立教大学総長の引責辞任と日本大学におけるサークル活動の闇(最近のアカデミックハラスメント例(5))

立教大学 セクハラ対応の拙さを認め総長が引責辞任

最近の毎日新聞やCheristian Todayなどによれば、2018年に発覚したセクハラについての初期対応の誤りで、郭洋春(カクヤンチュン)総長が引責辞任する(今年度末=来年3月)という。

https://mainichi.jp/articles/20200515/k00/00m/040/197000c

https://mainichi.jp/articles/20200516/ddm/012/040/061000c

https://www.christiantoday.co.jp/articles/28055/20200515/rikkyo-university-sexial-harassment.htm

https://www.christiantoday.co.jp/articles/27012/20190711/rikkyo-university-tw-vice-presidents-resigned.htm

記事から拾った経緯はまとめると大体次のようになると思われる:

*2018年6月、1件目の被害深刻。郭氏は当時の副総長二人に対応を指示。副総長らは加害教員の所属学部と調査し(人権ハラスメント対策センターに相談しないまま)、

*2018年12月、学部長による厳重注意処分とした。加害教員は当時学内で要職を務めていたが、郭氏は解任しなかった。しかし、

*2019年3月、学内の「人権ハラスメント対策センター」が「処分は軽すぎる」と指摘したため、郭氏はこの時点で加害教員を要職から外した。再調査の途中の

*2019年7月、加害教員が厳重注意処分を受けた後に2件目のハラスメント事件を起こしていたことが発覚。

 その後大学は外部有識者を交えた委員会を設立し(今年3月まで)、郭氏(総長)らの一連の対応についても検証した結果、二人の副総長に加え、被害申告があった後も加害教員を要職に留まらせた早朝にも責任があるとの結論に至ったという。

*2020年3月(23日付)、2件のハラスメント事案を起こした教員を懲戒解雇。

2020年5月(8日)、学校法人立教学院の理事会で、ハラスメント行った教員の任命責任と監督責任、また初期対応の責任を重く受け止め、任期途中での辞意を表明。同日理事会が申し出を受理。その結果、郭氏は新型コロナウイルス感染拡大に伴う対応にめどをつけて今年度末で(副総長を)辞任することになったという。なお、初期対応に当たった副総長二人、池上岳彦教授(経済学部、統轄副総長=後任は野沢正充教授(法学研究科))、松尾哲久教授(コミュニティ福祉学部)も誤りを認め、既に辞任している(2019年6月30日付、7月4日の学部長会議で承認)。

 しかしながら、大学はこの間の経緯(事案の中身や加害教員の氏名等)については「被害者のプライバシー保護のため」として公表してないので、詳細は不明のままである。

 

 郭総長は1959年東京都で生まれている在日朝鮮人である。加害者教員も韓国人教員であったらしく、そのため当初処分をしなかったのでは、という憶測もある。また、ネットでは、「ハラスメントで執行部の、特に総長が引責辞任することは珍しい」という反応もあるらし。確かに、日本全国の他大学では、もっぱら加害者に責任を押し付けるのみで、任命・監督責任を明確化しケジメをつけたという例は私の知る限りはでなく、率直に評価すべきかもしれない。ただ注意すべきは、副総長二人も含め、彼らは大学を辞めるのではなく単にその地位を退くだけである点である。大学全体の評価を著しく下げたという意味では管理責任はもっと大きい気もするのであるが、それでも他大学よりはマシというべきか。

 

日本大学 アメフト事件の1年前にサークル活動で起こっていた悲惨な事件

またも週刊文春であるが(2020年5月7・14日号)、アメフト部で例の「悪質タックル事件」がおきた2018年の前年、もっと悲惨な事故が日大のサークルである「プロレス研究部」で起きていた。被害者Aさんの父の話:「息子は就職することもかなわず、ずっと自宅やリハビリ施設での両様生活を余儀なくされているます。しかい、大学側は真摯に事故原因を究明することもなく。『こちらに責任はない』と言い切った。『ふざけるな』という気持ちでいっぱいです。

 他の記事なども参照して、大体の経過をたどると以下のようであるらしい。

*2015年、Aさん(他の私立大学の2年生)日大のプロレス研究会「NUWA」に入る。

Aさんによると「プロレスが昔から好きで、ネットでたまたまNUWAのホームページを見つけたんです。『他大学も歓迎』とあったので、入会しました」。それから週に2回ほど、日大法学部6号館で開かれる練習に参加。

*2017年、当時サークル内で、Xという学生にいじめられていた(Aさんの脛をたたく、食費を出させる、の他に、Aさん(4年生で就活中)をサークルに残らせるために「留年しろ」と脅す、授業に出るため練習を断ったAさんにしつこく「出て来い」と連絡するなど)が、ある日Xから「試合でバックドロップをかけられるように」と言い渡され、Xの後輩のY(体格は良いが試合は未経験)との練習を強要された。当時Aさん(身長166cm、63kg)はそれまで主に「お笑い試合」に出場しているようなメンバーだった。

注1)サークルNUWA:日本大学のプロレス研究会(他大学の関連団体ともにときどき学園祭等で「興行」を行ってきた。学生プロレスはコミカルなお笑い的プロレス等を含む趣味的な興行が主流であったが、若干のOBが芸能人になったことも有り、次第に社会的に認知されるようになった。この事故を受けNUWAは、現在は活動停止から解散になっている。

注2)バックドロップ:相手の背後から脇の下に首を入れ、相手のタイツのベルトを掴んで後方に投げ飛ばす荒っぽい危険な技。受け身をとれない状態で技を受けると頸椎の重大な損傷に繋がり、プロの試合でも実際に負傷者が出ている。

*2017年8月1日 それまでの練習中もXは、受け身を取るのは格好悪いので「首から落ちろ、首から!」というような命令を再三強要していたらしいが、この日はYがAさんに3度バックドロップをかけた後、Xの「見栄えが悪い。振りぬく感じが足りない」という指示がさらにあり、YはAさんを思いきり後方に投げ飛ばした。周囲のメンバーも「Aさんが完全に上半身をフリーに(受け身を取らずに?)投げられる技を受けるのは初めてだったので『大丈夫かよ』と心配していたという。

 投げられた後、首の脱臼による凄い痛みのため意識はあったが、急に息苦しくなりそのまま救急車で病院に搬送された。診断は重症の脊髄損傷。緊急手術が施され何とか一命はとりとめたが、今も首から下が自力で動かせない全身不随の状態になった。

*2017年8月~2018年12月 その後周囲の助けもあって大学は卒業したが、体の状態は戻らなかった。また、事故についての調査と見解を日大側に求めたが、「サークル活動中に起こった不慮の事故」との見解を口頭で告げられただけで、まともに取り合ってもらえなかった。Yは一度見舞いに来たがから謝罪は無かったという。

*2018年12月、Aさんは日大とX、Yに対し、5000万円の損害賠償を求める(民事)裁判を起こした。司法関係者によると、日大は「サークルの連絡会を開催して活動内容について注意喚起した。大学として十分な措置を講じた」と反論し、真っ向から争う姿勢を見せている。XとYはAさんを「長年の経験者」とし、Aさんが怪我をした投げ技についても「Xの指示はなかった」と主張しているという。

 ちなみに、6月に管轄の神田警察署に被害届を提出。2020年3月10日に、XとYは業務上過失傷害の疑いで書類送検されている。初公判は5月21日に予定されていたらしいが、果たして開かれたのであろうか?

 文春の最近の取材申し込みに対しても、Yは携帯で今回の事故の件を尋ねると「ちょっと今忙しいので後ほどで」と切れ、その後は不通。Xは携帯に出ず、留守電とメールで取材を申し込むも締め切りまでに応答無し。日大企画広報部広報課は「係争中であるからお答えを控えさせて頂く」と回答があったようである。

学生同士のいじめ・トラブル

 この事件は、学生同士のサークル活動に絡む「いじめ」に端を発し、大学当局の放任ともいえる無責任な管理体制の中で、取り返しのつかない結果を招いてしまったと言う点で、極めて残念な事件である。小中高でのいじめの体験を相対化できないまま大学に来てもいじめを続けている大学生には、大学・サークル活動の自治等を牧歌的に与えるのではなく、これらの点をしっかり教育するか厳格に管理することが大学には求められよう。また、被害を受けた当事者・家族には、被害の訴えに対し誠実に対応してくれるところが殆ど無い現状がある。両事件とも既に裁判が進んでいるので、今後の動向もしっかり追跡したい。

大学側の不誠実な対応

 日大は、Aさんが日大生ではなくプロレス研究会の会員でもないので(事前に提出するべき研究会名簿に名前が入っていなかった)、保険対象ではないため(賠償金を払いたくないため?)ひたすら練習中の事故で片付けようとしているとも推測される。研究会の顧問は法学部の教員が配置されており、大学としてのサークル活動の管理責任はあったと思われる。事件について公表し、加害学生を処分し、謝罪を行わせるべきである。

 この点についても、前記事の甲南大学の例と似ており、何らかの不都合な理由により謝罪と賠償責任を果たすべき問題からひたすら逃亡しようとしている。

なぜか大手のマスコミ(新聞テレビなど)には取り上げられず!?どこかからの圧力か?

甲南大学で学生が自殺 サークルのトラブルに大学が責任をもって関与せず/新潟大学/群馬大学(最近のアカデミックハラスメント例 (4))

【甲南大学】

 「部費横領」トラブルで大学対処せず、学生が自殺

 毎日がコロナ関連のニュースで明け暮れる中、3月9日 、ある学生の自殺が報じられた。但し、関西ローカルかも知れないので、埋もれてしまわないことを切に祈るものである。以下に、精力的に報道を続けている毎日新聞の記事から主に引用しつつ、事件を見ていく。

http://mainichi.jp/artticles/20200329/k00/00m/040/206000c

http://mainichi.jp/articles/20200308/k00/00m/040/328000e?cx_fm=mailhiru&cx_ml=article

http://mainichi.jp/articles/20200309/ddp/041/040/009000c

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202003/0013180260.shtml

https://digital.asahi.com/articles/ASN3B72LCN3BPIHB028.html?iref=pc_ss_date#

https://digital.asahi.com/articles/DA3S14399168.html?iref=pc_ss_date#

 概要:甲南大学2年の男子学生が、2018年10月、自殺していたことが分かった。その原因は、「学園祭の模擬店の売上金を横領した」などの誤った事実を理由に文科系クラブを強制退部させられ、その情報が広まったことであるらしい。実際には横領の事実はなく、学生は名誉回復のための対応を大学に求めたが実現せず、その後命を絶った。大学側は「一連の対応は問題なかった」としているが、遺族は検証のための第三者委員会の設置を求めている。しかしながら未だに実現していない。

 事実経過:

  • 18年3月 「この学生が(17年11月の)学園祭の模擬店の売り上げを横領した」などの誤った情報が部長らによって部員に周知され、学生は退部勧告を受けた後、強制退部させられた。

 部長は25の文化系団体の部長らで構成する甲南大学公認:「文化会」でも学生の入部を拒否するよう要請。学生は入部を希望した複数の部の関係者に「ブラックリスト入りしている」などと言われた。

 学生は、退部勧告を受けた直後から大学の学生部に相談し、関係者間で横領の事実がなかったことを確認した。これを受け、

  • 18年5月 (当該の)部長が「明確な確認を取らないまま、横領したと断定してしまった」などとする謝罪文を学生に渡し、強制退部と他の部への入部拒否の要請をそれぞれ撤回。

 学生は「事実無根の情報が拡散してしまった」と訴え、名誉回復のために謝罪文の掲示などを大学側に求めたが、遺族によると、大学側は「知らない人がほとんどだ」などとして、応じなかった。学生は同月、学内のキャンパスハラスメント防止委員会に苦情を申し立てたが、同委員会は

  • 18年9月、横領したと誤解されるような発言を学生がしていたなどとして当該部長らの行為はハラスメントに該当しないと判断した。
  • 18年10月 自殺。遺書には「自殺に至った主な原因は3月に起こった部および文化会による名誉棄損などによる精神ダメージ(中略)甲南大学の対応も遅く私は限界となりました」などと記されていた。
  • 19年10月 遺族は、甲南大学を経営する学校法人甲南学園に、事実究明と大学側の対応を検証するための第三者委員会の設置を求めたが、法人側は「一連の対応で不適切な点があったとは考えていない」などとして拒否。遺族は「息子の抗議に真摯に向き合うべきだ」と話す。

不誠実な対応に終始し「幕引き」を急ぐ法人:

 法人は(毎日新聞の)取材に「可能な限りの対応をしてきており、問題があったとは考えていない。しかし、一人の学生の貴い命が亡くなってしまったという結果については誠に残念、遺憾としか言いようがない」などと回答している。(加害者である)部長の代理人(多分弁護士)は「亡くなった学生やご遺族の主張が客観的に正しいかはわからない」などと答えてもいる。

ハラスメント委員会の実態 本当に「不適切な点」は無かったのか?:

 その後の取材により、ハラスメント委員会の調査過程などに関し、1) 聴取を行った学生や教職員の人数、肩書も不明なこと2) 調査の詳細は苦情申し立て者にも「開示できない」とされているなど、多くの疑問点が明らかになってきている。

 1) については、例えば、委員会の構成は(公開されている規程によると)副学長(中井伊都子氏)、学生部・学長室事務部・総務部の各部長、学長が指名する専任教員であるらしいが、男子学生が直接聴取を受けた3名以外は他の委員の名前や委員会の開催回数などは明らかにされていない。また、他に聴取を受けた学生や教職員の人数、肩書なども不明のままである。

 さらに、学生が聴取の際訴えた「(当該部長が他部に出した入部拒否要請の)撤回文は名誉回復になっていない。部に非があったことを完全に表にし、部が誤っていることを明らかに示してもらいたい」という内容が、委員会でどう受け止められたのかを検証しようにも、委員会の議事録は学生への聴取録を除き非公開である。

 2) については、一連の毎日新聞の質問に対する法人側の対応は以下のとおりである;

(委員会の調査の客観性や中立性はどう担保されたのか)外部の専門家を委員会に出席させたのか?(規定に「必要と認めるときには外部専門委員等を委員会に出席させることができる」とある):「出席していない。審議の過程で外部専門家である弁護士に、随時、意見を求めていたから」

