DAYS JAPAN 広河隆一氏による「性暴力事件」について (1)

(1) 大体の事実経過

この「事件」については既にご存知の方、びっくりされた方も多いと思うが、未だ混乱が収束したと言う状況ではないこの時期(2019年8月現在)に、あえてこれまでの経過と事件の内容・本質について、本ブログ(アカデミックハラスメント情報資料室)の関係者でDAYS JAPAN の一読者の立場から、出来る範囲でまとめ、コメントを試みたい。

まずおおざっぱな事実経過は次のようなものであろうかと思われる(細かい点は正確でない可能性有り)。

 

2018/12/26  この日発売の「週刊文春」19年1月3日・10日号は、広河隆一氏(*1)が事実上主宰していた雑誌DAYS JAPAN (*2) の元ボランティア等7人の女性達による、広河氏の10年に渡る性暴力・セクハラ被害の証言 (*3) を掲載・告発。     

       同日、広河氏自身から短いコメント(*4)が出され、またDAYS JAPAN発行元((株)デイズジャパン)からもコメント (*5) が発表された。

       デイズジャパン社からのコメントでは「広河氏が被害者の方々の尊厳を傷つけてしまった」と詫び、広河氏の代表取締役等からの解任を報告している。また「弊社として、広河氏の言説を看過するわけにはいかず、これに与する立場ではない」として、本人に今後の誠実な対応を求めると同時に雑誌刊行への取り組みの意志を示している。

2018/12/31   (株)デイズジャパンより2回目のコメント(6*)。事件の検証をDAYS最終号(もともと3月末で休刊予定)で公表すると表明。

       この声明では、上記7名以外にも「性暴力」被害者がいたこと、「性暴力」とは別に社員・協力スタッフに対するパワハラともいわれる事例があったことなどを認め(度々の問題提起に対し会社として真摯な対応をして来なかったが)、具体的に踏み込んだ内容となっている。今後については(責任者を入れ替え?)引き続き広河氏個人に対する調査と誠実な対応の要請を続ける他、会社についても今回の問題について「組織としてのありよう」を検証し、最終号で公表するとしている。

 2019/1/31    8人目の被害者が毎日新聞に実名手記を発表。タイトルは「性犯罪の温床を作り出したデイズジャパンの労働環境」で、編集部での過酷な長時間労働やハラスメントが蔓延していた実態を詳述し、広河氏の性暴力が永年隠蔽されてきた背景を分析している。すなわち会社ぐるみで許容されてきたパワハラ体質と性暴力は密接に関係していた訳である。 

http://mainichi.jp/articles/20190131/k00/00m/040/128000c

同日     「週刊文春」2019年2月7日号は、元アルバイトの女性による新たな性暴力被害の証言を掲載。広河氏からの依頼で海外取材に同行した際、現地で部屋が一つしか用意されておらず、取材先の男性スタッフ達から性交渉の依頼があること(真実か?)を伝えられた上で「彼らとセックスするか、僕と一つになるか、どっちか」と迫られたと言う。それから2週間は「悪夢のような日々」であったと語っている。

 2019/2/15    DAYS JAPAN社、最終号の発売を1ヶ月延期すると発表。当初2月20日発売の予定であったが、広河氏によるセクハラ・パワハラ行為についての会社としての検証記事を掲載するとしていた。発売を320日に延期し、3・4月合併号とする (7*)

       この間の編集部、取締役会、検証委員会の変遷に関しては注8*で触れているが、何れにしても、雑誌の最終号で今回の事件の検証を担うべき中心メンバーを巡る混乱振りは素人目にも明らかである。私自身、ジャーナリスム業界や出版界を殆ど知らないので、次々出て来る個人名にコメントのしようも無いが、雑誌を支えてきた人々が受けた衝撃の大きさがその混乱に現れているのだろう。

       次の記事では、本事件の「検証」をめざし、3月中旬に刊行された3・4月合併号(最終号)を紹介し、重要と思われる幾つかの論点(広河氏個人、雑誌デイズジャパンは説明責任を果たしたか?個人及び会社の検証は十分に進んだか?広河氏、或はデイズジャパンの「実績」は全否定されるべきか?)について一読者の観点からコメント・感想を述べてみたい。

 参考記事

https://wezz-y.com/archives/62586

https://abematimes.com/posts/5471992

https://businessinsider.jp/post-182763

https://biz-journal.jp/2019/02/post_26520.html

https://buzzfeed.com/jp/akikokobayashi/daysjapan

DAYS JAPAN 2019年2月号、3/4月合併号(最終号)

