甲南大学で学生が自殺 サークルのトラブルに大学が責任をもって関与せず/新潟大学/群馬大学(最近のアカデミックハラスメント例 (4))

【甲南大学】

 「部費横領」トラブルで大学対処せず、学生が自殺

 毎日がコロナ関連のニュースで明け暮れる中、3月9日 、ある学生の自殺が報じられた。但し、関西ローカルかも知れないので、埋もれてしまわないことを切に祈るものである。以下に、精力的に報道を続けている毎日新聞の記事から主に引用しつつ、事件を見ていく。

http://mainichi.jp/artticles/20200329/k00/00m/040/206000c

http://mainichi.jp/articles/20200308/k00/00m/040/328000e?cx_fm=mailhiru&cx_ml=article

http://mainichi.jp/articles/20200309/ddp/041/040/009000c

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202003/0013180260.shtml

https://digital.asahi.com/articles/ASN3B72LCN3BPIHB028.html?iref=pc_ss_date#

https://digital.asahi.com/articles/DA3S14399168.html?iref=pc_ss_date#

 概要:甲南大学2年の男子学生が、2018年10月、自殺していたことが分かった。その原因は、「学園祭の模擬店の売上金を横領した」などの誤った事実を理由に文科系クラブを強制退部させられ、その情報が広まったことであるらしい。実際には横領の事実はなく、学生は名誉回復のための対応を大学に求めたが実現せず、その後命を絶った。大学側は「一連の対応は問題なかった」としているが、遺族は検証のための第三者委員会の設置を求めている。しかしながら未だに実現していない。

 事実経過:

  • 18年3月 「この学生が(17年11月の)学園祭の模擬店の売り上げを横領した」などの誤った情報が部長らによって部員に周知され、学生は退部勧告を受けた後、強制退部させられた。

 部長は25の文化系団体の部長らで構成する甲南大学公認:「文化会」でも学生の入部を拒否するよう要請。学生は入部を希望した複数の部の関係者に「ブラックリスト入りしている」などと言われた。

 学生は、退部勧告を受けた直後から大学の学生部に相談し、関係者間で横領の事実がなかったことを確認した。これを受け、

  • 18年5月 (当該の)部長が「明確な確認を取らないまま、横領したと断定してしまった」などとする謝罪文を学生に渡し、強制退部と他の部への入部拒否の要請をそれぞれ撤回。

 学生は「事実無根の情報が拡散してしまった」と訴え、名誉回復のために謝罪文の掲示などを大学側に求めたが、遺族によると、大学側は「知らない人がほとんどだ」などとして、応じなかった。学生は同月、学内のキャンパスハラスメント防止委員会に苦情を申し立てたが、同委員会は

  • 18年9月、横領したと誤解されるような発言を学生がしていたなどとして当該部長らの行為はハラスメントに該当しないと判断した。
  • 18年10月 自殺。遺書には「自殺に至った主な原因は3月に起こった部および文化会による名誉棄損などによる精神ダメージ(中略)甲南大学の対応も遅く私は限界となりました」などと記されていた。
  • 19年10月 遺族は、甲南大学を経営する学校法人甲南学園に、事実究明と大学側の対応を検証するための第三者委員会の設置を求めたが、法人側は「一連の対応で不適切な点があったとは考えていない」などとして拒否。遺族は「息子の抗議に真摯に向き合うべきだ」と話す。

不誠実な対応に終始し「幕引き」を急ぐ法人:

 法人は(毎日新聞の)取材に「可能な限りの対応をしてきており、問題があったとは考えていない。しかし、一人の学生の貴い命が亡くなってしまったという結果については誠に残念、遺憾としか言いようがない」などと回答している。(加害者である)部長の代理人(多分弁護士)は「亡くなった学生やご遺族の主張が客観的に正しいかはわからない」などと答えてもいる。

ハラスメント委員会の実態 本当に「不適切な点」は無かったのか?:

 その後の取材により、ハラスメント委員会の調査過程などに関し、1) 聴取を行った学生や教職員の人数、肩書も不明なこと2) 調査の詳細は苦情申し立て者にも「開示できない」とされているなど、多くの疑問点が明らかになってきている。

 1) については、例えば、委員会の構成は(公開されている規程によると)副学長(中井伊都子氏)、学生部・学長室事務部・総務部の各部長、学長が指名する専任教員であるらしいが、男子学生が直接聴取を受けた3名以外は他の委員の名前や委員会の開催回数などは明らかにされていない。また、他に聴取を受けた学生や教職員の人数、肩書なども不明のままである。

 さらに、学生が聴取の際訴えた「(当該部長が他部に出した入部拒否要請の)撤回文は名誉回復になっていない。部に非があったことを完全に表にし、部が誤っていることを明らかに示してもらいたい」という内容が、委員会でどう受け止められたのかを検証しようにも、委員会の議事録は学生への聴取録を除き非公開である。

 2) については、一連の毎日新聞の質問に対する法人側の対応は以下のとおりである;

(委員会の調査の客観性や中立性はどう担保されたのか)外部の専門家を委員会に出席させたのか?(規定に「必要と認めるときには外部専門委員等を委員会に出席させることができる」とある):「出席していない。審議の過程で外部専門家である弁護士に、随時、意見を求めていたから」

苦情申立者に議事内容を開示するか?:「保護すべき個人情報が多く開示できない」

苦情を審議したハラスメント委員の名前や肩書、委員数、議論の経過は?:「学内手続きの経緯詳細及び特定の教職員・学生にかかる情報などについては答えを差し控える」

 これらの大学の態度に関し遺族は「息子の悲痛な状況が拡大していくのを無視した大学の対応そのものが(第二の)ハラスメントだ。大学が息子を自死に至らせた経緯が闇のままなのはおかしい」と批判する。この一連の経緯からは、どう見ても法人側の対応が適切であったとは言えない。甲南大学は関西では、多くの社長や経営者を輩出している大学で、その子弟が多く通学・卒業していることでも有名である。当時の甲南大学は100周年(実際には大学設立70周年)に向けて異様な熱気を帯びており、大学イメージアップの広報のためには学内のハラスメント事件をもみ消し、その後の(第二のハラスメントによる)学生抗議自死をも隠蔽する必要があったためではないだろうか。今こそ大学側は、猛省して遺族に謝罪と補償をすべきであろう。

大学における第三者委員会

 本ブログのめざすものや初期の記事でも度々述べてきたように、日本の大学における様々なハラスメント事件に関する学内の調査委員会は、基本的に適切に機能している例は殆ど無い。その意味で現状では各組織の自浄能力に期待するのは無理であり、外部の人材を含む第三者委員会の速やかな設立をめざすべきことを一貫して主張してきた。勿論ハラスメント事件が起きたとき、それに対する最初の対処法として、該当組織の適切な部署に訴えることは悪くはない。しかし並行して第三者委員会設立も進めるのが望ましい。なぜなら学内委員会は色々な点で歪められ、スピードも遅くなることが多く、その結果、緊急避難的な対策は行えても原因追及や加害者への処分などは往々にして当事者の学生などが卒業後ということになる場合が多い。被害者がいなくなるので、加害者の処分がうやむやになり、結局加害者は「やり得」ということが永年繰り返され、結果としてその組織のハラスメント体質がいつまでも改善されず、被害者。自殺者が続くという悪循環になりがちである。

 実際、学校問題の被害者遺族でつくる「全国学校事故・事件を語る会」の内海千春代表世話人は、本事件に関し「大学内で作られた調査組織は大学教授らが委員を務めるので、もっともらしく見える。しかい、外部の目が入っていなければ、組織防衛のために情報が操作される恐れがある。大学が『不適切な対応はしていない』と主張するなら、十分な情報開示や外部の目を入れて検証するなど、説明責任を果たすべきだ」と指摘している。

