程の男子学生3名、女子学生2名に学部生の講義のテストの採点をさせるアカハラをした。また、この女子学生2名に対し、足や胸に関する発言をするなどのセクハラをした。

 18年春に5人全員が学内のハラスメント窓口に申し立てて発覚、新潟大は5人全員を他研究室に異動させ、ハラスメント委員会で調査していた。准教授は不服申し立てをしており、「ハラスメントという認識はなかった」と話しているというが、同委員会はハラスメントがあったと認定した。学長のコメントは上記引用文書にある。

 なかなか難しいところであるが、この規模にしては処分が軽すぎる気もするが。

 

【群馬大学】

医学部教授がアカハラ 大学側公表せず 

 こちらの方は何故か公表もされない事例らしいが、

https://mainichi.jp/articles/20190529/k00/00m/040/024000c?pid=14516

毎日新聞が入手した文書によれば、群馬大学は2019年春、医学部に在籍の男性に対する医学研究科の男性教授によるアカデミックハラスメントを認定していたという。大学側は認定自体を公表しておらず、取材に対し詳細の説明を拒否。当該教授に対する処分の有無や男性への賠償などについても回答しなかった。

 当該教授は医療倫理に関する必修科目の授業を担当。男性は2年時の2016年度に乗降したが、単位を認定されず留年。17年度も再履修した。その再履修で必要な「補習」について、男性は教授から出席不要との連絡をメールで受けたという。さらに教授は男性に対し再試験を受けさせなかったという。

 大学が男性側の申し立てを受けて18年末に設置した「ハラスメント調査委員会」は19年春、教授が男性に対し、補修を受けさせなかったことと再試験を受けさせなかったことの二つの行為をアカハラと認定した。大学側は毎日新聞の取材に対し、このアカハラ認定も含めて「被害者と加害者のプライバシー保護のため回答を控える。回答する予定もない」とコメントした。(これに関し)アカハラに対処する基準などについて文部科学省国立大学法人支援課の見解を確認したところ、「特に指針は示していない。各大学で独自に対応している」と答えたという。

 なお群馬県の地方新聞である上毛新聞のこの件に関する過去の記事はもう閲覧が不可能であった。地方新聞と地方大学との癒着と情報隠ぺいはよくある話で今更驚かないが、学生の自殺や覚せい剤がらみの事件などは、こういう癒着で殆どもみ消されていることは知っておかねばならない。頻繁に、あったことが無かったことにされているのは、何も隣国の話ではなく現実にこの日本でも身近に起こっている。

 群馬大学医学部と言えば、多くの方が亡くなった一連の医療過誤事件が記憶に新しい。また、これもその酷さで記憶されている方も多いと思うが、2014年にも同じ医学部の40代教授が女性研究者へのパワハラで懲戒解雇されている。

https://www.huffingtonpost.jp/2014/11/20/gunma-university-power-harassment_n_6195436.html

 これは、2012年1月から13年8月にかけて、研究室の助教と講師の男女計5人に、退職や休日出勤を強要。「結婚△出産×」などの発言で結婚や出産をする女性研究者を非難し、「ポストを空けるため(他大学に)応募しろ」などと言い、3人が精神的な病気で休み、2人が退職した。教授は大学に発言を認めたが、一部は「指導の範囲」と話していたという。この案件は何故か公表されている。ただいずれにしても、っ群馬大学、特に医学部の問題体質は一向に改善されていないようである。一応大学のホームページには、ハラスメントの解説や相談の連絡先は記載されているものの、有効に機能している気配はない。

 会社などのパワーハラスメントなどと比べると、学生や大学院生は、加害者である教職員に対して圧倒的に力の差は大きく弱い立場であり、さらにはその現場を短期間で去ってしまうという事情がある。本当に、被害者の救済を迅速に進めるためには、(大学の良識などに頼っても当事者には期待できないので)そろそろ文部科学省がガイドラインの議論・提示を行い、各大学などで、迅速な問題解決を促す仕組みづくりを進めねばならない。

DAYS JAPAN広河隆一氏による「性暴力事件」について (4)-3

―デイズジャパン検証委員会による報告書(2019/12/26公開)についてのコメント(3/3)―

4) ハラスメント発生の原因

a) セクシャルハラスメント(2/3)

b) パワーハラスメント

  • 独自の経営理念・組織観 DAYS JAPAN社の「崇高な」理念は、広河氏の次のような言葉に現れている『初期の中心メンバーはボランティアであった。DAYSは労使関係や、搾取などという資本主義の常識が合わない企業を目指して誕生した。それはむしろ運動体という言葉があっていた』。このような理念は本人にとっては「崇高な」ものであったかも知れないが、報告書が指摘しているように、こうした理念に基づく企業活動は、目標の実現に向けて自己犠牲や滅私奉公を厭わないものとなる。その結果人事管理は困難を伴うものになっていたようである。