 (2) 注1*~8*

*1広河隆一氏 人権派フォトジャーナリストとして知られ「被害者の立場に立って」パレスチナ、チェルノブイリ、福島等についての取材・報道に取り組み、2004年より15年にわたり報道写真誌「DAYS JAPAN」の編集長や発行人をつとめた。75歳。

*2 DAYS JAPAN 一時期定期購読者数は一万人を超えたとも言われる。また、世界的な報道写真賞でもあるDAYS 国際フォトジャーナリズム大賞を主催し、ここ何年かは世界の報道写真家に多くの(副)賞を選考・贈呈している。各地でこの写真誌の「読者会」なるものも結成され、写真展を企画するなど草の根的な支援層も日本各地にあったもようである。

*3性暴力・セクハラ被害の証言 証言の詳しい内容は、元記事を参照されたいが、例えば、2007年頃編集部でアルバイトをしていたジャーナリスト志望の女子大生:広河氏から「僕が写真を教えてあげる」と都内のホテルに誘われ、セックスに持ち込まれた。かねてより編集部内での師の権力を目の当たりにしており「逆らってはいけない人」との思いがあったため断れなかった。その後も業務で叱責されたあとに性交を強要されるなどしたが、立場的に「ここで見放されたらジャーナリストの道は開けない」と思い込み応じてしまった。2008年頃編集部で働いていた当時18歳の女子大生:氏からアシスタントの話をもちかけられたが「アシスタントになるなら一心同体にならないといけないから、体の関係ももたないといけない」と言われ、ジャーナリストの夢のためにセックスに応じた。女性は「断ったら弟子失格の烙印を押されるのではないか」との思いからその後も関係は続いた。その結果。女性は「中くらいのうつ」と診断され、大学を休学、DAYS JAPAN編集部からも離れた。その後写真から離れた生活を送っていたが、東日本大震災の際に広河氏から「アシスタントとして一緒に来ないか」との連絡を受け、夢を諦めきれずに同行。しかしその出張先でも、高熱と薬の副作用で意識朦朧の中、性交を強要された。他にもDAYS JAPAN に関わっていた複数の女性が、「写真を教える」という名目のもとヌード撮影を強要されたり、肉体関係をもつよう誘われたりした過去を暴露している。編集部内で、広河氏によりその圧倒的立場を利用したセクハラが多くの女性に対し長期間行われていたという許し難い恥ずべき状況があったことは疑う余地はないようである。

文春の直撃取材に対し、広河氏自身は女性達との肉体関係は認めつつも「望まない人間をホテルには連れて行かない」、「僕に魅力を感じたり憧れたりしたのであって職を利用したつもりはない(良く聞く論法!)」と反論・弁明している。

 

*4 広川氏自身からのコメント(全文写し)

週刊文春2019年1月3日・10日号に私に関する記事が掲載されました。

この記事に関して、私は、その当時、取材に応じられた方々の気持ちに気がつくことが出来ず、傷つけたという認識に欠けていました。私の向き合い方が不実であったため、このように傷つけることになった方々に対して、心からお詫び致します。

なお、今回の報道により、私は、株式会社デイズジャパンの代表取締役を解任され、取締役の地位も解任されたこと、またNPO法人沖縄・球美の里についても、名誉理事長を解任されたことをご報告いたします。

2018年12月26日 広河隆一

 

セクハラ行為自体についての言及・謝罪は全く無いまま、直撃取材時の反論から唐突にお詫びに転じているがその理由は違和感がある。果たして「向き合い方」の問題だろうか?「気がついていなかったから」あるいは「傷つけたという認識はなかったので」行為自体は仕方が無かったとでも言っているように聞こえる(轢き逃げと同じ?)。

 

*5 デイズジャパン社からのコメント(コメント全文)

読者のみなさまへ

  週刊文春201913日・10日号に掲載された広河隆一氏の記事に関して

  週刊文春2019年1月3日・10日号に掲載された広河隆一氏の記事に関して、本年12月24日、広河隆一氏(以下「広河氏」)から取材を受けたとの報告があり、弊社としては、直ちに広河氏に対して、聞き取りを行いました。

  その結果、広河氏としては、その当時、取材に応じられた方々の気持ちに気がつくことが出来ず、傷つけたとの認識を持っていなかったこと、傷つけたとの認識を持ち得ないまま今日に至ってしまったことを確認しました。