 小中高校のいじめによる自殺や長期欠席の調査をめぐっては、文部科学省のガイドラインが弁護士や精神科医、学識経験者らで構成する第三者委員会を設置するよう教育委員会や学校法人などに求めている。その中立性を確保するために、学校側と被害者遺族側のそれぞれが推薦した団体から委員を選ぶなどの形式で設置された委員会もある。

 大学や研究機関が第三者機関設置に極めて消極的なのは多分多くのやましい事例をひた隠しにしてきたからであろう。世界をけん引すべき「知の砦」としては本当に恥ずべき情けない話である。

大学における自殺調査の法的枠組み

 ハラスメント事例、学生の自殺事件などに関し、第三者委員会がほとんど設置されない現状は、大学でのみ自殺調査の法的枠組みが無いことにつながっている。即ち、小中高校のいじめに関しては上述の仕組みがあり、労働者が受けるハラスメントについては、2020年6月施行のパワハラ防止法などで事業主に防止措置が義務付けられている。これに対し、殆どの大学は、学生が利用できる相談窓口を設けたり、ハラスメントに関する規程を形式的に整備したりしているが、相談対応や調査の具体的な手法は各大学の判断に委ねられており、調査の公平・中立性を担保する法的な仕組みがない。まずは以下の住友先生のご発言にあるような、全国的なガイドライン制定をめざす動きを作り、関連する条例や法の整備に向けた努力を続ける必要がある。

大学生の自殺統計

 本ブログの初期の記事でも触れたように、日本は諸外国に比べ若年層の自殺者が多いことが知られているが、毎日新聞の記事によると、2018年に自殺した大学生は336人に達する。原因・動機別(重複有)では「学校問題」145人でトップで(43 %)、以下「健康問題」79人、「家庭問題」35人と続く(厚生労働省などの統計による)。

 これに関連し、学校での事件事故の調査に詳しい京都精華大学の住友剛教授(教育学)は次のように話しているという:「大学側の対応に問題があると疑われるケースでは、大学が自らの対応が適切だったかを外部の有識者による第三者委員会を設置して検証すべきであり、その方が大学側の真摯な姿勢を示すことにもなる」、「学生がどのように追い詰められ、大学がどう対応したかについて、国や公的機関が全国の実態を把握し、ガイドラインを作ることが望ましい」。

甲南大学キャンパス・ハラスメント防止ガイドライン

https://www.konan-u.ac.jp/life/campus_harassment/

 もしこの記事をお読みの方で、いわゆる学校問題で深刻な悩みを抱えている方、もしくはそのような友人をご存知の方は、自死を考える前に是非以下に挙げる組織や団体ににアクセスして欲しい。勿論本ブログでも相談は受け付けて力になれるようサポートします。

参考・関連リンク(毎日新聞掲載のものを転載)

03-5286-9090 年中無休 pm8時-am5:30 但し、火曜日 pm5時-am2:30、木曜日 pm8時-am2:30

 

【新潟大学】

50代准教授がセクハラ 停職1ヶ月 

 まず大学側の発表を見てみよう:

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令和元年9月11日付け 職員の懲戒処分について

2019年09月13日 金曜日   お知らせ

 このたび,下記により令和元年9月11日付けで本学職員を懲戒処分としましたので,お知らせします。

事案の概要

 本学自然科学系准教授(男性,50歳代)は,平成28年から平成30年にかけ,研究室の所属学生に対して,学部学生のテストの採点を行わせるなどのアカデミック・ハラスメント行為及び女子学生の容姿や身体的特徴,服装に関する発言を行うなどのセクシュアル・ハラスメント行為を行ったことにより,学生に精神的苦痛を与え,修学上の環境を悪化させたものである。

処分の内容   停職1月

今後の再発防止策等

服務規律の確保について,今後一層の徹底を図ることとしています。

学長のコメント

 学生に精神的な苦痛を与え,修学環境を悪化させるようなハラスメント行為があったことは,新潟大学の職員としての自覚と責任に欠け,誠に遺憾であり,被害を受けられた学生に深くお詫び申し上げます。
 今後このようなことが起こらないよう,職員に対するより一層の規範意識の徹底を図り,再発の防止に努める所存です。

本件に関するお問い合わせ先

総務部労務福利課
電話 025-262-6032

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毎日新聞の記事

https://mainichi.jp/articles/20190913/k00/00m/040/065000c?pid=14606

により補足してみる。

 新潟大によると、准教授は2016-18年にかけ、自身の研究室に所属する大学院修士課程の男子学生3名、女子学生2名に学部生の講義のテストの採点をさせるアカハラをした。また、この女子学生2名に対し、足や胸に関する発言をするなどのセクハラをした。

 18年春に5人全員が学内のハラスメント窓口に申し立てて発覚、新潟大は5人全員を他研究室に異動させ、ハラスメント委員会で調査していた。准教授は不服申し立てをしており、「ハラスメントという認識はなかった」と話しているというが、同委員会はハラスメントがあったと認定した。学長のコメントは上記引用文書にある。

 なかなか難しいところであるが、この規模にしては処分が軽すぎる気もするが。

 

【群馬大学】

医学部教授がアカハラ 大学側公表せず 

 こちらの方は何故か公表もされない事例らしいが、

https://mainichi.jp/articles/20190529/k00/00m/040/024000c?pid=14516

毎日新聞が入手した文書によれば、群馬大学は2019年春、医学部に在籍の男性に対する医学研究科の男性教授によるアカデミックハラスメントを認定していたという。大学側は認定自体を公表しておらず、取材に対し詳細の説明を拒否。当該教授に対する処分の有無や男性への賠償などについても回答しなかった。

 当該教授は医療倫理に関する必修科目の授業を担当。男性は2年時の2016年度に乗降したが、単位を認定されず留年。17年度も再履修した。その再履修で必要な「補習」について、男性は教授から出席不要との連絡をメールで受けたという。さらに教授は男性に対し再試験を受けさせなかったという。

 大学が男性側の申し立てを受けて18年末に設置した「ハラスメント調査委員会」は19年春、教授が男性に対し、補修を受けさせなかったことと再試験を受けさせなかったことの二つの行為をアカハラと認定した。大学側は毎日新聞の取材に対し、このアカハラ認定も含めて「被害者と加害者のプライバシー保護のため回答を控える。回答する予定もない」とコメントした。(これに関し)アカハラに対処する基準などについて文部科学省国立大学法人支援課の見解を確認したところ、「特に指針は示していない。各大学で独自に対応している」と答えたという。

 なお群馬県の地方新聞である上毛新聞のこの件に関する過去の記事はもう閲覧が不可能であった。地方新聞と地方大学との癒着と情報隠ぺいはよくある話で今更驚かないが、学生の自殺や覚せい剤がらみの事件などは、こういう癒着で殆どもみ消されていることは知っておかねばならない。頻繁に、あったことが無かったことにされているのは、何も隣国の話ではなく現実にこの日本でも身近に起こっている。

 群馬大学医学部と言えば、多くの方が亡くなった一連の医療過誤事件が記憶に新しい。また、これもその酷さで記憶されている方も多いと思うが、2014年にも同じ医学部の40代教授が女性研究者へのパワハラで懲戒解雇されている。

https://www.huffingtonpost.jp/2014/11/20/gunma-university-power-harassment_n_6195436.html

