LGBT差別にまつわるハラスメント その後(2)

最近の新たな動き

  • パワハラ防止義務付け関連法が可決(2019年5月)

【概要】

 職場でのパワハラ防止を(企業に)義務付ける関連法が昨年5月29日、参院本会議で可決成立した。併せて、今後策定されるパワハラ対策指針にSOGIハラ(注1)およびアウティングの防止も盛り込まれることになった。パワハラ防止対策の一環として各企業に義務付けられる(取り組みが求められる)。

 パワハラ関連法は、働きやすい職場環境を整え、社員の退職や意欲低下などを防ぐのが狙いで、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、女性活躍推進法、育児・介護休業法など計5本の法律を改正するものである。パワハラを「職場において行われる優越的な関係を背景にした言動」などと定義し(具体的にどのような行為がパワハラに当たるのかについては、厚生労働省策定の指針(注2)による)、企業に相談窓口の設置や発生後の再発防止策を求め、社員がパワハラをした場合の処分内容を就業規則に盛り込むほか、相談者のプライバシー保護の徹底も求める。

 罰則規定は見送られたが、パワハラが常態化しており勧告しても改善が見られない場合には企業名を公表する。大企業は2020年4月、中小企業は2022年4月に対応が義務付けられる。

【LGBT法連合会】

https://www.outjapan.co.jp/lgbtcolumn_news/news/2019/5/16.html

同連合会は、「大きな前進として評価できる」との声明を発表した(以下要約)。

 「衆議院、参議院の議論では、与野党各会派から、SOGIハラやアウティング対策を進めるべきであるとの意見が出された。この内容を盛り込んだ付帯決議が与野党全員賛成の全会一致という形で、国会の決議に実を結んだことは大きな一歩である。LGBT法連合会としても、求める施策の重要な一つであるハラスメント対策の実現に向け、この間精力的な働きかけを行ったが、日本全国の事業主に対する義務付けの方向で結実したことについて、関係各位の尽力を讃え、喜びを分かち合いたい。他方、具体的な対策の内容については、今後、厚生労働省の審議会の議論に委ねられることとなり、注視していく必要がある。特に、就職活動中の学生や、インターンシップ生、実習生等に対して、どのような対策が行われるかが注目されるものである」また、以下の点についても言及している。
 「LGBT法連合会は、1日も早いSOGIハラやアウティングの根絶に向け、今後も働きかけを強めていく。また、今回のハラスメント対策の対象とならない、労働以外の分野におけるハラスメントや、差別的な職場異動や退職勧奨、解雇などの、いわゆる差別的取扱いへの対策に向けて、領域を問わない差別禁止法の制定を引き続き求めていく」
また、次のようなコメントも付与されています。
 『なお、国がどのようなことをSOGIハラであると定めるかは、今後の指針の策定を待たなくてはいけませんが、現時点でSOGIハラが一般的に(LGBTコミュニティにおいて)どのようなことを指すとされているのか知りたいという方は、「なくそう!SOGIハラ」のサイトをご覧ください。また、7月12日発売の『はじめよう!SOGIハラのない学校・職場づくり』は、たくさんの事例を交えながら解説した決定版・保存版的な一冊になっています。ぜひお手元に置いておくことをお勧めいたします』

(注1)SOGI:SOGIは、Sexual Orientation(性的指向)とGender Identity(性自認)の英語の頭文字をとった頭字語(イニシャル言葉)です。読み方は「ソジ」が一般的ですが、「ソギ」とも言うようです。
 LGBTという言い方では、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルは性的指向についてのマイノリティ、トランスジェンダーは性自認についてのマイノリティであるということが伝わらず、「ゲイの人は心は女性で、女性になりたがっている」などという誤解を招くこともある(性的指向と性自認がごっちゃになりがちである)ため、「性的指向および性自認」という概念(性の要素、尺度)を表す言葉として生み出されました。
 また、性的指向および性自認は、セクシュアルマイノリティに限らずすべての人に関わる(ヘテロセクシュアルもシスジェンダーも含む)概念であることから、「LGBTの問題であってストレートには関係ない話」ではなく、誰にでも関係があることなんですよ、と言いやすくなります。「SOGIについて考えてみると、異性愛は多様な性的指向の一つにすぎず、シスジェンダーも多様な性自認のありようの一つであることがわかる」というように。
2011年頃から国際社会で使われるようになり、日本でも2015年頃から紹介されはじめました。2017年のレインボー国会では、SOGIに関連する差別やいじめ、いやがらせ、ハラスメントを指す「SOGIハラ」という言葉が提唱されました。なお、SOGIは、LGBTに代わる新しいセクシュアルマイノリティの総称ではありませんので、「SOGIの人」といった言い方は誤りです。「SOGIに関するマイノリティ」とか「SOGIに関する差別の解消」「SOGIハラ」という使い方になります。ちなみに、LGBTが現在、LGBTQとかLGBTQ+といった言い方になってきているように、SOGIについても、SOGIEという言い方に変わってきています。EはGender Expression(性表現)のEです。