長年にわたってDAYS JAPAN誌の編集長・発行人としてかかわってきた広河氏が、被害者の方々の尊厳を傷つけてしまったことに対して、弊社として、心からお詫び申し上げます。

弊社としては、DAYS JAPANが標榜する理念に照らしても、極めて深刻な事態だと認識し、こうした事態を踏まえ、昨日、臨時取締役会を開催し、広河氏を代表取締役から解任し、また、臨時株主総会を開催し、取締役からも解任いたしました。広河氏との関係も清算中です。

弊社として、広河氏の言説を看過するわけにはいかず、これに与する立場ではないことも鮮明にいたします。

広河氏が、自ら本件について誠実な対応を取ることを求めるとともに、弊社としても、弊社の存在意義をふまえ、最後までDAYS JAPANの刊行に取り組む所存です

末尾ながら、読者の皆様を始め、広河氏とともに活動してきた方々の信頼を失わせる事態となってしまったこと、また関係者の方々に多大なるご迷惑とご心配をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます。

2018年12月26日 株式会社デイズジャパン

広河氏からのコメントと同じくハラスメンと行為自体についての言及は無い。自体の深刻さは指摘しているものの「なぜ深刻なのか」についてもはっきりしない。今後の本人、及び雑誌としての誠実な対応は最低限の義務であり、多くの人々が関心を持ち続けるであろう。

 6*(2回目のコメント全文)

みなさまへ

週刊文春2019年1月3日・10日号の取材に応じられた方々をはじめ、被害にあわれた方々とご家族・関係者の方々、また読者の皆様へ深くお詫び申し上げます。

本年12月26日付の弊社の声明及び広河氏のコメントが発表されて以降、多くの方々からご意見をいただきました。なかには、弊社サイトに掲載した広河氏のコメントについて、「デイズジャパンはあのコメントで良いと思っているのか」と言う厳しいご指摘もありました。

弊社は、本年12月26日付の声明でも明らかにしたように、広河氏から記事の件について報告を受けて以降、継続的に広河氏に対して聞き取りを行っており、声明を発表した後も続けております。聞き取りを通じて、記事で取材に応じられた方々以外にも、同種の件があったことを確認いたしました。

また、弊社においては、今回報じられたような「性暴力」とは別に、(広河氏による?)社員や協力スタッフに対するパワーハラスメントと評価されるべき事態が複数回ありましたが、個別的な対応に留まってきました。

  過去のこれらの問題について、社員や協力スタッフから問題提起があったこともありましたが、会社として被害を受けた方の訴えに真摯に対応し、二度とそうした被害が生じないよう全社を挙げて対策をとることをせず、会社として取り組むべきことを取り組まないまま今日に至ってしまいました

今回の報道を契機として、あまりにも遅すぎましたが、広河氏個人の責任とは別に、弊社としての責任を痛感しているところです。

現在、弊社は、今回の報道を機に就任した弊社代理人を責任者として、広河氏個人の過去の言動による被害実態について調査を行うとともに、広河氏を絶対化させてきた会社の構造・体質についても、役員など関係者への聞き取りなどの調査を行っているところです。

弊社としては、広河氏の解任によって今回の件が終結させられるとは考えておりませんし、そうあってはならないと考えています。広河氏に対しては、これまでの広河氏自身の言動によって被害を受けた方々に誠実に対応することを求め続けていきますし、弊社としても、自らのこの間の組織のありようについて真摯に検証し、弊社雑誌「DAYS JAPAN」の最終号において公表する予定です。

2018年12月31日    株式会社デイズジャパン

7*  デイズジャパンは発売延期の理由を、最終号では「検証委員会の報告に加え、人権や差別をテーマに掲げている団体・個人においても不可視化されてしまう女性差別・ハラスメントの問題に取り組み伝えていこう」と考え「最終号の編集委員を、これらの問題に取り組んできた方々へお願いし、発売を1が月延期することで、現在出来ることを見て頂く」ということにしたと述べている。また検証委員会のメンバーとして次の3名も公表している(8*)。委員長 金子雅臣氏(一般社団法人 職場のハラスメント研究所 代表)、委員 上柳敏郎氏(弁護士)、委員 太田啓子氏(弁護士)。