 これは、2012年1月から13年8月にかけて、研究室の助教と講師の男女計5人に、退職や休日出勤を強要。「結婚△出産×」などの発言で結婚や出産をする女性研究者を非難し、「ポストを空けるため(他大学に)応募しろ」などと言い、3人が精神的な病気で休み、2人が退職した。教授は大学に発言を認めたが、一部は「指導の範囲」と話していたという。この案件は何故か公表されている。ただいずれにしても、っ群馬大学、特に医学部の問題体質は一向に改善されていないようである。一応大学のホームページには、ハラスメントの解説や相談の連絡先は記載されているものの、有効に機能している気配はない。

 会社などのパワーハラスメントなどと比べると、学生や大学院生は、加害者である教職員に対して圧倒的に力の差は大きく弱い立場であり、さらにはその現場を短期間で去ってしまうという事情がある。本当に、被害者の救済を迅速に進めるためには、(大学の良識などに頼っても当事者には期待できないので)そろそろ文部科学省がガイドラインの議論・提示を行い、各大学などで、迅速な問題解決を促す仕組みづくりを進めねばならない。

最近のアカデミックハラスメント例 (3)

【名古屋工業大学】

 最近の報道によれば、名古屋工業大学において、セクハラ・アカハラを伴う事例の発生があったそうである(2019年12月)。以下に、大学からの報道発表を転載する。また根拠とされたハラスメント防止ガイドラインのpdfを引用するする。割と厳密なガイドラインがあるのに、複数のハラスメントが一体になった悪質な事例の気がするが詳細は明らかでない。                                       ==========

懲戒処分の公表について

国立大学法人名古屋工業大学は、社会的説明責任を明確にするとともに、職員の服務に関する自覚を促し、不祥事の再発防止に資することを目的として、下記のとおり懲戒処分を公表します。

1.被処分者 大学院工学研究科 教授

2.処分年月日 2019年12月19日

3.処分内容 停職 3月                                  

4.事案の概要
同教授は、学生に対して継続的なセクハラを行った。また、教員及び学生に対して不適切な指導及び過度な言動により精神的苦痛を与えた。
これらの行為は本学が定めるハラスメント防止ガイドラインに反しており、同教授を懲戒処分として停職(3月)とした。                                       ==========

職員の懲戒処分について

 本学が定めるハラスメント防止ガイドラインに反してハラスメントを行った本学教授について、本日、当該教授を停職(3月)としました。当該教授の行為は、大学の教職員としてあるまじきもので極めて遺憾であり、被害に遭われた方や関係者の皆様に深くお詫びいたします。
 大学として、この度の事態を厳粛に受け止め、今後このようなことが起こらないよう、教職員に対してより一層の意識啓発を図り、また、体制を更に整えることでハラスメント防止に努めていく所存です。                              ==========

2019年12月19日 国立大学法人名古屋工業大学長 鵜飼 裕之

お問い合わせ先

本件に関すること 名古屋工業大学 人事課
①人事課長 箕浦(Tel:052-735-5010)
②人事課副課長 佐久間(Tel:052-735-5023)
上記電話番号が繋がらない場合は、(Tel:052-735-5375)までお願いします。
担当者から折り返し連絡させていただきます。
E-mail : roumu[at]adm.nitech.ac.jp

広報に関すること 名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp *それぞれ[at]を@に置換してください。 

名古屋工業大学ハラスメント防止ガイドライン  

【帯広畜産大学】

 帯広畜産大学では、助教によるアカデミックハラスメントについて、軽めの処分がなされたようであるが(2019年10月)、その後続いてさらなる処分が課され、少しもめている感じが見受けられる。処分に対する異議申立等の制度は勿論あるように思うが、どうであろうか。                                       ==========

教員の懲戒処分について(*2)

2019年10月31日

本学教員に対して,下記のとおり懲戒処分を決定しましたので公表いたします。

被 処 分 者:助教(男性・40代)
処分事案の概要:停職2週間の懲戒処分を受けたにもかかわらず,停職期間初日から計6日間出勤した命令違反
処 分 内 容:停職(6か月)
処  分  日:令和元年10月29日

【学長コメント】
本学教員がこのような行為を行ったことは誠に遺憾であり,心より深くお詫び申し上げます。また,今回の事態を重く受け止め,今後このようなことが起こらないよう,より一層規律の遵守を徹底し,社会の信頼回復に努めて参ります。

令和元年10月31日
国立大学法人帯広畜産大学
学長  奥田 潔

職員の懲戒処分について(*1)

2019年9月4日

本法人職員に対して、下記のとおり懲戒処分を決定しましたので公表いたします。なお、被害者のプライバシーを保護する観点から、本件の詳細につきましては、公表を差し控えさせていただきます。

被処分者:助教(男性・40代)
処分事案:ハラスメントに関する措置の遵守事項違反及び誠実義務違反
処分内容:停職(2週間)
処 分 日:令和元年9月4日

【学長コメント】
本学教員がこのような事態に至ったことは誠に遺憾です。
同教員の行為は、教員としてあるまじきものであり、被害に遭われた方をはじめ関係各位に深くおわび申し上げます。
今回、このような事態が発生したことを重く受け止め、教職員及び学生等への意識啓発を推進し、今後、このようなことが起こらないよう,再発防止にあたっていくとともに、信頼の回復に努めてまいります。

令和元年9月4日
国立大学法人帯広畜産大学
学長  奥田 潔

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帯広畜産大学ハラスメント規定 

帯広畜産大学ハラスメント対策ガイドライン

【静岡県立大学】

 2019年3月に、下記のような講師に対する処分が発表されている。これによれば、事案の発生は少し前(2016~2017年)で、長期に渡り複数の学生に対し様々なハラスメントが行われたようである。一般に大学では、学生の退学、卒業等により当事者が現場にいなくなると当局がうやむやにしたり握り潰してしまうことが良くあるが、時間をかけて調査し処分まで進めたのは評価できるのではないだろうか。但し、被処分者の性別明示は必要であろうか?

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本学教員による本学学生へのアカデミック・ハラスメント行為に係る懲戒処分について

本学学生に対してアカデミック・ハラスメントを行った本学教員を、懲戒処分としましたので、下記のとおり公表します。

処分概要

被処分者

静岡県立大学講師(女性)

処分の内容

停職1ヶ月

処分の理由

被処分者は、2016年4月から2017年6月までの間、被処分者のゼミに所属する複数の学生に対して、長期にわたり、繰り返し、学生の人格を否定する(傷つける)発言や、ゼミの主要な活動から排除されたと学生が受け止めてしまう発言、ゼミ活動の水準や位置付け・指導の方針などの基本的姿勢は徹底して不変とし、それに従うか他のゼミに移るかの「二者択一」を迫る発言、学生の心身の状況及びプライバシーに関する配慮に欠けた追い詰める発言を行うといった、アカデミック・ハラスメント(アカハラ)を行い、学生の修学上の権利を侵害した。

処分日

2019年3月27日(水曜日)

学長コメント

本学教員によるアカデミック・ハラスメント行為により被害にあわれた方と、その御家族、及び関係の方々に、心よりお詫び申し上げます。
高い倫理性が求められる教員がハラスメントを行うことは決して許されるものではなく、全教職員を対象とするハラスメント防止研修を行うなど、その防止に取り組んできた中での今回の事件は、誠に遺憾であります。
この事態を重く受け止め、ハラスメント防止対策を強化し、学生が安心して勉学に専念できる環境を整えるとともに、大学の信頼を回復するよう努めてまいります。
2019年3月27日
静岡県立大学 学長 鬼頭 宏

 【滋賀県立大学】

 この例も若干旧聞に属するが(2017年)、当時の副学長が処分されていることは特筆すべき点で、多くの大学でハラスメント対策や告発制度は名ばかりで機能していない(特に大学の執行部=幹部のメンバーは事務局長が防衛に回ることがしばしば)が、この大学では一定機能しており珍しく自浄作用があることを示唆している。また報道発表も匿名ではあるものの具体的なハラスメントの内容が細かく報告されており、処分の内容に相応する酷さであることが推測できる。以下、公開されている関連文書を紹介する。

