2019年2月の「財界さっぽろ」の記事*によれば、昨年12月21日の北海道新聞のベタ記事**には重い意味が含まれていたという。背景には「名和総長からパワハラ行為を受けたと複数の職員が主張し、大きな問題になっている」情報があったという。
この記事を参考に、以下にこの件に関する経過をまとめてみよう。なおこの記事は「財界さっぽろ」の記者が複数の大学OBや関係者から得たとする情報等に基づいている。
2017年4月 名和豊春氏***第19代の総長に就任(任期6年)。
就任後は、経済界と積極的に交流を重ね母校をPRするだけでなく、外部との協力関係の構築にも力を注ぎ、改革に陣頭に立つトップというイメージであった(記者の印象)。
2018年3月頃 大学事務局内でパワハラ疑惑がささやかれ始める。「航空会社から抗議を受けた」とか「公用車の利用方法が不適切だ」とか、そういう話まで出てきたようである。
2018年秋 学外に噂として漏れ始め、複数の有力OBに騒動が伝わる。これらOBの中に色々アクションを起こす人がいたり、名和氏本人も親しいOBに相談したり弁護士の意見を聞いたりしていたようである。しかし関係者の努力もむなしく、解決には至らなかった。
2018年10月頃 学内では「一旦休養してもらい副学長を職務代理に据えるしかない」といった案や「解任せざるを得ない」といった主張もあったらしい。
そんな中混乱を憂慮した総長選考委員会のメンバーが動き、その提案を受け、弁護士らで構成された第3者委員会が発足したという。1月時点での取材に対し北大総務課は、第3者委員会の有無・目的について「現時点ではお答えできません」としているが、既に委員会は関係者の聞き取り調査を始めていて、早ければ1月中にも結論を出すという方向であるらしい。既に3月も過ぎようとしているが、今現在特に発表等はまだ無いようである。
本事案の背景として、名和総長が選ばれた2016年の総長選挙****のしこりを指摘する向きもある。その際名和氏は、前総長が打ち出した大幅な人件費削減を批判したが、意向調査で前総長を大きく上回る票を獲得したものの、選考委員会では多数決の末僅差で選ばれているらしい。
この点は、名門旧帝国大学の総長としての資質に疑問を感じる委員がいて委員会で議論になった可能性を示唆する。実際われわれの伝聞では、本人のパワハラ発覚以前に学内の多くのハラスメント事案を握り潰していた(もともと人権意識が希薄なハラスメント体質?)という噂も聞く。学生院生の教育を担い、高い理性と倫理性に元づく公明・公平な判断が社会的にも要請される大学・高等教育機関のトップや執行部にこのような人物がなれてしまう(構成員の教育者・研究者が選んでしまう)ところに、日本社会の人権意識に関する深刻な意味での「遅れ」を痛感せざるを得ない。現在日本の大学執行部メンバーでハラスメントに関して自信をもって潔白を主張できる方々はどれほどおられるであろうか?#Me too運動がいま日本で(とりわけ大学で)もっと盛んになったらヤバい方が多くないことを祈りたいところである。もはや、大学の執行部をめざす教職員にも政治家と同じく、研究面(研究実績の他に論文ねつ造、研究費不適切使用等)や教育面(学生教育、院生育成の実績に加え、特にハラスメント等)に関し「身体検査」を義務付ける時期に来ているのではないだろうか?。
*https://www.zaikaisapporo.co.jp/wp-content/cache/all//index.htm
**「北大学長が体調不良 代理に笠原副学長」
18日付で学内の各部署に通知が出され、「当分の間」副学長が職務代理を務めるとされている。https://www.hokkaido-np.co.jp/article/260639
***1954年生まれ。北大工学部で建築工学を専攻、同大学院も修了して入社した秩父セメントでは、研究職として実績を残す。その後助教授として母校に戻り工学部長などを歴任。
****国立大学の多くでは、教職員(必ずしも全員でない)対象の意向調査結果(投票)を参考に、学外のメンバーも参加する選考委員会で総長候補者を決定する、という方式を採用していることが多い。「投票」の結果が選考委員会で覆されることもある。