8* 人事・検証体制の混乱

素人が理解するのはかなり困難を伴うが、この経緯をネット情報など

 https://bunshun.jp/articles/-/10742

 をもとに辿ると大体次のようになりそうである。

1月19日発行の2月号に「編集部の今後の方針と次号について」というメッセージがあるが(内容には後で触れる)、末尾には、DAYS JAPAN編集長 ジョー横溝、編集部 小島亜佳莉、金井良樹 とある。しかしながらほぼ10日後の1月末、ジョー横溝編集長は辞任するが、2月初めの集会で「なぜ15年間みんな黙ってきたのか、掘り起こさないといけないと言ったんですが、それが上に通じず、僕はDAYSを去ることになりました」と語ったと言う。

また「新しい代理人」として2018年末に任命した馬奈木誠太郎弁護士を2週間足らずの2月13日で解任し、次の新しい代理人として、竹内彰志、稲村宥人両弁護士が決まったようである。そして彼らと会社執行部(取締役会?)により、「第三者性を担保した」検証委員会を1月末までに発足させたと言う。検証委員会の委員長には金子雅臣氏(労働ジャーナリストで社団法人「職場のハラスメント研究所」所長)、委員には記述の通り、上柳敏郎氏、太田啓子氏の両弁護士が選ばれた。

今ひとつこの間全く見えないのは会社執行部、即ち取締役会の構成である。広河氏の解任後代表取締役(及びDAYS発行人)に選ばれたのは川島進氏で、DAYS創刊号からアートディレクターをつとめ、デイズジャパン設立当初からの取締役・株主でもある。二人の付き合いは30年以上前に遡り、講談社時代 (1988-90) のDAYS JAPANでともに仕事をした後も広河氏の多くの著書で、装丁やデザインを担当、氏とは盟友ともいえる間柄らしい。最終号の発行責任者はこの川島進氏であった。もう一人の取締役は広河氏の妻で(2018年11月就任)大手出版社の編集者で広河氏の著作の編集も担当しているらしい。即ち 公私とも極めて関係の深い人物である。

3人目の取締役は、先述の講談社「DAYS JAPAN」で編集長をつとめた土屋右二氏で、やはりデイズジャパン設立時からの取締役である。「広河君のことは同士だと思っていた」らしいが性暴力の報道を受け決別を決意、デイズジャパンには1月には取締役辞任の通知を出したと言う。川島氏からは「取締役は3人必要なので辞任は認められない」と言われたが、もうデイズジャパンには一切関わらないと話したという(多分1月末時点)。

バンカ島事件 (3)

世界的な反性暴力の潮流の中で日本(人)は今後何をすべきか?

昨年のノーベル平和賞

  記事(1) の中で、リネット・シルヴァーさんは、最近の#MeToo運動がブルウィンクルさんの告発に確信を与える(勇気付ける)ものになったと言及しているが、注目すべきフレーズとして、”(it’s known) rape and sexual assault are used as weapons in war”レイプや性的暴行は戦争における武器として使われてきたがある。この表現は、昨年のノーベル平和賞が強姦被害者を支援する活動家、ナディア・ムラド氏とデニ・ムクウェゲ医師の二人に与えられた際、ノーベル賞委員会が授賞理由としてあげた「戦争の武器として性暴力が使われるのを終わらせようと努力して」きて、「そのような戦争犯罪について社会(世界)が認識し戦っていくよう、重要な貢献をした」という文章中の表現とほぼ同じである。

BBCの記事*1によれば、二入の業績は以下のように要約できるであろう。

https://www.bbc.com/japanese/45760596

ナディア・ムラドさん:イラクの少数派ヤジディ教徒で、過激派「イスラム国」(IS)に拷問、強姦された(3ヶ月にわたりISに性奴隷として扱われ、繰り返し売買され、性暴力を含む様々な形で虐待された)のち脱出し、ISに捕らわれたヤジディ教徒解放に奔走した。ISから脱出して間もない頃BBCから受けたインタビューで、匿名での撮影とインタビューを断り「いいえ、私たちがどういう目に遭ったのか、世界に診てもらいましょう」と述べたという。現在は国連親善大使として人身売買被害者の救済のため活動し、強姦など性暴力が戦争の武器として使われる現状に対して国際社会として取り組むよう訴えてきた。2016年授賞したバーツラフ・ハベル人権賞の授賞スピーチでは、ISによる犯罪を国際裁判所に裁いてもらい、戦闘手段としての強姦に厳罰を適用するよう、国際社会に訴えかけた。

