―デイズジャパン検証委員会による報告書(2019/12/26公開)についてのコメント(3/3)―
4) ハラスメント発生の原因
a) セクシャルハラスメント(2/3)
b) パワーハラスメント
- 独自の経営理念・組織観 DAYS JAPAN社の「崇高な」理念は、広河氏の次のような言葉に現れている『初期の中心メンバーはボランティアであった。DAYSは労使関係や、搾取などという資本主義の常識が合わない企業を目指して誕生した。それはむしろ運動体という言葉があっていた』。このような理念は本人にとっては「崇高な」ものであったかも知れないが、報告書が指摘しているように、こうした理念に基づく企業活動は、目標の実現に向けて自己犠牲や滅私奉公を厭わないものとなる。その結果人事管理は困難を伴うものになっていたようである。
いわゆる無借金経営も広河氏が自慢した来たことの一つで あるが、これもパワハラを生み出す原因の一つであった。すなわち、DAYS JAPAN創刊こそ事前に多くの定期購読者を集めることにより達成できたが、その後の持続的運営において、最初の規模の「死守」が至上命題となり、様々なコストの徹底的削減がなされた。その中には勿論人件費に関するものも多く含まれていた。
これ以上詳細には立ち入らないが、今回の広河氏の事例は、まさには、自ら起こした企業は自分個人のものであり、自分の自由意志でどのようにでも運営できると思い込む、ワンマン社長の典型例である、と報告書も指摘している。ただ本人も無理な組織運営には困難さを自覚していたらしく、度々自分の後任(代表取締役)を探していたらしいが、結局ワンマン性故に設定した高いハードルを超える人材を見つけられなかったようである。
- 労働者の権利主張を認めない経営 報告書では、広河氏の労務管理の特徴の一つに極端な労働組合嫌いが挙げられる、と述べている。これは極端に強く、偏見とさえいえるほどで、彼の発言の随所に現れている。すなわち、労働組合の存在自体が会社経営に好ましくなく、(労働争議等を経て)会社倒産につながりかねない、という認識をもっていたようである。これはまさに中小零細企業の(ワンマン)経営者によく見られる傾向で、普通の例よりさらに過敏であるとも指摘されている。いうまでもなく、労働者=従業員の権利を守る意識から遠く離れた位置にあると言える。
また、先ほどの経営規模の問題との関連で、特に人件費の増大が経営を圧迫するという強迫観念から、労働者の犠牲で成り立つあらゆる経費削減を従業員全員に強いていたことも指摘さ れている。これを理由に、多くの無給、或は低賃金のボランティア、インターン、協力者を抱え、それらの人々の奉仕に依拠して会社を運営してきた。休日手当や残業代はいうに及ばずであった。労組嫌いとあいまって、このような凄まじいパワハラが会社=組織存続のため継続されてきたと言えよう。
広河氏は、このような経緯に関し「反省の弁(この時代に急速に労働環境が変化していることに無自覚であった、DAYS JAPANは広河事務所のような徒弟制度ではなく、会社組織であった、等等)」を述べているらしいが、報告書は端的にも「デイズジャパン社創業時に既にあった労働関係法令を遵守して来なかったと言うにすぎない。近代的労使関係を受け入れようとせず、前近代的で労働者の権利を尊重しない徒弟制のような感覚でデイズジャパン社の経営に当たっていた」と本質を喝破している。
5) デイズジャパン社のコンプライアンス
役員らおよびデイズジャパン社は、以下のような責務を負っていたはずである。
- 役員の監視義務等
法令及び最高裁判例で定められている役員らの義務は以下のようなものである。
取締役:会社法355条 法令遵守義務。(相互の)監視義務(最高裁判決)
監査役:会社法382条 (取締役の)適法性監査
取締役・監査役:会社法423条1項 株式会社に対する損害賠償責任。同429条1項 第三者に対する損害賠償責任(悪意または重過失が要件)
- 事業者のハラスメント防止義務等
まず、ハラスメントにより、身体、名誉感情、人格権などが侵害された場合は、当該行為者とともに使用者も、不法行為(民法709、715条)や安全配慮義務違反(雇用契約上の債務不履行、民法415条)として損害賠償責任を負う。また労災保険の支給対象になる場合、さらにはハラスメント行為者が刑事責任を問われることもありうる。
これに加え、ハラスメントについては、事業者の措置(防止)義務がある。セクハラについては、雇用機会均等法(2006年改正)11条1項は、「・・・適切に対応するために必要な体制の整備そのほかの雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と規定し、厚労省指針(2006年)は事業者の措置義務として次のような項目を示している:
① (セクハラについての)事業者の方針の明確化およびその周知・啓発
② 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ 事後の迅速かつ適切な対応(事後措置・調査義務・被害拡大回避義務・再発防止義務・被害回復義務)
④相談者・行為者のプライバシー保護、不利益取扱いの禁止
さらにパワハラに関する事業者の責務として、厚労省により「雇用管理上講ずべき措置等に関する指針素案」(2019年10月)において、パワハラについての労働者の関心と理解を深めること、研修の実施その他の必要な配慮をすること、役員は自らもパワハラ問題に関する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならないこと、などが指摘されている。
6) ハラスメントへの抗議とデイズジャパン社の対応
- 抗議と対応の例
報告書では、このようなデイズジャパン社の負うべき上記諸責務の履行状況を、ほぼ創刊後間もない時期からあった様々なハラスメントへの抗議とデイズジャパン社の対応を記録・追跡する中で検証している。先に述べた守谷監査役がネガティブに絡むケースもあり、少し辟易するので、ここでは、典型的な1例とそれに対するデイズジャパン社(広河氏)の対応のみを取り上げておく。
ある女性社員は、ボランティアの女性から広河氏から(セクシャル)ハラスメントを受けたことを聞き、広河氏に「彼女たちにしたことはセクハラです」と抗議したが、認めようとしなかった。また、新しく入ってくる女性社員やボランティアがセクハラ被害に遭わないように、注意喚起の趣旨で「広河さんはそういう問題行動をすることがあるから気をつけて」と伝えるようにしていた。ところが、その後外国出張に同行した女性社員に「注意喚起した」ことが広河氏の知るところとなり、激怒していたと聞いた。
これに対するデイズジャパン社の対応としては、本来退職時に買い取ることになっていた未消化の有給休暇が、結局退職時には大幅に減らされていた。この措置は、上記の「注意喚起」に対する報復としか考えられない。問題にしても疲弊することが予測されたため、結局諦めた。広河氏は、セクハラの告発にも至らないような社員間の情報共有にさえ過敏に反応し不機嫌となり、報復的措置を取ることもあった訳である。十分な確信犯的振る舞いである。
- 役員らの監視義務の履行状況
報告書では、川島、土屋、小川取締役、守谷監査役それぞれについて精密な聞き取り報告があるが、それ以前に、役員全体の状況として、
- 会社としてハラスメント防止方針を策定して周知したり、相談体制を整えるというようなことも、発想自体なかった、
- 立場上、広河氏の違法行為や不正行為について監視する義務に対する自覚が乏しく、その履行を怠っていた、ことに加え、
- 広河氏(の実績)に対する信頼と敬意にもとづく一種のバイアスがあり、「多少の私的不品行」には目を瞑るというような感覚があった。
- 告発の声が上がりづらかった事情
報告書では以下の3つの要因を挙げている:
- 社員らは広河氏の様々なハラスメントを疑うことはあっても、その圧倒的なワンマン経営故に自浄作用が機能しない組織内で、正面から強い告発の声を挙げることは困難であった。
- 被害告発の抑圧や広河氏を消極的に擁護する言動も一部社員にあった。これはいわゆる「社会正義」の実現をハラスメント被害告発より上位に置く、という発想によるものだと思われる。
- 「特別扱い」の社員が存在し、唯一の中間管理職的立場であったのに、広河氏のパワハラを批判する態度は見られず、残業代不払いについても積極的に問題視はしなかった。また、労働組合活動には否定的な態度が顕著で、労使交渉前には役員に組合員の勤務時間中の態度の問題を指摘するなど労働組合員に反発する態度を取っていた。これらは、広河氏に対し、少人数の組織の中で労働者が一体となって抗議して声を上げるという動きを阻害した恐れがある。
広河氏の個人的資質に加え、以上述べてきた役員らの状況と上記の諸事情により、広河氏の様々なハラスメントが温存・助長され、関連した被害を拡大長期化させていった原因になった、ということであるようだ。
7) 広河氏の現状と広川氏、デイズジャパン社が果たすべき責任
a) 広河氏の現状と責任
- 「謝罪のための事実確認」を求める態度
報告書によると「検証作業期間中、広河氏は様々な迷いを見せたが、最後まで謝罪については逡巡を続け、最終的には『謝罪をしない』という選択をしたようである』となっている。その根拠となっている広河氏自身の説明は、一言で言うと「謝罪することは週刊誌報道のすべてを認めたことになり、さらなるバッシングを受けるだけだ」ということらしい。その理由として、「記憶が定かでないまま謝罪することはできない」という「正論」めいたことを言い、週刊誌に報道された件の女性と会って話して記憶を喚起しながら事実を被害者に確かめたい、と言っているらしい。これは結局、自らの犯した罪と責任に向き合うどころか、むしろ逆に被害者に二次被害を与えるような主張にこだわり、「そこにあったはずの合意の証」を得たいという思惑である。