 いわゆる無借金経営も広河氏が自慢した来たことの一つで あるが、これもパワハラを生み出す原因の一つであった。すなわち、DAYS JAPAN創刊こそ事前に多くの定期購読者を集めることにより達成できたが、その後の持続的運営において、最初の規模の「死守」が至上命題となり、様々なコストの徹底的削減がなされた。その中には勿論人件費に関するものも多く含まれていた。

 これ以上詳細には立ち入らないが、今回の広河氏の事例は、まさには、自ら起こした企業は自分個人のものであり、自分の自由意志でどのようにでも運営できると思い込む、ワンマン社長の典型例である、と報告書も指摘している。ただ本人も無理な組織運営には困難さを自覚していたらしく、度々自分の後任(代表取締役)を探していたらしいが、結局ワンマン性故に設定した高いハードルを超える人材を見つけられなかったようである。

  • 労働者の権利主張を認めない経営 報告書では、広河氏の労務管理の特徴の一つに極端な労働組合嫌いが挙げられる、と述べている。これは極端に強く、偏見とさえいえるほどで、彼の発言の随所に現れている。すなわち、労働組合の存在自体が会社経営に好ましくなく、(労働争議等を経て)会社倒産につながりかねない、という認識をもっていたようである。これはまさに中小零細企業の(ワンマン)経営者によく見られる傾向で、普通の例よりさらに過敏であるとも指摘されている。いうまでもなく、労働者=従業員の権利を守る意識から遠く離れた位置にあると言える。

 また、先ほどの経営規模の問題との関連で、特に人件費の増大が経営を圧迫するという強迫観念から、労働者の犠牲で成り立つあらゆる経費削減を従業員全員に強いていたことも指摘さ れている。これを理由に、多くの無給、或は低賃金のボランティア、インターン、協力者を抱え、それらの人々の奉仕に依拠して会社を運営してきた。休日手当や残業代はいうに及ばずであった。労組嫌いとあいまって、このような凄まじいパワハラが会社=組織存続のため継続されてきたと言えよう。

 広河氏は、このような経緯に関し「反省の弁(この時代に急速に労働環境が変化していることに無自覚であった、DAYS JAPANは広河事務所のような徒弟制度ではなく、会社組織であった、等等)」を述べているらしいが、報告書は端的にも「デイズジャパン社創業時に既にあった労働関係法令を遵守して来なかったと言うにすぎない。近代的労使関係を受け入れようとせず、前近代的で労働者の権利を尊重しない徒弟制のような感覚でデイズジャパン社の経営に当たっていた」と本質を喝破している。

5) デイズジャパン社のコンプライアンス

 役員らおよびデイズジャパン社は、以下のような責務を負っていたはずである。

  • 役員の監視義務等

 法令及び最高裁判例で定められている役員らの義務は以下のようなものである。

取締役:会社法355条 法令遵守義務。(相互の)監視義務(最高裁判決)

監査役:会社法382条 (取締役の)適法性監査

取締役・監査役:会社法423条1項 株式会社に対する損害賠償責任。同429条1項 第三者に対する損害賠償責任(悪意または重過失が要件) 

  • 事業者のハラスメント防止義務等

 まず、ハラスメントにより、身体、名誉感情、人格権などが侵害された場合は、当該行為者とともに使用者も、不法行為(民法709、715条)や安全配慮義務違反(雇用契約上の債務不履行、民法415条)として損害賠償責任を負う。また労災保険の支給対象になる場合、さらにはハラスメント行為者が刑事責任を問われることもありうる。

 これに加え、ハラスメントについては、事業者の措置(防止)義務がある。セクハラについては、雇用機会均等法(2006年改正)11条1項は、「・・・適切に対応するために必要な体制の整備そのほかの雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と規定し、厚労省指針(2006年)は事業者の措置義務として次のような項目を示している:

① (セクハラについての)事業者の方針の明確化およびその周知・啓発

② 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

③ 事後の迅速かつ適切な対応(事後措置・調査義務・被害拡大回避義務・再発防止義務・被害回復義務)

④相談者・行為者のプライバシー保護、不利益取扱いの禁止

 さらにパワハラに関する事業者の責務として、厚労省により「雇用管理上講ずべき措置等に関する指針素案」(2019年10月)において、パワハラについての労働者の関心と理解を深めること、研修の実施その他の必要な配慮をすること、役員は自らもパワハラ問題に関する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならないこと、などが指摘されている。