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本学教員の懲戒処分について(お詫び)

 本学教員による女子学生に対するセクシュアル・ハラスメントについて、このたび該当教員に対し、停職等の処分を行いました。

 本学では、ハラスメントの防止に関する規程を定め、ハラスメント相談員を設置するとともに、研修会を実施するなど、良好な教育・研究環境の整備に努めてまいりましたが、このような事態となり、学生、保護者や県民の皆さまをはじめ関係者の方の信頼を大きく損なう結果となりましたことを深くお詫び申し上げます。

 大学として、今回の事態を真摯に受け止め、今後、このような事態が発生することのないよう再発防止に向けた取り組みを推進してまいります。

 1 被処分者   人間文化学部教授(60歳代 男性)

          (事案発生当時)理事・副学長 兼 人間文化学部教授

 2 処分の内容  停職2月(平成29年10月11日付け)

 3 処分の理由

    被処分者は、遅くとも平成27年8月には、申立者と現地調査の日程や集合場所等についてLINEを通じて頻繁に連絡を取り合っていたが、特に平成27年12月から平成28年5月までの間には、外出や食事といった調査研究に関係の無い個人的な誘いが13回、教員と学生との関係において不要とみられる日程確認のための連絡が5回認められた。

    また、当該期間中に調査研究とは関係の無い場所を私有車で申立者と2人で少なくとも3回訪問している。中でも平成28年1月2日には、申立者を調査だけでなく温泉に誘うとともに、翌1月3日には、実際に福井県内の道の駅に併設されている温浴施設を訪れていた。

    このほか、平成28年3月には、被処分者の依頼した作業に従事するため、申立者が学内に宿泊することを特に問題視することもなく認めるとともに、翌朝に申立者を誘い朝食を共にした。

    被処分者の一連の行為は、本学「ハラスメントの防止等のために公立大学法人滋賀県立大学役員および職員が認識すべき事項についての指針」においてセクシュアル・ハラスメントになり得る言動として例示する、「食事やデートにしつこく誘うこと」や「不必要な個人指導を行うこと」にあたるものである。

    これらの被処分者の行為は本学就業規則第45条第1項第1号などに該当することから、懲戒処分を行ったものです。

 4 再発防止の取り組み

    大学として、今回の事態を真摯に受け止め、今後、このような事態が発生することのないよう再発防止に向け以下の取り組みを推進する。

 (1)本日、理事長から事案の発生した人間文化学部の学部長および学科長に再発防止と学生に対するきめ細かな相談対応や就学上の配慮などについて指示した。

 (2)本日、緊急に各学部長および事務局管理職を招集し、理事長から再発防止の徹底を指示した。

 (3)役員・教職員と学生それぞれに対し理事長緊急メッセージを速やかに発出する。

 (4)教職員全員に学生とのLINEによる1対1のやり取りや2人きりでの出張など、学生との接し方についてあらためて点検する。

 (5)全学を対象にハラスメント研修を11月13日に実施するとともに、事案の発生した人間文化学部等でも別途研修を行い、教職員一人一人のハラスメントに対する認識を深めるとともに、ハラスメントの未然防止を徹底する。

    また、学生に対しても、あらためてハラスメントに関する相談窓口(ハラスメント相談員)を周知する。

 (6)被処分者については、二度とこのようなことのないよう外部機関の主催するハラスメント研修を受講させ理事長あて報告を求める。

平成29年10月11日                                        公立大学法人滋賀県立大学                                        理事長 廣川 能嗣

最近のアカデミックハラスメント例 (2)

【沖縄県立芸術大学】

 2019年6月18日付けの記事

https://digital.asahi.com/articles/ASM6L5TZ4M6LTPOB003.html?iref=pc_ss_date

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/434512

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/434738

によれば、沖縄県は県立芸術大学の教授を減給1/10 3ヶ月の懲戒処分にしたと発表したという。理由はアカデミックハラスメント、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント(の全て‼?)を行ったということらしい(「被害者が特定される」との理由で処分者の詳細は公表されず)。

 記事によれば、大学によると、教授は授業を受ける学生に対し立場を利用したり教育的配慮を欠いた言葉を言ったり、授業を補佐する非常勤講師に不快感を与える態度や言葉を投げかけたり、不特定多数の教員らに性的な言葉を吐いたりしたという。201711月、学生が大学に相談して発覚。調査の過程でパワハラやセクハラの被害申告があったという。比嘉泰治学長は「誠に申し訳なく、再発防止に努めます」とのコメントを出したという。

 また最近の記事(2019年9月11日付け)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/470034

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/470040

によれば、学生にアカでミックハラスメントをしたとして別の教授が減給処分1/10 1ヶ月を受けている。この件も被害者特定の恐れを理由に、教授の氏名や性別などを明らかにしていない。

 大学によると、教授は特定の学生に能力を否定するような発言をしたという。本人だけでなく、周囲に対しても学生を否定するような不適切な発言があったらしい。2018年2月に学生が被害を申し立てた。大学は調査を進め18年末までに被害を認定。処分発表までに9ヶ月を要した理由を「手続きの都合」と説明している。被害にあった学生はすでに卒業、教授は謝罪したという。

 ところで、大学のホームページでハラスメントに関する取り組みを見てみると相談窓口の案内も丁寧であり、申し込みはメールで可能で、随時相談が周りから知られない場所で行うとされている。平成29、30年度からはハラスメントに関するアンケートの集計結果(参考のため下記に引用)も掲載されており、評価できる(但し回収率は20 %以下ではあるが)。これらの努力は比較的頻繁に様々なハラスメントの告発と処分が行われるという形で実を結んでいると言えるかもしれない。

ハラスメント学内アンケート H29年度

ハラスメント学内アンケート H30年度

 OISTと沖芸大の例を考えてみると、人権侵害(ハラスメント)についての、ネット技術を駆使した全学的アンケートのようなものを学生や一般教職員の側から組織し、力を合わせてハラスメントの実態や隠蔽工作を暴いていくことも可能かもしれない。但し、結果を当局に通知する際、報告・告発により不利益を被らないことを当局に約束させることが不可欠であるが、、、。

【北里大学】

 学校法人北里研究所は、教育職員の男性(53歳)に3ヶ月出勤停止の懲戒処分を科したと発表(2019年2月15日付)*1。発表の中で、処分理由として、「被処分者は、所属する講師ならびに学生に対し、勤務形態、研究室運営、研究活動等の様々な局面で非違行為を行った」として、「その言動は、研究・指導・教育という業務上適正な範囲でなされるものではなく、発言自体その表現において許容限度を超え、著しく相当性を書くものであり、精神的・身体的苦痛を与え、研究室や教室内の環境を悪化させ、働く権利、就学上の権利を侵害した」と説明している。

 内容が具体的でなく解りにくいが、担当者によると、他の大学から来た教員が以前からその研究室にいた異なる研究を行ってきた教員や学生に自身の研究を強要するような行為が、「許容限度を超える」発現や行動によってなされたもののようである。被害を知った大学側がヒヤリング調査を実施して、その男性教員に対し、「再三注意してきたが改善が見られなかった」ため今回の処分となったらしい。

 多分この事件を受けて大学当局は4月1日付で『ハラスメントは許しません!!』と題する通達?を出している。また、平成20年(2008年)4月1日には『人権侵害防止宣言』が制定され、その後も相談体制を整備しつつ『人権侵害(ハラスメント)防止のためのガイドライン』、『人権侵害防止委員会規定』、『人権侵害防止相談員細則』などを制定して取り組みを進めてきたようであるが、今回の事案は防ぎきれなかったようである。文書を制定し体制を整備する(今ではどこでもやっている!?)だけでは、それらのまともな運用が保証されないことには十分注意すべきである。組織構成員の絶えざる学習(研修)とハラスメント撲滅への自覚的な点検と相互の注意喚起等が日常的に要請される。