SOGIハラ:性的指向・性自認(SOGI)に関するハラスメントのことを「SOGIハラ」と言います。
 2017年3月9日に衆議院第一議員会館で開催された、LGBTへの差別をなくし、世間の人たちに理解を深めていただき、より公正で平等な社会をつくるための法制定を国会議員に求める「レインボー国会」という院内集会で初めて「SOGIハラ」という言葉が提唱されました。

 2019年、職場でのパワーハラスメント(パワハラ)防止を義務付ける関連法が成立したことに伴い、厚労省が「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(以下「指針」)を策定し、SOGIは個人情報やプライバシーであると明記され、SOGIハラならびにアウティングもパワハラであると見なされることになりました。
 これにより、すべての企業等や自治体がSOGIハラ・アウティング防止施策の実施を義務付けられることとなりました。これは「措置義務」であり、もし対策を怠った場合、都道府県労働局による助言・指導・勧告等が行われることになります。

 指針にパワハラ防止施策として定められた措置義務の内容は、以下の通りです。これらの措置がすべてSOGIハラおよびアウティングにも適用されることとなりました
(1) パワハラがあってはならない旨や懲戒規定を定め、周知・啓発すること
(2) 相談窓口を設置し周知するとともに、適切に相談対応できる体制を整備すること
(3) パワハラの相談申し出に対する事実関係の確認、被害者への配慮措置の適正実施、行為者への措置の適正実施、再発防止措置をそれぞれ講じること
(4) 相談者・行為者等のプライバシー保護措置とその周知、相談による不利益取り扱い禁止を定め周知・啓発すること

 各企業等や自治体は、2020年6月以降(中小企業等は2022年4月以降)の措置の実施が義務づけられています。また、いわゆるカスタマーハラスメントや、就活生・インターンシップ生・フリーランス等へのハラスメントについても、上記の(1)〜(4)の取組みを行うことが望ましいとされましたが、これらにもSOGIハラ・アウティングの防止が含まれることとなります。なお、法の履行確保のため、都道府県労働局による助言・指導・勧告等の規定も整備されました。

 指針で示されたSOGIハラの例として、以下のようなことが挙げられます。
・相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含め、人格を否定するような言動を行うこと。
・SOGIを理由に、労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすることや、一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること(SOGIを理由にした仕事からの排除はパワハラに該当すると国会で答弁されています)
・「彼氏(彼女)はいるの?」など交際相手について執拗に問うこと(厚労省はパートナー関係のようなプライベートに関するハラスメントを「個の侵害」に当たるパワハラとして周知してきました。パートナーが同性である場合、より深刻であると言えます。

 指針を踏まえると、「オカマ」「ホモ」「レズ」などの差別用語はもちろん、「ひょっとしてこっち系?」などと手の甲を反対側の頬に当てる仕草や、職場でのLGBTQに対する中傷やいじめ(陰口)全般がSOGIハラに含まれますし、中性的な人を営業職や店頭での仕事から外すなどの排除なども該当します。

 

(注2)厚生労働省作成の指針:以下に資料pdfを貼り付けておきます。

厚生労働省 指針

いずれもOUT JAPAN Co. Ltd. https://www.outjapan.co.jpのLGBTコラム等より。

2)LGBTQ当事者を支援する「プライドフォーラム」が一橋大でスタート(2019年8月)

https://www.huffingtonpost.co.jp/entry/hitotsubashidai-pride-bridge_jp_5d4bcc93e4b01e44e4753536

https://www.outjapan.co.jp/lgbtcolumn_news/news/2019/8/9.html

 これらの記事によれば、一橋大アウティング事件をきっかけに、LGBTQ当事者支援をめざすプログラム「プライドフォーラム」が同大でスタートしたという。プログラムを立ち上げた任意団体「プライドブリッジ」が2019年8月8日に発表。