6) ハラスメントへの抗議とデイズジャパン社の対応

  • 抗議と対応の例

 報告書では、このようなデイズジャパン社の負うべき上記諸責務の履行状況を、ほぼ創刊後間もない時期からあった様々なハラスメントへの抗議とデイズジャパン社の対応を記録・追跡する中で検証している。先に述べた守谷監査役がネガティブに絡むケースもあり、少し辟易するので、ここでは、典型的な1例とそれに対するデイズジャパン社(広河氏)の対応のみを取り上げておく。

 ある女性社員は、ボランティアの女性から広河氏から(セクシャル)ハラスメントを受けたことを聞き、広河氏に「彼女たちにしたことはセクハラです」と抗議したが、認めようとしなかった。また、新しく入ってくる女性社員やボランティアがセクハラ被害に遭わないように、注意喚起の趣旨で「広河さんはそういう問題行動をすることがあるから気をつけて」と伝えるようにしていた。ところが、その後外国出張に同行した女性社員に「注意喚起した」ことが広河氏の知るところとなり、激怒していたと聞いた。

 これに対するデイズジャパン社の対応としては、本来退職時に買い取ることになっていた未消化の有給休暇が、結局退職時には大幅に減らされていた。この措置は、上記の「注意喚起」に対する報復としか考えられない。問題にしても疲弊することが予測されたため、結局諦めた。広河氏は、セクハラの告発にも至らないような社員間の情報共有にさえ過敏に反応し不機嫌となり、報復的措置を取ることもあった訳である。十分な確信犯的振る舞いである。

  • 役員らの監視義務の履行状況

 報告書では、川島、土屋、小川取締役、守谷監査役それぞれについて精密な聞き取り報告があるが、それ以前に、役員全体の状況として、

  • 会社としてハラスメント防止方針を策定して周知したり、相談体制を整えるというようなことも、発想自体なかった、
  • 立場上、広河氏の違法行為や不正行為について監視する義務に対する自覚が乏しく、その履行を怠っていた、ことに加え、
  • 広河氏(の実績)に対する信頼と敬意にもとづく一種のバイアスがあり、「多少の私的不品行」には目を瞑るというような感覚があった。
  •  告発の声が上がりづらかった事情

 報告書では以下の3つの要因を挙げている:

  • 社員らは広河氏の様々なハラスメントを疑うことはあっても、その圧倒的なワンマン経営故に自浄作用が機能しない組織内で、正面から強い告発の声を挙げることは困難であった。
  • 被害告発の抑圧や広河氏を消極的に擁護する言動も一部社員にあった。これはいわゆる「社会正義」の実現をハラスメント被害告発より上位に置く、という発想によるものだと思われる。
  • 「特別扱い」の社員が存在し、唯一の中間管理職的立場であったのに、広河氏のパワハラを批判する態度は見られず、残業代不払いについても積極的に問題視はしなかった。また、労働組合活動には否定的な態度が顕著で、労使交渉前には役員に組合員の勤務時間中の態度の問題を指摘するなど労働組合員に反発する態度を取っていた。これらは、広河氏に対し、少人数の組織の中で労働者が一体となって抗議して声を上げるという動きを阻害した恐れがある。

 広河氏の個人的資質に加え、以上述べてきた役員らの状況と上記の諸事情により、広河氏の様々なハラスメントが温存・助長され、関連した被害を拡大長期化させていった原因になった、ということであるようだ。

7) 広河氏の現状と広川氏、デイズジャパン社が果たすべき責任

a) 広河氏の現状と責任

  • 「謝罪のための事実確認」を求める態度

 報告書によると「検証作業期間中、広河氏は様々な迷いを見せたが、最後まで謝罪については逡巡を続け、最終的には『謝罪をしない』という選択をしたようである』となっている。その根拠となっている広河氏自身の説明は、一言で言うと「謝罪することは週刊誌報道のすべてを認めたことになり、さらなるバッシングを受けるだけだ」ということらしい。その理由として、「記憶が定かでないまま謝罪することはできない」という「正論」めいたことを言い、週刊誌に報道された件の女性と会って話して記憶を喚起しながら事実を被害者に確かめたい、と言っているらしい。これは結局、自らの犯した罪と責任に向き合うどころか、むしろ逆に被害者に二次被害を与えるような主張にこだわり、「そこにあったはずの合意の証」を得たいという思惑である

 更に見逃せないのは、自分のやってきた数々の性暴力については、「記憶があいまい」「断片的な事実しか思い出せない」と誤魔化す一方で、自分に有利な事情は「記憶が戻ってきた」として後に追加して弁明する態度など、検証作業期間全体を通じた状況として、供述態度が全体に極めて不誠実、という印象であったらしい。

  • 「性的関係には女性と合意があった」という思い込み

 検証の過程では、広河氏に対し何度も「あなたがしたことは女性の意に反する性暴力であり、女性たちは合意していなかったと言っていて検証委員会もそれが真実だと認定した」、「あからさまな暴力を振るったわけではなくても、優位な立場を使って相手がNoと言えない状況に乗じて性暴力を振るうという類型があり、あなたがしたことはまさにそれである」と伝えて来たにもかかわらず、氏はあくまで「合意があったはず」、、という主張にこだわり続け、「20代の女性たちが次々に6 0代後半の男性の自分に恋愛感情を持ったのだという恋愛観を堂々と披瀝したらしい。どうしても「優越的な地位によって強制した関係ではなく、個人的に惹かれあった男女の自由な関係であるということにしたい」というところから中々離れようとしないばかりか、「自分は文春の商業主義、もしくはMeToo運動に乗った時代の犠牲者である」とさえ認識していた節があったという!