*1 https://j-cast.com/2019/02/18350648.html?p=all

最近のアカデミックハラスメント例 (1)

【学校法人】沖縄科学技術大学院大学【学園】

沖縄タイムスの記事

2019年3月20日付の沖縄タイムスの記事

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/402920

によれば、沖縄科学技術大学院大学(Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University, OIST)で昨年、匿名の学内有志によるインターネット上の意識調査があったという。現役やもとの教職員78人が回答した驚くべき結果は、回答者の58 %が「自身が被害に遭った」、85 %が「被害に遭った人を知っている」と答えていたという。セクハラについては「自身」が11 %、「知っている」が41 %であったという。一方で、自身や他者のハラスメント被害を大学当局に通報したのは19 %であった。理由(複数回答)は「何かが変わるとは思われない」が69 %、「報復を恐れた」と「苦情申し立て手続きが機能していない」が各51 %であったという。また、自由記述には、「通報しても権力者が有利に手続きを進めてしまう」、「報復として共著論文の著者から外されそうになり、形だけの謝罪をした」などの意見があった他、「自分の身分を心配せずに意見を述べる仕組みがあるか」という質問には、90 %が「いいえ」と答え「独裁体制で、退職するほかに選択肢がなかった」などの記述もあったという。

 調査は昨年11月で、学内のスティーブン・エアド博士らが専用サイトのアドレスを匿名メールで教職員や学生に知らせる形で始まり、エアド氏はその後名乗り出て大学当局に結果を通知したという。調査を一つの契機として教職員労組を結成し委員長に就任したエアド氏は、「OISTはパワハラと権力乱用の文化を育んでおり、調査結果は幹部への告発。実態を知るものとしては驚きではない」とかたったという。一方OIST当局は取材に対し、「回答はごく少数」、「実際に定義によりハラスメントと認められるものが不明」と指摘しつつ、教職員・学生は、「機密性に配慮した学外の専用ホットラインや副学長、研究科長に報告したり相談することができる」としている。報道を受け?4月2日付で大学ホームページに掲載された「OISTにおけるハラスメント等に関する一部報道について 」と題する文書を下記に掲載しておく。

 ただ、その後2019年5月11日の沖縄タイムスの記事

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/418520

によれば、上記のOIST教職員労組のスティーブン・エアド委員長が、当局から6月中旬限りでの雇い止めを通告されたということである。昨年結成された労組側は結成の報復で違法だと批判しているが、OIST当局は否定しているという。ハラスメントの確認・再調査(アンケート?)等の取り組みなしにいきなり解雇とは!?

 

新聞記事へのOISTからのコメント

2019-04-02

OISTにおけるハラスメント等に関する一部報道について

 3月30日付沖縄タイムス紙に、本学における職場環境について匿名の調査アンケートが実施され、本学に広く不満とハラスメントが存在とする記事が掲載されましたが、当該アンケートは本学によって公式に実施されたものではないこと、また、本学はいかなる形のハラスメントも許容しないということを明確にしたいと考えます。

 当該報道で指摘されているとおり、この非公式アンケートの回答数はごく限られており、本学の在籍職員及び元職員1700名以上のうち、僅か78名の回答によるものです。

 本学は、いくつかの相談窓口を設け、各所から寄せられる全ての苦情やハラスメントを検討し、対応しています。本学は、「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」に基づき、全ての者が尊厳と敬意をもった扱いを受けることができる、安全で互いに尊重しあう環境を築き、これを維持することを約束しています。「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」は本学の基本的価値観(コア・バリュー)であり、本学は、いかなる形であっても、尊重の念を欠くコミュニケーション、差別、ハラスメント、いじめ行為を容認しません。

 セクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメント、その他のハラスメントなどの「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」に反する行為を受けたと考える場合やそのような行為を目撃した場合、OIST教職員・学生は、機密性に配慮した本学外の専用ホットライン、副学長(男女共同参画・人事担当)または研究科長に報告したり相談することができます。

 本学のすべての教職員・学生はセクシャル・ハラスメント防止研修について受講が義務付けられています。また、「互いに尊重しあう職場の実現に向けた基本方針」に関する研修などを受講し、苦情や係争の解決手続きなどに関する相談窓口や相談方法等についての理解を深めることが推奨されています。

 すべての教職員・学生がいかなる種類のハラスメントの訴えについても機密性とプライバシーが保たれた形で解決を求められるようにするのが本学の基本方針です。本学が報告・相談を受けた事案に関しては、いかなる情報も公開しません。また、今後、職場環境についての独立したアンケート調査を実施する予定です。

【終り】

 記事の中ではさらに、次のような幾つかの重要な指摘がなされている。

1) 意識調査では、「幹部が腐敗している」など強い批判の言葉が並部上に、ハラスメント被害が多いだけでなく、被害の訴えを諦める人がもっと多いのは深刻で、上下の信頼関係が成立していない恐れがある。

2) 確かに、回答者数は78人と1,700人の現役在籍者の1割を下回っている。大学当局も少なさを指摘しているが、理由の一つは、当局自身が調査を「フィッシング詐欺」だとして回答しないよう全学に呼びかけたことにある。即ち匿名の調査は妨害されていた形跡がある。

3) 教職員の多くは短期契約を更新している身分であるため幹部に対する立場は弱く、ハラスメントが起きやすい土壌は存在する。

4) 広範囲な調査ができずOISTにおけるハラスメントの全容はわからないままであるが、調査結果に現れた当事者の声は切実であり、数の多少で片付けてはならない。この結果に対する当局の誠実な対応こそ、今後の信頼関係構築と被害掘り起こしや対策につながると思われる。

 これを読むと、研修は行っているし相談できる制度は整っているという通り一遍の言い訳に終始している。決定的に欠けているのは、創立以来既に8年も経過しているのにハラスメントを監視する制度の運用実績などが全く報告されていないことである。この8年間、関連事案は1件も無かったのであろうか?それは制度自体が機能していなかったことの証ではないだろうか?

「大学院大学」とは?

ところで、「大学院大学」なるものを皆様ご存知だろうか?文科省のホームページ

https://mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/attach/1335437.htm

によれば、「大学院大学」は国内に国立4大学・13研究科、公立1大学・1研究科、私立10大学・11研究科となんと15大学もある。その内ほとんど国費で運営されている(予算の大半が文科省からの運営費交付金)国立大学は、総合研究大学院大学(設立1988年)、北陸先端(同1990年)、奈良先端(1991年)、政策研究(1997年)の4校であり、1990年代の国立大学の大学院重点化政策に先んじて設立されている。いわゆるパイロット大学としての試みであるが、学部を持たないため大学院重点化の影響は避けられず、奈良先端を除いては定員割れが続いているところが多い。

  それでは、沖縄科学技術大学院大学とは何なのか?やはり日本政府が運営資金を提供するが、特別な私立大学と位置付けられ、公式には学校法人沖縄科学技術大学院大学学園が設置者となっている。特にOISTは「世界最高水準」、「最先端」などを標榜し、新年度も200億円弱の国費が投入されている。これは複数の文系理系学部をもつ中規模の国立大学のほぼ2倍の予算である。他の国立大学院大学にも同様な点が見受けられ、いずれも数100から2,000人以下の小さなコミュニティで、比較的優遇された予算の下、パイロット大学としてのパフォーマンスが要求されている。これらの事情は成果第一主義で失敗が許されない風土を生み、様々なハラスメントの温床になっていて、自殺者も多いという噂も聞く。実際、インターネットで「大学院大学、ハラスメント」と検索してみても殆ど報道記事や処分例が出てこない。これらはまさにハラスメントに類する事案が設立以来ずっと取り上げられることなく握りつぶされ、相談・検証・処分の体制が殆ど機能していないことを示唆している。これから進学などを考える学生や父兄の皆様には、進学予定先のこのような点も(人伝などで)調べることを強くお勧めする。OISTにも今後他の大学院大学と同じ轍を踏むことなく、研究成果の創出や沖縄振興への貢献に注力できるハラスメントの無い環境を作りあげることが求められている。

