山形大学の“その後” (1)

 河北新報の昨年の一連の記事*によると、本ブログのハラスメント資料、大学生の自殺について(3)-1~3で取り上げた山形大学の“その後”についておよそ次のような現状であることが分かった。まず事実経過を確認する。

*https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201807/20180724_53006.html, 201808/20180802_53010.html, 201809/20180907_53008.html

https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201810/20181006_53041.html, 20181007_53019.html, 20181008_53020.html

https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201811/20181114_53047.html, 20181115_53011.html

  • アカデミックハラスメントによる学生の自殺の問題

 まず事実経過の確認をする。

2015/11月       工学部4年生の男子学生が自殺

2016/6月        第三者委員会、指導教員の助教によるアカハラと自殺の因果関を 認める報告書を作成。

2017/5月        両親は、大学と助教に計約1億1900万円の損害賠償請求訴訟を山形地裁に起こす。

2018/11/14,15    遺族、同自殺訴訟で大学側と和解(山形地裁)。翌日、工学部長は訴訟和解の説明を拒否。

 この問題については、既に本ブログで取り上げているので(ハラスメント資料、大学生の自殺について(3)-1~3)詳細はそちらを参照して頂きたいが、最大の問題は、17年7月の第1回口頭弁論で遺族が証拠提出した上記第3者委員会の報告書について、大学側は答弁書で「第3者委員会の調査結果はそのまま大学の判断となるわけではない」と反論したことであろう。これは、自ら依頼した調査の結果さえ認めないという矛盾をさらしつつ賠償責任を逃れようとした呆れた姿勢である。第1回口頭弁論の後初めて8月に開かれた学長の定例記者会見では、自殺した学生の両親への思いを問われ「一般論としては申し訳ない。裁判の話とは別個に申し訳ないと思っている」と述べている。どうして「裁判の話とは別個」になるのか本当に理解に苦しむ。

 昨年11月の和解の容は明らかにされていないが、公判当初大学が示したこのような姿勢と関連して、和解に際してのなんらかの説明(責任を認め賠償金を払ったこと等)は最低限必要なのではないだろうか? 国立大学という税金で運営されている最高学府の姿勢としては、地域住民・国民に対する説明責任は当然で、論理的・倫理的にも破綻した不誠実極まりない対応と言うべきであろう。

 ちなみに、2016年10月加害者の助教には停職1か月の懲戒処分がなされている(処分の際当該学生の自殺は公表していない)が、現在も在職中であるらしい。また、学生へのパワハラ事件はこの事件後も頻発していて、現在までに少なくとも4名の自殺者が出ている。これは2015年の事件が教訓化されることなく再発防止策も殆ど奏功していない状況が続いていることを示唆しているのではないだろうか。

北大総長にパワハラ疑惑!?

 2019年2月の「財界さっぽろ」の記事*によれば、昨年12月21日の北海道新聞のベタ記事**には重い意味が含まれていたという。背景には「名和総長からパワハラ行為を受けたと複数の職員が主張し、大きな問題になっている」情報があったという。

 この記事を参考に、以下にこの件に関する経過をまとめてみよう。なおこの記事は「財界さっぽろ」の記者が複数の大学OBや関係者から得たとする情報等に基づいている。

2017年4  名和豊春氏***第19代の総長に就任(任期6年)。

就任後は、経済界と積極的に交流を重ね母校をPRするだけでなく、外部との協力関係の構築にも力を注ぎ、改革に陣頭に立つトップというイメージであった(記者の印象)。

2018年3月頃 大学事務局内でパワハラ疑惑がささやかれ始める。「航空会社から抗議を受けた」とか「公用車の利用方法が不適切だ」とか、そういう話まで出てきたようである。

2018年秋   学外に噂として漏れ始め、複数の有力OBに騒動が伝わる。これらOBの中に色々アクションを起こす人がいたり、名和氏本人も親しいOBに相談したり弁護士の意見を聞いたりしていたようである。しかし関係者の努力もむなしく、解決には至らなかった。

