LGBT差別にまつわるハラスメント (1)

一橋大生のアウティング事件と裁判

 新聞記事等*1-8によれば、事件の概要(事実経過)は大体以下の通りかと思われる。

*2015年4月 一橋法科大学院の男子学生同級生に恋愛感情を告白。

*同年6月   その同級生に、約10人参加のLINEアプリグループに同性愛者だと実名を挙げて書き込まれ、心身に不調をきたす。その後、担当教授やハラスメント相談員らに相談したが、大学はクラス替えなどの対策をせず。

*同年8月24日 講義中にパニック状態になり校舎から転落死。

*2016年    両親は同級生と大学(がアウティングに対し適切な対応を取らなかったとして)に損害賠償を求めて提訴。

*2018年1月  同級生と和解。

*2019年2月27日 東京地裁(鈴木正紀裁判長)請求を棄却。「大学が適切な対応を怠ったとは認められない」(被害を相談した教授について「クラス替えをしなかったことが安全配慮義務に違反するとは言えない」とし、相談員についても「クラス替えの必要性を教授らに進言する義務は無かった」と認定)とした。

 LGBTなど性的マイノリティに対する偏見や差別は、昨年の自民党女性国会議員による極端な差別発言もあって最近やっと可視化され、マスコミ等でも議論の機会が増えてきたが、まだまだ一般的認知度は低い。このような状況の中で、本事件の当事者である一橋大学院生のケースは、他者による本人の同意を得ない同性愛の暴露(アウティング)という形でのセクシャルハラスメントが有名国立大学キャンパス内で発生し、それが悲劇に繋がったものである。

 従来からパワハラ、セクハラが絶えず、多くの(学生)自殺者が出ている大学・研究機関では、当然ながらさらにマイナーな性的少数者差別に関する取り組みはこれまで十分とは言えず、このようなケースの発生は危惧されるところであった。ハラスメントは何らかの差別と結びついている場合が殆どで、特にセクハラでは、差別対象には女性のみでなく性的少数者も含まれ、様々なハラスメントに発展する恐れがある。

 判決後の記者会見で弁護団もコメントしている通り、裁判所は今回何ら本質的な議論(アウティングがなぜ危険なのか、どう対処すべきなのか)に踏み込まず、悲劇を招いた一因である大学の対応を追認した形となった。実際アウティング被害はかなりの規模で日常的に起こっていると推測されるデータもあり(関連民間団体に寄せられた相談件数は2012年3月以降の6年間に110件。信頼する人に告白した結果、周囲に広められ職場に行けなくなる深刻な内容もあった)司法が明確な警鐘を鳴らさない状態は今後重大な事態を次々に招く可能性がある。

*1 同性愛暴露され転落死 一橋大アウティング訴訟 遺族支援者ら明大で集会 (東京新聞 2018/7/21)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201807/CK2018072102000135.html

*2 日本の「当たり前」を問う 同棲弁護士カップルの日常から 今日から渋谷で上映 (東京新聞 2018/9/29)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/metropolitan/list/201809/CK2018092902000169.html

*3 同性愛暴露訴訟、遺族の請求棄却 一橋大生が転落死(共同通信)信https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190227-00000082-kyodonews-soci

*4 アウティング被害後に転落死 一橋大の責任認めず(朝日新聞ディジタル)

https://news.yahoo.co.jp/pickup/6315395

*5 同性愛暴露訴訟 請求棄却 遺族側「本質に踏み込まず」

 (中日新聞 2019/2/28)

*6 社説」同性愛の暴露 尊厳傷つけぬ配慮を (中日新聞 2019/2/28)

*7 大学側の責任認めず 一橋大同性愛暴露訴訟 東京地裁、遺族の請求を棄却 (東京新聞 2019/2/28)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019022802000138.html

*8 LGBT暴露相談110件 アウティング被害深刻 (東京新聞 2019/4/3)

https://www.chunichi.co.jp/s/article/2019040301001826.html

山形大学の“その後” (2)

パワーハラスメント問題

 先に触れた学生への一連のパワハラ事件と並行して推移し、世間を騒がせ呆れさせているのがこの件である。まず経過をかいつまんでみてみると、以下のようになる。

2016/1月    山形大のxEV飯豊研究センター(移動体用蓄電池の産学共同研究センター)、山形大学と山形県飯豊町が山形県飯豊町に整備。出資額は各8億円と7億円。

