LGBT差別にまつわるハラスメント (4)

現場では?現状と具体的な対処方法

 名古屋大学の「ガイドライン」を当事者はどう受け止めているのか?記事*12によると、例えば学内の性的少数者の交流サークルの1メンバーは「これまで方針を示すものが何も無かったので、形になったことは意味があるし、自分達の存在が認められたようで嬉しい」と評価している。中でも改善を求めていた健康診断の受診方法については、個別対応できることがホームページに明記され既に実施されたということである。

 一方で注文としては「ガイドラインにはやたらと「相談できます」等の文言が並ぶが、これまで相談員の無理解にがっかりして来たメンバーは少なくない。教職員の研修や学生の啓発等を盛り込んで欲しい」という意見や「ハード面の対応を必要とするT(トランンスジェンダー)に対してはきめ細かいがLGB(同性愛者)への配慮に触れた部分が少ない。アウティング防止策をもっと考えて欲しい」という訴えもあるようだ。

 実際記事*13では、様々な具体的なアウティング被害の体験が紹介されている。信頼し心を許していた周りの人間の一人が、(例えば、LGB当事者だから守ってあげて欲しいなどと)善かれと思ってやったことが、本人には極めて大きい諸オックであることが多い一方で、周囲には当事者間の問題として距離を置かれやすいという側面もあり、性暴力と構造が似ているという指摘もある。

 人気はあるがそれ故に人権感覚が麻痺している芸人らにより、未だに笑いのネタにされることも多いLGBT問題であるが故に、意図的なアウティングによるいじめや侮辱(ハラスメント)に至らなくとも、想定外のカミングアウトへの戸惑いなどから誰かに話してしまうことも起こりがちであるようだ。

 それではカミングアウトされたらどうすれば良いのだろうか?これに対する答えが、やはり記事*13に名各区に記述されている。以下に再掲する:

カミングアウトを受け止める心構え

  • 信頼して話してくれたことに感謝を示す
  • (恋愛感情の告白を伴う場合)相手が恋愛対象か対象外なのかはっきり伝える
  • わかったふり、なかったことにはしない。知りたいことは率直に聞いてみる
  • 本人の了解なく相手の生活圏内の人に話さない
  • 不安があれば、双方が信頼できる人に同席してもらい、相手と話し合う
  • 一人で抱えきれなくなったら、守秘義務のある専門窓口に相談する

(原ミナ汰さんによる)

 私自身はこれらのルールが最も腑に落ち解りやすいという印象を持ちましたが、皆様はどうでしょうか?考えてみると、これらは男女間の異性愛の場合や広くは人と人との関係でも全く同じで、相手ときちんと対話して信頼して打ち明けられたことはその人の許可なく他人に言わない、という凄く当たり前のこと(人権意識)ではないでしょうか?この意味で、教育の場などで教員から生徒や学生にカミングアウトする試み*14は色々な意味で大変勇気がいることである上に、単なる教育効果を越えた周りの人への波及力があり、大いに尊敬に値すると考えます。ごく自然にそういう機会を選択できる社会を1日でも早く作って行きたいと思います。

 最後に、一橋大学事件を担当されているナンモリ法律事務所のHP(http://www.nanmori-law.jp)も是非 訪れてみて下さい。裁判に関する詳しい経過・資料等にアクセスできます。

*13 <アウティング無き社会へ>(上)(中)(下)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021702000147.html

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021802000109.html

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021902000129.html

*14教育の窓 先生からのカミングアウト LGBT、理解へ繋ぐ (毎日新聞 2019/12/3)https://mainichi.jp/articles/20181203/ddm/013/100/019000c

LGBT差別にまつわるハラスメント (3)

各大学におけるLGBT対応指針

 こうした動きを背景に、LGBTなど性的少数者の学生への対応についてガイドラインを策定する大学が増えている。学籍簿の名前の扱い、トイレの使用、就職支援など学生生活に関わる幅広い分野で具体的な対応策を示し、セクシュアルティー(性のあり方全般)を理由とする差別や不利益をなくすのが狙いである。留学生の増加等大学の国際化が進む中、LGBTを始めとする多様性の尊重はますます重要となって来ている。以下幾つかの大学の取り組みを簡単に見ていく。