 この広河氏の現状を踏まえ、報告書は広河氏に以下の、ハラスメントについての責任履行勧告を述べている。最低限の項目であると思われるが以下に再掲する(詳細略)。

1. 判明した被害者への謝罪と慰謝

2. デイズジャパン社の責任履行への協力

3. 二次加害をしないこと

 そしてこれらが、広河氏にできる、社会的意義ある最後の仕事である、としている。

b) デイズジャパン社、役員らの責任

  • 株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負うことが定められている(会社法350条)。代表取締役であった広河氏が行った女性たちへのハラスメントはまさにこれにあたり、損害を賠償すべきことになる。従って、会社清算においては、被害者らへの損害賠償を検討し、プライバシーに配慮した上で具体的な慰謝の策を講じるように努力すべき、と報告者は指摘している。
  • 役員らは、先に述べた雇用機会均等法11条1項に基づく事業者の措置義務を怠り、特に代表取締役への監視義務を履行しなかったことは重大であり、被害者に謝罪すべきであること、また、個々の件に関し、被害者から申し出があった場合には、誠実に調査して必要な医者の措置を講ずるべきである、としている。

8) 事件の教訓

a) 本事件の特徴

 本事件は、「広川氏特有のキャラクターが原因となって起こされたという性格はあるものの、反権力を掲げる組織内で、ある場面では「人権派」と称され、実際に社会正義のために活動する人が、他の場面では周囲に対してセクシャルハラスメント、パワーハラスメントを繰り返すという現象はしばしば見受けられる」が故に、この問題を広川氏個人の問題として片付けるのでなく、そうしたケースに共通する教訓を指摘する必要がある、検証委員会は述べている。この点に留意してまず本事件の特徴を以下のようにまとめている。

  • 「小権力」に鈍感な組織になっていた。この点について報告書は、「大きな権力に向けた戦い」のなかでは「小さな権力」の乱用が過小評価されやすいこと、「小権力」を掌握する者は大きな権力に対峙する局面では、他者への強者性の自覚が乏しくなることなどを指摘している。
  • 閉鎖的な組織になっていた。報道写真という専門分野を扱う組織であったという専門性は、一般社会との距離が生じ組織の閉鎖性を高めやすい。また閉鎖的な組織におけるリーダーとしての資質はカリスマ性にまで高まりやすく、周囲の人たちを容易にコントロールしてしまい、リーダーのやり方の誤りを周囲が認知できなくなるという恐れも指摘されている。
  • トップに権限が集中しやすくなっていた。独自の専門分野に特化した組織では、経験や知識のあるトップに権限が集中しやすい。その結果、徒弟制に近い上下関係のもと、縦割りに組織された部下たちは容易にトップに掌握され、横の連帯を深めにくくコントロールされやすい状況が生まれた。その結果トップへの批判や非難が組織の規律違反と捉えられやすい状況が生まれていた、と報告書では指摘されている。
  • 内部での監督・抑止機能が働かない組織になっていた。通常の組織であれば組織内の苦情相談を受けて解決にあたるべき人や部署も、今回のケースでは、組織防衛意識が強く働き内向きとなっていた。むしろ受けた苦情を押さえ込んで不適切に処理する機能を果たしてしまい、組織全体に悪影響を与えるとともに自浄力の低下を招いていた。そこで告発しようとしても組織の大義を守ろうとする人々が幾重にも立ちはだかり、結局被害者が声を上げることができなかった、と報告書では述べられている。

b) 教訓

 これらを踏まえ、報告書では以下の3点の教訓が提示されている。

  • 外部への相談の重要性を知る。自浄性がない組織内部でハラスメント告発の難しさが存在するときは、外部への相談が極めて有効である。例えば、労働組合、行政、弁護士、性被害相談窓口などが大切であり、それを可能にするための相談先情報についての広報啓発は必要不可欠である。
  • 内部で解決できる体制も重要であることを再確認する。性被害の外部への告発に関しては心理的ハードルが高く、今回のケースでは広河氏の「業績」の毀損に関する躊躇からくる葛藤などが無視できなかった。一般的にも外部への相談のハードルは必ずしもまだ低いとは言えないので、組織内部に相談窓口があるか、役員がコンプライアンス遵守の意識を持って職責にあたるなどの体制も重要である。
  • 「セクハラはするが仕事はできる人だ」とういうような加害者への甘い対応を許さず、被害者、告発者を二次被害などから徹底的に防衛できる、社会的土壌形成を意識的に進めるべき。これらについて真剣に改善策を講じることがハラスメント根絶には不可欠である。