2017/3-5月   同研究センターの職員3人がセンター長の50代男性教授からパワハラを受けたとして相次いで退職したことが発覚。

2017/5 月~   同大職員組合、センター長の行為を把握しているかどうか、を問う学長宛の質問書を2度提出。これに対し大学側の対応は一貫して冷淡で、告発を無視し続けた。

2017/11月   大学が学内調査に乗り出す(特別対策委員会を設置)。これ以前(10月)に、職員への暴言を記した書置きや張り紙の画像を組合が証拠として公表し、これまでの対応を抜本的に見直すよう求める書面を(大学に)提出。社会的な批判が強まる。

2018/7/24     xEV飯豊研究センター長に減給1万円(1日分給与半額)の懲戒処分を発表。「有り得ない軽さ」と職員組合批判。

2018/8/1        「対策委員会」による2月の聞き取り調査の際、大学側が被害者に、聴取詳細を他言しないことなどを内容とする誓約書への署名を迫った(口止めを強要した)ことが判明。職員組合発表。

2018/9/6       小山学長は、定例記者会見で「(飯塚博)工学部長の(職員組合からパワハラを裏付ける資料を受け取っていながら、大学本部への報告や事実確認等をしなかった)対応は適切」との認識示す。

 この経過をたどるだけでも、学生に対するパワハラ事案に勝るとも劣らぬ迷走ぶりである。特徴的なことは、

a) 最優先になっているのは、ハラスメント被害者の救済でなく、地域と文部科学省に対する大学のメンツであり、そのために加害者を陳腐なまでに防衛する姿勢が顕著なこと。

b) 処分は学内規定によった、ということらしいが、準用したセクハラの規定のうち軽い方を適用しかつその中で最も軽い処分としていること。これは果たして実質的な処分なのか?

2)発覚-調査-処分という一連の流れの中で、被害者への謝罪や補償が一切行われていない上、事情聴取の口止め等まで行おうとしていること。特に「口止め」はさらなる人権侵害に当たる。被害者が同僚や弁護士にさえ相談できなくなり一層孤立化する。

3)職員組合も指摘しているように、ハラスメント防止体制の整備、見直し・再構築等が一連の諸事案を経た前後で極めて不十分で、様々なハラスメントの温床が依然として放置されたままであること。

 もし昨年9月の時点で、事件を「終息」としているなら、学生や父兄だけでなく、地域社会も到底納得していないのではと思われる。事ここに至って、今後の本プロジェクトの大々的発展は本当にあり得るのだろうか?センター長はこの分野の実績を買われ、企業から大学へ移った人材である。企業と大学との人的交流は、基本的には進められるべきであり、実際閉鎖社会である大学に新風を吹き込み新しい化学反応が起きている例も多くある。また、一部では企業人の方がいわゆる「世間的常識」があり、ハラスメントについても外面を気にする企業風土で育った故に意識も高い、という見方もある。しかしながら個々のケースでは必ずしもそうではない。大学も、特に組織の将来をかけたキーパーソン(理事等の役員も含まれる)を外部から招へいする場合には、専門分野の実績に加え、やはりハラスメント歴(現在は“評判”でも法律が出来れば犯歴?)についての「身体検査」が不可欠な時代になっているのではないだろうか?

山形大学の“その後” (1)

 河北新報の昨年の一連の記事*によると、本ブログのハラスメント資料、大学生の自殺について(3)-1~3で取り上げた山形大学の“その後”についておよそ次のような現状であることが分かった。まず事実経過を確認する。

*https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201807/20180724_53006.html, 201808/20180802_53010.html, 201809/20180907_53008.html

https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201810/20181006_53041.html, 20181007_53019.html, 20181008_53020.html

https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201811/20181114_53047.html, 20181115_53011.html