 「プライドフォーラム」は、一橋大学がジェンダー社会科学研究センター(CGraSS)とプライドブリッジが共同事業として立ち上げた。具体的な活動内容としては、大学内にLGBTQ当事者や支援者(アライ)が立ち寄ったり、っジェンダーやセクシュアリティに関する情報を得たりすることができるリソースセンターを設けるほか、性の多様性を学ぶための寄付講座を開始する、ということである。

 キーパーソン(の一人)である松中権さん(注3)によると、団体設立の経緯は次のようであったと言う。

安心・安全な場所をつくる

 「二度と同じような悲しい出来事が一橋大学で起こらないようにしたい」そう思った松中さんは、一橋大学のキャンパスをLGBTQの学生や教職員にとって安心・安全な場所に変えるために、プライドブリッジを立ち上げることを決意。同大学の在校生・卒業生に呼びかけて、賛同者を募った。現在までに129名が賛同しており、今回の立ち上げにつながった。プライドフォーラムの最初のアクションとして9月に学内に作られるリソースセンターでは、ジェンダーやセクシュアリティに関する資料を準備し、集まってきた人が資料を読んだり交流したりするほか、小規模イベントなども開催する予定だ。

 松中さんは一橋大学ではカミングアウトしていなかったが、大学在学中に留学したメルボルン大学で、LGBTQの当事者が集まるための部屋を見つけ、そこでカミングアウトすることができた。その時に「こういう場所があったらいいな」と思ったという。

 また、同じく9月にスタートする「ジェンダー・セクシュアリティとライフデザイン」という全13回の寄付講座では、LGBTQの当事者や支援者などをゲストスピーカーとして呼び、企業やNPOなどによるジェンダーやセクシュアリティの先進的な取り組みなどを学ぶ。それ以外にも、LGBTQフレンドリーな教育環境整備のための実態調査や、学生と教職員の定期的な意見交換会などの開催も予定しているという。

 ハフポスト日本版への寄稿の中で、LGBTQの当事者にとって「安心」した場所をつくることと同時に、何かがあった時に頼れる、何かを事前に食い止められる「安全」な場所があることも大切だと訴えた松中さん。9月からスタートするプライドフォーラムで、「LGBTQの学生や、働く人がいて当たり前だということが共有できる流れができてほしい」と語った。

(注3)ブライドブリッジ会長で、同大学の卒業生。ハフポスト日本版への寄稿で、一橋大学アウティング事件に大きなショックを受けた、と綴った。現在はゲイを公表し、学校の中にLGBTQの人たちをサポートするNPO法人「グッド・エイジング・エールズ」などの代表を務めるが、大学在学中にはカミングアウトしていなかった。松中さんは「私が大学生の時は、カミングアウトは選択肢に入っていませんでした。学校の中に相談できる場所があったら良かったと思いました」と語っている。

(注4)プライド(PRIDE):
 世界中で開催されているLGBTのパレードはしばしば「プライド」と呼ばれます。ニューヨークのパレードであればニューヨーク・プライド、サンフランシスコのパレードであればサンフランシスコ・プライドといった具合に。LGBTのパレードは(優勝祝賀パレードでもエレクトリカルパレードでもなく)LGBTの「プライド」を示すパレードだからです。

 では、LGBTの「プライド」とはいったいどのようなものでしょうか? 日本語でプライドというと「プライドが高い」「プライドが傷つけられた」というように、ネガティブな意味合いをイメージする方も多いと思います。「沽券」に近いニュアンスです。欧米で言うところの本来の「プライド」は「誇り」であり、自らを恥じない、堂々と自信を持っているという意味です。Appleのティム・クックCEOがカムアウトした際に「私はゲイであることを誇りに思っている(I’m proud to be gay)」と述べたように、pride, proudは肯定的な(とてもgoodな)意味で用いられます。
 アメリカでは過去に、赤狩りの急先鋒を務めたロイ・コーン検事(当時)やFBI初代長官のJ・E・フーバーらが有名ですが、クローゼット・ゲイの公人が保身のために(自身がゲイだとバレないように)率先してゲイを脅したり、破滅させたりしてきたという黒い歴史があります。今やそうした卑劣さこそ恥ずべきことと見なされています。自分がセクシュアルマイノリティであることを恥じることなく受け容れ、堂々とカミングアウトしよう、胸を張って生きていこうとする心意気が「プライド」です(OUTも同様の意味で使われています。OUT JAPANの社名の由来です)。