以上、報告書の要約とコメントはかなり長くなったが、もともと報告書は大部の力作であったため、省略した箇所も多い。例えば、会社解散決定に至る経緯と問題点、労働組合結成とデイズジャパン社の対応等には殆ど触れていない。是非報告書を直接お読みになることをお勧めする (https://daysjapan.net/)

 容易に推測できることであるが、報告書は独善的に運営されている組織(中小企業や大組織における一部門(大学の学部や研究室等)におけるハラスメント問題についての格好の教科書になっていることも指摘しておきたい。今加害者になっていそうな人、被害に苦しんでいる人々にも大変「役に立つ」気がする。

 なお、ハラスメント加害者の「業績」についての私の個人的見解は、「個人、あるいは組織のいかなる局面における「業績」もそのもたらす負の面についての検証無しに無条件に認められることはない」と考える。即ち、負の面も「業績」に含まれるのであり、「業績」を理由にその個人、組織がもたらした不利益、不正・不当な行為が正当化されたり、免罪されたり、ましてや帳消しになることはない、と考えるものである。 

 報告書の公表を受けてデイズジャパン社は以下のメッセージも掲載している。デイズジャパン社は今後どうするのか、について殆ど記述が無いのが大変残念である。今後についてのコメント等が近い将来出されることを期待する。

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デイズジャパン検証委員会の報告書を受けて

デイズジャパン検証委員会から、2019年12月26日付報告書(以下、「検証報告書」といいます。)の提出を受けました。検証報告書の中では、広河隆一氏(以下、「広河氏」といいます。)による深刻な性被害をはじめとする多数のセクシャルハラスメント及びパワーハラスメントの認定がなされています。

当社は、この検証報告書を非常に重く受け止めました。検証報告書に記載されているとおり、長年にわたって当社で代表取締役を務めた広河氏による行為については、当社の責任の重さを痛感しており、広河氏による行為の被害に遭われた方々に、深く謝罪いたします。

また、当社は、検証報告書にあるとおり「加害者としての自制と責任の履行を公にすることこそが、広河氏にできる、社会的意義ある最後の仕事」であると考えます。当社としては、広河氏に対し、「まずは自分が行ったことを直視し、独善的で自己中心的な弁明を公の場で行うことは控え、これ以上被害者らに恐怖と苦痛と不安感を与えるような言動は絶対にしないよう、行動を自重することを強く求める」との勧告を遵守するよう求めます。

検証報告書を受けて、当社として、被害に遭われた方々への相談窓口を設置いたします。広河氏の被害にあわれた方については、下記(問い合わせ先)にご連絡ください。被害にあわれた方については、プライバシーに配慮した上で、当社として誠実に対応してまいります。

最後に、改めて、被害に遭われた方々に深く謝罪いたします。

2019年12月27日

株式会社デイズジャパン

代表清算人 川島 進

(問い合わせ先)

days@legalcommons.jp

弁護士 竹内  彰志

弁護士 河﨑 健一郎

 

DAYS JAPAN広河隆一氏による「性暴力事件」について (4)-2

―デイズジャパン検証委員会による報告書(2019/12/26公開)についてのコメント(2/3)― 

(1/3)に引き続き、報告書の要約とコメントする作業を進めてみたい。

3)ハラスメント実態と労働環境の酷さ

a) 広河氏によるセクシャルハラスメント

  • 概況

 ハラスメントの具体的事項は、最も古いもの(2004年)から最も新しいもの(2017年)まで、デイズジャパン社設立以降のほぼ全期間に渡る。被害者の属性は、デイズジャパン社社員、ボランティア、インターン生、フォトジャーナルズム学校(一時デイズジャパン社が企画していた一般向け講座)、受講生、広河事務所社員、アルバイト等多岐に渡る。また、検証委員会に寄せられた被害態様を纏めると以下のようになる(2014-17年):性交の強要 3人/性交には至らない性的身体的接触 2人/裸の写真の撮影 4人/言葉によるセクハラ(性的関係に誘われる等) 7人/環境型セクハラ(AVを社員が見える場所におく) 1人。

 特に指摘すべき点として、「被害者らが抱いていた広河氏への尊敬の念に乗じてセクハラに及んだこと」「被害者らが広河氏の精神的圧力を感じて性的要求に応じざるを得なかったり、明白な拒絶はできずやんわりとかわすしかなかった」と言う点を挙げている。また、狡猾な戦略として、特に程度が深刻なハラスメントは、社員以外のボランティアやアルバイトの女性が狙われていた可能性も指摘されている。