  • アカデミックハラスメントによる学生の自殺の問題

 まず事実経過の確認をする。

2015/11月       工学部4年生の男子学生が自殺

2016/6月        第三者委員会、指導教員の助教によるアカハラと自殺の因果関を 認める報告書を作成。

2017/5月        両親は、大学と助教に計約1億1900万円の損害賠償請求訴訟を山形地裁に起こす。

2018/11/14,15    遺族、同自殺訴訟で大学側と和解(山形地裁)。翌日、工学部長は訴訟和解の説明を拒否。

 この問題については、既に本ブログで取り上げているので(ハラスメント資料、大学生の自殺について(3)-1~3)詳細はそちらを参照して頂きたいが、最大の問題は、17年7月の第1回口頭弁論で遺族が証拠提出した上記第3者委員会の報告書について、大学側は答弁書で「第3者委員会の調査結果はそのまま大学の判断となるわけではない」と反論したことであろう。これは、自ら依頼した調査の結果さえ認めないという矛盾をさらしつつ賠償責任を逃れようとした呆れた姿勢である。第1回口頭弁論の後初めて8月に開かれた学長の定例記者会見では、自殺した学生の両親への思いを問われ「一般論としては申し訳ない。裁判の話とは別個に申し訳ないと思っている」と述べている。どうして「裁判の話とは別個」になるのか本当に理解に苦しむ。

 昨年11月の和解の容は明らかにされていないが、公判当初大学が示したこのような姿勢と関連して、和解に際してのなんらかの説明(責任を認め賠償金を払ったこと等)は最低限必要なのではないだろうか? 国立大学という税金で運営されている最高学府の姿勢としては、地域住民・国民に対する説明責任は当然で、論理的・倫理的にも破綻した不誠実極まりない対応と言うべきであろう。

 ちなみに、2016年10月加害者の助教には停職1か月の懲戒処分がなされている(処分の際当該学生の自殺は公表していない)が、現在も在職中であるらしい。また、学生へのパワハラ事件はこの事件後も頻発していて、現在までに少なくとも4名の自殺者が出ている。これは2015年の事件が教訓化されることなく再発防止策も殆ど奏功していない状況が続いていることを示唆しているのではないだろうか。

北大総長にパワハラ疑惑!?

 2019年2月の「財界さっぽろ」の記事*によれば、昨年12月21日の北海道新聞のベタ記事**には重い意味が含まれていたという。背景には「名和総長からパワハラ行為を受けたと複数の職員が主張し、大きな問題になっている」情報があったという。

 この記事を参考に、以下にこの件に関する経過をまとめてみよう。なおこの記事は「財界さっぽろ」の記者が複数の大学OBや関係者から得たとする情報等に基づいている。

2017年4  名和豊春氏***第19代の総長に就任(任期6年)。

就任後は、経済界と積極的に交流を重ね母校をPRするだけでなく、外部との協力関係の構築にも力を注ぎ、改革に陣頭に立つトップというイメージであった(記者の印象)。

2018年3月頃 大学事務局内でパワハラ疑惑がささやかれ始める。「航空会社から抗議を受けた」とか「公用車の利用方法が不適切だ」とか、そういう話まで出てきたようである。

2018年秋   学外に噂として漏れ始め、複数の有力OBに騒動が伝わる。これらOBの中に色々アクションを起こす人がいたり、名和氏本人も親しいOBに相談したり弁護士の意見を聞いたりしていたようである。しかし関係者の努力もむなしく、解決には至らなかった。

2018年10月頃 学内では「一旦休養してもらい副学長を職務代理に据えるしかない」といった案や「解任せざるを得ない」といった主張もあったらしい。

そんな中混乱を憂慮した総長選考委員会のメンバーが動き、その提案を受け、弁護士らで構成された第3者委員会が発足したという。1月時点での取材に対し北大総務課は、第3者委員会の有無・目的について「現時点ではお答えできません」としているが、既に委員会は関係者の聞き取り調査を始めていて、早ければ1月中にも結論を出すという方向であるらしい。既に3月も過ぎようとしているが、今現在特に発表等はまだ無いようである。

 本事案の背景として、名和総長が選ばれた2016年の総長選挙****のしこりを指摘する向きもある。その際名和氏は、前総長が打ち出した大幅な人件費削減を批判したが、意向調査で前総長を大きく上回る票を獲得したものの、選考委員会では多数決の末僅差で選ばれているらしい。

この点は、名門旧帝国大学の総長としての資質に疑問を感じる委員がいて委員会で議論になった可能性を示唆する。実際われわれの伝聞では、本人のパワハラ発覚以前に学内の多くのハラスメント事案を握り潰していた(もともと人権意識が希薄なハラスメント体質?)という噂も聞く。学生院生の教育を担い、高い理性と倫理性に元づく公明・公平な判断が社会的にも要請される大学・高等教育機関のトップや執行部にこのような人物がなれてしまう(構成員の教育者・研究者が選んでしまう)ところに、日本社会の人権意識に関する深刻な意味での「遅れ」を痛感せざるを得ない。現在日本の大学執行部メンバーでハラスメントに関して自信をもって潔白を主張できる方々はどれほどおられるであろうか?#Me too運動がいま日本で(とりわけ大学で)もっと盛んになったらヤバい方が多くないことを祈りたいところである。もはや、大学の執行部をめざす教職員にも政治家と同じく、研究面(研究実績の他に論文ねつ造、研究費不適切使用等)や教育面(学生教育、院生育成の実績に加え、特にハラスメント等)に関し「身体検査」を義務付ける時期に来ているのではないだろうか?。