【名古屋大学】「LGBT等に関する基本理念と対応ガイドライン」を制定し2018年9月に公表。ガイドラインは情報管理、錠業、留学、環境整備等8項目に分類され、それぞれ具体的な方針が示されている。例えば「情報管理」では、学籍簿や証明書、学位等に自認する性に基づく通称名を利用できることや学生向け名簿等の文書には性別欄を外すこと、「授業」では、スポーツ授業での性別グループ分けの有無、身体的接触、合宿等宿泊を伴うイベント等に事前情報明記、等が挙げられている。また予算を伴うトイレや更衣室の改修や拡充を工夫して進める(多目的と入れマップの配布等)こと等も述べられているようである。

 職員についても、先例を参考にしつつ福利厚生や人事制度にも踏み込んでいる。例えば、職員にパートナーがいる場合、自治体の証明書や海外のパートナーシップ契約が確認できる書類があれば、配偶者がいる職員と同様の福利厚生や人事制度の対象となる。

【国際基督教大学】2012年、ジェンダー研究センターが性的少数者の学生向け生活ガイドを発行(現在9版?まで改訂)。16年には位置づけを見直して、名前を「できることガイド」に変え、セクシュアリティの観点から現在利用可能な制度の中で役立つ情報(授乳室の利用方法など)を紹介している。

【筑波大学】「カミングアウト」についての項目を設けている点が特徴で、当事者への支援だけでなく、カミングアウトされたときに周囲がどう対応するかも説明している。さらに「アウティング(カミングアウトの内容の本人の意に反しての暴露)」に対し、「自殺といった最悪の結果を招きかねない」などと厳しい表現を使い、ハラスメントと認定している点も注目に値する。

【京都精華大学】2016年に、異なる境遇や価値観をもつ他者への理解を深め、共助の精神を身につける環境作りに努める「ダイバーシティ推進宣言」を公表。

【早稲田大学】2017年、性的少数者の相談支援、交流、啓発等を行うGS(ジェンダー&セクシュアリティ)センターを設立。

【大阪大学】2017年、性的指向と性自認の多様性と権利を認識し、偏見と差別をなくす啓発活動を行うとする基本方針を提示した。

【お茶の水大学】戸籍上は男性でも性別を女性と認識しているトランスジェンダー学生の入学を20年4月から認めると発表。

 これから大学への進学を考えている高校生の皆さんやその父兄の方々には、入試の偏差値や就職率、もしくは授業料などに加えて、是非色々な大学のハラスメント状況を調べてみてはどうだろうか?各大学のホームページには意外とハラスメント関係の様々な情報が記載されているものである。青春の貴重な一時期に自分自身や友人・子弟が思いがけない悲惨な境遇に陥らないために是非とも事前の情報収集に努め、大学選択の重要基準として活用されることをお勧めします!

*9 LGBT差別禁止 首都圏に広がる 自治体、条例など明文化 (東京新聞 2018/4/23)https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201804/CK2018042302000128.html

*10 様々な性 大学でも支援を キャンパス・セクハラ全国ネット福岡で9月1、2日 教育の場、改善できる点は(西日本新聞、2018/8/17)https://www.nishinippon.co.jp/feature/life_topics/article/441904/

*11 LGBT「大学の連携大切」 筑波大がシンポ 毎日新聞 2018/10/27)

https://mainichi.jp/articles/20181028/ddl/k08/040/084000c

*12 教育の窓 大学にLGBT対応指針 学生生活の具体例明記 (毎日新聞 2018/11/19)https://mainichi.jp/articles/20181119/ddm/013/100/015000c

LGBT差別にまつわるハラスメント (2)

大学等での取り組みや自治体等での条例制定の動き

 まず、以下の最初の記事(*9)によれば、LGBTなど静的少数者への差別禁止や解消を条例で明文化する自治体が首都圏で増えている。2018年4月には、東京都国立市と世田谷区がそれぞれ条例を施行。専門家は「多様性と調和」を掲げる来年の東京五輪が追い風になっているとみているようだ。