【附録】

この間、コロナで多忙で(言い訳)投稿が途絶えてしまい申し訳ありませんでした。ただ、最近ずいぶん元気が出ることが続いたので、幾つかコメントしたいと思います(A)。

*1 少し旧聞に属しますが、皆様もご存じの通りNEWS WEEKの今年の100人に大阪ナオミさん,伊藤詩織さんが選ばれました!特に伊藤詩織さんに関しては、恥ずべき国内世論を乗り越え、#Metoo運動の日本の先駆者=世界標準として認められました。

*2   Congratulations 大阪都構想廃案。

*3 Congratulations @JoeBiden and @KamaraHarris.

*4 今回のアメリカ大統領選挙と並行して進められた議会議員選挙で多くのLGBTQメンバーが立候補し、当選しました。

特に*3,4はまた記事として投稿する予定です。

LGBT差別にまつわるハラスメント その後(1)

事実経過 (再)

 昨年4月、このテーマについて記事を書いてから、ほぼ1年半が経とうとしている。この間、コロナによる激変があったが、特に「一橋大学アウティング事件」などをめぐるその後はどうなったのか。前記事にはリンク切れも多くなっており、少し気になったので調べてみた。なお、弁護士ドットコムの一連の関連したニュースを参考にしている。

まずは「一橋大生のアウティング事件」の経緯を再度確認してみよう。

2015年4月  一橋法科大学院の男子学生、同級生に恋愛感情を告白。

同年6月    その同級生に、約10人参加のLINEアプリグループに同性愛者だと実名を挙げて書き込まれ、心身に不調をきたす。その後、担当教授やハラスメント相談員らに相談したが、大学はクラス替えなどの対策をせず。

同年8月24日 講義中にパニック状態になり校舎から転落死。

2016年    両親は同級生と大学(がアウティングに対し適切な対応を取らなかったとして)に損害賠償を求めて提訴。

2018年1月  同級生と和解。

*同年7月    証人尋問。証言者は、大学側から、学生が被害を相談した教授、ハラスメント相談室長、学校医。遺族側から、父、母、妹の計6人。但し、当該学生と最も密にやり取りしていた相談室の専門相談員は、事件後に退職しており、証人として呼べなかったという。

裁判で遺族側は、専門相談員が、アウティング被害に悩む学生に対し、同性愛者であることに悩んでいるかのような対応をとったことを問題視している。加えて、ゲイの学生に対し、性同一性障害の治療(が必要か?)で有名なメンタルクリニックをすすめており、性的思考と性自認を混同していたのではないか、と指摘している。

この点について、相談員に請われてこのクリニックを紹介した校医は、「個人情報の関係で、セクシャリティによる悩みとしか聞いていなかった」と語ったという。いっぽうで、性的思考の問題だったとしても、「精神医学の対象ではない」ものの通常のクリニックに比べれば、「手厚く対応してくれる」と思っていたそうである。つまり、個人情報保護の問題で(職員間の)連携がうまくいかなかった、と言いたいようである。

一方遺族側は、事件後の大学の対応について証言したという:【父親】学生がなくなった翌日、大学側との面談の中で「ショックなことを申し上げます。息子さんは同性愛者でした」と言われ、「(息子が亡くなったのに)何を言っているのだろう」と憤慨した。また、学生(息子)がハラスメント相談室に行っていたことは知っていたため、相談内容を教えて欲しいと伝えたが、「守秘義務」を理由に拒まれた。後日、学生の遺品から相談内容の写しが出てきたので、大学側に説明を求めたが、やはり回答は得られなかった。49日を過ぎて改めて説明を求めたところ、大学側が報告に来ることになったが、「弁護士を同席させる」と伝えたところ、予定はキャンセルになり、大学側からの連絡は途絶えた。「息子のことを知りたかったが、大学側に拒否されて、裁判するしか無かった」。