*https://www.zaikaisapporo.co.jp/wp-content/cache/all//index.htm

**「北大学長が体調不良 代理に笠原副学長」

18日付で学内の各部署に通知が出され、「当分の間」副学長が職務代理を務めるとされている。https://www.hokkaido-np.co.jp/article/260639

***1954年生まれ。北大工学部で建築工学を専攻、同大学院も修了して入社した秩父セメントでは、研究職として実績を残す。その後助教授として母校に戻り工学部長などを歴任。

****国立大学の多くでは、教職員(必ずしも全員でない)対象の意向調査結果(投票)を参考に、学外のメンバーも参加する選考委員会で総長候補者を決定する、という方式を採用していることが多い。「投票」の結果が選考委員会で覆されることもある。

愛知教育大学でパワハラ 50代男性教授を懲戒処分

 中京テレビのニュースを引用したyahoo newsの記事*によれば、この2月20日、愛知教育大学(愛知県刈谷市)の50代の男性教授が学生へのハラスメント行為で、停職6週間の懲戒処分を受けたということです。

 男性教授は、2017年、複数の学生に対し、指導に従わなかったなどとして罰金を要求したり強く怒鳴ったりしていたほか、パンの購入を要求したり、本人の了解無く他の学生に個人情報を話したりしていたらしい。大学の調べに対し教授は「深く反省している」と話しているということです。

 愛知教育大学と言えば、愛知県、広くは東海地方一円に、初等中等教育の教員を長く多数輩出してきている大学である。それにしては、今回のハラスメント事案は結構稚拙で、教員養成課程の教育者としてはその資質が疑われざるを得ない気がする。ハラスメントによる精神的苦痛が余り無かったのか、処分が著しく軽いことが気になる。

 大学のホームページを見てみると、キャンパスライフ>学生生活案内のところに「ハラスメントの防止」という項目があり、ガイドラインと相談窓口についての比較的丁寧で具体的な解説・案内がある。「ガイドライン」などは2006年前後に制定されたようであるが、今日に至るまでの具体的な取り組みの経過はよく解らない。この件についての大学の公式な発表も見つけることができなかった。

*https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190220-00010013-sp_ctvl23

早大でまた教授解任、学生にセクハラ、職員へのパワハラも

 産経新聞の記事*によれば、早稲田大学は2月15日、学生へのセクハラや職員へのパワハラを続けていたとして、商学学術院の50代男性教授を同日付で解任したとして発表した。

男性教授は事実関係を認め「ハラスメント行為をして反省している」とはなしたという。

 早大によると、男性教授は平成27-29年、自分のゼミで複数の学生に対する性的発言や身体接触などのセクハラ行為を繰り返し精神的苦痛を与えた。また並行して25-30年には、複数の大学職員を大声で罵るなどのパワハラ行為をしていたということである。2018年5月、被害を受けた学生から大学側に訴えがあり発覚。調査の過程で職員への行為も判明したらしい。

*https://www.sankei.com/smp/affairs/news/190215/afr1902150042-s1.html

 このブログでも取り上げたが、早大は昨年7月にも、教え子の女性にセクハラをしたとして60代の男性教授を解任している。早大は「再発防止に向けた取り組みを一層強化する」としているが、これらの事案に現れている「ハラスメント体質」はかなり根深いものがあるのではないか。今後、真の「再発防止に向けた取り組み」が問われることになりそうである。以下に大学当局による公開文書(Information)を転記する。