苦情申立者に議事内容を開示するか?:「保護すべき個人情報が多く開示できない」

苦情を審議したハラスメント委員の名前や肩書、委員数、議論の経過は?:「学内手続きの経緯詳細及び特定の教職員・学生にかかる情報などについては答えを差し控える」

 これらの大学の態度に関し遺族は「息子の悲痛な状況が拡大していくのを無視した大学の対応そのものが(第二の)ハラスメントだ。大学が息子を自死に至らせた経緯が闇のままなのはおかしい」と批判する。この一連の経緯からは、どう見ても法人側の対応が適切であったとは言えない。甲南大学は関西では、多くの社長や経営者を輩出している大学で、その子弟が多く通学・卒業していることでも有名である。当時の甲南大学は100周年(実際には大学設立70周年)に向けて異様な熱気を帯びており、大学イメージアップの広報のためには学内のハラスメント事件をもみ消し、その後の(第二のハラスメントによる)学生抗議自死をも隠蔽する必要があったためではないだろうか。今こそ大学側は、猛省して遺族に謝罪と補償をすべきであろう。

大学における第三者委員会

 本ブログのめざすものや初期の記事でも度々述べてきたように、日本の大学における様々なハラスメント事件に関する学内の調査委員会は、基本的に適切に機能している例は殆ど無い。その意味で現状では各組織の自浄能力に期待するのは無理であり、外部の人材を含む第三者委員会の速やかな設立をめざすべきことを一貫して主張してきた。勿論ハラスメント事件が起きたとき、それに対する最初の対処法として、該当組織の適切な部署に訴えることは悪くはない。しかし並行して第三者委員会設立も進めるのが望ましい。なぜなら学内委員会は色々な点で歪められ、スピードも遅くなることが多く、その結果、緊急避難的な対策は行えても原因追及や加害者への処分などは往々にして当事者の学生などが卒業後ということになる場合が多い。被害者がいなくなるので、加害者の処分がうやむやになり、結局加害者は「やり得」ということが永年繰り返され、結果としてその組織のハラスメント体質がいつまでも改善されず、被害者。自殺者が続くという悪循環になりがちである。

 実際、学校問題の被害者遺族でつくる「全国学校事故・事件を語る会」の内海千春代表世話人は、本事件に関し「大学内で作られた調査組織は大学教授らが委員を務めるので、もっともらしく見える。しかい、外部の目が入っていなければ、組織防衛のために情報が操作される恐れがある。大学が『不適切な対応はしていない』と主張するなら、十分な情報開示や外部の目を入れて検証するなど、説明責任を果たすべきだ」と指摘している。

 小中高校のいじめによる自殺や長期欠席の調査をめぐっては、文部科学省のガイドラインが弁護士や精神科医、学識経験者らで構成する第三者委員会を設置するよう教育委員会や学校法人などに求めている。その中立性を確保するために、学校側と被害者遺族側のそれぞれが推薦した団体から委員を選ぶなどの形式で設置された委員会もある。

 大学や研究機関が第三者機関設置に極めて消極的なのは多分多くのやましい事例をひた隠しにしてきたからであろう。世界をけん引すべき「知の砦」としては本当に恥ずべき情けない話である。

大学における自殺調査の法的枠組み

 ハラスメント事例、学生の自殺事件などに関し、第三者委員会がほとんど設置されない現状は、大学でのみ自殺調査の法的枠組みが無いことにつながっている。即ち、小中高校のいじめに関しては上述の仕組みがあり、労働者が受けるハラスメントについては、2020年6月施行のパワハラ防止法などで事業主に防止措置が義務付けられている。これに対し、殆どの大学は、学生が利用できる相談窓口を設けたり、ハラスメントに関する規程を形式的に整備したりしているが、相談対応や調査の具体的な手法は各大学の判断に委ねられており、調査の公平・中立性を担保する法的な仕組みがない。まずは以下の住友先生のご発言にあるような、全国的なガイドライン制定をめざす動きを作り、関連する条例や法の整備に向けた努力を続ける必要がある。

大学生の自殺統計

 本ブログの初期の記事でも触れたように、日本は諸外国に比べ若年層の自殺者が多いことが知られているが、毎日新聞の記事によると、2018年に自殺した大学生は336人に達する。原因・動機別(重複有)では「学校問題」145人でトップで(43 %)、以下「健康問題」79人、「家庭問題」35人と続く(厚生労働省などの統計による)。

 これに関連し、学校での事件事故の調査に詳しい京都精華大学の住友剛教授(教育学)は次のように話しているという:「大学側の対応に問題があると疑われるケースでは、大学が自らの対応が適切だったかを外部の有識者による第三者委員会を設置して検証すべきであり、その方が大学側の真摯な姿勢を示すことにもなる」、「学生がどのように追い詰められ、大学がどう対応したかについて、国や公的機関が全国の実態を把握し、ガイドラインを作ることが望ましい」。

甲南大学キャンパス・ハラスメント防止ガイドライン

https://www.konan-u.ac.jp/life/campus_harassment/

 もしこの記事をお読みの方で、いわゆる学校問題で深刻な悩みを抱えている方、もしくはそのような友人をご存知の方は、自死を考える前に是非以下に挙げる組織や団体ににアクセスして欲しい。勿論本ブログでも相談は受け付けて力になれるようサポートします。

参考・関連リンク(毎日新聞掲載のものを転載)

03-5286-9090 年中無休 pm8時-am5:30 但し、火曜日 pm5時-am2:30、木曜日 pm8時-am2:30

 

【新潟大学】

50代准教授がセクハラ 停職1ヶ月 

 まず大学側の発表を見てみよう:

==================================

令和元年9月11日付け 職員の懲戒処分について

2019年09月13日 金曜日   お知らせ

 このたび,下記により令和元年9月11日付けで本学職員を懲戒処分としましたので,お知らせします。

事案の概要

 本学自然科学系准教授(男性,50歳代)は,平成28年から平成30年にかけ,研究室の所属学生に対して,学部学生のテストの採点を行わせるなどのアカデミック・ハラスメント行為及び女子学生の容姿や身体的特徴,服装に関する発言を行うなどのセクシュアル・ハラスメント行為を行ったことにより,学生に精神的苦痛を与え,修学上の環境を悪化させたものである。

処分の内容   停職1月

今後の再発防止策等

服務規律の確保について,今後一層の徹底を図ることとしています。

学長のコメント

 学生に精神的な苦痛を与え,修学環境を悪化させるようなハラスメント行為があったことは,新潟大学の職員としての自覚と責任に欠け,誠に遺憾であり,被害を受けられた学生に深くお詫び申し上げます。
 今後このようなことが起こらないよう,職員に対するより一層の規範意識の徹底を図り,再発の防止に努める所存です。

本件に関するお問い合わせ先

総務部労務福利課
電話 025-262-6032

==================================

毎日新聞の記事

https://mainichi.jp/articles/20190913/k00/00m/040/065000c?pid=14606

により補足してみる。

 新潟大によると、准教授は2016-18年にかけ、自身の研究室に所属する大学院修士課程の男子学生3名、女子学生2名に学部生の講義のテストの採点をさせるアカハラをした。また、この女子学生2名に対し、足や胸に関する発言をするなどのセクハラをした。

 18年春に5人全員が学内のハラスメント窓口に申し立てて発覚、新潟大は5人全員を他研究室に異動させ、ハラスメント委員会で調査していた。准教授は不服申し立てをしており、「ハラスメントという認識はなかった」と話しているというが、同委員会はハラスメントがあったと認定した。学長のコメントは上記引用文書にある。

 なかなか難しいところであるが、この規模にしては処分が軽すぎる気もするが。

 

【群馬大学】

医学部教授がアカハラ 大学側公表せず 

 こちらの方は何故か公表もされない事例らしいが、

https://mainichi.jp/articles/20190529/k00/00m/040/024000c?pid=14516

毎日新聞が入手した文書によれば、群馬大学は2019年春、医学部に在籍の男性に対する医学研究科の男性教授によるアカデミックハラスメントを認定していたという。大学側は認定自体を公表しておらず、取材に対し詳細の説明を拒否。当該教授に対する処分の有無や男性への賠償などについても回答しなかった。

 当該教授は医療倫理に関する必修科目の授業を担当。男性は2年時の2016年度に乗降したが、単位を認定されず留年。17年度も再履修した。その再履修で必要な「補習」について、男性は教授から出席不要との連絡をメールで受けたという。さらに教授は男性に対し再試験を受けさせなかったという。

 大学が男性側の申し立てを受けて18年末に設置した「ハラスメント調査委員会」は19年春、教授が男性に対し、補修を受けさせなかったことと再試験を受けさせなかったことの二つの行為をアカハラと認定した。大学側は毎日新聞の取材に対し、このアカハラ認定も含めて「被害者と加害者のプライバシー保護のため回答を控える。回答する予定もない」とコメントした。(これに関し)アカハラに対処する基準などについて文部科学省国立大学法人支援課の見解を確認したところ、「特に指針は示していない。各大学で独自に対応している」と答えたという。

 なお群馬県の地方新聞である上毛新聞のこの件に関する過去の記事はもう閲覧が不可能であった。地方新聞と地方大学との癒着と情報隠ぺいはよくある話で今更驚かないが、学生の自殺や覚せい剤がらみの事件などは、こういう癒着で殆どもみ消されていることは知っておかねばならない。頻繁に、あったことが無かったことにされているのは、何も隣国の話ではなく現実にこの日本でも身近に起こっている。

 群馬大学医学部と言えば、多くの方が亡くなった一連の医療過誤事件が記憶に新しい。また、これもその酷さで記憶されている方も多いと思うが、2014年にも同じ医学部の40代教授が女性研究者へのパワハラで懲戒解雇されている。

https://www.huffingtonpost.jp/2014/11/20/gunma-university-power-harassment_n_6195436.html

 これは、2012年1月から13年8月にかけて、研究室の助教と講師の男女計5人に、退職や休日出勤を強要。「結婚△出産×」などの発言で結婚や出産をする女性研究者を非難し、「ポストを空けるため(他大学に)応募しろ」などと言い、3人が精神的な病気で休み、2人が退職した。教授は大学に発言を認めたが、一部は「指導の範囲」と話していたという。この案件は何故か公表されている。ただいずれにしても、っ群馬大学、特に医学部の問題体質は一向に改善されていないようである。一応大学のホームページには、ハラスメントの解説や相談の連絡先は記載されているものの、有効に機能している気配はない。

 会社などのパワーハラスメントなどと比べると、学生や大学院生は、加害者である教職員に対して圧倒的に力の差は大きく弱い立場であり、さらにはその現場を短期間で去ってしまうという事情がある。本当に、被害者の救済を迅速に進めるためには、(大学の良識などに頼っても当事者には期待できないので)そろそろ文部科学省がガイドラインの議論・提示を行い、各大学などで、迅速な問題解決を促す仕組みづくりを進めねばならない。

DAYS JAPAN広河隆一氏による「性暴力事件」について (4)-3

―デイズジャパン検証委員会による報告書(2019/12/26公開)についてのコメント(3/3)―

4) ハラスメント発生の原因

a) セクシャルハラスメント(2/3)

b) パワーハラスメント

  • 独自の経営理念・組織観 DAYS JAPAN社の「崇高な」理念は、広河氏の次のような言葉に現れている『初期の中心メンバーはボランティアであった。DAYSは労使関係や、搾取などという資本主義の常識が合わない企業を目指して誕生した。それはむしろ運動体という言葉があっていた』。このような理念は本人にとっては「崇高な」ものであったかも知れないが、報告書が指摘しているように、こうした理念に基づく企業活動は、目標の実現に向けて自己犠牲や滅私奉公を厭わないものとなる。その結果人事管理は困難を伴うものになっていたようである。

 いわゆる無借金経営も広河氏が自慢した来たことの一つで あるが、これもパワハラを生み出す原因の一つであった。すなわち、DAYS JAPAN創刊こそ事前に多くの定期購読者を集めることにより達成できたが、その後の持続的運営において、最初の規模の「死守」が至上命題となり、様々なコストの徹底的削減がなされた。その中には勿論人件費に関するものも多く含まれていた。

 これ以上詳細には立ち入らないが、今回の広河氏の事例は、まさには、自ら起こした企業は自分個人のものであり、自分の自由意志でどのようにでも運営できると思い込む、ワンマン社長の典型例である、と報告書も指摘している。ただ本人も無理な組織運営には困難さを自覚していたらしく、度々自分の後任(代表取締役)を探していたらしいが、結局ワンマン性故に設定した高いハードルを超える人材を見つけられなかったようである。

  • 労働者の権利主張を認めない経営 報告書では、広河氏の労務管理の特徴の一つに極端な労働組合嫌いが挙げられる、と述べている。これは極端に強く、偏見とさえいえるほどで、彼の発言の随所に現れている。すなわち、労働組合の存在自体が会社経営に好ましくなく、(労働争議等を経て)会社倒産につながりかねない、という認識をもっていたようである。これはまさに中小零細企業の(ワンマン)経営者によく見られる傾向で、普通の例よりさらに過敏であるとも指摘されている。いうまでもなく、労働者=従業員の権利を守る意識から遠く離れた位置にあると言える。

 また、先ほどの経営規模の問題との関連で、特に人件費の増大が経営を圧迫するという強迫観念から、労働者の犠牲で成り立つあらゆる経費削減を従業員全員に強いていたことも指摘さ れている。これを理由に、多くの無給、或は低賃金のボランティア、インターン、協力者を抱え、それらの人々の奉仕に依拠して会社を運営してきた。休日手当や残業代はいうに及ばずであった。労組嫌いとあいまって、このような凄まじいパワハラが会社=組織存続のため継続されてきたと言えよう。

 広河氏は、このような経緯に関し「反省の弁(この時代に急速に労働環境が変化していることに無自覚であった、DAYS JAPANは広河事務所のような徒弟制度ではなく、会社組織であった、等等)」を述べているらしいが、報告書は端的にも「デイズジャパン社創業時に既にあった労働関係法令を遵守して来なかったと言うにすぎない。近代的労使関係を受け入れようとせず、前近代的で労働者の権利を尊重しない徒弟制のような感覚でデイズジャパン社の経営に当たっていた」と本質を喝破している。