デニ・ムクウェゲ医師:婦人科の医師であるムクウェゲ氏は紛争の続くコンゴ民主共和国東部で強姦被害者の治療に同僚たちと取り組み、戦争の武器として使われる性暴力による重傷に対する治療法を確立してきた。患者の人数は約3万人と言われる。被害者の多くは、性器など身体に深刻な重傷を負っている場合が多く、それに対する再建手術などの治療法を確立し、被害者に提供してきた。2008年には、国連人権賞、ナイジェリア紙が選ぶ「今年のアフリカ人」など様々な賞に選ばれたほか、2014年には、欧州議会が優れた人権活動家に贈る「思想と自由のためのサハロフ賞」を授賞。現在国連平和維持部隊の警護を受けながら、コンゴ東部ブカブのパンジー医院で生活している。戦闘行為としての強姦を厳しく取り締まるよう、国際社会に呼びかけてきた。

日本で相次ぐ性暴力事件に対する無罪判決

  これに対して最近の日本における酷い状況はどうだろう?THE BIG ISSUE JAPAN 360号の「雨宮所凛(あめみやかりん)の活動日誌」によれば、この3、4月性暴力事件に対する無罪判決が相次いでいる。3月12日福岡地裁:テキーラなどを飲まされた女性が性的暴行された事件において、男性が無罪判決。3月19日静岡地裁:強制性交致傷罪に問われた男性が無罪。3月28日静岡地裁:実の娘を12歳から2年間性的暴行をした罪に問われていた父親が無罪。理由は、「家が狭い」から家族が気づかなかったのはおかしい、長女の証言は信用できないなどである。4月4日名古屋地裁:中学2年生の時から実の娘に性的虐待をしていた父親が無罪、などである。

 わずか1ヶ月ほどの間に続いたこれら一連の司法判断を受けて、4月11日午後7時から東京駅近くの広場で開催されたのが、性暴力と性暴力判決に抗議するスタンディングデモであった。底冷えする夜であったのに400人もの女性が全国から駆けつけた。手にしたプラカードには「裁判官に人権教育と性教育を!」、「おしえて!性犯罪者と裁判長はどう拒否したらヤダって理解できるの?」、「Yes Means Yes !」などの文字があった。

 最初は著名人が判決への怒りをスピーチしたものの、途中からは多くの参加者(性暴力、セクハラを受けてきた人、17歳の高校生、50代女性、、、)が飛び入りでマイクを握り思いの丈を語ったという。ここでは、紹介されている発言を再掲して、われわれが向かうべき次のステップへのきっかけとしたい。

 「子供の頃に強制わいせつの被害に遭いました。20歳になってから記憶が蘇って、PTSDの症状で学校に行けなくなりました。夜も眠れませんでした。もう10年以上経ちました。非正規で、バイトして、ギリギリで生活してて、それでやってるバイトでセクハラ。ふざけんじゃねえよ!!どうして被害に遭う私たちが社会を転々としないといけないんでしょうか?」「幼馴染だった友人は、家庭内暴力の末に、性的虐待の被害にも遭って、24歳で自殺しました。助けてくれる大人はいませんでした。今日、たくさんの人が花を持って集まった。その花をどうか、生きられなかった私の友達や誰かの友達に、たむけてあげてください」

日本人男性として思うこと

  バンカ島事件については、私自身最近まで詳細は知らなかったが、今回の記事を契機に色々調べてみて、この事件は、従軍看護師とはいえ歴とした民間人で、例え捕虜であったとしても当時でさえ人権はある程度尊重されていたゆえに、虐殺(銃殺)など到底有りえないことだと思われる。それに加え、銃殺の前に強姦するというのは常軌を逸しているという気がする。しかも同様のことを香港、フィリビン、バンカ島と続けて行っているのはほぼ確実である(同じ聯隊かも?)。これらの事実はこの日本軍兵士による強姦・虐殺という一連の行為が戦局などに追い詰められた突発的な行為でなく、大隊のかなり上まで承知していた計画的な犯罪であったことを示唆している。「南京虐殺被害者はもっと少なかった(そもそも無かった!)」とか「朝鮮人慰安婦は強制してやらせたものではない」と幾ら宣伝しても、この事件の本質を見ると世界の世論に対する説得力に著しく欠けていると言わざるをえない。