【母親、妹】学生の死後、彼が高校時代にも同級生の男性生徒に告白し、断られていたことを知った。しかしその相手とは、亡くなる直前まで一緒に遊ぶなど、親しい関係が継続していたという。「同性愛を苦にしていたのなら、高校の時に自殺していた」(母親)。「兄は同性愛を苦にしていたのではなく、アウティングを苦にしていた」(妹)。大学側は遺族側に対し、反対尋問は行わなかったという。

*同年10月     31日、弁論終結。この日も学生の両親が出廷。2016年8月の報道以来、傍聴席には毎回、裁判を支援する当事者や一橋大OBの姿があったという。両親は(閉廷後)傍聴席に向かって一礼。母親は「いつもありがとうございます」と述べ、目頭を抑えていたということである。

2019年2月27日

東京地裁(鈴木正紀裁判長)請求を棄却。「大学が適切な対応を怠ったとは認められない」(被害を相談した教授について「クラス替えをしなかったことが安全配慮義務に違反するとは言えない」とし、相談員についても「クラス替えの必要性を教授らに進言する義務は無かった」と認定)とした。

その後現在までの主な経過は次のようになるかと思われる。

2019年3月7日

上記判決を不服として遺族側が控訴。担当弁護士は「(学生の)相談への対応は、ことに重大性によって変わるはずだが、地裁判決はアウティング(暴露)の重大性・危険性に言及していない。どれほど酷いことをされたかを改めて主張することになる」と話している。

*2020年6月   三重県が「アウティング禁止条例」制定に向けた動き。3日、鈴木英敬知事が県議会本会議の知事提案説明の中で表明。年内の制定を目指すという。この条例には、都道府県として初めて、本人の了解なく性的思考や性自認を暴露するアウティングやカミングアウトの強制の禁止を盛り込む方針。一部報道で「罰則の検討」も報じられたが、県ダイバーシティ社会推進課は(弁護士ドットコムニュースの取材に)「罰則は現時点で未定。実効性の担保について議論していく」と回答。アウティングの禁止をめぐっては、一橋大の事件がきっかけとなって、東京都国立市で、2018年全国に先駆けた条例が施行されている。

【この三重県の方針に関する担当弁護士の意見】

アウティングはなぜダメか? アウティングとは、情報の暴露により社会や他人に自分をどう見せるのかという「情報コントロールの自由」を奪うこと。だからアウティングは、時に人間関係を破壊し、孤立を引き起こす。現実にそうならなくとも、本人は「そうなるかも知れない」という恐怖と不安に苛まれる。

性の問題に限らず、出自や家族の事情、健康や疾病についての情報など、個人が隠したいと思う情報を勝手に暴露するアウティングは、いずれも人権侵害。「誰も気にしていないのに大げさだ」「堂々とすればよいことなのに」「いつまでもクヨクヨせず早く元通りになりなよ」などという反応は、アウティングで奪われるもの(アウティングによりもたらされるダメージ、損失)に対する無理解。

-アウティングを条例で禁止することの意味は? アウティングが「ヒドいこと」だということについて、伝わる人には伝わるのに、伝わらない人には全然伝わらないジレンマの中、「あぁ、法律や条例で、アウティングは違法だと書いてくれていたら!」と思うことはある。しかし、伝わらない人に「法律(条例)に書いてあるからダメなんですよ!」と言ってみても、それは「ただ怒られた」「なんだか住み心地が悪くなってきた」と思わせるだけかもしれない。結果として、その人が口をつぐんでも、それは「怒られるから口をつぐむ社会」になるだけ。

-罰則を盛り込むことについては? 罰則をつけると、かえって問題の本質が理解しにくくなるのではないか。「アウティングをしたら犯罪者になる」という入口と出口しか見えない。本質を理解することが重要な問題であるからこそ、罰則によらなくても、たとえば、国立市の条例のように、アウティングが違法であると確認するようなかたちのほうが穏当ではないか。                           ピンとこない人をむやみに萎縮させることなく、「自分は平気だと思っていたけど、他人もそうだとは限らないのだ」と、その想像力に働きかける。自分が自分を中心に生きているように、他人もその人を中心に生きている。自分が自由であるのと同じように、他人も自由である。言い尽くされた「当たり前の人権」をポロッと忘れたときに起こるのがアウティング。

現在、和解に向けて進んでいるという情報もある。