5) デイズジャパン社のコンプライアンス

 役員らおよびデイズジャパン社は、以下のような責務を負っていたはずである。

  • 役員の監視義務等

 法令及び最高裁判例で定められている役員らの義務は以下のようなものである。

取締役:会社法355条 法令遵守義務。(相互の)監視義務(最高裁判決)

監査役:会社法382条 (取締役の)適法性監査

取締役・監査役:会社法423条1項 株式会社に対する損害賠償責任。同429条1項 第三者に対する損害賠償責任(悪意または重過失が要件) 

  • 事業者のハラスメント防止義務等

 まず、ハラスメントにより、身体、名誉感情、人格権などが侵害された場合は、当該行為者とともに使用者も、不法行為(民法709、715条)や安全配慮義務違反(雇用契約上の債務不履行、民法415条)として損害賠償責任を負う。また労災保険の支給対象になる場合、さらにはハラスメント行為者が刑事責任を問われることもありうる。

 これに加え、ハラスメントについては、事業者の措置(防止)義務がある。セクハラについては、雇用機会均等法(2006年改正)11条1項は、「・・・適切に対応するために必要な体制の整備そのほかの雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と規定し、厚労省指針(2006年)は事業者の措置義務として次のような項目を示している:

① (セクハラについての)事業者の方針の明確化およびその周知・啓発

② 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

③ 事後の迅速かつ適切な対応(事後措置・調査義務・被害拡大回避義務・再発防止義務・被害回復義務)

④相談者・行為者のプライバシー保護、不利益取扱いの禁止

 さらにパワハラに関する事業者の責務として、厚労省により「雇用管理上講ずべき措置等に関する指針素案」(2019年10月)において、パワハラについての労働者の関心と理解を深めること、研修の実施その他の必要な配慮をすること、役員は自らもパワハラ問題に関する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならないこと、などが指摘されている。

6) ハラスメントへの抗議とデイズジャパン社の対応

  • 抗議と対応の例

 報告書では、このようなデイズジャパン社の負うべき上記諸責務の履行状況を、ほぼ創刊後間もない時期からあった様々なハラスメントへの抗議とデイズジャパン社の対応を記録・追跡する中で検証している。先に述べた守谷監査役がネガティブに絡むケースもあり、少し辟易するので、ここでは、典型的な1例とそれに対するデイズジャパン社(広河氏)の対応のみを取り上げておく。

 ある女性社員は、ボランティアの女性から広河氏から(セクシャル)ハラスメントを受けたことを聞き、広河氏に「彼女たちにしたことはセクハラです」と抗議したが、認めようとしなかった。また、新しく入ってくる女性社員やボランティアがセクハラ被害に遭わないように、注意喚起の趣旨で「広河さんはそういう問題行動をすることがあるから気をつけて」と伝えるようにしていた。ところが、その後外国出張に同行した女性社員に「注意喚起した」ことが広河氏の知るところとなり、激怒していたと聞いた。

 これに対するデイズジャパン社の対応としては、本来退職時に買い取ることになっていた未消化の有給休暇が、結局退職時には大幅に減らされていた。この措置は、上記の「注意喚起」に対する報復としか考えられない。問題にしても疲弊することが予測されたため、結局諦めた。広河氏は、セクハラの告発にも至らないような社員間の情報共有にさえ過敏に反応し不機嫌となり、報復的措置を取ることもあった訳である。十分な確信犯的振る舞いである。

  • 役員らの監視義務の履行状況

 報告書では、川島、土屋、小川取締役、守谷監査役それぞれについて精密な聞き取り報告があるが、それ以前に、役員全体の状況として、

  • 会社としてハラスメント防止方針を策定して周知したり、相談体制を整えるというようなことも、発想自体なかった、
  • 立場上、広河氏の違法行為や不正行為について監視する義務に対する自覚が乏しく、その履行を怠っていた、ことに加え、
  • 広河氏(の実績)に対する信頼と敬意にもとづく一種のバイアスがあり、「多少の私的不品行」には目を瞑るというような感覚があった。
  •  告発の声が上がりづらかった事情

 報告書では以下の3つの要因を挙げている:

  • 社員らは広河氏の様々なハラスメントを疑うことはあっても、その圧倒的なワンマン経営故に自浄作用が機能しない組織内で、正面から強い告発の声を挙げることは困難であった。
  • 被害告発の抑圧や広河氏を消極的に擁護する言動も一部社員にあった。これはいわゆる「社会正義」の実現をハラスメント被害告発より上位に置く、という発想によるものだと思われる。
  • 「特別扱い」の社員が存在し、唯一の中間管理職的立場であったのに、広河氏のパワハラを批判する態度は見られず、残業代不払いについても積極的に問題視はしなかった。また、労働組合活動には否定的な態度が顕著で、労使交渉前には役員に組合員の勤務時間中の態度の問題を指摘するなど労働組合員に反発する態度を取っていた。これらは、広河氏に対し、少人数の組織の中で労働者が一体となって抗議して声を上げるという動きを阻害した恐れがある。

 広河氏の個人的資質に加え、以上述べてきた役員らの状況と上記の諸事情により、広河氏の様々なハラスメントが温存・助長され、関連した被害を拡大長期化させていった原因になった、ということであるようだ。

7) 広河氏の現状と広川氏、デイズジャパン社が果たすべき責任

a) 広河氏の現状と責任

  • 「謝罪のための事実確認」を求める態度

 報告書によると「検証作業期間中、広河氏は様々な迷いを見せたが、最後まで謝罪については逡巡を続け、最終的には『謝罪をしない』という選択をしたようである』となっている。その根拠となっている広河氏自身の説明は、一言で言うと「謝罪することは週刊誌報道のすべてを認めたことになり、さらなるバッシングを受けるだけだ」ということらしい。その理由として、「記憶が定かでないまま謝罪することはできない」という「正論」めいたことを言い、週刊誌に報道された件の女性と会って話して記憶を喚起しながら事実を被害者に確かめたい、と言っているらしい。これは結局、自らの犯した罪と責任に向き合うどころか、むしろ逆に被害者に二次被害を与えるような主張にこだわり、「そこにあったはずの合意の証」を得たいという思惑である

 更に見逃せないのは、自分のやってきた数々の性暴力については、「記憶があいまい」「断片的な事実しか思い出せない」と誤魔化す一方で、自分に有利な事情は「記憶が戻ってきた」として後に追加して弁明する態度など、検証作業期間全体を通じた状況として、供述態度が全体に極めて不誠実、という印象であったらしい。

  • 「性的関係には女性と合意があった」という思い込み

 検証の過程では、広河氏に対し何度も「あなたがしたことは女性の意に反する性暴力であり、女性たちは合意していなかったと言っていて検証委員会もそれが真実だと認定した」、「あからさまな暴力を振るったわけではなくても、優位な立場を使って相手がNoと言えない状況に乗じて性暴力を振るうという類型があり、あなたがしたことはまさにそれである」と伝えて来たにもかかわらず、氏はあくまで「合意があったはず」、、という主張にこだわり続け、「20代の女性たちが次々に6 0代後半の男性の自分に恋愛感情を持ったのだという恋愛観を堂々と披瀝したらしい。どうしても「優越的な地位によって強制した関係ではなく、個人的に惹かれあった男女の自由な関係であるということにしたい」というところから中々離れようとしないばかりか、「自分は文春の商業主義、もしくはMeToo運動に乗った時代の犠牲者である」とさえ認識していた節があったという!

 この広河氏の現状を踏まえ、報告書は広河氏に以下の、ハラスメントについての責任履行勧告を述べている。最低限の項目であると思われるが以下に再掲する(詳細略)。

1. 判明した被害者への謝罪と慰謝

2. デイズジャパン社の責任履行への協力

3. 二次加害をしないこと

 そしてこれらが、広河氏にできる、社会的意義ある最後の仕事である、としている。

b) デイズジャパン社、役員らの責任

  • 株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負うことが定められている(会社法350条)。代表取締役であった広河氏が行った女性たちへのハラスメントはまさにこれにあたり、損害を賠償すべきことになる。従って、会社清算においては、被害者らへの損害賠償を検討し、プライバシーに配慮した上で具体的な慰謝の策を講じるように努力すべき、と報告者は指摘している。
  • 役員らは、先に述べた雇用機会均等法11条1項に基づく事業者の措置義務を怠り、特に代表取締役への監視義務を履行しなかったことは重大であり、被害者に謝罪すべきであること、また、個々の件に関し、被害者から申し出があった場合には、誠実に調査して必要な医者の措置を講ずるべきである、としている。

8) 事件の教訓

a) 本事件の特徴

 本事件は、「広川氏特有のキャラクターが原因となって起こされたという性格はあるものの、反権力を掲げる組織内で、ある場面では「人権派」と称され、実際に社会正義のために活動する人が、他の場面では周囲に対してセクシャルハラスメント、パワーハラスメントを繰り返すという現象はしばしば見受けられる」が故に、この問題を広川氏個人の問題として片付けるのでなく、そうしたケースに共通する教訓を指摘する必要がある、検証委員会は述べている。この点に留意してまず本事件の特徴を以下のようにまとめている。

  • 「小権力」に鈍感な組織になっていた。この点について報告書は、「大きな権力に向けた戦い」のなかでは「小さな権力」の乱用が過小評価されやすいこと、「小権力」を掌握する者は大きな権力に対峙する局面では、他者への強者性の自覚が乏しくなることなどを指摘している。
  • 閉鎖的な組織になっていた。報道写真という専門分野を扱う組織であったという専門性は、一般社会との距離が生じ組織の閉鎖性を高めやすい。また閉鎖的な組織におけるリーダーとしての資質はカリスマ性にまで高まりやすく、周囲の人たちを容易にコントロールしてしまい、リーダーのやり方の誤りを周囲が認知できなくなるという恐れも指摘されている。
  • トップに権限が集中しやすくなっていた。独自の専門分野に特化した組織では、経験や知識のあるトップに権限が集中しやすい。その結果、徒弟制に近い上下関係のもと、縦割りに組織された部下たちは容易にトップに掌握され、横の連帯を深めにくくコントロールされやすい状況が生まれた。その結果トップへの批判や非難が組織の規律違反と捉えられやすい状況が生まれていた、と報告書では指摘されている。
  • 内部での監督・抑止機能が働かない組織になっていた。通常の組織であれば組織内の苦情相談を受けて解決にあたるべき人や部署も、今回のケースでは、組織防衛意識が強く働き内向きとなっていた。むしろ受けた苦情を押さえ込んで不適切に処理する機能を果たしてしまい、組織全体に悪影響を与えるとともに自浄力の低下を招いていた。そこで告発しようとしても組織の大義を守ろうとする人々が幾重にも立ちはだかり、結局被害者が声を上げることができなかった、と報告書では述べられている。

b) 教訓

 これらを踏まえ、報告書では以下の3点の教訓が提示されている。

  • 外部への相談の重要性を知る。自浄性がない組織内部でハラスメント告発の難しさが存在するときは、外部への相談が極めて有効である。例えば、労働組合、行政、弁護士、性被害相談窓口などが大切であり、それを可能にするための相談先情報についての広報啓発は必要不可欠である。
  • 内部で解決できる体制も重要であることを再確認する。性被害の外部への告発に関しては心理的ハードルが高く、今回のケースでは広河氏の「業績」の毀損に関する躊躇からくる葛藤などが無視できなかった。一般的にも外部への相談のハードルは必ずしもまだ低いとは言えないので、組織内部に相談窓口があるか、役員がコンプライアンス遵守の意識を持って職責にあたるなどの体制も重要である。
  • 「セクハラはするが仕事はできる人だ」とういうような加害者への甘い対応を許さず、被害者、告発者を二次被害などから徹底的に防衛できる、社会的土壌形成を意識的に進めるべき。これらについて真剣に改善策を講じることがハラスメント根絶には不可欠である。

以上、報告書の要約とコメントはかなり長くなったが、もともと報告書は大部の力作であったため、省略した箇所も多い。例えば、会社解散決定に至る経緯と問題点、労働組合結成とデイズジャパン社の対応等には殆ど触れていない。是非報告書を直接お読みになることをお勧めする (https://daysjapan.net/)

 容易に推測できることであるが、報告書は独善的に運営されている組織(中小企業や大組織における一部門(大学の学部や研究室等)におけるハラスメント問題についての格好の教科書になっていることも指摘しておきたい。今加害者になっていそうな人、被害に苦しんでいる人々にも大変「役に立つ」気がする。

 なお、ハラスメント加害者の「業績」についての私の個人的見解は、「個人、あるいは組織のいかなる局面における「業績」もそのもたらす負の面についての検証無しに無条件に認められることはない」と考える。即ち、負の面も「業績」に含まれるのであり、「業績」を理由にその個人、組織がもたらした不利益、不正・不当な行為が正当化されたり、免罪されたり、ましてや帳消しになることはない、と考えるものである。 

 報告書の公表を受けてデイズジャパン社は以下のメッセージも掲載している。デイズジャパン社は今後どうするのか、について殆ど記述が無いのが大変残念である。今後についてのコメント等が近い将来出されることを期待する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

デイズジャパン検証委員会の報告書を受けて

デイズジャパン検証委員会から、2019年12月26日付報告書(以下、「検証報告書」といいます。)の提出を受けました。検証報告書の中では、広河隆一氏(以下、「広河氏」といいます。)による深刻な性被害をはじめとする多数のセクシャルハラスメント及びパワーハラスメントの認定がなされています。

当社は、この検証報告書を非常に重く受け止めました。検証報告書に記載されているとおり、長年にわたって当社で代表取締役を務めた広河氏による行為については、当社の責任の重さを痛感しており、広河氏による行為の被害に遭われた方々に、深く謝罪いたします。

また、当社は、検証報告書にあるとおり「加害者としての自制と責任の履行を公にすることこそが、広河氏にできる、社会的意義ある最後の仕事」であると考えます。当社としては、広河氏に対し、「まずは自分が行ったことを直視し、独善的で自己中心的な弁明を公の場で行うことは控え、これ以上被害者らに恐怖と苦痛と不安感を与えるような言動は絶対にしないよう、行動を自重することを強く求める」との勧告を遵守するよう求めます。