2018年10月頃 学内では「一旦休養してもらい副学長を職務代理に据えるしかない」といった案や「解任せざるを得ない」といった主張もあったらしい。

そんな中混乱を憂慮した総長選考委員会のメンバーが動き、その提案を受け、弁護士らで構成された第3者委員会が発足したという。1月時点での取材に対し北大総務課は、第3者委員会の有無・目的について「現時点ではお答えできません」としているが、既に委員会は関係者の聞き取り調査を始めていて、早ければ1月中にも結論を出すという方向であるらしい。既に3月も過ぎようとしているが、今現在特に発表等はまだ無いようである。

 本事案の背景として、名和総長が選ばれた2016年の総長選挙****のしこりを指摘する向きもある。その際名和氏は、前総長が打ち出した大幅な人件費削減を批判したが、意向調査で前総長を大きく上回る票を獲得したものの、選考委員会では多数決の末僅差で選ばれているらしい。

この点は、名門旧帝国大学の総長としての資質に疑問を感じる委員がいて委員会で議論になった可能性を示唆する。実際われわれの伝聞では、本人のパワハラ発覚以前に学内の多くのハラスメント事案を握り潰していた(もともと人権意識が希薄なハラスメント体質?)という噂も聞く。学生院生の教育を担い、高い理性と倫理性に元づく公明・公平な判断が社会的にも要請される大学・高等教育機関のトップや執行部にこのような人物がなれてしまう(構成員の教育者・研究者が選んでしまう)ところに、日本社会の人権意識に関する深刻な意味での「遅れ」を痛感せざるを得ない。現在日本の大学執行部メンバーでハラスメントに関して自信をもって潔白を主張できる方々はどれほどおられるであろうか?#Me too運動がいま日本で(とりわけ大学で)もっと盛んになったらヤバい方が多くないことを祈りたいところである。もはや、大学の執行部をめざす教職員にも政治家と同じく、研究面(研究実績の他に論文ねつ造、研究費不適切使用等)や教育面(学生教育、院生育成の実績に加え、特にハラスメント等)に関し「身体検査」を義務付ける時期に来ているのではないだろうか?。

*https://www.zaikaisapporo.co.jp/wp-content/cache/all//index.htm

**「北大学長が体調不良 代理に笠原副学長」

18日付で学内の各部署に通知が出され、「当分の間」副学長が職務代理を務めるとされている。https://www.hokkaido-np.co.jp/article/260639

***1954年生まれ。北大工学部で建築工学を専攻、同大学院も修了して入社した秩父セメントでは、研究職として実績を残す。その後助教授として母校に戻り工学部長などを歴任。

****国立大学の多くでは、教職員(必ずしも全員でない)対象の意向調査結果(投票)を参考に、学外のメンバーも参加する選考委員会で総長候補者を決定する、という方式を採用していることが多い。「投票」の結果が選考委員会で覆されることもある。

愛知教育大学でパワハラ 50代男性教授を懲戒処分

 中京テレビのニュースを引用したyahoo newsの記事*によれば、この2月20日、愛知教育大学(愛知県刈谷市)の50代の男性教授が学生へのハラスメント行為で、停職6週間の懲戒処分を受けたということです。

 男性教授は、2017年、複数の学生に対し、指導に従わなかったなどとして罰金を要求したり強く怒鳴ったりしていたほか、パンの購入を要求したり、本人の了解無く他の学生に個人情報を話したりしていたらしい。大学の調べに対し教授は「深く反省している」と話しているということです。

 愛知教育大学と言えば、愛知県、広くは東海地方一円に、初等中等教育の教員を長く多数輩出してきている大学である。それにしては、今回のハラスメント事案は結構稚拙で、教員養成課程の教育者としてはその資質が疑われざるを得ない気がする。ハラスメントによる精神的苦痛が余り無かったのか、処分が著しく軽いことが気になる。

 大学のホームページを見てみると、キャンパスライフ>学生生活案内のところに「ハラスメントの防止」という項目があり、ガイドラインと相談窓口についての比較的丁寧で具体的な解説・案内がある。「ガイドライン」などは2006年前後に制定されたようであるが、今日に至るまでの具体的な取り組みの経過はよく解らない。この件についての大学の公式な発表も見つけることができなかった。