  • セクシャルハラスメントに関する証言

 検証報告では、先の被害態様別に多くの具体的な表現が記録されている。最初の週刊誌記事や、その後の新聞・web記事等とも重なるので、ここでは引用はしないが、極めて悪質であることはいうまでもない。またデイズジャパン社と深い関係にあった守屋氏及びアウレオ社からの派遣社員が被害者へ二次被害を及ぼしたり、ハラスメントのもみ消し等に一役買っていたことも報告されている。

 そして最も重要な点は、収録された証言は検証委員会の客観性についてのチェックを経て、全て信用性があると認定されている点である。これに対し、広河氏になされた検証委員会からの幾つかの質問、「女性たちがあなたに向けていた好意は敬意やあこがれであって、異性としての好意とは別物だったと述べているが」、「被害女性たちは祖父に近い年齢であるあなたを本当に性愛の対象としてみていたのか」、「この女性にこのようなことをしなかったのか」に対し、「当時はそう思った」、「そういう(老人を対象にする)人もいますよ」、「その女性(の存在自体)を憶えていない」と言う、曖昧な、抽象的なさらにはごまかすような回答に終始したため、検証委員会は「証言されたいずれの件についても『相手の女性の合意は無かった』」と認定し、「広河氏の説明の信用性は極めて低く不誠実であるとしか言いようがない」と結論づけている。

b) 広河氏によるパワーハラスメント

1. パワハラの定義

  • 厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」提言(2012年3月)等

=『同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為』

  • いわゆるパワーハラスメント防止法*(2019年5月)30条の2第1項

=『職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの』とし、『それによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない』と規定。

*略称「労働施策総合推進法」

  • 雇用管理上講ずべき措置等に関する指針素案(厚労省2019年10月)のパワーハラスメントに該当する行為についての例示

=(一部抜粋)

<脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)>

(該当すると考えられる例)人格否定発言(性自認に関する侮辱含む)、長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、能力否定、罵倒の電子メール等を複数宛に送信する。

<業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)>(例)新卒採用者に必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること、業務との関係の無い私的な雑用の処理を強制的に行わせること。

2. 概況

  • 「ほぼ全員が日常的に被害者だった」と述べるほど日常的かつ深刻。
  • 労働環境:長時間労働をせざるを得ず、時間外手当や休日出勤手当の不払など労働基準法違反が恒常的。問題視されると「裁量労働制だから」と言い張るなどした。
  • 気に入らない社員の不当解雇や退職に追い込むなども無頓着に行われていた。これに対する問題意識も経営陣全体に乏しかった。
  • ハラスメントの態様:「怒鳴る」「いらいらしてスイッチが入ってしまうと激高する」。これらは厚労省指針素案の「厳しい叱責を繰り返し行うこと」や「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責」の類型に該当する。

3. 証言と認定

  • 精神的な様々な攻撃:感情の起伏が激しくいきなり嵐のように怒鳴り散らすことが日常的、これに対し皆萎縮している印象(確信犯的?)。全てを管理しないと気が済まないが、面倒臭い人事や事務はしたくない。自身でも継続困難を感じていたらしく、会社を閉じたいと考え出した頃から様々なことへの投げやり感や、人格崩壊が加速、などが証言されている。
  • 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、過大な要求:関係のない編集会議に参加させられる、「残業をするな」という一方で過重な量の業務を与える、広川氏のために病院に薬を取りに行く、などが証言されている。
  • 寄せられたこれらの証言の具体性、数の多さ、証言間の整合性などから広川氏が日常的に社員らに対しパワーハラスメントに及んでいたことは明白である。これにより社員らに対して違法な労務環境への不当な忍耐を強いようとしていた。また、労働関係法令違反も慢性化していた と言える。

4. 労務管理

  • 時間外労働・休日労働に関する協定書 2017年6月締結、7月渋谷労基署に届出。
  • 裁量労働制 編集・取材業務に従事する従業員について専門業務型が適用されていた。協定締結 2015年6月。2016年4月~支払い確認。
  • フレックスタイム制協定書締結 2017年6月。
  • 始業時刻午前10時、就業午後6時、休憩1時間。
  • 裁量労働制導入以降は、ほとんどの従業員に一定時間相当分(毎月40時間程度)の残業代相当額を裁量手当として支給していた。

5. 労働実態

 詳細は省略するが(「報告書」をぜひ読んで頂きたい)、残業代、休日出勤手当の不払い/退職強要、不当解雇/広河氏の認識/残業代不払の実態などについての証言が数多く寄せられている。これにたいする広河氏の認識は、特に社員の離職があまりに頻繁だった状況に対しては、「退職していく個人の勝手で引継ぎが大変になり会社が大迷惑を被った」、「むしろやめていく側に能力が足りなかった」と捉えるという労務管理についての知識もなく反省もしない酷いものであった。