検証報告書を受けて、当社として、被害に遭われた方々への相談窓口を設置いたします。広河氏の被害にあわれた方については、下記(問い合わせ先)にご連絡ください。被害にあわれた方については、プライバシーに配慮した上で、当社として誠実に対応してまいります。

最後に、改めて、被害に遭われた方々に深く謝罪いたします。

2019年12月27日

株式会社デイズジャパン

代表清算人 川島 進

(問い合わせ先)

days@legalcommons.jp

弁護士 竹内  彰志

弁護士 河﨑 健一郎

 

DAYS JAPAN広河隆一氏による「性暴力事件」について (4)-2

―デイズジャパン検証委員会による報告書(2019/12/26公開)についてのコメント(2/3)― 

(1/3)に引き続き、報告書の要約とコメントする作業を進めてみたい。

3)ハラスメント実態と労働環境の酷さ

a) 広河氏によるセクシャルハラスメント

  • 概況

 ハラスメントの具体的事項は、最も古いもの(2004年)から最も新しいもの(2017年)まで、デイズジャパン社設立以降のほぼ全期間に渡る。被害者の属性は、デイズジャパン社社員、ボランティア、インターン生、フォトジャーナルズム学校(一時デイズジャパン社が企画していた一般向け講座)、受講生、広河事務所社員、アルバイト等多岐に渡る。また、検証委員会に寄せられた被害態様を纏めると以下のようになる(2014-17年):性交の強要 3人/性交には至らない性的身体的接触 2人/裸の写真の撮影 4人/言葉によるセクハラ(性的関係に誘われる等) 7人/環境型セクハラ(AVを社員が見える場所におく) 1人。

 特に指摘すべき点として、「被害者らが抱いていた広河氏への尊敬の念に乗じてセクハラに及んだこと」「被害者らが広河氏の精神的圧力を感じて性的要求に応じざるを得なかったり、明白な拒絶はできずやんわりとかわすしかなかった」と言う点を挙げている。また、狡猾な戦略として、特に程度が深刻なハラスメントは、社員以外のボランティアやアルバイトの女性が狙われていた可能性も指摘されている。

  • セクシャルハラスメントに関する証言

 検証報告では、先の被害態様別に多くの具体的な表現が記録されている。最初の週刊誌記事や、その後の新聞・web記事等とも重なるので、ここでは引用はしないが、極めて悪質であることはいうまでもない。またデイズジャパン社と深い関係にあった守屋氏及びアウレオ社からの派遣社員が被害者へ二次被害を及ぼしたり、ハラスメントのもみ消し等に一役買っていたことも報告されている。

 そして最も重要な点は、収録された証言は検証委員会の客観性についてのチェックを経て、全て信用性があると認定されている点である。これに対し、広河氏になされた検証委員会からの幾つかの質問、「女性たちがあなたに向けていた好意は敬意やあこがれであって、異性としての好意とは別物だったと述べているが」、「被害女性たちは祖父に近い年齢であるあなたを本当に性愛の対象としてみていたのか」、「この女性にこのようなことをしなかったのか」に対し、「当時はそう思った」、「そういう(老人を対象にする)人もいますよ」、「その女性(の存在自体)を憶えていない」と言う、曖昧な、抽象的なさらにはごまかすような回答に終始したため、検証委員会は「証言されたいずれの件についても『相手の女性の合意は無かった』」と認定し、「広河氏の説明の信用性は極めて低く不誠実であるとしか言いようがない」と結論づけている。

b) 広河氏によるパワーハラスメント

1. パワハラの定義

  • 厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」提言(2012年3月)等

=『同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為』

  • いわゆるパワーハラスメント防止法*(2019年5月)30条の2第1項

=『職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの』とし、『それによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない』と規定。

*略称「労働施策総合推進法」

  • 雇用管理上講ずべき措置等に関する指針素案(厚労省2019年10月)のパワーハラスメントに該当する行為についての例示

=(一部抜粋)

<脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)>

(該当すると考えられる例)人格否定発言(性自認に関する侮辱含む)、長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、能力否定、罵倒の電子メール等を複数宛に送信する。

<業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)>(例)新卒採用者に必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること、業務との関係の無い私的な雑用の処理を強制的に行わせること。

2. 概況

  • 「ほぼ全員が日常的に被害者だった」と述べるほど日常的かつ深刻。
  • 労働環境:長時間労働をせざるを得ず、時間外手当や休日出勤手当の不払など労働基準法違反が恒常的。問題視されると「裁量労働制だから」と言い張るなどした。
  • 気に入らない社員の不当解雇や退職に追い込むなども無頓着に行われていた。これに対する問題意識も経営陣全体に乏しかった。
  • ハラスメントの態様:「怒鳴る」「いらいらしてスイッチが入ってしまうと激高する」。これらは厚労省指針素案の「厳しい叱責を繰り返し行うこと」や「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責」の類型に該当する。

3. 証言と認定

  • 精神的な様々な攻撃:感情の起伏が激しくいきなり嵐のように怒鳴り散らすことが日常的、これに対し皆萎縮している印象(確信犯的?)。全てを管理しないと気が済まないが、面倒臭い人事や事務はしたくない。自身でも継続困難を感じていたらしく、会社を閉じたいと考え出した頃から様々なことへの投げやり感や、人格崩壊が加速、などが証言されている。
  • 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、過大な要求:関係のない編集会議に参加させられる、「残業をするな」という一方で過重な量の業務を与える、広川氏のために病院に薬を取りに行く、などが証言されている。
  • 寄せられたこれらの証言の具体性、数の多さ、証言間の整合性などから広川氏が日常的に社員らに対しパワーハラスメントに及んでいたことは明白である。これにより社員らに対して違法な労務環境への不当な忍耐を強いようとしていた。また、労働関係法令違反も慢性化していた と言える。

4. 労務管理

  • 時間外労働・休日労働に関する協定書 2017年6月締結、7月渋谷労基署に届出。
  • 裁量労働制 編集・取材業務に従事する従業員について専門業務型が適用されていた。協定締結 2015年6月。2016年4月~支払い確認。
  • フレックスタイム制協定書締結 2017年6月。
  • 始業時刻午前10時、就業午後6時、休憩1時間。
  • 裁量労働制導入以降は、ほとんどの従業員に一定時間相当分(毎月40時間程度)の残業代相当額を裁量手当として支給していた。

5. 労働実態

 詳細は省略するが(「報告書」をぜひ読んで頂きたい)、残業代、休日出勤手当の不払い/退職強要、不当解雇/広河氏の認識/残業代不払の実態などについての証言が数多く寄せられている。これにたいする広河氏の認識は、特に社員の離職があまりに頻繁だった状況に対しては、「退職していく個人の勝手で引継ぎが大変になり会社が大迷惑を被った」、「むしろやめていく側に能力が足りなかった」と捉えるという労務管理についての知識もなく反省もしない酷いものであった。

 実際は、数々の証言が示しているように、退職理由の多くは表向きは家族の事情という体裁は取っていたとしても、実際には劣悪な労働条件や広河氏の人となりに触れて失望したり、あるいはハラスメントを受けたからというものであった。 

 また、大手出版社による買収が不成立であった理由は、「大手出版社では、DAYSでやるのと比べ、人件費も経費も数倍かかり確実に赤字になるだろう」ということであったらしい。このことは、通常の出版社でかかる人件費よりはるかに少ない条件でやっていたこと、言い換えると、広河氏が自慢していた「無借金経営」は不当なまでの人件費抑制により成り立っていたことを示す。

4) ハラスメント発生の原因

 「今回の一連の出来事は、、、彼が自ら作り上げた『王国』に君臨し何らの抑止力が働かない組織の中で、人事権を乱用し、日常的なハラスメントを働くなど身勝手な行動を繰り返してきたことが事の本質である。」と報告書もこの項の冒頭で述べている。報告書に従い、広河氏個人にまずは焦点を当て、もう少し詳しく以下の2つの観点から見てみよう。組織としての問題は後述される。

a) セクシャルハラスメント

  • 周囲の評価―「妄想癖」「認知症」「強い被害者意識」 ここもあまり深入りはしないが、「被害者意識」についてだけ簡単にコメントしておく。社員の一人によれば、「常に被害者意識があった。被害妄想がひどく、記憶を自身の都合の良いように書き換え、自身の嘘を信じ込みながら他人を批判することが常だった。加害者であることが明らかな場合でも、自身が被害者だと信じ込んでいるように見えた。この状況を確信犯だという人と、無意識だという人がいた。個人的には全て自己防衛に集約するのではないかと考える」ということであったらしい。結局「自分しか見ていない」ということであろう。実際、別の複数の証言から検証委員会としては、「ハラスメントの背景に、何らかの自らの抑制の効かない(病的?)要因があった可能性は極めて低い」と断じている。

 この被害者意識は、「ハラスメント加害者」として指摘を受けたときに極端な動揺とともに顕著に現れ、自分が「(ハラスメントに関する)価値観が変動する時代の流れについていけなかった被害者」であるかのような口ぶりで語ることがあり、以前から許されていなかったことをしてしまったに過ぎないのだということを正面から受け入れられない要因の一つとなっている。

  • 「立場」という権力の無自覚 広河氏は、「(自分は)限られた狭い世界のスペシャリストで、世間的には金も権力もなく」従って、セクハラの背景となるような立場でもないし権威もない、とメモなどでしばしば言っているらしい。しかし、狭い世界であっても自分の王国を作り、好き放題にやればそこには権力が生じている。セクハラではあからさまな地位をかさにきた権限を振るったり、強引に相手をねじ伏せたりすることは必ずしも必要でない。一旦、そのような「権力」関係に陥れば、下位者からの迎合は上位者からは「自発的な合意」「積極的な合意」に見えてしまうことがある。上位者は常に自分の立場の権力性に敏感でなければならない。一見するとVoluntary(自発的)だが、実は「余儀なくされた合意」であり、無言の強要によるUnwelcome(望まない)なものとなる。この鈍感さが広河氏自身の「性的合意」のハードルを著しく下げていた原因であろうと指摘されている。

ご都合主義的な権力利用 報告書は、この広河氏の「相手への優越性」を否定し、実際には存在しない「相手との対等な関係性」を自分の都合の良いように場面ごとに主張するご都合主義は、彼の特性でありパワーハラスメントや労務管理においても度々顔を出す、と指摘している。例えば、広河氏は次のような言葉を述べている、「DAYSは、労使関係や搾取などという資本主義の常識が合わない企業を目指して誕生した。それはむしろ運動体という言葉があっていた」。

 広河氏は、週刊文春の記事にある、何度も性交を強要されたと述べている女性の「広河氏から口止めされた」という趣旨の言葉には一貫して強い反発を示している。そして「口止めなどしていない。事実ではないことを書かれている。反論したい」と繰り返し、この女性の意に反する性的関係を強要したことを否定したがる。これに対し検証委員会は、仮に口止めをするなど明白な地位利用の外形行為がなかったとしても、(圧倒的に優越的な人間関係にあるなかで性的関係に誘っているのだから)その一時のみをもって、行為の悪質さに本質的な差異があるということはできない」とし、ヒアリングしたこの女性からの証言は信用性があると認定し、この女性が「口止めをされた」と感じたことは事実であるとしている(加えて、この女性の裸の写真も撮っている)。

 他の幾つかの証言なども考慮して、検証委員会は「広河氏は、客観的には明らかに優越的な地位を利用して性的関係を迫っていたにもかかわらず、その自覚が無かった、あるいはある程度自覚はあっても、それを認めることは自らを不利な立場に置くと考えて否定しているのではないかと思われる」、つまり「一方では、自分の権力を自覚的に振りかざし、他方では、これに頓着せず明らかに自分より劣位にある女性たちに対し対等な関係であるかのように振る舞うという、自分に都合のいい独善的な態度を取っているとしか言いようがない」と結論している。

  • 性暴力についての理解と女性蔑視 「広河氏は、戦場での女性の性被害などを取り上げているのに」という疑問が各方面から投げかけられているが、それに対して、氏はそもそも女性に人権などわかっていなかった、で済ませるのでなくもう少し普遍的に考えられるべきテーマがあると検証委員会は指摘する。その理由は、「女性への性被害を問題視するような言動を取りながらその一方で女性に対し性暴力をふるい、それが本人の中で同居してしまうという現象が、広河氏に限らず、人権侵害と闘うことや社会正義をテーマに掲げる組織の中で繰り返し起こされてきた事件でもあるから」。

 確かにDAYS JAPANではこれまで、スーダン・難民女性の苦難、日本軍「慰安婦」問題、コンゴのレイプ被害者シェルター、段ボールハウスの少女、暴力ポルノ、アダルトビデオの中の犯罪、アフリカ・レイプにおびえる女性たち、のような様々な性暴力をテーマとして扱ってきたが、検証委員会の指摘は、それらはわかりやすい「あからさまな暴力」であるという点である。他方広河氏が被害者らに行ったのは明白な性暴力だが、相手に対する優越的な地位に乗じるという手段によるものであって、「あからさまな性暴力」があったわけではない。このことは自身の性暴力の正当化のための弁「私はそうした暴力的なことはやっていない。あくまで合意によるものであり、決して性暴力などというものではない」に都合よく利用されている。すなわち、性暴力の理解の偏りが顕著である。

 また、広河氏の性的誘いに対し、毅然として拒否した女性たちに、様々な嫌がらせや脅しまでもかけたりしていることから、検証委員会は、そもそも女性を対等な存在として認めていなかったと推測している。さらには、職場という、仕事を媒介につながっている人間関係において、個人的に親密な関係が築かれることも無かったままいきなり性的関係に誘うということ自体が、女性というだけで性的対象・存在として扱うという女性蔑視意識の表れだとも指摘している。

 さらには、検証委員会は、広河氏の男女関係観・恋愛観には、いわゆる「フリーセックス」論が自己の性的行為を正当化する論拠の一つであった可能性も指摘している。広河氏によれば、被害女性らとは「つきあっていた」のであり「大人の男女の関係」ということであったらしいが、仮にそうであったとしても、妻がいながら親子以上に年齢の離れた若い女性を次から次へと「恋愛関係に誘った」というのはそれ自体非常識で異様なことであるのでは、という指摘に対しては「不倫関係を周囲に隠す」という意識は全くなかったとし、まさに「フリーセックス」を実践していたという自己主張にも聞こえる回答をしている。すなわち氏は、「フリーセックス」論を、若い女性を一方的に性的存在とみなす女性蔑視意識や自分の立場が持つ優位性を都合よく無視して性的関係を強要したことを糊塗する手段として、主観的に利用していたということであろう。