*https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190220-00010013-sp_ctvl23

早大でまた教授解任、学生にセクハラ、職員へのパワハラも

 産経新聞の記事*によれば、早稲田大学は2月15日、学生へのセクハラや職員へのパワハラを続けていたとして、商学学術院の50代男性教授を同日付で解任したとして発表した。

男性教授は事実関係を認め「ハラスメント行為をして反省している」とはなしたという。

 早大によると、男性教授は平成27-29年、自分のゼミで複数の学生に対する性的発言や身体接触などのセクハラ行為を繰り返し精神的苦痛を与えた。また並行して25-30年には、複数の大学職員を大声で罵るなどのパワハラ行為をしていたということである。2018年5月、被害を受けた学生から大学側に訴えがあり発覚。調査の過程で職員への行為も判明したらしい。

*https://www.sankei.com/smp/affairs/news/190215/afr1902150042-s1.html

 このブログでも取り上げたが、早大は昨年7月にも、教え子の女性にセクハラをしたとして60代の男性教授を解任している。早大は「再発防止に向けた取り組みを一層強化する」としているが、これらの事案に現れている「ハラスメント体質」はかなり根深いものがあるのではないか。今後、真の「再発防止に向けた取り組み」が問われることになりそうである。以下に大学当局による公開文書(Information)を転記する。

2019年2月15日 早稲田大学

教員の解任について

本学学術院の男性教員1名を2月15日付で解任といたしました。

解任理由

当該教員について、以下の非違行為があり、教員としての適格性を著しく欠いていると判断したため。

1.不適切な言動や行為により、複数の職員に対して精神的苦痛を与え、業務遂行を著しく阻害するパワーハラスメント行為を行っていたこと。

2. 不適切な言動や行為により、精神的苦痛を与え、複数の学生の就学環境を悪化させたなどのアカデミックハラスメント及びセクシャルハラスメント行為を行っていたこと。

3. 教員としての責務を十分に果たしておらず、職務への誠実さを著しく欠いていること。

根拠規程

教員任免規則第29条第1項第4号および教員の表彰及び懲戒に関する規程第13条第1項

本学の対応

 被害を受けた学生の就学環境を悪化させ、多大な苦痛を与えたアカデミックハラスメントおよびセクシャルハラスメント行為が発生したこと、そして、職員の業務遂行を著しく阻害するパワーハラスメント行為が発生したことは誠に遺憾であり、被害を受けた学生、職員そして関係者の皆様に深くお詫び申し上げます。

 また、本学はこの事案を真摯に受け止め、ハラスメントに関する啓発活動をさらに徹底するとともに、箇所ごとにハラスメント研修を行うなど、再発防止に向けた取り組みを一層強化してまいります。

公立大学でのハラスメント (2)

横浜市立大学

 東京新聞*によれば、昨年2018年3月、横浜市立大学は、アカデミックハラスメントを繰り返したとして、国際総合科学部の50代男性教授を停職2カ月の懲戒処分にしたと発表している。またその前年2017年8月には、別の同学部50代男性教授がやはりアカハラで停職3カ月(その後不服申し立てにより2カ月に変更)の懲戒処分を受けている。

 今回の加害者は、2017年2-8月、20代の女子学生4人に、能力を否定するような発言をしたり、自らの学生時代を引き合いに出し「夜遅くまで研究するように」と指導したりした。10月に学内ハラスメント防止委員会に学生から被害申し立てがあった。この教授には過去にも複数回同様の相談があった。

 横浜市立大学は、処分についての記者発表概要が公表されており今でもHPで閲覧できる。参考のためコピーを引用する。

発表文書1

 また「ハラスメントの防止に関する規定」や「ガイドライン」が平成17年(2005年)にそれぞれ施行、制定されており、内容的にもかなりしっかりしていて、それに連動してハラスメント防止委員会がある程度機能していることが窺える。

*http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201803/CK2018032002000122.html

