LGBT差別にまつわるハラスメント (4)

現場では?現状と具体的な対処方法

 名古屋大学の「ガイドライン」を当事者はどう受け止めているのか?記事*12によると、例えば学内の性的少数者の交流サークルの1メンバーは「これまで方針を示すものが何も無かったので、形になったことは意味があるし、自分達の存在が認められたようで嬉しい」と評価している。中でも改善を求めていた健康診断の受診方法については、個別対応できることがホームページに明記され既に実施されたということである。

 一方で注文としては「ガイドラインにはやたらと「相談できます」等の文言が並ぶが、これまで相談員の無理解にがっかりして来たメンバーは少なくない。教職員の研修や学生の啓発等を盛り込んで欲しい」という意見や「ハード面の対応を必要とするT(トランンスジェンダー)に対してはきめ細かいがLGB(同性愛者)への配慮に触れた部分が少ない。アウティング防止策をもっと考えて欲しい」という訴えもあるようだ。

 実際記事*13では、様々な具体的なアウティング被害の体験が紹介されている。信頼し心を許していた周りの人間の一人が、(例えば、LGB当事者だから守ってあげて欲しいなどと)善かれと思ってやったことが、本人には極めて大きい諸オックであることが多い一方で、周囲には当事者間の問題として距離を置かれやすいという側面もあり、性暴力と構造が似ているという指摘もある。

 人気はあるがそれ故に人権感覚が麻痺している芸人らにより、未だに笑いのネタにされることも多いLGBT問題であるが故に、意図的なアウティングによるいじめや侮辱(ハラスメント)に至らなくとも、想定外のカミングアウトへの戸惑いなどから誰かに話してしまうことも起こりがちであるようだ。

 それではカミングアウトされたらどうすれば良いのだろうか?これに対する答えが、やはり記事*13に名各区に記述されている。以下に再掲する:

カミングアウトを受け止める心構え

  • 信頼して話してくれたことに感謝を示す
  • (恋愛感情の告白を伴う場合)相手が恋愛対象か対象外なのかはっきり伝える
  • わかったふり、なかったことにはしない。知りたいことは率直に聞いてみる
  • 本人の了解なく相手の生活圏内の人に話さない
  • 不安があれば、双方が信頼できる人に同席してもらい、相手と話し合う
  • 一人で抱えきれなくなったら、守秘義務のある専門窓口に相談する

(原ミナ汰さんによる)

 私自身はこれらのルールが最も腑に落ち解りやすいという印象を持ちましたが、皆様はどうでしょうか?考えてみると、これらは男女間の異性愛の場合や広くは人と人との関係でも全く同じで、相手ときちんと対話して信頼して打ち明けられたことはその人の許可なく他人に言わない、という凄く当たり前のこと(人権意識)ではないでしょうか?この意味で、教育の場などで教員から生徒や学生にカミングアウトする試み*14は色々な意味で大変勇気がいることである上に、単なる教育効果を越えた周りの人への波及力があり、大いに尊敬に値すると考えます。ごく自然にそういう機会を選択できる社会を1日でも早く作って行きたいと思います。

 最後に、一橋大学事件を担当されているナンモリ法律事務所のHP(http://www.nanmori-law.jp)も是非 訪れてみて下さい。裁判に関する詳しい経過・資料等にアクセスできます。

*13 <アウティング無き社会へ>(上)(中)(下)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021702000147.html

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021802000109.html

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021902000129.html

*14教育の窓 先生からのカミングアウト LGBT、理解へ繋ぐ (毎日新聞 2019/12/3)https://mainichi.jp/articles/20181203/ddm/013/100/019000c

LGBT差別にまつわるハラスメント (3)

各大学におけるLGBT対応指針

 こうした動きを背景に、LGBTなど性的少数者の学生への対応についてガイドラインを策定する大学が増えている。学籍簿の名前の扱い、トイレの使用、就職支援など学生生活に関わる幅広い分野で具体的な対応策を示し、セクシュアルティー(性のあり方全般)を理由とする差別や不利益をなくすのが狙いである。留学生の増加等大学の国際化が進む中、LGBTを始めとする多様性の尊重はますます重要となって来ている。以下幾つかの大学の取り組みを簡単に見ていく。