  • 「性的関係への合意」と認知の歪み 広河氏による「合意の拡大解釈」に向けた作業は様々なテクニックを駆使して行われたことが広く証言されている。例えば、やんわりとした「性的な関係についての話題」や「フリーセックスについての議論」を投げかけたり、相手の交際状況などの性的な経験を聞き出すことで、許容範囲を探ろうとしていた。また、仕事である写真家としての技術や経験も動員して性的な誘いかけをしていた。さらには、「仕事のための二人だけの合宿」の提案、「仕事のアシスタントとしての同伴」なども計画していた。

 問題は、こうしたテクニックを駆使したり、仕事に絡む誘いをしておいて、相手が喜んで応じた時点で、勝手に「性的関係に脈がある」と捉えていた点である。仕事や指導の誘いに応じたことを「性的関係への合意」と解釈することはあまりにも独りよがりであった。結局、広河氏が断片的に思い返し繰り返すところの「性的合意に繋がるサイン」は客観的にはそうは言えないものばかりであり、現に被害女性たちも強く否定している

 すなわち、若い女性を一方的に性的存在として扱う視線と女性からの性的な承認によって自信を得たいという氏の願望が「性的関係への合意を得たと認識するハードル」を極端に下げる方向で作用した結果生まれたのがこの認知の歪みである。

DAYS JAPAN広河隆一氏による「性暴力事件」について (4)-1

―デイズジャパン検証委員会による報告書(2019/12/26公開)についてのコメント(1/3)― 

 報告書(デイズジャパン社のホームページhttps://daysjapan.netからダウンロード可能)はかなり長文(A4 112頁)で詳細なものであり多岐に渡っているので、まず以下に目次を引用する。なお委員会の委員は金子雅臣(職場のハラスメント研究所 代表)、上柳敏郎(弁護士)、太田啓子(弁護士)の3氏である(同名記事 (1)参照)。

第1 調査経過

第2 デイズジャパン社及び広河隆一氏の概要等

第3 広河氏によるハラスメント行為

第4 ハラスメント発生の原因

第5 デイズジャパン社の労働環境

第6 会社解散決定に至る経緯

第7 労働組合結成とデイズジャパン社の対応

第8 会社解散の問題点—「偽装解散」だったのか

第9 一般財団法人日本フォトジャーナリズム協会の現状についての状況

第10 デイズジャパン社のコンプライアンス

第11 広河氏の現在の考え方と検証委員会の意見

第12 ハラスメントの責任履行の勧告

第13 デイズジャパン社の事件から得られる教訓 

  まず初めに、この報告書自体はかなりの期間(9ヶ月?)をかけたせいもあり、詳細かつ客観的な(デイズジャパン社との独立性が担保されている)ものとなっており、事件前後の経過もある程度追うことができて、十分評価できると思われる。この種の社会的に話題となった事件で、ここまでの詳細な報告は恐らく初めてではないだろうか。大学などでのアカデミックハラスメントでは、被害者のプライバシー保護を隠れ蓑にして、被害実態や加害者の詳細がうやむやにされ、結果的に加害者を擁護したり、被害者に二次被害を与えるることは日常茶飯事である。報告書の内容で印象に残った点の主観的要約と幾つかの項目へのコメントを試みてみたい。

 1)調査過程

 2018年末の、週刊誌による広河氏のハラスメント告発以降、当初はデイズジャパン社の依頼により直後に会社代理人に就任した弁護士と年末まで編集長であった人物による調査、面談が開始された。しかしながら「調査に熱心すぎた」その弁護士は2週間足らずの2019年1月13日、デイズジャパン社により解任されたようである。その後、検証結果を掲載するという最終号の期限(3月)が迫る中、会社代理人とは別の第三者に検証作業を依頼することになり、2月上旬に発足したのがこの検証委員会である。

 調査を進めるにあたって、デイズジャパン社と重要な関係をもつと思われる広河事務所、日本フォトジャーナリズム協会などにも委嘱・調査の対象を拡げることになった。調査期間は(結果的に)2月中旬から12月20日までとなったようである。調査は資料調査とヒアリングが行われたが、一言で言ってそれらの作業は多くの制約を受けた困難なものであったようで、その要因として挙げられているのは次の3つである。

a) デイズジャパン社からの情報提供の不足

 特に過去に在籍していた社員などについての情報が未整理で混乱していて、そのため関係者の名簿作りから始めざるを得なかったようであるが、社員以外にも多くの(短期)ボランティアやインターン、果てはなんら契約関係のない一時的な「アシスタント」という職種も存在し、曖昧でほとんど記録も無い状況であったらしい。すなわち、調査しながら調査対象を発掘し、その範囲を決めていくような作業であったという。当初判明したデイズジャパン社の関係者数はおよそ以下のようであったという:

  • デイズジャパン社元従業員;82名
  • 広河事務所元従業員;11名
  • ボランティア;13名
  • 役員;5名
  • 協力会社アウレオ社*の出向社員;6名

*監査役 守屋祐生子氏が代表取締役を務める健康食品販売会社

 そして最終的なヒアリングの実施人数は45名(デイズジャパン社元社員11名、広河事務所元社員4名、元インターン1名、アウレオ社出向社員2名、役員及び元役員5名、フリーランス編集スタッフ4名、デイズジャパン社顧問税理士1名、顧問社労士1名、その他ジャーナリストら広河氏と交際があった者12名)であった。

b) デイズジャパン社役員らの言動等への不信感の影響

 まずそのきっかけとなったのは、先に述べた、最初に会社代理人になった弁護士の1月中旬での解任である。熱心にハラスメント実態の解明に取り組もうとしていた弁護士を解任することは執行部への不信感増大につながった。これと関連して、当時労働組合を結成していて会社解散に伴う退職時期を交渉していた一部社員が、最終号の編集などから排除されたという事情も大きい。当初は年末退職の予定であった社員らも、広河氏のハラスメント告発による混乱の中で、最終号が検証委員会による(中間)報告と外部スタッフによる(セクシャル)ハラスメントについての企画記事で構成されることになったため、改めて編集に参加する意欲を見せていたらしいが、全員排除されたらしい。

 さらに同名記事 (1)でも触れたが、1月末の本検証委員会の発足にあたり、その(社員に対する)説明の中で、川島氏(取締役)が、社員からの「検証に応じてなされた証言を役員が検閲するか」という質問に対し、「会社に不利益になるものは載せないのが当然である」と回答するという事態が発生。これを聞いたものは検証委員会の公正性に疑念を抱くことになった。デイズジャパン社からの独立性を保証する形で委嘱され発足した検証委員会の正当性を委嘱者自らが否定するという体たらくである。この発言は、元社員有志により結成された「DAYS」元スタッフの会のHP

https://days-former-staffs.jimdofree.com/

で発表された声明(2019/3/22付)で初めて指摘された(検証委員会もこの時初めて知り、直ちに川島氏ら幹部に確認している。彼らは当初否定していたがその後認めるに至った)。このことについて検証委員会は「一部の関係者に対し事情を説明して理解を求めるための時間と労力は相当なものを要することになってしまったのは事実である」としている。なお、最終号掲載(2019年3月号)の検証委員会作成記事については、以下のようなコメントがある。「全貌把握には至っていないため、、、『中間報告』という形式をとることは控え、その時点での広河氏の説明及びこれについての批判的考察を入れて報告するに留めざるを得なかった」。

c) 広河氏の非協力

 結局デイズジャパン社からの情報提供によっては、広河氏から性的被害を受けた女性達の多くには接触できなかった。それに加え、広河氏本人は、過去に性的関係をもった女性達については「記憶がない」としてその女性達の名前を明らかにすることはせず、『被害者が誰であるか把握すること自体に相当の時間と労力を要した』という状況であったらしい。

 また、検証委員会が会社の解散決定に関連して広河氏が出資し(500万円)2018年11月に設立した」一般財団法人フォトジャーナリズム協会について調査しようとしたが、設立時の役員が2019年6月に変更された後の新役員について、広河氏は明確な回答を避け続け、やっと11月に登記で明らかになるという事情があった。さらにその後においても、「協会」は度重なるヒアリングの申し込みにも応えず文書による回答も得られないという状況が続き、検証作業の著しい遅れに繋がった。

 検証委員会の次の指摘はある意味本事案の大きなポイントであるかも知れない:広河氏、及び役員らによる非協力的態度は、デイズジャパン社は既に解散が決定しており清算段階に入った会社であるという、本件の特殊性に由来するところもある。すなわち一般的には、「会社等が組織内の不祥事について第三者による検証を依頼するのは、(客観的調査によって)組織の問題を糾して社会的信頼を回復し、その後の事業を健全かつ円滑に行うことが目的である。今回の場合は、デイズジャパン社には今後に事業継続が無いという事情から、広河氏及び役員間で信頼回復のモチベーションが働かなかった、と結論している。

 2)広河氏、デイズジャパン社の概要等

a) 広河氏の概要

  • 1943年中国天津市で出生。早稲田大学を卒業後、1967年5月にイスラエルで取材を開始し3年間滞在。以降、パレスチナ難民を巡る中東問題、核、チェルノブイリや福島の原発事故等の問題について各地で取材を行い、フォトジャーナリストとして活躍。
  • 1987年から1990年まで講談社の「DAYS JAPAN」編集部に参画し、1990年1月廃刊後はフリージャーナリストとして活動。「DAYS JAPAN」復刊のため2003年にデイズジャパン社を設立し、以降2014年9月まで「DAYS JAPAN」の編集長を努めた。以降は発行人(下記b)の経過参照)。
  • 広河氏には、講談社出版文化賞(1989)(チェルノブイリとスリーマイル島の原発事故報道)、読売写真大賞(1992)(レバノン戦争とパレスチナ人キャンプの虐殺事件報道)、土門拳賞(2002)(写真記録パレスチナ)など著名な賞の受賞歴がある。また、「パレスチナ瓦礫の中の子ども達」(徳間書店)、「新版 パレスチナ」(岩波書店)等の著書もある。
  • 取材・報道の傍ら、救援活動にも尽力。1991年「チェルノブイリ子ども基金」設立、ベラルーシやウクライナの病院等に日本から医療物資や医療費などの支援を行った。1994年「パレスチナの子どもの里親運動」を設立、難民キャンプに「子どもの家」を建設。福島原発事故後は、「DAYS放射能測定器支援基金」、「DAYS被災自動支援募金」を立ち上げ、2012年には福島原発事故で被爆した子どもたちの健康回復のための保養センターとして、NPO法人「球美の里」設立。なおチェルノブイリ救援について2001年にベラルーシから国家栄誉勲章を、2011年にはウクライナからウクライナ有功勲章を受けている。
  • 2018年12月26日の週刊誌によるセクシャルハラスメント報道をきっかけに同日付けでデイズジャパン社の取締役を解任された。

 b) デイズジャパン社の概要

  • 設立の経緯:1987年、広河氏は講談社の「DAYS JAPAN」編集部に、当時編集長であった土屋右二氏からの誘いを受けて参画、1998年の創刊号から廃刊となる1990年1月号まで同誌の発行に携わった。その後、広河氏と講談社「DAYS JAPAN」元編集長の土屋右二氏、デザイナーであった川島進氏とで「DAYS JAPAN」復刊をめざし、同人らが取締役となって2003年にデイズジャパン社を立ち上げた。月刊誌「DAYS JAPAN」は2004年3月の創刊号から2019年3月の最終号まで、通算183号を発行した。
  • デイズジャパン社は、雑誌・書籍の出版、写真展・報告会の開催、災害被災地等で行う救援活動の請負及び情報提供サービス等を目的としており、「DAYS JAPAN」誌の発行のほか、書籍の出版や写真展等のイベントに加え、写真コンテストであるDAYS国際フォトジャーナリズム大賞を主催していた。
  • 会社役員等:設立時は代表取締役広河氏、取締役土屋氏及び川島氏、監査役が守屋氏(前述)。以降広河氏が代表取締役を務めていたが、2018年12月26日の解任以降は川島進氏が代表取締役に就任している。(その後)2019年11月20日小川美奈子氏が取締役社長に就任し12月30日付けで退任している。2019年3月31日株主総会決議(発行済株式数200株、現在の株主は守屋、広河、川島、土屋、富岡、小川の各氏らしい)によりデイズジャパン社は解散。現在は川島氏が代表清算人となり清算手続中。

 c) デイズジャパン社の財政

  • 定期購読者の存在と広河氏の圧倒的存在感

 雑誌「DAYS JAPAN」は、創刊前から定期購読者を募集して確保し、それによって維持できる程度の売り上げを見込んで創刊されたようである(広河氏の説明による)。この異例なことが可能であった背景には、初期の購読者の中には、当時既に広河氏が書いていた「HIROPRESS」の購読者や以前からの広河氏の著作の愛読者、支援者が多かったためと考えられる。これらの雑誌創刊に至る経緯や初期の財政的基盤を従来からの支援者に依拠して作っていたこと等から、DAYS JAPAN誌における広河氏の圧倒的な存在感はよく分かる(これこそが長期で広範かつ悪質なハラスメントの背景である)。

  • 決算報告

 直近第15期(2017/10/1~2018/9/30)の決算報告概要は下記の通りである。売上高の相当割合が定期購読に占められていたので、定期購読者を増やすこと、既存の定期購読者の継続がデイズジャパン社の売り上げ確保には非常に重要であった。

定期購読売上高 約5,900万円(約61%)、取次店売上高 約1,400万円(約15%)、その他商品売上高 約1,400万円(約14%)、広告収入 約1,000万円(約10%) 合計 9,700万円。

  • 守屋監査役及びアウレオ社による支援

 アウレオ社は守屋氏が、1997年に創業した健康補助食品等の製造・販売をする会社で、関連会社として健康補助食品等をネット販売する株式会社シェアワールドをもつ(こちらの代表取締役も守屋氏)。広河氏との最初の接点は、DAYS JAPAN創刊より10年以上前のパレスチナ里親支援活動であったらしいが、2003年頃から広河氏がDAYS JAPAN 創刊のための支援を求める活動を進める中で守屋氏が多額の寄付をし、株主になることと監査役に就任することについての広河氏の打診に応えたという経緯があったようである。以下、アウレオ社及び守屋氏による経済的支援を列挙する:

  • 大口株主になる(筆頭株主)。
  • 発刊前に数百冊の定期購読を約束し14年半(350万円/年)継続。総額約5,000万円。
  • DAYS大賞のスポンサー、総額1,400万円(14×100万円)
  • DAYS JAPAN誌への広告費用 各号30万円。
  • 広河氏の活動自体への支援:

映画「人間の戦場」*製作費用(上映による収入で足りない分)、保養施設「球美の里」へバス1台。

* http://www.ningen-no-senjyo.com/

  ただしアウレオ社は、デイズジャパン社で人手が足りないときや広河氏が対応したくない人事上のトラブルが発生したときなどに、同社の社員をデイズジャパン社に出向させて働かせるということまで何度も行っており、その人件費は全てアウレオ社が負担していたらしい。後述のように、この事情が広河氏によるハラスメントをより複雑化・助長していた面もあることは見逃せない

 そういう問題はあるにしても、アウレオ社、守屋氏による支援はデイズジャパン社の存続を財政面で支えた「大スポンサー」であったことは間違い無い。しかもそれは、デイズジャパン社、広河氏を無条件で支える一方通行という形でなされたようである。

*この原稿執筆中の1月12日、ハラスメント被害者の一人によるデイズジャパン社を訴えた損害賠償請求が提訴されたというニュースが流れた**。これは恐らく本件に関連して最初に司法的判断を求めるものになると思われる。

** https://mainichi.jp/articles/20200112/k00/00m/040/053000c

最近のアカデミックハラスメント例 (3)

【名古屋工業大学】

 最近の報道によれば、名古屋工業大学において、セクハラ・アカハラを伴う事例の発生があったそうである(2019年12月)。以下に、大学からの報道発表を転載する。また根拠とされたハラスメント防止ガイドラインのpdfを引用するする。割と厳密なガイドラインがあるのに、複数のハラスメントが一体になった悪質な事例の気がするが詳細は明らかでない。                                       ==========

懲戒処分の公表について

国立大学法人名古屋工業大学は、社会的説明責任を明確にするとともに、職員の服務に関する自覚を促し、不祥事の再発防止に資することを目的として、下記のとおり懲戒処分を公表します。

1.被処分者 大学院工学研究科 教授

2.処分年月日 2019年12月19日

3.処分内容 停職 3月                                  

4.事案の概要
同教授は、学生に対して継続的なセクハラを行った。また、教員及び学生に対して不適切な指導及び過度な言動により精神的苦痛を与えた。
これらの行為は本学が定めるハラスメント防止ガイドラインに反しており、同教授を懲戒処分として停職(3月)とした。                                       ==========

職員の懲戒処分について

 本学が定めるハラスメント防止ガイドラインに反してハラスメントを行った本学教授について、本日、当該教授を停職(3月)としました。当該教授の行為は、大学の教職員としてあるまじきもので極めて遺憾であり、被害に遭われた方や関係者の皆様に深くお詫びいたします。
 大学として、この度の事態を厳粛に受け止め、今後このようなことが起こらないよう、教職員に対してより一層の意識啓発を図り、また、体制を更に整えることでハラスメント防止に努めていく所存です。                              ==========

2019年12月19日 国立大学法人名古屋工業大学長 鵜飼 裕之

お問い合わせ先

本件に関すること 名古屋工業大学 人事課
①人事課長 箕浦(Tel:052-735-5010)
②人事課副課長 佐久間(Tel:052-735-5023)
上記電話番号が繋がらない場合は、(Tel:052-735-5375)までお願いします。
担当者から折り返し連絡させていただきます。
E-mail : roumu[at]adm.nitech.ac.jp

広報に関すること 名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp *それぞれ[at]を@に置換してください。 

名古屋工業大学ハラスメント防止ガイドライン  

【帯広畜産大学】

 帯広畜産大学では、助教によるアカデミックハラスメントについて、軽めの処分がなされたようであるが(2019年10月)、その後続いてさらなる処分が課され、少しもめている感じが見受けられる。処分に対する異議申立等の制度は勿論あるように思うが、どうであろうか。                                       ==========

教員の懲戒処分について(*2)

2019年10月31日

本学教員に対して,下記のとおり懲戒処分を決定しましたので公表いたします。

被 処 分 者:助教(男性・40代)
処分事案の概要:停職2週間の懲戒処分を受けたにもかかわらず,停職期間初日から計6日間出勤した命令違反
処 分 内 容:停職(6か月)
処  分  日:令和元年10月29日

【学長コメント】
本学教員がこのような行為を行ったことは誠に遺憾であり,心より深くお詫び申し上げます。また,今回の事態を重く受け止め,今後このようなことが起こらないよう,より一層規律の遵守を徹底し,社会の信頼回復に努めて参ります。

令和元年10月31日
国立大学法人帯広畜産大学
学長  奥田 潔

職員の懲戒処分について(*1)

2019年9月4日

本法人職員に対して、下記のとおり懲戒処分を決定しましたので公表いたします。なお、被害者のプライバシーを保護する観点から、本件の詳細につきましては、公表を差し控えさせていただきます。

被処分者:助教(男性・40代)
処分事案:ハラスメントに関する措置の遵守事項違反及び誠実義務違反
処分内容:停職(2週間)
処 分 日:令和元年9月4日

【学長コメント】
本学教員がこのような事態に至ったことは誠に遺憾です。
同教員の行為は、教員としてあるまじきものであり、被害に遭われた方をはじめ関係各位に深くおわび申し上げます。
今回、このような事態が発生したことを重く受け止め、教職員及び学生等への意識啓発を推進し、今後、このようなことが起こらないよう,再発防止にあたっていくとともに、信頼の回復に努めてまいります。

令和元年9月4日
国立大学法人帯広畜産大学
学長  奥田 潔

==========

帯広畜産大学ハラスメント規定 

帯広畜産大学ハラスメント対策ガイドライン

【静岡県立大学】

 2019年3月に、下記のような講師に対する処分が発表されている。これによれば、事案の発生は少し前(2016~2017年)で、長期に渡り複数の学生に対し様々なハラスメントが行われたようである。一般に大学では、学生の退学、卒業等により当事者が現場にいなくなると当局がうやむやにしたり握り潰してしまうことが良くあるが、時間をかけて調査し処分まで進めたのは評価できるのではないだろうか。但し、被処分者の性別明示は必要であろうか?

==========

本学教員による本学学生へのアカデミック・ハラスメント行為に係る懲戒処分について

本学学生に対してアカデミック・ハラスメントを行った本学教員を、懲戒処分としましたので、下記のとおり公表します。

処分概要

被処分者

静岡県立大学講師(女性)

処分の内容

停職1ヶ月

処分の理由

被処分者は、2016年4月から2017年6月までの間、被処分者のゼミに所属する複数の学生に対して、長期にわたり、繰り返し、学生の人格を否定する(傷つける)発言や、ゼミの主要な活動から排除されたと学生が受け止めてしまう発言、ゼミ活動の水準や位置付け・指導の方針などの基本的姿勢は徹底して不変とし、それに従うか他のゼミに移るかの「二者択一」を迫る発言、学生の心身の状況及びプライバシーに関する配慮に欠けた追い詰める発言を行うといった、アカデミック・ハラスメント(アカハラ)を行い、学生の修学上の権利を侵害した。

処分日

2019年3月27日(水曜日)

学長コメント

本学教員によるアカデミック・ハラスメント行為により被害にあわれた方と、その御家族、及び関係の方々に、心よりお詫び申し上げます。
高い倫理性が求められる教員がハラスメントを行うことは決して許されるものではなく、全教職員を対象とするハラスメント防止研修を行うなど、その防止に取り組んできた中での今回の事件は、誠に遺憾であります。
この事態を重く受け止め、ハラスメント防止対策を強化し、学生が安心して勉学に専念できる環境を整えるとともに、大学の信頼を回復するよう努めてまいります。
2019年3月27日
静岡県立大学 学長 鬼頭 宏

 【滋賀県立大学】

 この例も若干旧聞に属するが(2017年)、当時の副学長が処分されていることは特筆すべき点で、多くの大学でハラスメント対策や告発制度は名ばかりで機能していない(特に大学の執行部=幹部のメンバーは事務局長が防衛に回ることがしばしば)が、この大学では一定機能しており珍しく自浄作用があることを示唆している。また報道発表も匿名ではあるものの具体的なハラスメントの内容が細かく報告されており、処分の内容に相応する酷さであることが推測できる。以下、公開されている関連文書を紹介する。

==========

本学教員の懲戒処分について(お詫び)

 本学教員による女子学生に対するセクシュアル・ハラスメントについて、このたび該当教員に対し、停職等の処分を行いました。

 本学では、ハラスメントの防止に関する規程を定め、ハラスメント相談員を設置するとともに、研修会を実施するなど、良好な教育・研究環境の整備に努めてまいりましたが、このような事態となり、学生、保護者や県民の皆さまをはじめ関係者の方の信頼を大きく損なう結果となりましたことを深くお詫び申し上げます。

 大学として、今回の事態を真摯に受け止め、今後、このような事態が発生することのないよう再発防止に向けた取り組みを推進してまいります。

 1 被処分者   人間文化学部教授(60歳代 男性)

          (事案発生当時)理事・副学長 兼 人間文化学部教授

 2 処分の内容  停職2月(平成29年10月11日付け)

 3 処分の理由

    被処分者は、遅くとも平成27年8月には、申立者と現地調査の日程や集合場所等についてLINEを通じて頻繁に連絡を取り合っていたが、特に平成27年12月から平成28年5月までの間には、外出や食事といった調査研究に関係の無い個人的な誘いが13回、教員と学生との関係において不要とみられる日程確認のための連絡が5回認められた。

    また、当該期間中に調査研究とは関係の無い場所を私有車で申立者と2人で少なくとも3回訪問している。中でも平成28年1月2日には、申立者を調査だけでなく温泉に誘うとともに、翌1月3日には、実際に福井県内の道の駅に併設されている温浴施設を訪れていた。

    このほか、平成28年3月には、被処分者の依頼した作業に従事するため、申立者が学内に宿泊することを特に問題視することもなく認めるとともに、翌朝に申立者を誘い朝食を共にした。

    被処分者の一連の行為は、本学「ハラスメントの防止等のために公立大学法人滋賀県立大学役員および職員が認識すべき事項についての指針」においてセクシュアル・ハラスメントになり得る言動として例示する、「食事やデートにしつこく誘うこと」や「不必要な個人指導を行うこと」にあたるものである。

    これらの被処分者の行為は本学就業規則第45条第1項第1号などに該当することから、懲戒処分を行ったものです。

 4 再発防止の取り組み

    大学として、今回の事態を真摯に受け止め、今後、このような事態が発生することのないよう再発防止に向け以下の取り組みを推進する。

 (1)本日、理事長から事案の発生した人間文化学部の学部長および学科長に再発防止と学生に対するきめ細かな相談対応や就学上の配慮などについて指示した。

 (2)本日、緊急に各学部長および事務局管理職を招集し、理事長から再発防止の徹底を指示した。

 (3)役員・教職員と学生それぞれに対し理事長緊急メッセージを速やかに発出する。

 (4)教職員全員に学生とのLINEによる1対1のやり取りや2人きりでの出張など、学生との接し方についてあらためて点検する。

 (5)全学を対象にハラスメント研修を11月13日に実施するとともに、事案の発生した人間文化学部等でも別途研修を行い、教職員一人一人のハラスメントに対する認識を深めるとともに、ハラスメントの未然防止を徹底する。

    また、学生に対しても、あらためてハラスメントに関する相談窓口(ハラスメント相談員)を周知する。

 (6)被処分者については、二度とこのようなことのないよう外部機関の主催するハラスメント研修を受講させ理事長あて報告を求める。

平成29年10月11日                                        公立大学法人滋賀県立大学                                        理事長 廣川 能嗣

最近のアカデミックハラスメント例 (2)

【沖縄県立芸術大学】

 2019年6月18日付けの記事

https://digital.asahi.com/articles/ASM6L5TZ4M6LTPOB003.html?iref=pc_ss_date

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/434512

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/434738

によれば、沖縄県は県立芸術大学の教授を減給1/10 3ヶ月の懲戒処分にしたと発表したという。理由はアカデミックハラスメント、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント(の全て‼?)を行ったということらしい(「被害者が特定される」との理由で処分者の詳細は公表されず)。

 記事によれば、大学によると、教授は授業を受ける学生に対し立場を利用したり教育的配慮を欠いた言葉を言ったり、授業を補佐する非常勤講師に不快感を与える態度や言葉を投げかけたり、不特定多数の教員らに性的な言葉を吐いたりしたという。201711月、学生が大学に相談して発覚。調査の過程でパワハラやセクハラの被害申告があったという。比嘉泰治学長は「誠に申し訳なく、再発防止に努めます」とのコメントを出したという。

 また最近の記事(2019年9月11日付け)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/470034

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/470040

によれば、学生にアカでミックハラスメントをしたとして別の教授が減給処分1/10 1ヶ月を受けている。この件も被害者特定の恐れを理由に、教授の氏名や性別などを明らかにしていない。

 大学によると、教授は特定の学生に能力を否定するような発言をしたという。本人だけでなく、周囲に対しても学生を否定するような不適切な発言があったらしい。2018年2月に学生が被害を申し立てた。大学は調査を進め18年末までに被害を認定。処分発表までに9ヶ月を要した理由を「手続きの都合」と説明している。被害にあった学生はすでに卒業、教授は謝罪したという。

 ところで、大学のホームページでハラスメントに関する取り組みを見てみると相談窓口の案内も丁寧であり、申し込みはメールで可能で、随時相談が周りから知られない場所で行うとされている。平成29、30年度からはハラスメントに関するアンケートの集計結果(参考のため下記に引用)も掲載されており、評価できる(但し回収率は20 %以下ではあるが)。これらの努力は比較的頻繁に様々なハラスメントの告発と処分が行われるという形で実を結んでいると言えるかもしれない。