 国立市は「女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」で、性的指向や性自認(自分の性への認識)による差別を禁じた上で、「公表の自由が個人の権利として保障される」と明記。加えて「本人の意に反して公にしてはならない」とした。罰則規定は無い。吉田徳史(のりふみ)市長室長は、条例のポイントを「性的指向等のカミングアウトを芝居人の権利も守る条例にしました」と説明する。国立市は前投稿の事件が起きた一橋大学を市内に有する自治体である。

 世田谷区の条例は「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」で、条例が定める基本的施策でも多様な性への理解促進や性的少数者への支援を盛り込んでいるという。また既に、文京区と多摩市でも2013年に性的指向や性自認による差別を禁じた条例が成立している他、渋谷区も「性的少数者への差別禁止」を定めていて、いずれも男女平等や共同参画の条例で、性的少数派に限らず誰もが性別等により差別的な取り扱いを受けないよう求めているのが特徴となっている。文京、豊島両区、千葉市では、条例ではないが、窓口や学校での、当事者対応の配慮点を記述した職員、教員向け対応指針をまとめている。

 都道府県レベルでは、首都圏の9都県市は1昨年12月「性的指向や性自認による偏見や差別の無い社会をめざす」との共通メッセージを発表。東京都にも2018年4月、庁内調整の担当組織が出来たという。国会での法整備は、与野党の溝(理解増進か差別解消か)が大きくその見通しは立っていないようである。東京五輪に絡む単なるブームに終わらせず確実に定着させて行くためには、國や都道府県による法律や制度の整備が強く望まれるところである。

 これに加えて、取り組みが遅れていた全国の様々な大学でも幾つか連携した動きが見受けられる*10-12。

 2018年9月1~2日、大学職員等でつくる「キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク」は福岡県春日市で全国集会を開いた(24回目)。今回の主要テーマは、性的マイノリティであった。1日目は「ライフ・プランニング」をテーマに3人で語る企画が、また2日目には、午前の3つの分科会の後午後からシンポジウム「大学におけるダイバーシティ政策と官製キャリアプラン」がそれぞれ開催された。分科会の一つは「大学における性的マイノリティー支援」をテーマとし、九州大、福岡教育大、佐賀大等の性的少数者の学生サークル(セクマイサークル)メンバーが大学に求める支援等について意見交換した他、全国ネットの九州ブロックが2018年6月に九州・沖縄の大学や短大113校を対象に実施した、性的マイノリティーの学生支援に関する調査結果も報告した。

 今年の全国集会の事務局は「社会での性的マイノリティーへの理解が進む中、大学での取り組みは遅れている。当事者の学生が直面する困難は教員が把握しづらいことも多い。セクマイサークルも匿名性が高く活動を維持することが難しい場合が多い」と課題を挙げている。特にシンポジウムでは、高校生等を対象に行政が主導する「ライフ/プランニング」教育が特定に行き方を方向付けかねないと懸念し、多様な性と絡めて自分らしい生き方につなげる方策を語り合うとした。詳しくは上記「全国ネットワーク」のHPを参照されたい。

 ほぼ同時の2018年10月、筑波大学は大学におけるLGBTなど性的少数者への支援のあり方を考えるシンポジウムを同大東京キャンパスで開催した。同大等5大学の担当者が取り組みを紹介、パネル討論では「良い事例を共有し連携して取り組むことが大事」と確認した。またシンポジウムには、大学や企業の関係者約120人が参加し、筑波大が「当事者の望まない情報暴露をハラスメント(嫌がらせ)と評価する」としたガイドラインの内容を解説した他、早稲田大、お茶飲水女子大、関西学院大、大阪府立大の4大学がそれぞれの取り組みを説明した。その中でお茶の水女子大の副学長は、2020年からの女性自認学生の受け入れ方針に関し「入学資格の「女子」に定義が無いので、学ぶ意欲のある学生を受け入れて多様性を育む」と決断の経緯を説明した。パネル討論では、各大学担当者から「学内で取り組みを進めるには学長等幹部の理解と決定が必要」「良い事柄を共有し各大学が導入することは重要」等の意見が出た模様である。