2019年2月15日 早稲田大学

教員の解任について

本学学術院の男性教員1名を2月15日付で解任といたしました。

解任理由

当該教員について、以下の非違行為があり、教員としての適格性を著しく欠いていると判断したため。

1.不適切な言動や行為により、複数の職員に対して精神的苦痛を与え、業務遂行を著しく阻害するパワーハラスメント行為を行っていたこと。

2. 不適切な言動や行為により、精神的苦痛を与え、複数の学生の就学環境を悪化させたなどのアカデミックハラスメント及びセクシャルハラスメント行為を行っていたこと。

3. 教員としての責務を十分に果たしておらず、職務への誠実さを著しく欠いていること。

根拠規程

教員任免規則第29条第1項第4号および教員の表彰及び懲戒に関する規程第13条第1項

本学の対応

 被害を受けた学生の就学環境を悪化させ、多大な苦痛を与えたアカデミックハラスメントおよびセクシャルハラスメント行為が発生したこと、そして、職員の業務遂行を著しく阻害するパワーハラスメント行為が発生したことは誠に遺憾であり、被害を受けた学生、職員そして関係者の皆様に深くお詫び申し上げます。

 また、本学はこの事案を真摯に受け止め、ハラスメントに関する啓発活動をさらに徹底するとともに、箇所ごとにハラスメント研修を行うなど、再発防止に向けた取り組みを一層強化してまいります。

公立大学でのハラスメント (2)

横浜市立大学

 東京新聞*によれば、昨年2018年3月、横浜市立大学は、アカデミックハラスメントを繰り返したとして、国際総合科学部の50代男性教授を停職2カ月の懲戒処分にしたと発表している。またその前年2017年8月には、別の同学部50代男性教授がやはりアカハラで停職3カ月(その後不服申し立てにより2カ月に変更)の懲戒処分を受けている。

 今回の加害者は、2017年2-8月、20代の女子学生4人に、能力を否定するような発言をしたり、自らの学生時代を引き合いに出し「夜遅くまで研究するように」と指導したりした。10月に学内ハラスメント防止委員会に学生から被害申し立てがあった。この教授には過去にも複数回同様の相談があった。

 横浜市立大学は、処分についての記者発表概要が公表されており今でもHPで閲覧できる。参考のためコピーを引用する。

発表文書1

 また「ハラスメントの防止に関する規定」や「ガイドライン」が平成17年(2005年)にそれぞれ施行、制定されており、内容的にもかなりしっかりしていて、それに連動してハラスメント防止委員会がある程度機能していることが窺える。

*http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201803/CK2018032002000122.html

北九州市立大学

 5年前の平成26年(2014年)11月、1件の懲戒処分を発表している。地域創生学群の50代男性教授で、「学生に対し威圧的な指導を長期間、継続的に行った」などの理由で、1カ月 の停職処分を受けている。発表文書を添付する。

発表文書2

公立大学でのハラスメント (1)

 これから幾つかに分けて公立大学(法人)におけるハラスメント事例を見ていきたい。公立大学では、教職員は原則地方公務員であることが多く、その意味では責任を取るべき対象が(国立大学等に比べて)身近であり、教職員もより監視の眼を意識して人権感覚が磨かれそうな気もするのではあるが、、、。先ずは大阪市立大学の最近の事例です。

大阪市立大学

 昨年末の12月27日、大阪市立大学によるセクハラ等に関する懲戒処分(61歳教授、学部不明だが多分理科系、停職3カ月)が発表された(毎日新聞)*。この記事によれば「学生や教職員の女性に抱きつくなど複数のハラスメントを繰り返した」のが処分の理由で、「2011年6月から2018年5月までに、セクハラ、パワハラ、アカハラ61件があり17人の男女が被害に遭ったと認定」している。

 具体的には、「女子学生らに対し、『彼氏いるの』としつこく聞いたり、飲み会で抱きついたりした。また、学生らに講義や試験監督などを代行させ、実験で失敗した学生には『費用をバイト代で賄え』と叱責したこともあったという。2018年2月に匿名の文書が届いて発覚。3月には計5人の学生や教職員から180件の申し立てがあり、計19人に聞き取り調査をして認定したという。

 男性教授は大学の調査に「記憶がない」と一部を否定したが、「不快な思いをさせていたのであれば申し訳ない」と答えたという。記者会見した橋本副学長は、関係者へのお詫びと再発防止に努める旨話したという(処分の公式文書は大学HP等では未確認)。

大阪市立大学は、早くも平成10年(1998年)に「セクハラの防止および対応に関するガイドライン」を定め、「セクハラ防止に努めてきた」経緯があり、2001年には人権宣言2001なるものも発表している。このような先駆的な?取り組みのもとで、8年間にも渡り複数(19人からの聞き取り)の学生や教職員に対して数多く(180件の申し立て)のハラスメントを行うという悪質な事案が放置されてきたことが問題である。加害者は、以前の記事でも取り上げた教員(ハラスメント情報、2018年5,6月の記事、セクハラ常習教員(1)-(3))と同じハラスメント常習者であり、表面的な取り組みの裏でハラスメントが横行する学生や職員にとっては不幸な状況が続いてきた可能性がある。それにもかかわらず処分が如何にも軽い気がするがどうであろうか。

*https//mainichi.jp/articles/20181227/k00/00m/040/147000c

大学職員処分について (2)

前記事に続き、次の2つの大学での最近のハラスメントに関連する処分例を紹介する.