北九州市立大学

 5年前の平成26年(2014年)11月、1件の懲戒処分を発表している。地域創生学群の50代男性教授で、「学生に対し威圧的な指導を長期間、継続的に行った」などの理由で、1カ月 の停職処分を受けている。発表文書を添付する。

発表文書2

公立大学でのハラスメント (1)

 これから幾つかに分けて公立大学(法人)におけるハラスメント事例を見ていきたい。公立大学では、教職員は原則地方公務員であることが多く、その意味では責任を取るべき対象が(国立大学等に比べて)身近であり、教職員もより監視の眼を意識して人権感覚が磨かれそうな気もするのではあるが、、、。先ずは大阪市立大学の最近の事例です。

大阪市立大学

 昨年末の12月27日、大阪市立大学によるセクハラ等に関する懲戒処分(61歳教授、学部不明だが多分理科系、停職3カ月)が発表された(毎日新聞)*。この記事によれば「学生や教職員の女性に抱きつくなど複数のハラスメントを繰り返した」のが処分の理由で、「2011年6月から2018年5月までに、セクハラ、パワハラ、アカハラ61件があり17人の男女が被害に遭ったと認定」している。

 具体的には、「女子学生らに対し、『彼氏いるの』としつこく聞いたり、飲み会で抱きついたりした。また、学生らに講義や試験監督などを代行させ、実験で失敗した学生には『費用をバイト代で賄え』と叱責したこともあったという。2018年2月に匿名の文書が届いて発覚。3月には計5人の学生や教職員から180件の申し立てがあり、計19人に聞き取り調査をして認定したという。

 男性教授は大学の調査に「記憶がない」と一部を否定したが、「不快な思いをさせていたのであれば申し訳ない」と答えたという。記者会見した橋本副学長は、関係者へのお詫びと再発防止に努める旨話したという(処分の公式文書は大学HP等では未確認)。

大阪市立大学は、早くも平成10年(1998年)に「セクハラの防止および対応に関するガイドライン」を定め、「セクハラ防止に努めてきた」経緯があり、2001年には人権宣言2001なるものも発表している。このような先駆的な?取り組みのもとで、8年間にも渡り複数(19人からの聞き取り)の学生や教職員に対して数多く(180件の申し立て)のハラスメントを行うという悪質な事案が放置されてきたことが問題である。加害者は、以前の記事でも取り上げた教員(ハラスメント情報、2018年5,6月の記事、セクハラ常習教員(1)-(3))と同じハラスメント常習者であり、表面的な取り組みの裏でハラスメントが横行する学生や職員にとっては不幸な状況が続いてきた可能性がある。それにもかかわらず処分が如何にも軽い気がするがどうであろうか。

*https//mainichi.jp/articles/20181227/k00/00m/040/147000c

ごあいさつ・ご連絡 (9)

2019年 明けましてお目出度うございます.

このブログも何とか2年目を迎えることが出来ました.最近は管理人が皆忙しく中々新規投稿が出来ず更新のペースが著しく落ちています.申し訳ありません.新年を迎え、記事の多様化に努めつつコツコツ更新を続けて行きたいと思っています.本年もどうぞ宜しくお願い致します(管理人一同)

ごあいさつ・ご連絡 (8)

4月に投稿された記事「強引な人事潰しはパワーハラスメントに他ならない (1)(2)」に関し、関連資料を期間限定で部分公開します。これも遡って記事に添付する形で閲覧可能にしますので、興味のある方は是非ご覧下さい。

ごあいさつ・ご連絡 (7)

5-6月に投稿された記事、「セクハラ常習教員がのさばりはびこった結果組織モラルが崩壊 (1)-(3)」に関し追加の関連資料も公開します。データ1,2と同様にもとの記事に添付する形で閲覧可能にしますので、是非ご覧下さい。

ごあいさつ・ご連絡 (6)

 5-6月に投稿された記事、「セクハラ常習教員がのさばりはびこった結果組織モラルが崩壊 (1)-(3)」に関し投稿者から「関連資料も部分公開しても良い」という意志表明がありましたので、遡って記事に添付する形で閲覧可能にします。興味のある方は是非ご覧下さい。続編もあるようです。