LGBT差別にまつわるハラスメント (1)

一橋大生のアウティング事件と裁判

 新聞記事等*1-8によれば、事件の概要(事実経過)は大体以下の通りかと思われる。

*2015年4月 一橋法科大学院の男子学生同級生に恋愛感情を告白。

*同年6月   その同級生に、約10人参加のLINEアプリグループに同性愛者だと実名を挙げて書き込まれ、心身に不調をきたす。その後、担当教授やハラスメント相談員らに相談したが、大学はクラス替えなどの対策をせず。

*同年8月24日 講義中にパニック状態になり校舎から転落死。

*2016年    両親は同級生と大学(がアウティングに対し適切な対応を取らなかったとして)に損害賠償を求めて提訴。

*2018年1月  同級生と和解。

*2019年2月27日 東京地裁(鈴木正紀裁判長)請求を棄却。「大学が適切な対応を怠ったとは認められない」(被害を相談した教授について「クラス替えをしなかったことが安全配慮義務に違反するとは言えない」とし、相談員についても「クラス替えの必要性を教授らに進言する義務は無かった」と認定)とした。

 LGBTなど性的マイノリティに対する偏見や差別は、昨年の自民党女性国会議員による極端な差別発言もあって最近やっと可視化され、マスコミ等でも議論の機会が増えてきたが、まだまだ一般的認知度は低い。このような状況の中で、本事件の当事者である一橋大学院生のケースは、他者による本人の同意を得ない同性愛の暴露(アウティング)という形でのセクシャルハラスメントが有名国立大学キャンパス内で発生し、それが悲劇に繋がったものである。

 従来からパワハラ、セクハラが絶えず、多くの(学生)自殺者が出ている大学・研究機関では、当然ながらさらにマイナーな性的少数者差別に関する取り組みはこれまで十分とは言えず、このようなケースの発生は危惧されるところであった。ハラスメントは何らかの差別と結びついている場合が殆どで、特にセクハラでは、差別対象には女性のみでなく性的少数者も含まれ、様々なハラスメントに発展する恐れがある。

 判決後の記者会見で弁護団もコメントしている通り、裁判所は今回何ら本質的な議論(アウティングがなぜ危険なのか、どう対処すべきなのか)に踏み込まず、悲劇を招いた一因である大学の対応を追認した形となった。実際アウティング被害はかなりの規模で日常的に起こっていると推測されるデータもあり(関連民間団体に寄せられた相談件数は2012年3月以降の6年間に110件。信頼する人に告白した結果、周囲に広められ職場に行けなくなる深刻な内容もあった)司法が明確な警鐘を鳴らさない状態は今後重大な事態を次々に招く可能性がある。

*1 同性愛暴露され転落死 一橋大アウティング訴訟 遺族支援者ら明大で集会 (東京新聞 2018/7/21)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201807/CK2018072102000135.html

*2 日本の「当たり前」を問う 同棲弁護士カップルの日常から 今日から渋谷で上映 (東京新聞 2018/9/29)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/metropolitan/list/201809/CK2018092902000169.html

*3 同性愛暴露訴訟、遺族の請求棄却 一橋大生が転落死(共同通信)信https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190227-00000082-kyodonews-soci

*4 アウティング被害後に転落死 一橋大の責任認めず(朝日新聞ディジタル)

https://news.yahoo.co.jp/pickup/6315395

*5 同性愛暴露訴訟 請求棄却 遺族側「本質に踏み込まず」

 (中日新聞 2019/2/28)

*6 社説」同性愛の暴露 尊厳傷つけぬ配慮を (中日新聞 2019/2/28)

*7 大学側の責任認めず 一橋大同性愛暴露訴訟 東京地裁、遺族の請求を棄却 (東京新聞 2019/2/28)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019022802000138.html