 実際は、数々の証言が示しているように、退職理由の多くは表向きは家族の事情という体裁は取っていたとしても、実際には劣悪な労働条件や広河氏の人となりに触れて失望したり、あるいはハラスメントを受けたからというものであった。 

 また、大手出版社による買収が不成立であった理由は、「大手出版社では、DAYSでやるのと比べ、人件費も経費も数倍かかり確実に赤字になるだろう」ということであったらしい。このことは、通常の出版社でかかる人件費よりはるかに少ない条件でやっていたこと、言い換えると、広河氏が自慢していた「無借金経営」は不当なまでの人件費抑制により成り立っていたことを示す。

4) ハラスメント発生の原因

 「今回の一連の出来事は、、、彼が自ら作り上げた『王国』に君臨し何らの抑止力が働かない組織の中で、人事権を乱用し、日常的なハラスメントを働くなど身勝手な行動を繰り返してきたことが事の本質である。」と報告書もこの項の冒頭で述べている。報告書に従い、広河氏個人にまずは焦点を当て、もう少し詳しく以下の2つの観点から見てみよう。組織としての問題は後述される。

a) セクシャルハラスメント

  • 周囲の評価―「妄想癖」「認知症」「強い被害者意識」 ここもあまり深入りはしないが、「被害者意識」についてだけ簡単にコメントしておく。社員の一人によれば、「常に被害者意識があった。被害妄想がひどく、記憶を自身の都合の良いように書き換え、自身の嘘を信じ込みながら他人を批判することが常だった。加害者であることが明らかな場合でも、自身が被害者だと信じ込んでいるように見えた。この状況を確信犯だという人と、無意識だという人がいた。個人的には全て自己防衛に集約するのではないかと考える」ということであったらしい。結局「自分しか見ていない」ということであろう。実際、別の複数の証言から検証委員会としては、「ハラスメントの背景に、何らかの自らの抑制の効かない(病的?)要因があった可能性は極めて低い」と断じている。

 この被害者意識は、「ハラスメント加害者」として指摘を受けたときに極端な動揺とともに顕著に現れ、自分が「(ハラスメントに関する)価値観が変動する時代の流れについていけなかった被害者」であるかのような口ぶりで語ることがあり、以前から許されていなかったことをしてしまったに過ぎないのだということを正面から受け入れられない要因の一つとなっている。

  • 「立場」という権力の無自覚 広河氏は、「(自分は)限られた狭い世界のスペシャリストで、世間的には金も権力もなく」従って、セクハラの背景となるような立場でもないし権威もない、とメモなどでしばしば言っているらしい。しかし、狭い世界であっても自分の王国を作り、好き放題にやればそこには権力が生じている。セクハラではあからさまな地位をかさにきた権限を振るったり、強引に相手をねじ伏せたりすることは必ずしも必要でない。一旦、そのような「権力」関係に陥れば、下位者からの迎合は上位者からは「自発的な合意」「積極的な合意」に見えてしまうことがある。上位者は常に自分の立場の権力性に敏感でなければならない。一見するとVoluntary(自発的)だが、実は「余儀なくされた合意」であり、無言の強要によるUnwelcome(望まない)なものとなる。この鈍感さが広河氏自身の「性的合意」のハードルを著しく下げていた原因であろうと指摘されている。

ご都合主義的な権力利用 報告書は、この広河氏の「相手への優越性」を否定し、実際には存在しない「相手との対等な関係性」を自分の都合の良いように場面ごとに主張するご都合主義は、彼の特性でありパワーハラスメントや労務管理においても度々顔を出す、と指摘している。例えば、広河氏は次のような言葉を述べている、「DAYSは、労使関係や搾取などという資本主義の常識が合わない企業を目指して誕生した。それはむしろ運動体という言葉があっていた」。

 広河氏は、週刊文春の記事にある、何度も性交を強要されたと述べている女性の「広河氏から口止めされた」という趣旨の言葉には一貫して強い反発を示している。そして「口止めなどしていない。事実ではないことを書かれている。反論したい」と繰り返し、この女性の意に反する性的関係を強要したことを否定したがる。これに対し検証委員会は、仮に口止めをするなど明白な地位利用の外形行為がなかったとしても、(圧倒的に優越的な人間関係にあるなかで性的関係に誘っているのだから)その一時のみをもって、行為の悪質さに本質的な差異があるということはできない」とし、ヒアリングしたこの女性からの証言は信用性があると認定し、この女性が「口止めをされた」と感じたことは事実であるとしている(加えて、この女性の裸の写真も撮っている)。