LGBT差別にまつわるハラスメント (4)

現場では?現状と具体的な対処方法

 名古屋大学の「ガイドライン」を当事者はどう受け止めているのか?記事*12によると、例えば学内の性的少数者の交流サークルの1メンバーは「これまで方針を示すものが何も無かったので、形になったことは意味があるし、自分達の存在が認められたようで嬉しい」と評価している。中でも改善を求めていた健康診断の受診方法については、個別対応できることがホームページに明記され既に実施されたということである。

 一方で注文としては「ガイドラインにはやたらと「相談できます」等の文言が並ぶが、これまで相談員の無理解にがっかりして来たメンバーは少なくない。教職員の研修や学生の啓発等を盛り込んで欲しい」という意見や「ハード面の対応を必要とするT(トランンスジェンダー)に対してはきめ細かいがLGB(同性愛者)への配慮に触れた部分が少ない。アウティング防止策をもっと考えて欲しい」という訴えもあるようだ。

 実際記事*13では、様々な具体的なアウティング被害の体験が紹介されている。信頼し心を許していた周りの人間の一人が、(例えば、LGB当事者だから守ってあげて欲しいなどと)善かれと思ってやったことが、本人には極めて大きい諸オックであることが多い一方で、周囲には当事者間の問題として距離を置かれやすいという側面もあり、性暴力と構造が似ているという指摘もある。

 人気はあるがそれ故に人権感覚が麻痺している芸人らにより、未だに笑いのネタにされることも多いLGBT問題であるが故に、意図的なアウティングによるいじめや侮辱(ハラスメント)に至らなくとも、想定外のカミングアウトへの戸惑いなどから誰かに話してしまうことも起こりがちであるようだ。

 それではカミングアウトされたらどうすれば良いのだろうか?これに対する答えが、やはり記事*13に名各区に記述されている。以下に再掲する:

カミングアウトを受け止める心構え

  • 信頼して話してくれたことに感謝を示す
  • (恋愛感情の告白を伴う場合)相手が恋愛対象か対象外なのかはっきり伝える
  • わかったふり、なかったことにはしない。知りたいことは率直に聞いてみる
  • 本人の了解なく相手の生活圏内の人に話さない
  • 不安があれば、双方が信頼できる人に同席してもらい、相手と話し合う
  • 一人で抱えきれなくなったら、守秘義務のある専門窓口に相談する

(原ミナ汰さんによる)

 私自身はこれらのルールが最も腑に落ち解りやすいという印象を持ちましたが、皆様はどうでしょうか?考えてみると、これらは男女間の異性愛の場合や広くは人と人との関係でも全く同じで、相手ときちんと対話して信頼して打ち明けられたことはその人の許可なく他人に言わない、という凄く当たり前のこと(人権意識)ではないでしょうか?この意味で、教育の場などで教員から生徒や学生にカミングアウトする試み*14は色々な意味で大変勇気がいることである上に、単なる教育効果を越えた周りの人への波及力があり、大いに尊敬に値すると考えます。ごく自然にそういう機会を選択できる社会を1日でも早く作って行きたいと思います。

 最後に、一橋大学事件を担当されているナンモリ法律事務所のHP(http://www.nanmori-law.jp)も是非 訪れてみて下さい。裁判に関する詳しい経過・資料等にアクセスできます。

*13 <アウティング無き社会へ>(上)(中)(下)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021702000147.html

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021802000109.html

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021902000129.html

*14教育の窓 先生からのカミングアウト LGBT、理解へ繋ぐ (毎日新聞 2019/12/3)https://mainichi.jp/articles/20181203/ddm/013/100/019000c

LGBT差別にまつわるハラスメント (3)

各大学におけるLGBT対応指針

 こうした動きを背景に、LGBTなど性的少数者の学生への対応についてガイドラインを策定する大学が増えている。学籍簿の名前の扱い、トイレの使用、就職支援など学生生活に関わる幅広い分野で具体的な対応策を示し、セクシュアルティー(性のあり方全般)を理由とする差別や不利益をなくすのが狙いである。留学生の増加等大学の国際化が進む中、LGBTを始めとする多様性の尊重はますます重要となって来ている。以下幾つかの大学の取り組みを簡単に見ていく。

【名古屋大学】「LGBT等に関する基本理念と対応ガイドライン」を制定し2018年9月に公表。ガイドラインは情報管理、錠業、留学、環境整備等8項目に分類され、それぞれ具体的な方針が示されている。例えば「情報管理」では、学籍簿や証明書、学位等に自認する性に基づく通称名を利用できることや学生向け名簿等の文書には性別欄を外すこと、「授業」では、スポーツ授業での性別グループ分けの有無、身体的接触、合宿等宿泊を伴うイベント等に事前情報明記、等が挙げられている。また予算を伴うトイレや更衣室の改修や拡充を工夫して進める(多目的と入れマップの配布等)こと等も述べられているようである。

 職員についても、先例を参考にしつつ福利厚生や人事制度にも踏み込んでいる。例えば、職員にパートナーがいる場合、自治体の証明書や海外のパートナーシップ契約が確認できる書類があれば、配偶者がいる職員と同様の福利厚生や人事制度の対象となる。

【国際基督教大学】2012年、ジェンダー研究センターが性的少数者の学生向け生活ガイドを発行(現在9版?まで改訂)。16年には位置づけを見直して、名前を「できることガイド」に変え、セクシュアリティの観点から現在利用可能な制度の中で役立つ情報(授乳室の利用方法など)を紹介している。

【筑波大学】「カミングアウト」についての項目を設けている点が特徴で、当事者への支援だけでなく、カミングアウトされたときに周囲がどう対応するかも説明している。さらに「アウティング(カミングアウトの内容の本人の意に反しての暴露)」に対し、「自殺といった最悪の結果を招きかねない」などと厳しい表現を使い、ハラスメントと認定している点も注目に値する。

【京都精華大学】2016年に、異なる境遇や価値観をもつ他者への理解を深め、共助の精神を身につける環境作りに努める「ダイバーシティ推進宣言」を公表。

【早稲田大学】2017年、性的少数者の相談支援、交流、啓発等を行うGS(ジェンダー&セクシュアリティ)センターを設立。

【大阪大学】2017年、性的指向と性自認の多様性と権利を認識し、偏見と差別をなくす啓発活動を行うとする基本方針を提示した。

【お茶の水大学】戸籍上は男性でも性別を女性と認識しているトランスジェンダー学生の入学を20年4月から認めると発表。

 これから大学への進学を考えている高校生の皆さんやその父兄の方々には、入試の偏差値や就職率、もしくは授業料などに加えて、是非色々な大学のハラスメント状況を調べてみてはどうだろうか?各大学のホームページには意外とハラスメント関係の様々な情報が記載されているものである。青春の貴重な一時期に自分自身や友人・子弟が思いがけない悲惨な境遇に陥らないために是非とも事前の情報収集に努め、大学選択の重要基準として活用されることをお勧めします!