*8 LGBT暴露相談110件 アウティング被害深刻 (東京新聞 2019/4/3)

https://www.chunichi.co.jp/s/article/2019040301001826.html

山形大学の“その後” (2)

パワーハラスメント問題

 先に触れた学生への一連のパワハラ事件と並行して推移し、世間を騒がせ呆れさせているのがこの件である。まず経過をかいつまんでみてみると、以下のようになる。

2016/1月    山形大のxEV飯豊研究センター(移動体用蓄電池の産学共同研究センター)、山形大学と山形県飯豊町が山形県飯豊町に整備。出資額は各8億円と7億円。

2017/3-5月   同研究センターの職員3人がセンター長の50代男性教授からパワハラを受けたとして相次いで退職したことが発覚。

2017/5 月~   同大職員組合、センター長の行為を把握しているかどうか、を問う学長宛の質問書を2度提出。これに対し大学側の対応は一貫して冷淡で、告発を無視し続けた。

2017/11月   大学が学内調査に乗り出す(特別対策委員会を設置)。これ以前(10月)に、職員への暴言を記した書置きや張り紙の画像を組合が証拠として公表し、これまでの対応を抜本的に見直すよう求める書面を(大学に)提出。社会的な批判が強まる。

2018/7/24     xEV飯豊研究センター長に減給1万円(1日分給与半額)の懲戒処分を発表。「有り得ない軽さ」と職員組合批判。

2018/8/1        「対策委員会」による2月の聞き取り調査の際、大学側が被害者に、聴取詳細を他言しないことなどを内容とする誓約書への署名を迫った(口止めを強要した)ことが判明。職員組合発表。

2018/9/6       小山学長は、定例記者会見で「(飯塚博)工学部長の(職員組合からパワハラを裏付ける資料を受け取っていながら、大学本部への報告や事実確認等をしなかった)対応は適切」との認識示す。

 この経過をたどるだけでも、学生に対するパワハラ事案に勝るとも劣らぬ迷走ぶりである。特徴的なことは、

a) 最優先になっているのは、ハラスメント被害者の救済でなく、地域と文部科学省に対する大学のメンツであり、そのために加害者を陳腐なまでに防衛する姿勢が顕著なこと。

b) 処分は学内規定によった、ということらしいが、準用したセクハラの規定のうち軽い方を適用しかつその中で最も軽い処分としていること。これは果たして実質的な処分なのか?

2)発覚-調査-処分という一連の流れの中で、被害者への謝罪や補償が一切行われていない上、事情聴取の口止め等まで行おうとしていること。特に「口止め」はさらなる人権侵害に当たる。被害者が同僚や弁護士にさえ相談できなくなり一層孤立化する。

3)職員組合も指摘しているように、ハラスメント防止体制の整備、見直し・再構築等が一連の諸事案を経た前後で極めて不十分で、様々なハラスメントの温床が依然として放置されたままであること。

 もし昨年9月の時点で、事件を「終息」としているなら、学生や父兄だけでなく、地域社会も到底納得していないのではと思われる。事ここに至って、今後の本プロジェクトの大々的発展は本当にあり得るのだろうか?センター長はこの分野の実績を買われ、企業から大学へ移った人材である。企業と大学との人的交流は、基本的には進められるべきであり、実際閉鎖社会である大学に新風を吹き込み新しい化学反応が起きている例も多くある。また、一部では企業人の方がいわゆる「世間的常識」があり、ハラスメントについても外面を気にする企業風土で育った故に意識も高い、という見方もある。しかしながら個々のケースでは必ずしもそうではない。大学も、特に組織の将来をかけたキーパーソン(理事等の役員も含まれる)を外部から招へいする場合には、専門分野の実績に加え、やはりハラスメント歴(現在は“評判”でも法律が出来れば犯歴?)についての「身体検査」が不可欠な時代になっているのではないだろうか?