 この事件の酷さには、私自身日本人(高齢)男性として、そのような祖父、父をもったことを大変恥ずかしく思う。そして、加害者の側からもっと様々な事実の発掘に努める必要があったのに、全くそのようなことが出来ていないことも深く反省している。もちろん今からでも遅くないので(余り時間がないが)やるつもりではあるが。

 このバンカ島事件についてのBBCの記事への大手マスコミの反応は殆ど無かったが、時々話題になるこのような「昔の出来事」に関し、世間一般のいつもの言説は、サトウ氏の見解にもあった「どこの戦争でもあること」、「戦争中の異常な状況下だから仕方ない」、「占領軍も日本でやっていた」、「加害者も被害者ももう殆どいないからもういいんじゃないの!」「加害者も多く戦死しているのだから罪には問えないよ」等の緩くかつ乱暴なものである。本当にこのようなぬるま湯的な総括で世界は許してくれるのかを真剣に考えるときに来ている気がする。このような過去をもつ日本こそ率先して戦争犯罪(慰安婦)博物館などを設立し、戦争犯罪に関する世界的な客観的かつ第三者的な研究拠点を作ると同時に、戦争犯罪を厳しく追及し裁く国際裁判所等も誘致すべきではないだろうか。公正な国際裁判における加害者への厳罰こそが戦争犯罪もしくは戦時下性暴力を減らす大きな一歩となると考えられる。とりあえず今はせめて伴走者(#WithYou)として走り始めることを誓いたいと思う。

バンカ島事件 (2)

日本軍兵士により虐殺された看護師らは多分殺害前にレイプされていた!

 実は、(1)の事件は、既に26年前(1993年)日本人研究者によって公けにされていた。以下にそのことを報道したオーストラリアの新聞記事を翻訳して紹介する。

*1 22 Sep 1993 – Murdered nurses were probably raped by Japanese officers, says academic, Trove ノーマン・アブジョレンセン(署名)

 日本人学者の研究*2によると、第2次大戦時、バンカ島において日本軍に虐殺された21人のオーストラリア人従軍看護師達(のグループ)は、ほぼ確実に殺害される直前に日本軍兵士によりレイプされていたが、そのレイプの事実は彼女らの(名誉ある)記憶を守るため(永年)隠されていたということである。

 そのような苦難を生き延びた看護師のただ一人の生存者、(シスター)ヴィヴィアン・ブルウィンクルは、オーストラリア当局への説明の中でレイプについて一切言及していない。

 この大量虐殺の報告は、当時の呆然としていたオーストラリア(の人々)を恐れさせると同時に激しく怒らせることになった。「オーストラリア国立大学における日本」という国際会議で今日(1993年当時)タナカユキ(田中利幸)氏(現在=1993年当時メルボルン大学教員)により発表された論文によれば、(様々な)証拠は、シスターブルウィンクルは「調査に際し、彼女の亡くなった同僚達をレイプの犠牲者として知られるという不名誉から守るため真実を述べなかった」ことを示唆しているとしている。シスターブルウィンクルも負傷して死に瀕していたが、その後陸地に戻ることができた(虐殺は海岸の海の中で行われた)。

 その看護師達は、1942年2月11日(日本軍による陥落より4日前)シンガポールから避難したが、彼女らが乗船した船(ヴァイナブルック号)は、日本軍の飛行機により爆撃され、スマトラとバンカ島の中間で沈没した。12人の従軍看護師を含む多くの乗客が溺死したが、他の人々は最大4日も漂流したのちバンカ島に辿り着いた。彼女らは日本兵によって捕らえられ、男性(殆どが英国人兵士)とは分離させられた後(海中で)銃殺された。そのとき彼女らは全員オーストラリア軍従軍看護師の制服を着用し赤十字の腕章を着けていたというのに、である。

 タナカ氏は次のことは極めて重要であると述べている:日本兵らは、銃剣により殺害した英国人兵士の遺体は海岸に放置したのに対し、彼女らの体の「証拠」は後に残されないように確認していた。

 終戦後直ちに、オーストラリア軍調査委員会は加害者の探索を開始した−(なぜなら)(岐阜歩兵)第229聯隊(聯隊長田中良三郎少将、事件当時大佐)第1大隊の何人かの日本兵は(後で判ることだが)バンカ島事件の2ヶ月前香港で起こった(英国人)看護師に対するレイプ・虐殺事件に関与した疑いで既に英国により取り調べを受けていたからである(調査委員会は田中良三郎少将を逮捕したが、聯隊はガダルカナルでほぼ全滅したため証言者が殆どいなかったようである*3。第1大隊長(折田優少佐、事件当時大尉)は、戦後ロシアに抑留されていたが、その後東京に戻ったものの、(裁判で)尋問される前に自殺している(タナカ氏の著書*2によると、1948年6月16日舞鶴に帰還した後、6月19日に米軍に身柄を引き渡され、巣鴨拘置所に拘留された。その勾留中の9月に窓ガラス修理用の道具で首の血管を切って自殺し、起訴には至らなかった)。