【名古屋大学】「LGBT等に関する基本理念と対応ガイドライン」を制定し2018年9月に公表。ガイドラインは情報管理、錠業、留学、環境整備等8項目に分類され、それぞれ具体的な方針が示されている。例えば「情報管理」では、学籍簿や証明書、学位等に自認する性に基づく通称名を利用できることや学生向け名簿等の文書には性別欄を外すこと、「授業」では、スポーツ授業での性別グループ分けの有無、身体的接触、合宿等宿泊を伴うイベント等に事前情報明記、等が挙げられている。また予算を伴うトイレや更衣室の改修や拡充を工夫して進める(多目的と入れマップの配布等)こと等も述べられているようである。

 職員についても、先例を参考にしつつ福利厚生や人事制度にも踏み込んでいる。例えば、職員にパートナーがいる場合、自治体の証明書や海外のパートナーシップ契約が確認できる書類があれば、配偶者がいる職員と同様の福利厚生や人事制度の対象となる。

【国際基督教大学】2012年、ジェンダー研究センターが性的少数者の学生向け生活ガイドを発行(現在9版?まで改訂)。16年には位置づけを見直して、名前を「できることガイド」に変え、セクシュアリティの観点から現在利用可能な制度の中で役立つ情報(授乳室の利用方法など)を紹介している。

【筑波大学】「カミングアウト」についての項目を設けている点が特徴で、当事者への支援だけでなく、カミングアウトされたときに周囲がどう対応するかも説明している。さらに「アウティング(カミングアウトの内容の本人の意に反しての暴露)」に対し、「自殺といった最悪の結果を招きかねない」などと厳しい表現を使い、ハラスメントと認定している点も注目に値する。

【京都精華大学】2016年に、異なる境遇や価値観をもつ他者への理解を深め、共助の精神を身につける環境作りに努める「ダイバーシティ推進宣言」を公表。

【早稲田大学】2017年、性的少数者の相談支援、交流、啓発等を行うGS(ジェンダー&セクシュアリティ)センターを設立。

【大阪大学】2017年、性的指向と性自認の多様性と権利を認識し、偏見と差別をなくす啓発活動を行うとする基本方針を提示した。

【お茶の水大学】戸籍上は男性でも性別を女性と認識しているトランスジェンダー学生の入学を20年4月から認めると発表。

 これから大学への進学を考えている高校生の皆さんやその父兄の方々には、入試の偏差値や就職率、もしくは授業料などに加えて、是非色々な大学のハラスメント状況を調べてみてはどうだろうか?各大学のホームページには意外とハラスメント関係の様々な情報が記載されているものである。青春の貴重な一時期に自分自身や友人・子弟が思いがけない悲惨な境遇に陥らないために是非とも事前の情報収集に努め、大学選択の重要基準として活用されることをお勧めします!

*9 LGBT差別禁止 首都圏に広がる 自治体、条例など明文化 (東京新聞 2018/4/23)https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201804/CK2018042302000128.html

*10 様々な性 大学でも支援を キャンパス・セクハラ全国ネット福岡で9月1、2日 教育の場、改善できる点は(西日本新聞、2018/8/17)https://www.nishinippon.co.jp/feature/life_topics/article/441904/

*11 LGBT「大学の連携大切」 筑波大がシンポ 毎日新聞 2018/10/27)

https://mainichi.jp/articles/20181028/ddl/k08/040/084000c

*12 教育の窓 大学にLGBT対応指針 学生生活の具体例明記 (毎日新聞 2018/11/19)https://mainichi.jp/articles/20181119/ddm/013/100/015000c

LGBT差別にまつわるハラスメント (2)

大学等での取り組みや自治体等での条例制定の動き

 まず、以下の最初の記事(*9)によれば、LGBTなど静的少数者への差別禁止や解消を条例で明文化する自治体が首都圏で増えている。2018年4月には、東京都国立市と世田谷区がそれぞれ条例を施行。専門家は「多様性と調和」を掲げる来年の東京五輪が追い風になっているとみているようだ。