更に見逃せないのは、自分のやってきた数々の性暴力については、「記憶があいまい」「断片的な事実しか思い出せない」と誤魔化す一方で、自分に有利な事情は「記憶が戻ってきた」として後に追加して弁明する態度など、検証作業期間全体を通じた状況として、供述態度が全体に極めて不誠実、という印象であったらしい。
- 「性的関係には女性と合意があった」という思い込み
検証の過程では、広河氏に対し何度も「あなたがしたことは女性の意に反する性暴力であり、女性たちは合意していなかったと言っていて検証委員会もそれが真実だと認定した」、「あからさまな暴力を振るったわけではなくても、優位な立場を使って相手がNoと言えない状況に乗じて性暴力を振るうという類型があり、あなたがしたことはまさにそれである」と伝えて来たにもかかわらず、氏はあくまで「合意があったはず」、、という主張にこだわり続け、「20代の女性たちが次々に6 0代後半の男性の自分に恋愛感情を持ったのだという恋愛観を堂々と披瀝したらしい。どうしても「優越的な地位によって強制した関係ではなく、個人的に惹かれあった男女の自由な関係であるということにしたい」というところから中々離れようとしないばかりか、「自分は文春の商業主義、もしくはMeToo運動に乗った時代の犠牲者である」とさえ認識していた節があったという!
この広河氏の現状を踏まえ、報告書は広河氏に以下の、ハラスメントについての責任履行勧告を述べている。最低限の項目であると思われるが以下に再掲する(詳細略)。
1. 判明した被害者への謝罪と慰謝
2. デイズジャパン社の責任履行への協力
3. 二次加害をしないこと
そしてこれらが、広河氏にできる、社会的意義ある最後の仕事である、としている。
b) デイズジャパン社、役員らの責任
- 株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負うことが定められている(会社法350条)。代表取締役であった広河氏が行った女性たちへのハラスメントはまさにこれにあたり、損害を賠償すべきことになる。従って、会社清算においては、被害者らへの損害賠償を検討し、プライバシーに配慮した上で具体的な慰謝の策を講じるように努力すべき、と報告者は指摘している。
- 役員らは、先に述べた雇用機会均等法11条1項に基づく事業者の措置義務を怠り、特に代表取締役への監視義務を履行しなかったことは重大であり、被害者に謝罪すべきであること、また、個々の件に関し、被害者から申し出があった場合には、誠実に調査して必要な医者の措置を講ずるべきである、としている。
8) 事件の教訓
a) 本事件の特徴
本事件は、「広川氏特有のキャラクターが原因となって起こされたという性格はあるものの、反権力を掲げる組織内で、ある場面では「人権派」と称され、実際に社会正義のために活動する人が、他の場面では周囲に対してセクシャルハラスメント、パワーハラスメントを繰り返すという現象はしばしば見受けられる」が故に、この問題を広川氏個人の問題として片付けるのでなく、そうしたケースに共通する教訓を指摘する必要がある、検証委員会は述べている。この点に留意してまず本事件の特徴を以下のようにまとめている。
- 「小権力」に鈍感な組織になっていた。この点について報告書は、「大きな権力に向けた戦い」のなかでは「小さな権力」の乱用が過小評価されやすいこと、「小権力」を掌握する者は大きな権力に対峙する局面では、他者への強者性の自覚が乏しくなることなどを指摘している。
- 閉鎖的な組織になっていた。報道写真という専門分野を扱う組織であったという専門性は、一般社会との距離が生じ組織の閉鎖性を高めやすい。また閉鎖的な組織におけるリーダーとしての資質はカリスマ性にまで高まりやすく、周囲の人たちを容易にコントロールしてしまい、リーダーのやり方の誤りを周囲が認知できなくなるという恐れも指摘されている。
- トップに権限が集中しやすくなっていた。独自の専門分野に特化した組織では、経験や知識のあるトップに権限が集中しやすい。その結果、徒弟制に近い上下関係のもと、縦割りに組織された部下たちは容易にトップに掌握され、横の連帯を深めにくくコントロールされやすい状況が生まれた。その結果トップへの批判や非難が組織の規律違反と捉えられやすい状況が生まれていた、と報告書では指摘されている。