3 茨城大学

平成30年6月1日

教員の懲戒処分に関するお知らせ

 このたび、学生に対するハラスメントを行った本学の教員を下記のとおり懲戒処分としましたのでお知らせします。
 処分事案は、平成28年11月以降、男性教員が自身の研究室に所属する当時4年次の女性学生に対し、本学在学中から卒業後にわたって繰り返しハラスメントを行ったというものです。これらは大学教員としての自覚と責任に欠けた行動によるものであり、教育機関としてあってはならないことです。本学としてまことに遺憾であり、ハラスメントを受けた方や関係の皆様に深くお詫びを申し上げます。

1.被処分者の所属等  茨城大学 教育学部 教授

2.処分の内容     停職3月

3.処分年月日     平成30年5月31日付

4.処分事案の概要
 男性教員は、研究室所属の女性学生(当時)に対し、他大学大学院へ進学することについて長時間叱責するなどのハラスメントを行った上、当該女性学生が卒業した後もSNSを利用した嫌がらせを行った。また、当該男性教員は、研究室のゼミで当該女性学生を含む学生たちに学修上不必要な衣装を着るよう誘導するような言動をとり不快感を与えたほか、当該男性教員と研究室所属の学生たちによるコンパにおいて、当該女性学生に身体を押し付けるという不適切な行為をし、当該女性学生に身体的・精神的苦痛を与えた。

4 室蘭工業大学

 平成30年7月4日

 このたび,本学職員2名に対し,以下のとおり懲戒処分を行いましたので公表します。

 〔職員1〕
 所属・職名:大学院工学研究科 教授
 懲戒処分年月日:平成30年7月1日
 懲戒処分の内容:停職6箇月
   事 案 の 概 要  :同教授は,平成28年4月から平成30年3月にかけて,同教授の研究室に所属する複数の学生に対し,不適切な指導を繰り返し,学生に過度な精神的苦痛を与えるアカデミック・ハラスメント行為を行いました。同教授の行為は,本学の信用を著しく失墜させるものであるため,国立大学法人室蘭工業大学職員就業規則第33条第1項第1号に該当することから,停職6箇月の懲戒処分としました。

 〔職員2〕
 所属・職名:大学院工学研究科 助教
 懲戒処分年月日:平成30年7月4日
 懲戒処分の内容:停職3箇月
 事 案 の 概 要  : 同助教は,平成29年4月から平成30年3月にかけて,同助教の研究室に所属する複数の学生に対し,不適切な指導を繰り返し,学生に過度な精神的苦痛を与えるアカデミック・ハラスメント 行為を行ったほか,1人の学生に対し過度な精神的苦痛を与えるセクシュアル・ハラスメント行為を行いました。同助教の行為は,本学の信用を著しく失墜させるものであるため,国立大学法人室蘭工業大学職員就業規則第33条第1項第1号に該当することから,停職3箇月の懲戒処分としました。

〔学長コメント〕
  ハラスメントを受けた学生及び関係者の皆様に対して心からお詫びを申し上げます。また,本学としてこのことを厳粛に受け止め,今後このような行為が起こらないよう,再発防止にあたっていく所存です。

 

大学職員処分について (1)

 

最近、日本国内の大学から出されたハラスメント処分例を幾つか紹介する。東洋大学については、これまでは、ハラスメント防止規定やハラスメント防止ガイドラインの制定のみで、定期的な研修も無くハラスメント相談室も設置されてなかったようであり、取り組みは不十分であったと言わざるを得ない気がする。「根絶宣言」以降の取り組みを注視していきたい。以下の2大学のケースは両者とも処分が極めて軽い気がするが、両事案ともその詳細が不明であり(加害者の教員は依然として匿名)判断の仕様が無い。被害にあった学生(大学院生)諸君は無事卒業(修了)出来たのであろうか?