 国立市は「女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」で、性的指向や性自認(自分の性への認識)による差別を禁じた上で、「公表の自由が個人の権利として保障される」と明記。加えて「本人の意に反して公にしてはならない」とした。罰則規定は無い。吉田徳史(のりふみ)市長室長は、条例のポイントを「性的指向等のカミングアウトを芝居人の権利も守る条例にしました」と説明する。国立市は前投稿の事件が起きた一橋大学を市内に有する自治体である。

 世田谷区の条例は「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」で、条例が定める基本的施策でも多様な性への理解促進や性的少数者への支援を盛り込んでいるという。また既に、文京区と多摩市でも2013年に性的指向や性自認による差別を禁じた条例が成立している他、渋谷区も「性的少数者への差別禁止」を定めていて、いずれも男女平等や共同参画の条例で、性的少数派に限らず誰もが性別等により差別的な取り扱いを受けないよう求めているのが特徴となっている。文京、豊島両区、千葉市では、条例ではないが、窓口や学校での、当事者対応の配慮点を記述した職員、教員向け対応指針をまとめている。

 都道府県レベルでは、首都圏の9都県市は1昨年12月「性的指向や性自認による偏見や差別の無い社会をめざす」との共通メッセージを発表。東京都にも2018年4月、庁内調整の担当組織が出来たという。国会での法整備は、与野党の溝(理解増進か差別解消か)が大きくその見通しは立っていないようである。東京五輪に絡む単なるブームに終わらせず確実に定着させて行くためには、國や都道府県による法律や制度の整備が強く望まれるところである。

 これに加えて、取り組みが遅れていた全国の様々な大学でも幾つか連携した動きが見受けられる*10-12。

 2018年9月1~2日、大学職員等でつくる「キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク」は福岡県春日市で全国集会を開いた(24回目)。今回の主要テーマは、性的マイノリティであった。1日目は「ライフ・プランニング」をテーマに3人で語る企画が、また2日目には、午前の3つの分科会の後午後からシンポジウム「大学におけるダイバーシティ政策と官製キャリアプラン」がそれぞれ開催された。分科会の一つは「大学における性的マイノリティー支援」をテーマとし、九州大、福岡教育大、佐賀大等の性的少数者の学生サークル(セクマイサークル)メンバーが大学に求める支援等について意見交換した他、全国ネットの九州ブロックが2018年6月に九州・沖縄の大学や短大113校を対象に実施した、性的マイノリティーの学生支援に関する調査結果も報告した。

 今年の全国集会の事務局は「社会での性的マイノリティーへの理解が進む中、大学での取り組みは遅れている。当事者の学生が直面する困難は教員が把握しづらいことも多い。セクマイサークルも匿名性が高く活動を維持することが難しい場合が多い」と課題を挙げている。特にシンポジウムでは、高校生等を対象に行政が主導する「ライフ/プランニング」教育が特定に行き方を方向付けかねないと懸念し、多様な性と絡めて自分らしい生き方につなげる方策を語り合うとした。詳しくは上記「全国ネットワーク」のHPを参照されたい。

 ほぼ同時の2018年10月、筑波大学は大学におけるLGBTなど性的少数者への支援のあり方を考えるシンポジウムを同大東京キャンパスで開催した。同大等5大学の担当者が取り組みを紹介、パネル討論では「良い事例を共有し連携して取り組むことが大事」と確認した。またシンポジウムには、大学や企業の関係者約120人が参加し、筑波大が「当事者の望まない情報暴露をハラスメント(嫌がらせ)と評価する」としたガイドラインの内容を解説した他、早稲田大、お茶飲水女子大、関西学院大、大阪府立大の4大学がそれぞれの取り組みを説明した。その中でお茶の水女子大の副学長は、2020年からの女性自認学生の受け入れ方針に関し「入学資格の「女子」に定義が無いので、学ぶ意欲のある学生を受け入れて多様性を育む」と決断の経緯を説明した。パネル討論では、各大学担当者から「学内で取り組みを進めるには学長等幹部の理解と決定が必要」「良い事柄を共有し各大学が導入することは重要」等の意見が出た模様である。