 他の幾つかの証言なども考慮して、検証委員会は「広河氏は、客観的には明らかに優越的な地位を利用して性的関係を迫っていたにもかかわらず、その自覚が無かった、あるいはある程度自覚はあっても、それを認めることは自らを不利な立場に置くと考えて否定しているのではないかと思われる」、つまり「一方では、自分の権力を自覚的に振りかざし、他方では、これに頓着せず明らかに自分より劣位にある女性たちに対し対等な関係であるかのように振る舞うという、自分に都合のいい独善的な態度を取っているとしか言いようがない」と結論している。

  • 性暴力についての理解と女性蔑視 「広河氏は、戦場での女性の性被害などを取り上げているのに」という疑問が各方面から投げかけられているが、それに対して、氏はそもそも女性に人権などわかっていなかった、で済ませるのでなくもう少し普遍的に考えられるべきテーマがあると検証委員会は指摘する。その理由は、「女性への性被害を問題視するような言動を取りながらその一方で女性に対し性暴力をふるい、それが本人の中で同居してしまうという現象が、広河氏に限らず、人権侵害と闘うことや社会正義をテーマに掲げる組織の中で繰り返し起こされてきた事件でもあるから」。

 確かにDAYS JAPANではこれまで、スーダン・難民女性の苦難、日本軍「慰安婦」問題、コンゴのレイプ被害者シェルター、段ボールハウスの少女、暴力ポルノ、アダルトビデオの中の犯罪、アフリカ・レイプにおびえる女性たち、のような様々な性暴力をテーマとして扱ってきたが、検証委員会の指摘は、それらはわかりやすい「あからさまな暴力」であるという点である。他方広河氏が被害者らに行ったのは明白な性暴力だが、相手に対する優越的な地位に乗じるという手段によるものであって、「あからさまな性暴力」があったわけではない。このことは自身の性暴力の正当化のための弁「私はそうした暴力的なことはやっていない。あくまで合意によるものであり、決して性暴力などというものではない」に都合よく利用されている。すなわち、性暴力の理解の偏りが顕著である。

 また、広河氏の性的誘いに対し、毅然として拒否した女性たちに、様々な嫌がらせや脅しまでもかけたりしていることから、検証委員会は、そもそも女性を対等な存在として認めていなかったと推測している。さらには、職場という、仕事を媒介につながっている人間関係において、個人的に親密な関係が築かれることも無かったままいきなり性的関係に誘うということ自体が、女性というだけで性的対象・存在として扱うという女性蔑視意識の表れだとも指摘している。

 さらには、検証委員会は、広河氏の男女関係観・恋愛観には、いわゆる「フリーセックス」論が自己の性的行為を正当化する論拠の一つであった可能性も指摘している。広河氏によれば、被害女性らとは「つきあっていた」のであり「大人の男女の関係」ということであったらしいが、仮にそうであったとしても、妻がいながら親子以上に年齢の離れた若い女性を次から次へと「恋愛関係に誘った」というのはそれ自体非常識で異様なことであるのでは、という指摘に対しては「不倫関係を周囲に隠す」という意識は全くなかったとし、まさに「フリーセックス」を実践していたという自己主張にも聞こえる回答をしている。すなわち氏は、「フリーセックス」論を、若い女性を一方的に性的存在とみなす女性蔑視意識や自分の立場が持つ優位性を都合よく無視して性的関係を強要したことを糊塗する手段として、主観的に利用していたということであろう。

  • 「性的関係への合意」と認知の歪み 広河氏による「合意の拡大解釈」に向けた作業は様々なテクニックを駆使して行われたことが広く証言されている。例えば、やんわりとした「性的な関係についての話題」や「フリーセックスについての議論」を投げかけたり、相手の交際状況などの性的な経験を聞き出すことで、許容範囲を探ろうとしていた。また、仕事である写真家としての技術や経験も動員して性的な誘いかけをしていた。さらには、「仕事のための二人だけの合宿」の提案、「仕事のアシスタントとしての同伴」なども計画していた。

 問題は、こうしたテクニックを駆使したり、仕事に絡む誘いをしておいて、相手が喜んで応じた時点で、勝手に「性的関係に脈がある」と捉えていた点である。仕事や指導の誘いに応じたことを「性的関係への合意」と解釈することはあまりにも独りよがりであった。結局、広河氏が断片的に思い返し繰り返すところの「性的合意に繋がるサイン」は客観的にはそうは言えないものばかりであり、現に被害女性たちも強く否定している

 すなわち、若い女性を一方的に性的存在として扱う視線と女性からの性的な承認によって自信を得たいという氏の願望が「性的関係への合意を得たと認識するハードル」を極端に下げる方向で作用した結果生まれたのがこの認知の歪みである。