ハラスメント学内アンケート H29年度

ハラスメント学内アンケート H30年度

 OISTと沖芸大の例を考えてみると、人権侵害(ハラスメント)についての、ネット技術を駆使した全学的アンケートのようなものを学生や一般教職員の側から組織し、力を合わせてハラスメントの実態や隠蔽工作を暴いていくことも可能かもしれない。但し、結果を当局に通知する際、報告・告発により不利益を被らないことを当局に約束させることが不可欠であるが、、、。

【北里大学】

 学校法人北里研究所は、教育職員の男性(53歳)に3ヶ月出勤停止の懲戒処分を科したと発表(2019年2月15日付)*1。発表の中で、処分理由として、「被処分者は、所属する講師ならびに学生に対し、勤務形態、研究室運営、研究活動等の様々な局面で非違行為を行った」として、「その言動は、研究・指導・教育という業務上適正な範囲でなされるものではなく、発言自体その表現において許容限度を超え、著しく相当性を書くものであり、精神的・身体的苦痛を与え、研究室や教室内の環境を悪化させ、働く権利、就学上の権利を侵害した」と説明している。

 内容が具体的でなく解りにくいが、担当者によると、他の大学から来た教員が以前からその研究室にいた異なる研究を行ってきた教員や学生に自身の研究を強要するような行為が、「許容限度を超える」発現や行動によってなされたもののようである。被害を知った大学側がヒヤリング調査を実施して、その男性教員に対し、「再三注意してきたが改善が見られなかった」ため今回の処分となったらしい。

 多分この事件を受けて大学当局は4月1日付で『ハラスメントは許しません!!』と題する通達?を出している。また、平成20年(2008年)4月1日には『人権侵害防止宣言』が制定され、その後も相談体制を整備しつつ『人権侵害(ハラスメント)防止のためのガイドライン』、『人権侵害防止委員会規定』、『人権侵害防止相談員細則』などを制定して取り組みを進めてきたようであるが、今回の事案は防ぎきれなかったようである。文書を制定し体制を整備する(今ではどこでもやっている!?)だけでは、それらのまともな運用が保証されないことには十分注意すべきである。組織構成員の絶えざる学習(研修)とハラスメント撲滅への自覚的な点検と相互の注意喚起等が日常的に要請される。

*1 https://j-cast.com/2019/02/18350648.html?p=all

最近のアカデミックハラスメント例 (1)

【学校法人】沖縄科学技術大学院大学【学園】

沖縄タイムスの記事

2019年3月20日付の沖縄タイムスの記事

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/402920

によれば、沖縄科学技術大学院大学(Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University, OIST)で昨年、匿名の学内有志によるインターネット上の意識調査があったという。現役やもとの教職員78人が回答した驚くべき結果は、回答者の58 %が「自身が被害に遭った」、85 %が「被害に遭った人を知っている」と答えていたという。セクハラについては「自身」が11 %、「知っている」が41 %であったという。一方で、自身や他者のハラスメント被害を大学当局に通報したのは19 %であった。理由(複数回答)は「何かが変わるとは思われない」が69 %、「報復を恐れた」と「苦情申し立て手続きが機能していない」が各51 %であったという。また、自由記述には、「通報しても権力者が有利に手続きを進めてしまう」、「報復として共著論文の著者から外されそうになり、形だけの謝罪をした」などの意見があった他、「自分の身分を心配せずに意見を述べる仕組みがあるか」という質問には、90 %が「いいえ」と答え「独裁体制で、退職するほかに選択肢がなかった」などの記述もあったという。

 調査は昨年11月で、学内のスティーブン・エアド博士らが専用サイトのアドレスを匿名メールで教職員や学生に知らせる形で始まり、エアド氏はその後名乗り出て大学当局に結果を通知したという。調査を一つの契機として教職員労組を結成し委員長に就任したエアド氏は、「OISTはパワハラと権力乱用の文化を育んでおり、調査結果は幹部への告発。実態を知るものとしては驚きではない」とかたったという。一方OIST当局は取材に対し、「回答はごく少数」、「実際に定義によりハラスメントと認められるものが不明」と指摘しつつ、教職員・学生は、「機密性に配慮した学外の専用ホットラインや副学長、研究科長に報告したり相談することができる」としている。報道を受け?4月2日付で大学ホームページに掲載された「OISTにおけるハラスメント等に関する一部報道について 」と題する文書を下記に掲載しておく。

 ただ、その後2019年5月11日の沖縄タイムスの記事

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/418520

によれば、上記のOIST教職員労組のスティーブン・エアド委員長が、当局から6月中旬限りでの雇い止めを通告されたということである。昨年結成された労組側は結成の報復で違法だと批判しているが、OIST当局は否定しているという。ハラスメントの確認・再調査(アンケート?)等の取り組みなしにいきなり解雇とは!?

 

新聞記事へのOISTからのコメント

2019-04-02

OISTにおけるハラスメント等に関する一部報道について

 3月30日付沖縄タイムス紙に、本学における職場環境について匿名の調査アンケートが実施され、本学に広く不満とハラスメントが存在とする記事が掲載されましたが、当該アンケートは本学によって公式に実施されたものではないこと、また、本学はいかなる形のハラスメントも許容しないということを明確にしたいと考えます。

 当該報道で指摘されているとおり、この非公式アンケートの回答数はごく限られており、本学の在籍職員及び元職員1700名以上のうち、僅か78名の回答によるものです。

 本学は、いくつかの相談窓口を設け、各所から寄せられる全ての苦情やハラスメントを検討し、対応しています。本学は、「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」に基づき、全ての者が尊厳と敬意をもった扱いを受けることができる、安全で互いに尊重しあう環境を築き、これを維持することを約束しています。「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」は本学の基本的価値観(コア・バリュー)であり、本学は、いかなる形であっても、尊重の念を欠くコミュニケーション、差別、ハラスメント、いじめ行為を容認しません。

 セクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメント、その他のハラスメントなどの「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」に反する行為を受けたと考える場合やそのような行為を目撃した場合、OIST教職員・学生は、機密性に配慮した本学外の専用ホットライン、副学長(男女共同参画・人事担当)または研究科長に報告したり相談することができます。

 本学のすべての教職員・学生はセクシャル・ハラスメント防止研修について受講が義務付けられています。また、「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」に関する研修などを受講し、苦情や係争の解決手続きなどに関する相談窓口や相談方法等についての理解を深めることが推奨されています。

 すべての教職員・学生がいかなる種類のハラスメントの訴えについても機密性とプライバシーが保たれた形で解決を求められるようにするのが本学の基本方針です。本学が報告・相談を受けた事案に関しては、いかなる情報も公開しません。また、今後、職場環境についての独立したアンケート調査を実施する予定です。

【終り】

 記事の中ではさらに、次のような幾つかの重要な指摘がなされている。

1) 意識調査では、「幹部が腐敗している」など強い批判の言葉が並部上に、ハラスメント被害が多いだけでなく、被害の訴えを諦める人がもっと多いのは深刻で、上下の信頼関係が成立していない恐れがある。

2) 確かに、回答者数は78人と1,700人の現役在籍者の1割を下回っている。大学当局も少なさを指摘しているが、理由の一つは、当局自身が調査を「フィッシング詐欺」だとして回答しないよう全学に呼びかけたことにある。即ち匿名の調査は妨害されていた形跡がある。

3) 教職員の多くは短期契約を更新している身分であるため幹部に対する立場は弱く、ハラスメントが起きやすい土壌は存在する。

4) 広範囲な調査ができずOISTにおけるハラスメントの全容はわからないままであるが、調査結果に現れた当事者の声は切実であり、数の多少で片付けてはならない。この結果に対する当局の誠実な対応こそ、今後の信頼関係構築と被害掘り起こしや対策につながると思われる。

 これを読むと、研修は行っているし相談できる制度は整っているという通り一遍の言い訳に終始している。決定的に欠けているのは、創立以来既に8年も経過しているのにハラスメントを監視する制度の運用実績などが全く報告されていないことである。この8年間、関連事案は1件も無かったのであろうか?それは制度自体が機能していなかったことの証ではないだろうか?

「大学院大学」とは?

ところで、「大学院大学」なるものを皆様ご存知だろうか?文科省のホームページ

https://mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/attach/1335437.htm

によれば、「大学院大学」は国内に国立4大学・13研究科、公立1大学・1研究科、私立10大学・11研究科となんと15大学もある。その内ほとんど国費で運営されている(予算の大半が文科省からの運営費交付金)国立大学は、総合研究大学院大学(設立1988年)、北陸先端(同1990年)、奈良先端(1991年)、政策研究(1997年)の4校であり、1990年代の国立大学の大学院重点化政策に先んじて設立されている。いわゆるパイロット大学としての試みであるが、学部を持たないため大学院重点化の影響は避けられず、奈良先端を除いては定員割れが続いているところが多い。

  それでは、沖縄科学技術大学院大学とは何なのか?やはり日本政府が運営資金を提供するが、特別な私立大学と位置付けられ、公式には学校法人沖縄科学技術大学院大学学園が設置者となっている。特にOISTは「世界最高水準」、「最先端」などを標榜し、新年度も200億円弱の国費が投入されている。これは複数の文系理系学部をもつ中規模の国立大学のほぼ2倍の予算である。他の国立大学院大学にも同様な点が見受けられ、いずれも数100から2,000人以下の小さなコミュニティで、比較的優遇された予算の下、パイロット大学としてのパフォーマンスが要求されている。これらの事情は成果第一主義で失敗が許されない風土を生み、様々なハラスメントの温床になっていて、自殺者も多いという噂も聞く。実際、インターネットで「大学院大学、ハラスメント」と検索してみても殆ど報道記事や処分例が出てこない。これらはまさにハラスメントに類する事案が設立以来ずっと取り上げられることなく握りつぶされ、相談・検証・処分の体制が殆ど機能していないことを示唆している。これから進学などを考える学生や父兄の皆様には、進学予定先のこのような点も(人伝などで)調べることを強くお勧めする。OISTにも今後他の大学院大学と同じ轍を踏むことなく、研究成果の創出や沖縄振興への貢献に注力できるハラスメントの無い環境を作りあげることが求められている。

DAYS JAPAN広河隆一氏による「性暴力事件」について (3)

広河隆一氏「性暴力事件」に関連する本ブログの記事について

 これまで(1)(2)で見て来たように、この事件は、限られた業界・分野で強大な権威をもつ人物が自分の特定分野における業務上の実績・権威に基づく周囲の畏怖、尊敬の念を、無意識に又は意識的(故意)個人的・性愛的関係における魅力・好意に刷りかえ(圧倒的勘違い)、自分の性的暴力を継続したり正当化しようとしたきた典型例でもある。ところが、アカデミックハラスメントを主に扱う本ブログでも既に多くの類似例(以下参照)が報告されている。

アメリカサイエンス(学術)界のセクハラ事件 (1)

アメリカサイエンス(学術)界のセクハラ事件 (2)

セクハラ常習教員がのさばりはびこった結果組織モラルが崩壊 (1)

セクハラ常習教員がのさばりはびこった結果組織モラルが崩壊 (2)

セクハラ常習教員がのさばりはびこった結果組織モラルが崩壊 (3)

 アカデミックハラスメントでは、政界、マスコミ・ジャーナリズム業界等で最近話題になってきた「性暴力」事件が、大学・研究機関や学会等では、話題になり難い故に、もっと頻繁かつ悪質な形で起きていること、を是非判って頂きたいと思います。考えてみれば、政界、ジャーナリズム業界、(医)学会のいずれもこれまで男性が圧倒的な力を持ってきた業界です。出生率が上がらないのは残念ながら女性の人権を無視し続けてきた男性のせいであるのは間違いないようです。

 アカデミックハラスメンについては、あなたの親族・友人やあなたの大切なご子弟が、このような被害を日常的に受けている可能性は決して稀ではない、ということを再認識して頂きたいです。注意深い眼で是非周囲を眺めて頂き、おかしいなと思ったら是非声を上げて下さい。もちろん所属組織外のわれわれに連絡頂いても結構です(ご相談・お問い合わせ メニュー参照)。

DAYS JAPAN広河隆一氏による「性暴力事件」について (2)

「その後」の経過

 3月20日のDAYS JAPAN最終号の発行後の動きは余り多くないようである。目に付いたものは以下の記事であるが、見落としがある可能性があり、その場合はお赦し頂ければ幸いである。これに関しては、参考になるまとめサイトの記事https://togetter.com/li/1330896もあるので、是非ご参照頂きたい。

 

2019/3/22 写真誌(DAYS JAPAN)元スタッフ・元社員らが「DAYS元スタッフの会」https://days-former-staffs.jimdofree.comを結成。これまで同誌などに関わったスタッフらに連帯を呼びかける声明も発表。「証言を集め、問題を多方面から検証したい」としている。 

https://www.kanaloco.jp/article/entry-155962.html

https://www.kanaloco.jp/article/entry-160098.html

https://www.asahi.com/articles/ASM3N6VFDM3NUCVL01V.html

  「元スタッフの会」のホームページ上にある「会」発足声明、ケース集のページは是非訪れて頂きたい。前者には、<会の目的>、<会発足の経緯>、<呼びかけ>が含まれており、特に<会発足の経緯>には、(1)で触れたDAYS JAPAN 社の人事の「混乱」に絡んで、被害者を含む当時の事情を知るスタッフがほぼ全員排除されたことが述べられている。また、外部の第三者委員会の検証に協力しないもう一つの理由として「当時の社員数名が『検証に応じてなされた証言を役員が検閲するか』を確認したところ、『会社に不利益になるものを載せないのは当然だ』との回答があった。自分たちの証言が意図的に改変、もしくは隠蔽されることを懸念している」とし、独自の取り組みを進める拠り所としている。 

2019/3/24 シンポジウム「広河隆一氏の性暴力から考える」(主催:早稲田大学ジャーナリズム研究所)が開催され、ジャーナリストら約160人らが参加。 

https://www.kanaloco.jp/article/entry-156475.html

https://mainichi.jp/articles/20190326/k00/00m/040/361000c?pid=14516

https://buzfeed.cpm/jp/akikokobayashi/days5?bffbjapan&utm_term=4ldqpgp#4ldqpgp

  上記記事によれば、登壇者は週刊文春で問題を最初に報道したライターの田村栄治氏、バズフィードジャパンの小林明子チーフニュースエディター、「メディアにおけるセクハラを考える会」代表の谷口真由美・大阪国際大准教授、後藤弘子・千葉大大学院専門法務研究科長。司会はアジアプレス・インターナショナルの野中章弘代表で、各識者が最終号の検証報告をどう見るか、意見を述べたようである。他に、参加していた津田大介氏(ジャーナリスト)やフェミニズム思想に詳しい岡野八代・同志社大教授らも発言したという。ここでは特に、谷口氏と後藤氏の意見を紹介する:

 谷口氏;「(検証号)第2部(後述)への協力依頼があったが断った。事前に広川氏の面談調査の結果もわからないということだったので、協力しようがないと判断した」、その上で「この段階では検証になっていない。資料的価値があるかもしれないが、報道の自由は何のためにあるのか。性暴力被害に真摯に向き合っているのか」と問いかけたという。

 後藤氏;「広河氏がどう責任を取るのか、DAYSとしてどう責任を取るのかが全く見えない報告書」と感想を述べ、「刑法の強制性交罪の成立には暴行や脅迫が必要という『暴行脅迫要件』を取り上げ、「2017年の刑法改正時にこの要件の撤廃を求める声が強く上がっていたが、実現しなかった。『暴行がなければ性暴力に当たらない』という主張は加害者の典型的な弁明だ。ここで広河氏の『合意だと思っていた』という主張を掲載することで、今後同種の事案で加害者が『合意』を主張する際にこれが利用されるのではないかと危惧している」と話したという。 

3月20日最終号の内容について

第1部:検証委員会報告

 (1)で述べた3氏(金子雅臣、上柳寿郎、太田啓子)がメンバー。「会社の干渉なく独立して検証を行うことを条件として3人は委員として就任した」とされ、「休刊後も関係者のヒアリングを続け最終報告をめざす」ようである(ネットで発表?)。上記の幾つかの記事やシンポジウムで指摘されているように、広河氏の面談調査(聞き取り)結果がメインで被害実態の調査や検証結果は無い。この調査は、「担当者」が聞き取りを行い、広川氏の主張に逐一考察を加える形式でまとめられていて、「広川氏個人の、極めて不十分な個別の問題点が次々と指摘され、注意に鈍感な子どもに行うような「説教」が行われている印象である。その一方で、圧倒的な権力をかさにきて行ってきた多くのセクシャルハラスメント(性暴力)、それと表裏一体であったパワーハラスメント、さらにはそれらを許容してきた取り巻きの人々などの問題、などの具体像が殆どなく、全体像が極めて見えにくくなっている。この問題の根本的解決には、最終報告書を待つしか無いのであろうか?果たしてそれは十分なものになるのか、今後も注視して行きたいと思う。以下にはQ1~Q8まである問答の内、Q1とQ6について、広河氏の解答と調査担当者の見解を要約して載せる:

Q1 デイズジャパンで扱ってきた性暴力と自分の性暴力の違いは?

(広河)DAYS JAPANはこの15年間40~50もの多くの「女性に対する暴力」に企画を取り扱ってきた。発刊の志の幾つかの柱の一つでもあった。それゆえ「私は自分が性暴力で女性を傷つけていることを指摘されても、当初は全く理解できませんでした」。そこで、もう一度考えたとき「私がDAYSで扱った『女性への暴力』は『あからさまな暴力』、『身体的な暴力』と捉えていたが、、、、『あからさまでない暴力』、『非身体的な暴力』は無視していたことに気づいた」。非身体的暴力によるその及ぼす傷の深さ等について、私の被害者が10年後でもPTSDを発症していることを知り、はじめて加害の可能性を認識することが出来た。これまでは「女性への暴力の一面しか取り上げることが出来なかった。

(調査担当者)外見的には、氏の言う「合意」に基づく「性的な関係」は「あからさまな暴力」とは一見全く無縁に見えるが、実は地続きの同根の問題である。問題の焦点は「暴力的かどうか」の外見ではなく、まさに意に反した強制されたものかどうかである。この意味で本来重なるべき二つのテーマが広河氏の中で(都合良く)分離されていることが大きな疑問となっている理由である。この問題に氏は真正面から答えねばならない。

Q6 「不本意な合意」「合意の強要」

(広河氏)私は、相手の同意があればそれはセクハラではないと考えてきた。(しかしながら)相手がいくら合意しても、その合意の中身は本意ではなく、仕方なく、つまり合意せざるを得ない立場や力関係で合意しているのだと考えるべき、という考え方は私に取っては新しいものであった,,,この中身や深さは、正直言って中々理解することは困難であった。男女間では合意があればいいのだと考えていて、田村氏が女性達を取材した結果では、合意は認められると述べていたから、まさか私の行為が「性犯罪」として週刊文春に掲載されるとは思ってみなかった。

私に対して、「強姦」とか「レイプ」という言葉で批判がされている。それに対して「合意があった」のだからそれらには当たらない、またあからさまな暴力などは用いていないのだから、それらと私の例とは一緒にしないで欲しい、などと(自己防衛の)言葉を繰り返してきた。しかし私自身も「強姦」とは何かというとき暴力や脅迫を思い浮かべるいわゆる「強姦神話」に影響を受けてきたことがわかってきた。

被害を行けたという方には謝罪しなければならない。「性暴力」や「セクハラ」、「パワハラ」に対する認識を深めながら、事実を確定する作業も行い、被害者にはきちんと謝罪を出来るようにしたい。

(調査担当者)広河氏は当初「暴力は無く」、「合意があった」として女性(達)との性的関係がレイプに当たらないのは当然だとしていたが、その後「非身体的暴力」、「不本意な合意」という言葉を知り、相手との関係性における自らの地位が、相手に「不本意な合意」を強いていた可能性について言及するに至っている。氏が「合意」と感じていたものは、不本意に「合意」せざるを得なかったという状況であり、はじめから合意しないという選択肢がほぼ存在しない状況における「合意の打診」は実質的には「合意の強要」に等しい。

 ただそもそも、なぜ当時、氏が「当該女性達との間で対等に自由な合意を形成できる余地があった」と考えたのかはやはり疑問である。氏にはどこかで、相手が自分に向ける敬意や信頼を利用し、それに乗じて若い女性と性的関係をもつことが出来るという意識はあったのではないか。問題は、「僕『の仕事』に魅力を感じたり憧れたりしていた女性達」が氏に向ける敬意の目線を、氏が勝手に恋愛感情や性愛的な行為に読み替え、それに基づいて行動していたことである。これらの行動を自己正当化する根拠として、形式的「暴力が無く」、見かけ上の「合意があった」と強弁しているだけの気がするがどうであろうか?

第2部:「性暴力ハラスメント」にみる構造とは?についての意見

 この部分の責任編集者は林美子氏で、肩書きはジャーナリスト、「メディアで働く女性ネットワーク(WiMN)」代表世話人、元朝日新聞者記者、などとある。多分、ネットや業界では有名人なのではないかと思われるが、素人の1読者にとっては(説明が無いので)なぜ林氏がえらばれたのか、どうして適任なのかもピンと来ないのが正直なところである。そうなると提示された内容で判断するしかないが、「広河氏の性暴力をどう考えるか」という編集責任者を引き受けた思い(経緯)について書いた文章に簡単にコメントしてみる。

 朝日の記者時代からの広河氏との付き合い(その際は氏がそういう人物であることに「全く気付かなかった」としている)に触れた後、今回の最終号の編集依頼があったときのDAYS JAPANからの説明を紹介している。すなわち「最終号を、広河氏の事件を含め、性暴力やセクシャルハラスメントが蔓延する日本社会の構造について読者が考えるきっかけとしたい、それがジャーナリズム雑誌としてのDAYS JAPANの最後の務めだ」というものであったらしい。この時点では、林氏自身は、やめていった編集部員だけでなく肝心の被害者からも殆ど話を聞けないまま最終号を出すことになるとは予測していなかったかも知れない。しかしながらこの説明により編集責任を引き受けたことが、第1部の不完全さにより、結局広河氏の件を日本社会の構造一般の問題に薄めてしまおうというDAYS JAPAN側の(無意識の?)意図に結果として協力することになっている気がしてならない。検証号で必要なのは、いまさら上から目線で読者を「指導」するのでなく、一つ一つの具体的事実の詳細な発掘・調査と広河氏本人への確認であろう。それをやらないまま、加害者本人に弁明の機会のみを与えることはあってはならない。まさに、第1部の不完全さが第2部の意義を台無しにしている可能性は大きい。以下、「性暴力を理解する」、「権力とは何か」、「同意と合意」、「ハラスメントとは何か」という記述が続くが、以下の内容と重なることも多いのでここではあえてスルーする。

 インタビュー記事などを寄せた方々(9名)もいずれも詳しく存じ上げないので、これも私自身が勉強になった(刺激を受けた)と思うものを幾つか紹介するに留める。まずは全員の記事の小見出しと筆者を記しておく(敬称略)。これで内容もかなり推測できる。

1) 男性は女性を鏡にする自称「反権力、反体制」男性が陥る「権力志向」   伊藤公雄(京都産業大学客員教授)

2) セクハラ「常態化」するメディアメディア・記者こそ生活感・人権感覚を取り戻そう 南 彰(日本新聞労連中央執行委員長)

3) 自分の持つ影響力や権力に自覚を 

大澤祥子(一般社団法人ちゃぶ台返し女子アクション共同代表理事)

4) 対等でなければ同意はない同意がない性的行為は性暴力である

山本 潤(一般社団法人Spring代表理事)

広河氏の性暴力事件について「刑事的に責任を取らせるのはおそらく難しい」としつつその必要性を考えたいとしている。その中で、「加害者が『同意があった』と誤信したら無罪になってしまう」日本の現状に対し、ドイツの刑法、及びイギリスの性暴力対策法の考え方を紹介している。

ドイツでは、2016年の刑法改正で、加害者による暴行脅迫は性犯罪の成立要件ではなくなったという。またイギリスの「対策法」では、「能力」と「自由」がそろって初めて「同意」ができる、と書いてあるという。ここで「能力」とは、年齢や、知的障害の有無、酩酊状態かどうかといったことで、「自由」とは、暴行・脅迫や上位にある地位の利用がなく、その人が断る自由が保障されていること、であるというすなわち、対等という関係がなければ同意というものは存在しない従わなければいけない状態があればそれは性暴力だ、ということになる。

また、組織における「権限」について、上のものが持つ権限はきちんと仕事をするための権限であって、(相手に同意を得ず)性行為をするための権限でも、怒鳴ったりしてストレスを発散する(パワハラをする)権限でもない、という基本的な指摘もしている。大切なのは、「女性を同じ人間だと思い」対等に扱えるかという点で、外国で見かける性的に成熟した対等な関係で、高め合い尊重し合う関係が日本ではなかなか目に見えないとされる。Springの活動を通じ目指していることは、「同意がない性的行為は性暴力」という認識を世の中の当たり前にすることで、特に今は、刑法の暴行脅迫要件の撤廃について活動をしている、すなわち、「性行為に同意はなかったが、暴行脅迫も無かったから有罪にできない」みたいなおかしな話は終わらせたいという。

5) セクハラを周囲が黙認することは加害者にお墨付きを与えていること

牟田和恵(大阪大学大学院人間科学研究科教授)

「権力」関係はどんなにミクロでも「認知のゆがみ」を引き起こし、無自覚かつ残酷なセクハラ、パワハラを引き起こすことが指摘されている。それと同時に、第三者(傍観者)による黙認は加害者の許容(と被害の一層の拡大・長期化)につながることも述べられ、特に男たちが声を上げることの重要性を説いている。「男の加害者は男が注意すれば聞く。だからこそ大多数の男性の意識を変えていかなくてはならない」としている(高齢男性の私も実感として賛成)。性暴力や性被害を扱う視点を加害者〜男性から被害者〜女性へ変えていかないといけない、という結論は重要であると感じる。

6) 人間を「モノ」として見る価値観が、差別と暴力の構造を生んでいる

野中章弘(アジアプレス・インターナショナル代表)

7) 広河氏の問うた戦争被害者への視点とは何だったのか

玉本英子(ジャーナリスト)

8) 左翼の男性たちに告ぐ 反省することは大事ですよ

濱田すみれ(アジア女性資料センター事務局)

「一言で言うなら、(これまで散々セクハラ、パワハラをやってきた)左翼の男たち、いい加減にしろ!ってことですね」。同感。家庭生活における両性の平等をうたっている「(憲法)24条を変えさせないキャンペーン」も重要だと感じる。多分全ての根はそこかも知れないと思う。

9) 閉鎖的な組織に潜むカリスマによる性暴力

白石 草(OurPlanet-TV代表)

「なぜ、これほど過酷な被害が、長い間封印されていたのか」という問いから始まる寄稿は、広河氏がまさに「人権派のカリスマ」であったことによる圧倒的な権力格差とそれを許した周りの人間・組織にその答えを見出しつつ、新しいメディアに相応しい新しい組織規範を紹介している。オルタナティブメディア(↔マスメディア)が掲げるべき条件(*1)がそれであるが、これが既に1960年代に提唱されているのには正直驚いた。また、実際に「組織内で声を上げることや被害を訴えることの難しさ」についても提案がある(高齢男性である私にとっても、第三者として加害者に注意することさえ大変勇気がいったので、この難しさは少しは想像できる)。それは、現在ある、子どもへの暴力防止プログラム「CAP (Child Assault Prevention)」(*2)のような道具・技術を背景にした取り組みがメディアで働く女性には必要ではないか、という指摘である。「このような性暴力やそれを生み出す構造を改善するには、加害者を減らすしかないが、加害者は殆どの場合無自覚なのでそれには膨大な時間がかかる。なるべく早く密室での次の被害者をなくすためには女性自身が自分の権利を主張し、自らの体と心を守るしかない」としている。

*1 「Zマガジン」を立ち上げた社会活動家、マイケル・アルバートによる(訳:神保哲夫『オルタナティブ・メディア〜変革のための市民メディア入門』より。

*2 日本でプログラムを扱っている団体は現在2つあると思われる(東日本と西日本?):

https://cap.j-net, https://j-capta.org/cap/index.html

 最後のコラム「OUTLOOK」を本号にも書かれている斎藤美奈子さんの記事が経営陣の問題に明確に言及・危惧していることが印象に残る。