タナカ氏は、英国とオーストラリア両国の調査による文書から、次のように推定している:即ち、バンカ島でオーストラリア軍看護師を虐殺した兵士達は、殆ど確実に、香港で英国人看護師をレイプし虐殺した兵士達で同一である。この理由により、オーストラリア軍看護師はやはり虐殺される前にレイプされていたと考えられる。

タナカ氏の論文は次のことも明らかにしている:日本人だけがレイピスト(強姦者)ではなく、(最近の文献によれば)1945年10月に呉で日本人一般市民への一連のレイプ事件が占領軍により起こされたが、その(加害者の)中にオーストラリア軍兵士も含まれていたということである。

ある研究者は、警察により募集された売春婦は「防火線」の役割を果たしたと言っている:「オーストラリア兵は最悪だ。彼らは若い女性をジープに引きずり込み、山の方を拉致した後レイプした。私はほぼ毎晩彼女らの助けを求める悲鳴を聞いた」。戦争時のレイプや日本で言うところの「慰安婦(売春婦になることを強いられた、多くの場合外国人女性)」について多くの研究実績をもつタナカ氏は「戦争とレイプは同じ種類の事柄であり:即ち、それらは本質的に互いに関係している」。(以下省略)

2* 田中利幸『知られざる戦争犯罪―日本軍はオーストラリア人に何をしたか』大月書店、1993年12月2日第1刷発行、ISBN 4-272-52030-X

3* https://ja.wikipedia.org/wiki/バンカ島事件

  • 田中利幸氏について

https://ja.wikipedia.org/wiki/田中利幸

田中氏は1949年5月福井県生まれ(70歳)の歴史学者で、広島市立大学教授を経て、現在ドイツのハンブルグ社会研究所で「紛争時の性暴力」研究プロジェクトメンバー。従来は知られていなかった日本軍による戦争犯罪の事例を紹介してきた。戦争犯罪に関しては、加害者が被害者でもある両面性、戦争犯罪の普遍性といった問題意識も有し、アメリカ軍など連合国側による戦争犯罪との比較研究も進めている。また、第2次大戦時日本軍の「人肉食」への言及でも知られている。これらの「業績」に対し、いわゆる「右翼」の側から「反日デマ」、「国賊」等口汚いネットバッシングも受けている。

バンカ島事件 (1)

1942年に、日本兵は豪の看護師21人を銃殺する前に何をしたのか? 真実追求の動き

 英国BBC放送の最近の記事*1によれば、「事件」の概要は以下の通りである:第2次大戦中の1942年、オーストラリアの女性看護師の一団が、日本軍兵士達によって殺害された。この事件に関連して、複数の(女性)歴史研究者(リネット・シルヴァーさん−軍事史研究者、バーバラ・エンジェルさん-伝記作家、デス・ローレンスさん−テレビキャスター)の調査により、ある事象が浮かび上がり、正式に公表されようとしている。その内容とは「その看護師達は殺害前日本兵達に性的暴行を受けたが、オーストラリア政府はそれをひた隠しにしてきた」というものである。

*1 https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-47986990

シルヴァーさんによる調査結果:シルヴァーさんはまずこう述べている;「この真実を発掘し、ついに公表するには複数の女性の力が必要だった」。ここでいう「真実」とはオーストラリア人看護師22人に起きた上記のような悲惨な体験をさす。行き残ったのはヴィヴィアン・ブルウィンクルさんただ一人であった。そして「オーストラリア軍の高官たちは、悲しみにくれる家族たちに家族が強姦されていたという汚名を与えたくなかった。恥ずべきことだと思われていたので。(当時)レイプは死よりもひどい運命と考えられ、ニュサウスウェールズ州では1955年まで(加害者は)絞首刑による極刑で処罰されていた」とも述べている。この圧力により、ブルウィンクルさんは東京裁判でも、強姦について「話すのを禁じられた」ということである。ブルウィンクルさんはこのことをキャスターであるローレンスさん(2017年証言)に伝え残していた。