*9 LGBT差別禁止 首都圏に広がる 自治体、条例など明文化 (東京新聞 2018/4/23)https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201804/CK2018042302000128.html

*10 様々な性 大学でも支援を キャンパス・セクハラ全国ネット福岡で9月1、2日 教育の場、改善できる点は(西日本新聞、2018/8/17)https://www.nishinippon.co.jp/feature/life_topics/article/441904/

*11 LGBT「大学の連携大切」 筑波大がシンポ 毎日新聞 2018/10/27)

https://mainichi.jp/articles/20181028/ddl/k08/040/084000c

*12 教育の窓 大学にLGBT対応指針 学生生活の具体例明記 (毎日新聞 2018/11/19)https://mainichi.jp/articles/20181119/ddm/013/100/015000c

LGBT差別にまつわるハラスメント (2)

大学等での取り組みや自治体等での条例制定の動き

 まず、以下の最初の記事(*9)によれば、LGBTなど静的少数者への差別禁止や解消を条例で明文化する自治体が首都圏で増えている。2018年4月には、東京都国立市と世田谷区がそれぞれ条例を施行。専門家は「多様性と調和」を掲げる来年の東京五輪が追い風になっているとみているようだ。

 国立市は「女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」で、性的指向や性自認(自分の性への認識)による差別を禁じた上で、「公表の自由が個人の権利として保障される」と明記。加えて「本人の意に反して公にしてはならない」とした。罰則規定は無い。吉田徳史(のりふみ)市長室長は、条例のポイントを「性的指向等のカミングアウトを芝居人の権利も守る条例にしました」と説明する。国立市は前投稿の事件が起きた一橋大学を市内に有する自治体である。

 世田谷区の条例は「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」で、条例が定める基本的施策でも多様な性への理解促進や性的少数者への支援を盛り込んでいるという。また既に、文京区と多摩市でも2013年に性的指向や性自認による差別を禁じた条例が成立している他、渋谷区も「性的少数者への差別禁止」を定めていて、いずれも男女平等や共同参画の条例で、性的少数派に限らず誰もが性別等により差別的な取り扱いを受けないよう求めているのが特徴となっている。文京、豊島両区、千葉市では、条例ではないが、窓口や学校での、当事者対応の配慮点を記述した職員、教員向け対応指針をまとめている。

 都道府県レベルでは、首都圏の9都県市は1昨年12月「性的指向や性自認による偏見や差別の無い社会をめざす」との共通メッセージを発表。東京都にも2018年4月、庁内調整の担当組織が出来たという。国会での法整備は、与野党の溝(理解増進か差別解消か)が大きくその見通しは立っていないようである。東京五輪に絡む単なるブームに終わらせず確実に定着させて行くためには、國や都道府県による法律や制度の整備が強く望まれるところである。

 これに加えて、取り組みが遅れていた全国の様々な大学でも幾つか連携した動きが見受けられる*10-12。

 2018年9月1~2日、大学職員等でつくる「キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク」は福岡県春日市で全国集会を開いた(24回目)。今回の主要テーマは、性的マイノリティであった。1日目は「ライフ・プランニング」をテーマに3人で語る企画が、また2日目には、午前の3つの分科会の後午後からシンポジウム「大学におけるダイバーシティ政策と官製キャリアプラン」がそれぞれ開催された。分科会の一つは「大学における性的マイノリティー支援」をテーマとし、九州大、福岡教育大、佐賀大等の性的少数者の学生サークル(セクマイサークル)メンバーが大学に求める支援等について意見交換した他、全国ネットの九州ブロックが2018年6月に九州・沖縄の大学や短大113校を対象に実施した、性的マイノリティーの学生支援に関する調査結果も報告した。

 今年の全国集会の事務局は「社会での性的マイノリティーへの理解が進む中、大学での取り組みは遅れている。当事者の学生が直面する困難は教員が把握しづらいことも多い。セクマイサークルも匿名性が高く活動を維持することが難しい場合が多い」と課題を挙げている。特にシンポジウムでは、高校生等を対象に行政が主導する「ライフ/プランニング」教育が特定に行き方を方向付けかねないと懸念し、多様な性と絡めて自分らしい生き方につなげる方策を語り合うとした。詳しくは上記「全国ネットワーク」のHPを参照されたい。

 ほぼ同時の2018年10月、筑波大学は大学におけるLGBTなど性的少数者への支援のあり方を考えるシンポジウムを同大東京キャンパスで開催した。同大等5大学の担当者が取り組みを紹介、パネル討論では「良い事例を共有し連携して取り組むことが大事」と確認した。またシンポジウムには、大学や企業の関係者約120人が参加し、筑波大が「当事者の望まない情報暴露をハラスメント(嫌がらせ)と評価する」としたガイドラインの内容を解説した他、早稲田大、お茶飲水女子大、関西学院大、大阪府立大の4大学がそれぞれの取り組みを説明した。その中でお茶の水女子大の副学長は、2020年からの女性自認学生の受け入れ方針に関し「入学資格の「女子」に定義が無いので、学ぶ意欲のある学生を受け入れて多様性を育む」と決断の経緯を説明した。パネル討論では、各大学担当者から「学内で取り組みを進めるには学長等幹部の理解と決定が必要」「良い事柄を共有し各大学が導入することは重要」等の意見が出た模様である。

LGBT差別にまつわるハラスメント (1)

一橋大生のアウティング事件と裁判

 新聞記事等*1-8によれば、事件の概要(事実経過)は大体以下の通りかと思われる。

*2015年4月 一橋法科大学院の男子学生同級生に恋愛感情を告白。

*同年6月   その同級生に、約10人参加のLINEアプリグループに同性愛者だと実名を挙げて書き込まれ、心身に不調をきたす。その後、担当教授やハラスメント相談員らに相談したが、大学はクラス替えなどの対策をせず。

*同年8月24日 講義中にパニック状態になり校舎から転落死。

*2016年    両親は同級生と大学(がアウティングに対し適切な対応を取らなかったとして)に損害賠償を求めて提訴。

*2018年1月  同級生と和解。

*2019年2月27日 東京地裁(鈴木正紀裁判長)請求を棄却。「大学が適切な対応を怠ったとは認められない」(被害を相談した教授について「クラス替えをしなかったことが安全配慮義務に違反するとは言えない」とし、相談員についても「クラス替えの必要性を教授らに進言する義務は無かった」と認定)とした。

 LGBTなど性的マイノリティに対する偏見や差別は、昨年の自民党女性国会議員による極端な差別発言もあって最近やっと可視化され、マスコミ等でも議論の機会が増えてきたが、まだまだ一般的認知度は低い。このような状況の中で、本事件の当事者である一橋大学院生のケースは、他者による本人の同意を得ない同性愛の暴露(アウティング)という形でのセクシャルハラスメントが有名国立大学キャンパス内で発生し、それが悲劇に繋がったものである。

 従来からパワハラ、セクハラが絶えず、多くの(学生)自殺者が出ている大学・研究機関では、当然ながらさらにマイナーな性的少数者差別に関する取り組みはこれまで十分とは言えず、このようなケースの発生は危惧されるところであった。ハラスメントは何らかの差別と結びついている場合が殆どで、特にセクハラでは、差別対象には女性のみでなく性的少数者も含まれ、様々なハラスメントに発展する恐れがある。

 判決後の記者会見で弁護団もコメントしている通り、裁判所は今回何ら本質的な議論(アウティングがなぜ危険なのか、どう対処すべきなのか)に踏み込まず、悲劇を招いた一因である大学の対応を追認した形となった。実際アウティング被害はかなりの規模で日常的に起こっていると推測されるデータもあり(関連民間団体に寄せられた相談件数は2012年3月以降の6年間に110件。信頼する人に告白した結果、周囲に広められ職場に行けなくなる深刻な内容もあった)司法が明確な警鐘を鳴らさない状態は今後重大な事態を次々に招く可能性がある。