山形大学の“その後” (1)

 河北新報の昨年の一連の記事*によると、本ブログのハラスメント資料、大学生の自殺について(3)-1~3で取り上げた山形大学の“その後”についておよそ次のような現状であることが分かった。まず事実経過を確認する。

*https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201807/20180724_53006.html, 201808/20180802_53010.html, 201809/20180907_53008.html

https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201810/20181006_53041.html, 20181007_53019.html, 20181008_53020.html

https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201811/20181114_53047.html, 20181115_53011.html

  • アカデミックハラスメントによる学生の自殺の問題

 まず事実経過の確認をする。

2015/11月       工学部4年生の男子学生が自殺

2016/6月        第三者委員会、指導教員の助教によるアカハラと自殺の因果関を 認める報告書を作成。

2017/5月        両親は、大学と助教に計約1億1900万円の損害賠償請求訴訟を山形地裁に起こす。

2018/11/14,15    遺族、同自殺訴訟で大学側と和解(山形地裁)。翌日、工学部長は訴訟和解の説明を拒否。

 この問題については、既に本ブログで取り上げているので(ハラスメント資料、大学生の自殺について(3)-1~3)詳細はそちらを参照して頂きたいが、最大の問題は、17年7月の第1回口頭弁論で遺族が証拠提出した上記第3者委員会の報告書について、大学側は答弁書で「第3者委員会の調査結果はそのまま大学の判断となるわけではない」と反論したことであろう。これは、自ら依頼した調査の結果さえ認めないという矛盾をさらしつつ賠償責任を逃れようとした呆れた姿勢である。第1回口頭弁論の後初めて8月に開かれた学長の定例記者会見では、自殺した学生の両親への思いを問われ「一般論としては申し訳ない。裁判の話とは別個に申し訳ないと思っている」と述べている。どうして「裁判の話とは別個」になるのか本当に理解に苦しむ。

 昨年11月の和解の容は明らかにされていないが、公判当初大学が示したこのような姿勢と関連して、和解に際してのなんらかの説明(責任を認め賠償金を払ったこと等)は最低限必要なのではないだろうか? 国立大学という税金で運営されている最高学府の姿勢としては、地域住民・国民に対する説明責任は当然で、論理的・倫理的にも破綻した不誠実極まりない対応と言うべきであろう。

 ちなみに、2016年10月加害者の助教には停職1か月の懲戒処分がなされている(処分の際当該学生の自殺は公表していない)が、現在も在職中であるらしい。また、学生へのパワハラ事件はこの事件後も頻発していて、現在までに少なくとも4名の自殺者が出ている。これは2015年の事件が教訓化されることなく再発防止策も殆ど奏功していない状況が続いていることを示唆しているのではないだろうか。

北大総長にパワハラ疑惑!?

 2019年2月の「財界さっぽろ」の記事*によれば、昨年12月21日の北海道新聞のベタ記事**には重い意味が含まれていたという。背景には「名和総長からパワハラ行為を受けたと複数の職員が主張し、大きな問題になっている」情報があったという。

 この記事を参考に、以下にこの件に関する経過をまとめてみよう。なおこの記事は「財界さっぽろ」の記者が複数の大学OBや関係者から得たとする情報等に基づいている。

2017年4  名和豊春氏***第19代の総長に就任(任期6年)。

就任後は、経済界と積極的に交流を重ね母校をPRするだけでなく、外部との協力関係の構築にも力を注ぎ、改革に陣頭に立つトップというイメージであった(記者の印象)。

2018年3月頃 大学事務局内でパワハラ疑惑がささやかれ始める。「航空会社から抗議を受けた」とか「公用車の利用方法が不適切だ」とか、そういう話まで出てきたようである。

2018年秋   学外に噂として漏れ始め、複数の有力OBに騒動が伝わる。これらOBの中に色々アクションを起こす人がいたり、名和氏本人も親しいOBに相談したり弁護士の意見を聞いたりしていたようである。しかし関係者の努力もむなしく、解決には至らなかった。

2018年10月頃 学内では「一旦休養してもらい副学長を職務代理に据えるしかない」といった案や「解任せざるを得ない」といった主張もあったらしい。

そんな中混乱を憂慮した総長選考委員会のメンバーが動き、その提案を受け、弁護士らで構成された第3者委員会が発足したという。1月時点での取材に対し北大総務課は、第3者委員会の有無・目的について「現時点ではお答えできません」としているが、既に委員会は関係者の聞き取り調査を始めていて、早ければ1月中にも結論を出すという方向であるらしい。既に3月も過ぎようとしているが、今現在特に発表等はまだ無いようである。