シルヴァーさんによると「ヴィヴィアンさんはこの命令に従っており、オーストラリア政府にも多少の罪悪感があった。(何故なら)政府高官。は1942年の香港侵攻の際、日本兵がイギリス人看護師たちをレイプし殺害したのを知っていたにもかかわらず、オーストラリア人看護師のシンガポールからの避難が遅れたからである」。またバンカ島でマラリアの手当てを受けていた日本兵の証言もあるという。シルヴァーさんによれば、その兵士はオーストラリアの調査官に当時悲鳴を聞いたと話し、「兵士たちが海岸で楽しんでいるところで、次は隣の小隊の番だ」と聞かされたとも証言していた。

 さらに伝記作家のエンジェルさんは、ブルウィンクルさんが着ていた看護師の制服に残された色違いの糸と銃弾の穴について調べた結果を述べている。即ち、糸の違いは上半身のボタンが一旦引きちぎられ、後に(死後制服が展示された際に)そこだけ違う色の糸で縫いつけられてことが伺われる。また、制服の2カ所に残る銃弾痕(入口と出口)はぴったり合うにはやはり暴行の事実が示唆されるということも判明した。

 最後にシルヴァーさんは言う:ブルウィンクルさんが1945-46年に話したいと思っていた「ありのままの真実」は重要なことである。なぜなら「もし私がこの話を語らなければ、私自身も沈黙の風潮と政府の圧力に加担し、加害者を守ることになってしまうから。看護師たちの話を語る必要がある!それでやっと彼女たちの正義が実現する」。また今回の一連の証拠を発掘した歴史研究者が3人とも女性であったことについて「歴史(history)が彼の話(his-story)として語られるのをずっと聞いてきた。今回はその反対だ」とも述べている。さらに、最近の#MeToo運動との類似性も指摘している:何かを言える前に女性達が長い時間待つことを強いられると感じる同じような社会的道徳観が存在する。

 

アメリカサイエンス(学術)界のセクハラ事件 (2)

辞職と軽い処分で終了?! 私たちの学ぶべきこと

マーシー教授は、Buzzfeedでの暴露以降、大学当局と自身への批判を受け、その後、形の上では教授職を辞任した(10月)が、軽い刑罰で処分されたのみであった。重要なのはわたしたちはこの事例から何を学ぶべきかということである。

本ブログの「わたしたち」の項でも述べたが、残念なことに、1)似たような状況は、日本の研究機関・大学でも「よくある話」で、2)殆どどの組織にもセクハラ常習者はおり、3)地位や実績の高い人ほどそれを盾に開き直る(指導・教育であった?)か否定し、組織全体のモラルを破壊し腐敗させる元凶となっている。これらの事実をもっとはっきり認識すべきで、彼らの与えている社会的・学術的損失は計り知れないほど大きいのである。

直接被害を被る立場の学生・若手職員間の情報や申し送りは、根拠があり信頼できる場合が多い。近い内にこれに類似した「セクハラ事例」を掲載予定で、全国の教育・研究期間に居座り続けるハラスメント常習者の暴露と追放を皆様と一緒に進めていければと考える。

(2015年10月20日WEBRONZA, https://cakes.mu/posts/11200等)(A)

アメリカサイエンス(学術)界のセクハラ事件 (1)

著名な学者と甘い大学当局、公然の秘密に

既に古い話になりつつあるが、2015年にBuzzfeed newsのスクープにより明らかになったのは、著名な天文学者であったカリフォルニア大学バークレイ校 (University California Berkley, UCB) のジェフ・マーシー教授のセクハラ問題である。その著名さは、この分野(太陽系外惑星研究)でノーベル物理学賞が授与されるとしたら確実に3人の内の1人に入っていたといわれるほどである。

特筆すべきは、ハラスメントが2000年ごろから長期にわたり多数の学生に対して常習的に続けられていたこと、その間の学生・職員からの度々の訴えが大学当局の無責任な対応(匿名や代理の訴えには対応しない等)により一貫して無視されてきたことである。その結果、UCB天文学教室では、女子学生の間で、マーシー氏の研究室の学生になってはいけないという忠告が学年ごとに申し送られていたという。即ち、大学と一部の関連研究者の間ではいわば公然の秘密になっていたわけである。

(2015年10月20日WEBRONZA, https://cakes.mu/posts/11200等)(管理人A)