*1 同性愛暴露され転落死 一橋大アウティング訴訟 遺族支援者ら明大で集会 (東京新聞 2018/7/21)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201807/CK2018072102000135.html

*2 日本の「当たり前」を問う 同棲弁護士カップルの日常から 今日から渋谷で上映 (東京新聞 2018/9/29)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/metropolitan/list/201809/CK2018092902000169.html

*3 同性愛暴露訴訟、遺族の請求棄却 一橋大生が転落死(共同通信)信https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190227-00000082-kyodonews-soci

*4 アウティング被害後に転落死 一橋大の責任認めず(朝日新聞ディジタル)

https://news.yahoo.co.jp/pickup/6315395

*5 同性愛暴露訴訟 請求棄却 遺族側「本質に踏み込まず」

 (中日新聞 2019/2/28)

*6 社説」同性愛の暴露 尊厳傷つけぬ配慮を (中日新聞 2019/2/28)

*7 大学側の責任認めず 一橋大同性愛暴露訴訟 東京地裁、遺族の請求を棄却 (東京新聞 2019/2/28)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019022802000138.html

*8 LGBT暴露相談110件 アウティング被害深刻 (東京新聞 2019/4/3)

https://www.chunichi.co.jp/s/article/2019040301001826.html

山形大学の“その後” (2)

パワーハラスメント問題

 先に触れた学生への一連のパワハラ事件と並行して推移し、世間を騒がせ呆れさせているのがこの件である。まず経過をかいつまんでみてみると、以下のようになる。

2016/1月    山形大のxEV飯豊研究センター(移動体用蓄電池の産学共同研究センター)、山形大学と山形県飯豊町が山形県飯豊町に整備。出資額は各8億円と7億円。

2017/3-5月   同研究センターの職員3人がセンター長の50代男性教授からパワハラを受けたとして相次いで退職したことが発覚。

2017/5 月~   同大職員組合、センター長の行為を把握しているかどうか、を問う学長宛の質問書を2度提出。これに対し大学側の対応は一貫して冷淡で、告発を無視し続けた。

2017/11月   大学が学内調査に乗り出す(特別対策委員会を設置)。これ以前(10月)に、職員への暴言を記した書置きや張り紙の画像を組合が証拠として公表し、これまでの対応を抜本的に見直すよう求める書面を(大学に)提出。社会的な批判が強まる。

2018/7/24     xEV飯豊研究センター長に減給1万円(1日分給与半額)の懲戒処分を発表。「有り得ない軽さ」と職員組合批判。

2018/8/1        「対策委員会」による2月の聞き取り調査の際、大学側が被害者に、聴取詳細を他言しないことなどを内容とする誓約書への署名を迫った(口止めを強要した)ことが判明。職員組合発表。

2018/9/6       小山学長は、定例記者会見で「(飯塚博)工学部長の(職員組合からパワハラを裏付ける資料を受け取っていながら、大学本部への報告や事実確認等をしなかった)対応は適切」との認識示す。

 この経過をたどるだけでも、学生に対するパワハラ事案に勝るとも劣らぬ迷走ぶりである。特徴的なことは、

a) 最優先になっているのは、ハラスメント被害者の救済でなく、地域と文部科学省に対する大学のメンツであり、そのために加害者を陳腐なまでに防衛する姿勢が顕著なこと。

b) 処分は学内規定によった、ということらしいが、準用したセクハラの規定のうち軽い方を適用しかつその中で最も軽い処分としていること。これは果たして実質的な処分なのか?

2)発覚-調査-処分という一連の流れの中で、被害者への謝罪や補償が一切行われていない上、事情聴取の口止め等まで行おうとしていること。特に「口止め」はさらなる人権侵害に当たる。被害者が同僚や弁護士にさえ相談できなくなり一層孤立化する。

3)職員組合も指摘しているように、ハラスメント防止体制の整備、見直し・再構築等が一連の諸事案を経た前後で極めて不十分で、様々なハラスメントの温床が依然として放置されたままであること。

 もし昨年9月の時点で、事件を「終息」としているなら、学生や父兄だけでなく、地域社会も到底納得していないのではと思われる。事ここに至って、今後の本プロジェクトの大々的発展は本当にあり得るのだろうか?センター長はこの分野の実績を買われ、企業から大学へ移った人材である。企業と大学との人的交流は、基本的には進められるべきであり、実際閉鎖社会である大学に新風を吹き込み新しい化学反応が起きている例も多くある。また、一部では企業人の方がいわゆる「世間的常識」があり、ハラスメントについても外面を気にする企業風土で育った故に意識も高い、という見方もある。しかしながら個々のケースでは必ずしもそうではない。大学も、特に組織の将来をかけたキーパーソン(理事等の役員も含まれる)を外部から招へいする場合には、専門分野の実績に加え、やはりハラスメント歴(現在は“評判”でも法律が出来れば犯歴?)についての「身体検査」が不可欠な時代になっているのではないだろうか?

山形大学の“その後” (1)

 河北新報の昨年の一連の記事*によると、本ブログのハラスメント資料、大学生の自殺について(3)-1~3で取り上げた山形大学の“その後”についておよそ次のような現状であることが分かった。まず事実経過を確認する。

*https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201807/20180724_53006.html, 201808/20180802_53010.html, 201809/20180907_53008.html

https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201810/20181006_53041.html, 20181007_53019.html, 20181008_53020.html

https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201811/20181114_53047.html, 20181115_53011.html

  • アカデミックハラスメントによる学生の自殺の問題

 まず事実経過の確認をする。

2015/11月       工学部4年生の男子学生が自殺

2016/6月        第三者委員会、指導教員の助教によるアカハラと自殺の因果関を 認める報告書を作成。

2017/5月        両親は、大学と助教に計約1億1900万円の損害賠償請求訴訟を山形地裁に起こす。

2018/11/14,15    遺族、同自殺訴訟で大学側と和解(山形地裁)。翌日、工学部長は訴訟和解の説明を拒否。

 この問題については、既に本ブログで取り上げているので(ハラスメント資料、大学生の自殺について(3)-1~3)詳細はそちらを参照して頂きたいが、最大の問題は、17年7月の第1回口頭弁論で遺族が証拠提出した上記第3者委員会の報告書について、大学側は答弁書で「第3者委員会の調査結果はそのまま大学の判断となるわけではない」と反論したことであろう。これは、自ら依頼した調査の結果さえ認めないという矛盾をさらしつつ賠償責任を逃れようとした呆れた姿勢である。第1回口頭弁論の後初めて8月に開かれた学長の定例記者会見では、自殺した学生の両親への思いを問われ「一般論としては申し訳ない。裁判の話とは別個に申し訳ないと思っている」と述べている。どうして「裁判の話とは別個」になるのか本当に理解に苦しむ。

 昨年11月の和解の容は明らかにされていないが、公判当初大学が示したこのような姿勢と関連して、和解に際してのなんらかの説明(責任を認め賠償金を払ったこと等)は最低限必要なのではないだろうか? 国立大学という税金で運営されている最高学府の姿勢としては、地域住民・国民に対する説明責任は当然で、論理的・倫理的にも破綻した不誠実極まりない対応と言うべきであろう。

 ちなみに、2016年10月加害者の助教には停職1か月の懲戒処分がなされている(処分の際当該学生の自殺は公表していない)が、現在も在職中であるらしい。また、学生へのパワハラ事件はこの事件後も頻発していて、現在までに少なくとも4名の自殺者が出ている。これは2015年の事件が教訓化されることなく再発防止策も殆ど奏功していない状況が続いていることを示唆しているのではないだろうか。