 本事案の背景として、名和総長が選ばれた2016年の総長選挙****のしこりを指摘する向きもある。その際名和氏は、前総長が打ち出した大幅な人件費削減を批判したが、意向調査で前総長を大きく上回る票を獲得したものの、選考委員会では多数決の末僅差で選ばれているらしい。

この点は、名門旧帝国大学の総長としての資質に疑問を感じる委員がいて委員会で議論になった可能性を示唆する。実際われわれの伝聞では、本人のパワハラ発覚以前に学内の多くのハラスメント事案を握り潰していた(もともと人権意識が希薄なハラスメント体質?)という噂も聞く。学生院生の教育を担い、高い理性と倫理性に元づく公明・公平な判断が社会的にも要請される大学・高等教育機関のトップや執行部にこのような人物がなれてしまう(構成員の教育者・研究者が選んでしまう)ところに、日本社会の人権意識に関する深刻な意味での「遅れ」を痛感せざるを得ない。現在日本の大学執行部メンバーでハラスメントに関して自信をもって潔白を主張できる方々はどれほどおられるであろうか?#Me too運動がいま日本で(とりわけ大学で)もっと盛んになったらヤバい方が多くないことを祈りたいところである。もはや、大学の執行部をめざす教職員にも政治家と同じく、研究面(研究実績の他に論文ねつ造、研究費不適切使用等)や教育面(学生教育、院生育成の実績に加え、特にハラスメント等)に関し「身体検査」を義務付ける時期に来ているのではないだろうか?。

*https://www.zaikaisapporo.co.jp/wp-content/cache/all//index.htm

**「北大学長が体調不良 代理に笠原副学長」

18日付で学内の各部署に通知が出され、「当分の間」副学長が職務代理を務めるとされている。https://www.hokkaido-np.co.jp/article/260639

***1954年生まれ。北大工学部で建築工学を専攻、同大学院も修了して入社した秩父セメントでは、研究職として実績を残す。その後助教授として母校に戻り工学部長などを歴任。

****国立大学の多くでは、教職員(必ずしも全員でない)対象の意向調査結果(投票)を参考に、学外のメンバーも参加する選考委員会で総長候補者を決定する、という方式を採用していることが多い。「投票」の結果が選考委員会で覆されることもある。

愛知教育大学でパワハラ 50代男性教授を懲戒処分

 中京テレビのニュースを引用したyahoo newsの記事*によれば、この2月20日、愛知教育大学(愛知県刈谷市)の50代の男性教授が学生へのハラスメント行為で、停職6週間の懲戒処分を受けたということです。

 男性教授は、2017年、複数の学生に対し、指導に従わなかったなどとして罰金を要求したり強く怒鳴ったりしていたほか、パンの購入を要求したり、本人の了解無く他の学生に個人情報を話したりしていたらしい。大学の調べに対し教授は「深く反省している」と話しているということです。

 愛知教育大学と言えば、愛知県、広くは東海地方一円に、初等中等教育の教員を長く多数輩出してきている大学である。それにしては、今回のハラスメント事案は結構稚拙で、教員養成課程の教育者としてはその資質が疑われざるを得ない気がする。ハラスメントによる精神的苦痛が余り無かったのか、処分が著しく軽いことが気になる。

 大学のホームページを見てみると、キャンパスライフ>学生生活案内のところに「ハラスメントの防止」という項目があり、ガイドラインと相談窓口についての比較的丁寧で具体的な解説・案内がある。「ガイドライン」などは2006年前後に制定されたようであるが、今日に至るまでの具体的な取り組みの経過はよく解らない。この件についての大学の公式な発表も見つけることができなかった。

*https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190220-00010013-sp_ctvl23