- 内部での監督・抑止機能が働かない組織になっていた。通常の組織であれば組織内の苦情相談を受けて解決にあたるべき人や部署も、今回のケースでは、組織防衛意識が強く働き内向きとなっていた。むしろ受けた苦情を押さえ込んで不適切に処理する機能を果たしてしまい、組織全体に悪影響を与えるとともに自浄力の低下を招いていた。そこで告発しようとしても組織の大義を守ろうとする人々が幾重にも立ちはだかり、結局被害者が声を上げることができなかった、と報告書では述べられている。
b) 教訓
これらを踏まえ、報告書では以下の3点の教訓が提示されている。
- 外部への相談の重要性を知る。自浄性がない組織内部でハラスメント告発の難しさが存在するときは、外部への相談が極めて有効である。例えば、労働組合、行政、弁護士、性被害相談窓口などが大切であり、それを可能にするための相談先情報についての広報啓発は必要不可欠である。
- 内部で解決できる体制も重要であることを再確認する。性被害の外部への告発に関しては心理的ハードルが高く、今回のケースでは広河氏の「業績」の毀損に関する躊躇からくる葛藤などが無視できなかった。一般的にも外部への相談のハードルは必ずしもまだ低いとは言えないので、組織内部に相談窓口があるか、役員がコンプライアンス遵守の意識を持って職責にあたるなどの体制も重要である。
- 「セクハラはするが仕事はできる人だ」とういうような加害者への甘い対応を許さず、被害者、告発者を二次被害などから徹底的に防衛できる、社会的土壌形成を意識的に進めるべき。これらについて真剣に改善策を講じることがハラスメント根絶には不可欠である。
以上、報告書の要約とコメントはかなり長くなったが、もともと報告書は大部の力作であったため、省略した箇所も多い。例えば、会社解散決定に至る経緯と問題点、労働組合結成とデイズジャパン社の対応等には殆ど触れていない。是非報告書を直接お読みになることをお勧めする (https://daysjapan.net/)。
容易に推測できることであるが、報告書は独善的に運営されている組織(中小企業や大組織における一部門(大学の学部や研究室等)におけるハラスメント問題についての格好の教科書になっていることも指摘しておきたい。今加害者になっていそうな人、被害に苦しんでいる人々にも大変「役に立つ」気がする。
なお、ハラスメント加害者の「業績」についての私の個人的見解は、「個人、あるいは組織のいかなる局面における「業績」もそのもたらす負の面についての検証無しに無条件に認められることはない」と考える。即ち、負の面も「業績」に含まれるのであり、「業績」を理由にその個人、組織がもたらした不利益、不正・不当な行為が正当化されたり、免罪されたり、ましてや帳消しになることはない、と考えるものである。
報告書の公表を受けてデイズジャパン社は以下のメッセージも掲載している。デイズジャパン社は今後どうするのか、について殆ど記述が無いのが大変残念である。今後についてのコメント等が近い将来出されることを期待する。
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デイズジャパン検証委員会の報告書を受けて
デイズジャパン検証委員会から、2019年12月26日付報告書(以下、「検証報告書」といいます。)の提出を受けました。検証報告書の中では、広河隆一氏(以下、「広河氏」といいます。)による深刻な性被害をはじめとする多数のセクシャルハラスメント及びパワーハラスメントの認定がなされています。
当社は、この検証報告書を非常に重く受け止めました。検証報告書に記載されているとおり、長年にわたって当社で代表取締役を務めた広河氏による行為については、当社の責任の重さを痛感しており、広河氏による行為の被害に遭われた方々に、深く謝罪いたします。
また、当社は、検証報告書にあるとおり「加害者としての自制と責任の履行を公にすることこそが、広河氏にできる、社会的意義ある最後の仕事」であると考えます。当社としては、広河氏に対し、「まずは自分が行ったことを直視し、独善的で自己中心的な弁明を公の場で行うことは控え、これ以上被害者らに恐怖と苦痛と不安感を与えるような言動は絶対にしないよう、行動を自重することを強く求める」との勧告を遵守するよう求めます。
検証報告書を受けて、当社として、被害に遭われた方々への相談窓口を設置いたします。広河氏の被害にあわれた方については、下記(問い合わせ先)にご連絡ください。被害にあわれた方については、プライバシーに配慮した上で、当社として誠実に対応してまいります。
最後に、改めて、被害に遭われた方々に深く謝罪いたします。
2019年12月27日
株式会社デイズジャパン
代表清算人 川島 進
(問い合わせ先)
days@legalcommons.jp
弁護士 竹内 彰志
弁護士 河﨑 健一郎