1 東洋大学

平成30 年2 月16 日/学校法人東洋大学

懲戒処分の公表について

 学校法人東洋大学では教職員の懲戒処分を行いましたので「学校法人東洋大学ハラスメント防止ガイドライン」に基づき下記の通り公表します。

記(事案の概要)

 平成28年ころ、生命科学部教授(男性・40歳代)が、同教授の研究室に所属する複数の学生に対し、卒業論文にかかわる研究指導の過程で人格を非難したり、屈辱を与えるような高圧的な発言やメールを繰り返したりすること等により、研究室内の研究環境や学生の就学環境を悪化させ、一部の学生は心身不調になるなどの悪影響を及ぼすアカデミック・ハラスメント行為を行った。

 これらの行為は、東洋大学就業規則第48 条第1項第6号(本学の信用を傷つけ又は名誉を汚す行為)及び就業規則第48 条第1項第8号(ハラスメント行為)に該当するものであり、以下の懲戒処分を行った。

(処分量定及び処分年月日)

・処分量定   降給(1号俸)及び譴責

・処分年月日  平成29 年8月16 日

(所属、職位等の被処分者の属性に関する情報)

・被処分者   東洋大学生命科学部教授(男性・40 歳代)

 なお、本処分の決定に伴いハラスメント防止対策委員会委員長である東洋大学学長及び東洋大学生命科学部長に対し厳重注意を行うとともに、本件に関する被害者らに対する不適切な対応及び事務的な連絡の不備があったため人事部長及び人事部次長に対し厳重注意を行った。

ハラスメント根絶宣言

 学校法人東洋大学(以下「本学」という。)では、従来から「学校法人東洋大学ハラスメントの防止等に関する規程」及び「学校法人東洋大学ハラスメント防止ガイドライン」を制定し、あらゆるハラスメントの防止と排除に取り組んでまいりました。しかしながら、依然として深刻な事態が生じており誠に残念であります。

 ハラスメントは、人権を侵害し、個人の尊厳を損ね、学生や生徒等の学ぶ権利及び教職員の働く権利に重大な障害をもたらす行為であり、絶対に許されるものではありません。構成員一人ひとりがハラスメントに関する知識を深め、相手の人格を尊重するとともに、ハラスメントの加害者にならないことを強く意識し、全構成員が一丸となって本学における快適な就学、就労及び教育研究のための環境を整える必要があります。

 そこで、以下に掲げる取組みを徹底し、ハラスメントを根絶することをここに宣言いたします。

  1. 研修等の啓発活動を定期的に実施するとともに、ハラスメントとなり得る行為の情報の共有及び適切な巡視等を徹底し、ハラスメントの発生を防止する。
  2. ハラスメント相談室を設置し、ハラスメントの相談対応機能の充実を図るとともに、ハラスメントを防止する諸施策を着実に展開し、その未然防止に努める。
  3. 本宣言をはじめハラスメント根絶に対する確固たる姿勢を学内外に広く発信することにより、ハラスメントに対する意識を向上させる。

平成30年7月23日
学校法人東洋大学ハラスメント防止対策委員会委員長
東洋大学学長 竹村 牧男

2 鳥取大学

このたび、平成29年3月29日付けで、下記のとおり本学職員に対し懲戒処分を行いましたので、公表します。

1.被処分者    工学研究科 教授 男性(40代)

2.処分内容    停職1か月

3.処分の概要     

 当該教員は、自己の指導する男子学生が就職を希望する企業への推薦書を合理的な理由もなく書かず、学生の自由な進路選択の権利を侵害しました。また、同教員は、感情的になり恐怖を感じさせるような激しい口調で同学生を指導したことがある上に、就職に関する情報の取り扱いについて、本人の同意を得ずに他にもらすなど、認識不足や不注意なところがあり、これらの行為により同学生の就学環境を悪化させました。これらの行為は、アカデミック・ハラスメントであり、本学職員就業規則に違反すると判断し、懲戒処分を行いました。
 本学の教員がこのような行為を行ったことは、誠に遺憾であり、被害学生をはじめ関係の皆様に心より深くお詫び申し上げます。

 本学では、ハラスメント防止の取組みを推進してきましたが、今回の事態を重く受け止め、今後このようなことが起こらないよう、職員に対して一層の意識啓発を図るとともに、再発防止、信頼の回復に努めて参ります。

                                平成29年3月31日

国立大学法人鳥取大学長 豐 島  良 太