早大でまた教授解任、学生にセクハラ、職員へのパワハラも

 産経新聞の記事*によれば、早稲田大学は2月15日、学生へのセクハラや職員へのパワハラを続けていたとして、商学学術院の50代男性教授を同日付で解任したとして発表した。

男性教授は事実関係を認め「ハラスメント行為をして反省している」とはなしたという。

 早大によると、男性教授は平成27-29年、自分のゼミで複数の学生に対する性的発言や身体接触などのセクハラ行為を繰り返し精神的苦痛を与えた。また並行して25-30年には、複数の大学職員を大声で罵るなどのパワハラ行為をしていたということである。2018年5月、被害を受けた学生から大学側に訴えがあり発覚。調査の過程で職員への行為も判明したらしい。

*https://www.sankei.com/smp/affairs/news/190215/afr1902150042-s1.html

 このブログでも取り上げたが、早大は昨年7月にも、教え子の女性にセクハラをしたとして60代の男性教授を解任している。早大は「再発防止に向けた取り組みを一層強化する」としているが、これらの事案に現れている「ハラスメント体質」はかなり根深いものがあるのではないか。今後、真の「再発防止に向けた取り組み」が問われることになりそうである。以下に大学当局による公開文書(Information)を転記する。

2019年2月15日 早稲田大学

教員の解任について

本学学術院の男性教員1名を2月15日付で解任といたしました。

解任理由

当該教員について、以下の非違行為があり、教員としての適格性を著しく欠いていると判断したため。

1.不適切な言動や行為により、複数の職員に対して精神的苦痛を与え、業務遂行を著しく阻害するパワーハラスメント行為を行っていたこと。

2. 不適切な言動や行為により、精神的苦痛を与え、複数の学生の就学環境を悪化させたなどのアカデミックハラスメント及びセクシャルハラスメント行為を行っていたこと。

3. 教員としての責務を十分に果たしておらず、職務への誠実さを著しく欠いていること。

根拠規程

教員任免規則第29条第1項第4号および教員の表彰及び懲戒に関する規程第13条第1項

本学の対応

 被害を受けた学生の就学環境を悪化させ、多大な苦痛を与えたアカデミックハラスメントおよびセクシャルハラスメント行為が発生したこと、そして、職員の業務遂行を著しく阻害するパワーハラスメント行為が発生したことは誠に遺憾であり、被害を受けた学生、職員そして関係者の皆様に深くお詫び申し上げます。

 また、本学はこの事案を真摯に受け止め、ハラスメントに関する啓発活動をさらに徹底するとともに、箇所ごとにハラスメント研修を行うなど、再発防止に向けた取り組みを一層強化してまいります。

公立大学でのハラスメント (2)

横浜市立大学

 東京新聞*によれば、昨年2018年3月、横浜市立大学は、アカデミックハラスメントを繰り返したとして、国際総合科学部の50代男性教授を停職2カ月の懲戒処分にしたと発表している。またその前年2017年8月には、別の同学部50代男性教授がやはりアカハラで停職3カ月(その後不服申し立てにより2カ月に変更)の懲戒処分を受けている。

 今回の加害者は、2017年2-8月、20代の女子学生4人に、能力を否定するような発言をしたり、自らの学生時代を引き合いに出し「夜遅くまで研究するように」と指導したりした。10月に学内ハラスメント防止委員会に学生から被害申し立てがあった。この教授には過去にも複数回同様の相談があった。

 横浜市立大学は、処分についての記者発表概要が公表されており今でもHPで閲覧できる。参考のためコピーを引用する。

発表文書1

 また「ハラスメントの防止に関する規定」や「ガイドライン」が平成17年(2005年)にそれぞれ施行、制定されており、内容的にもかなりしっかりしていて、それに連動してハラスメント防止委員会がある程度機能していることが窺える。

*http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201803/CK2018032002000122.html

北九州市立大学

 5年前の平成26年(2014年)11月、1件の懲戒処分を発表している。地域創生学群の50代男性教授で、「学生に対し威圧的な指導を長期間、継続的に行った」などの理由で、1カ月 の停職処分を受けている。発表文書を添付する。

発表文書2